セロクエルの「うつ」への効果

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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非定型抗精神病薬のセロクエルは、おもに統合失調症の治療に使われるお薬です。

それだけでなくセロクエルは、うつ病やうつ状態の患者さんにも使われることがあります。セロクエルが処方されたからといって、統合失調症というわけではないのです。海外ではセロクエルは、双極性障害(躁うつ病)の第一選択薬のひとつとなっています。躁症状にもうつ症状にも効果が認められています。

セロクエルはどうして抗うつ効果が期待できるのでしょうか?
セロクエルが使われるのはどのようなケースでしょうか?

ここでは、セロクエルのうつ病やうつ状態への効果について、詳しくお伝えしていきたいと思います。

 

1.セロクエルはどうして「うつ」に使えるの?

適応外ですが、うつ症状にも効果が期待できます。

セロクエルの添付文章上は、統合失調症に使われるお薬となっています。うつ病やうつ状態には、正式には適応が認められていません。

だからといって、セロクエルがうつ症状に効かないわけではありません。国に正式な適応を認めてもらうためには、臨床試験をして効果があることを証明しなければいけません。臨床試験には莫大なお金がかかるので、売り上げにつながらないなら臨床試験までは行いません。

セロクエルの販売戦略として、双極性障害を前面に押し出していないのです。海外では双極性障害の躁症状とうつ症状の両方の適応をとっています。双極性障害のお薬としては、第一選択薬のひとつとなっているお薬です。

ですから、うつ症状の方にもセロクエルの効果は期待できます。抗うつ剤と併用することもできます。このような使い方を「適応外処方」といいます。形式上は、統合失調症の病名で処方がされています。

 

2.セロクエルはうつ病や躁にどうして効くの?(作用機序)

気分を持ち上げる効果と抑える効果の両方が期待でき、気分の波を小さくします。

セロクエルは、気分に対してどのような効果が期待できるのでしょうか。

まずはうつ症状についてみていきましょう。セロクエルがどのようにしてうつ症状を改善しているのかは、はっきりと分かっているわけではありません。ですが、大きく4つの作用が関係していると考えられています。

  • セロトニン2受容体遮断作用によるノルアドレナリンやドパミンの増加
  • セロトニン1A受容体部分作用によるセロトニンの増加
  • α2自己受容体遮断作用によるセロトニンやノルアドレナリンの増加
  • 抗ヒスタミン作用や抗α1作用による催眠作用

セロクエルによってセロトニン2A受容体や2C受容体がブロックされると、大脳皮質前頭前野でのノルアドレナリンやドパミンが増加することが分かっています。意欲や興味を高めて、気分を持ち上げる効果が期待できます。

また、セロトニン1A受容体は情動の安定に重要と考えられて、抗うつ剤はこの作用を強めることを意識して作られています。ですから、抗うつ効果や抗不安効果が期待できます。

α2受容体とは、セロトニンやノルアドレナリンの分泌量をモニターする働きがあります。このモニターをブロックして目隠ししてしまえば、セロトニンやノルアドレナリンの分泌が増加します。

抗ヒスタミン作用や抗α1作用により、セロクエル眠気が強いお薬です。このため、睡眠がしっかりととれて休養がしっかりととれます。

これらの作用によって、セロクエルには抗うつ効果があると考えられています。他の抗精神病薬と比較しても、セロクエルでは抗うつ効果のエビデンスが高いです。

 

躁症状については、大きく2つの作用が関係していると考えられています。

  • 中脳辺縁系のドパミン過活動を抑えること
  • 鎮静作用

躁症状がみられるときは、中脳辺縁系という部分で過活動が起こっていると言われています。統合失調症に近しい状態とも考えられます。ですから、セロクエルによってドパミンをブロックすることで効果が期待できます。

また、セロクエルはさまざまな受容体に作用するお薬です。抗α1作用や抗ヒスタミンなどによって鎮静作用が強いです。躁症状はエネルギーが高まっている状態ですので、セロクエルで気分の高ぶりを鎮めることができます。

 

このように、セロクエルはうつ症状にも躁症状にも効果が期待できます。このため、気分の波を小さくさせる効果が期待できます。セロクエルは気分安定薬とも呼ばれています。ただしセロクエルは、抗うつ効果は強いですが、抗躁効果はやや弱いです。

