PZC(ピーゼットシー糖衣錠)の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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PZC(ピーゼットシー糖衣錠)は、1958年に発売された第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)です。

初めての抗精神病薬であるコントミンを改良して作られました。コントミンほど鎮静作用が強くなく、統合失調症の急性期を過ぎてから活力を引き出すために使われます。また、制吐作用もみとめられるので、吐き気やめまい止めとして使われることもあります。

新しい第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)が発売されると、処方される機会はどんどんと減ってしまっています。

ここでは、PZC(ピーゼットシー糖衣錠)の効果と特徴を詳しくお伝えしていきたいと思います。他の抗精神病薬とも比較しながら、どのような方に向いているのかを考えていきましょう。

 

1.PZC(ピーゼットシー)の作用機序(作用の仕組み)

ドパミンD受容体以外にもさまざまな受容体に作用して、ピーゼットシーには穏やかな鎮静作用があります。

統合失調症では、脳内のドパミンに異常があることが分かっています。

ドパミンが過剰に分泌されると、陽性症状とよばれる幻覚や妄想などが起こります。脳の中でも「中脳辺縁系」と呼ばれる部分で、ドパミンが過剰になっています。

一方で「中脳皮質系」という脳の部分では、ドパミン分泌が落ちています。やる気が起こらない、集中できないなどの陰性症状は、このドパミンの減少が原因となって生じます。

 

幻覚や妄想といった陽性症状は目立つ症状ですから、まずはこれを改善するためにドパミンをブロックするお薬が開発されました。こうして作られたのが、第一世代抗精神病薬(定型抗精神病薬)のフェノチアジン系のコントミン錠です。

コントミンは古いお薬なので、いろいろな受容体に作用してしまいます。ムスカリン受容体・ヒスタミン受容体・アドレナリン受容体などをブロックしてしまいます。このため、眠気やふらつきなどを認め、鎮静作用が強いお薬です。

ピーゼットシーはコントミンを改良して作られたお薬になります。定型抗精神病薬としてはセロトニンに対する作用が強いことが特徴的で、ムスカリン受容体やヒスタミン受容体、アドレナリン受容体への作用もコントミンより軽減されています。このため、ピーゼットシーの鎮静作用は穏やかとなっています。

 

2.PZC(ピーゼットシー)の効果と特徴

まずは、ピーゼットシーの作用の特徴をまとめたいと思います。専門用語も出てきますが、後ほど詳しく説明していますので、わからないところは読み飛ばしてください。

ピーゼットシーの陽性症状や陰性症状に関係する効果は、ドパミンD