  • 抗躁効果(弱い)
  • 抗うつ効果(強い)
  • 再発予防効果(やや弱い~中程度)

 

セロクエルの効果について詳しく知りたい方は、
セロクエル錠の効果と特徴
をお読みください。

 

3.セロクエルの効果時間と使い方

セロクエルは最高血中濃度到達時間が1.3~1.4時間、半減期が3.3~3.5時間の非定型抗精神病薬です。うつ症状には低用量から、躁症状には高用量から使われています。

セロクエルを服用すると、1.3~1.4時間で血中濃度がピークになります。そこから少しずつ薬が身体から抜けていき、3.3~3.5時間ほどで血中濃度が半分になります。

この血中濃度がピークになるまでの時間を「最高血中濃度到達時間」、血中濃度が半分になるまでを「半減期」といいます。

代謝産物のノルクエチアピンは、セロクエルと比べて約100倍強力なノルアドレナリン再取り込み作用や約10倍のセロトニン1A受容体作用があります。このため、ノルアドレナリンやセロトニンが増加し、抗うつ効果が期待できます。

 

セロクエルは作用時間がとても短いお薬です。このため、1日3回から服用を開始するのが一般的です。症状が落ち着いていた場合は、服用回数を少なくすることもあります。

セロクエルは、うつ症状では低用量から、躁症状では高用量から使っていきます。うつ症状では25~75mgから開始していきます。

 

4.セロクエルが向いている人は?

  • 糖尿病や肥満でない方
  • 不安や焦燥感が強い方
  • 妄想などの精神病症状がある方
  • 抗うつ剤では効果が不十分な方
  • 双極性障害や統合失調症が疑われる方

セロクエルは、糖尿病の方には使うことができないお薬です。このため、糖尿病と診断されたことがある方には使うことができません。また、体重増加の副作用も多く、肥満傾向の方には向いていないお薬です。ですから、血糖や体重に問題ない方しか使えないお薬です。

それでは、どのようなうつ病の方にむいているのか、みていきましょう。

セロクエルは、不安や焦燥感が強いときに使われることがあります。うつ病といっても、いろいろな症状のあらわれ方をします。身体はついてこないものの、不安や焦りだけが内面で強くなってしまうことがあります。このような方にいきなり抗うつ剤を使うと、自殺などの間違った行動をするエネルギーを与えてしまいます。

このような時には、鎮静作用のあるセロクエルが使われることがあります。このような時は、開始用量は多めに使っていきます。少量ですと、意欲だけを高めてしまうこともあります。

 

また、うつ病では妄想が認められることがあります。うつ病に多い妄想としては、貧困妄想、罪業妄想、心気妄想です。全く根拠がないのに、患者さんの中で非現実的なネガティブなことを思い込んでしまいます。このような妄想が認められるときには、セロクエルなどの抗精神病薬が効果的なことがあります。

抗うつ剤の効果が不十分な時に、その効果を増強するためにつかわれることもあります。セロクエル自体の抗うつ効果だけでなく、相互作用により抗うつ剤の血中濃度が上昇する効果もあります。このような増強療法(augmentation)をする時は、少量で使われます。

 

うつ状態の患者さんでは、その原因がハッキリとしない時があります。とくに若い患者さんでは、双極性障害が隠れていることもしばしば経験します。ときに統合失調症が原因でうつ状態になっていることもあります。双極性障害の方にいきなり抗うつ剤を使ってしまうと、躁転(躁状態になること)してしまうことがあります。セロクエルでは躁転のリスクが少なくてすむので、このような時に使われることもあります。

 

まとめ

適応外ですが、うつ症状にも効果が期待できます。

気分を持ち上げる効果と抑える効果の両方が期待でき、気分の波を小さくします。

セロクエルは最高血中濃度到達時間が1.3~1.4時間、半減期が3.3~3.5時間の非定型抗精神病薬です。うつ症状には低用量から、躁症状には高用量から使われています。

セロクエルが向いているのは、

  • 糖尿病や肥満でない方
  • 不安や焦燥感が強い方
  • 妄想などの精神病症状がある方
  • 抗うつ剤では効果が不十分な方
  • 双極性障害や統合失調症が疑われる方

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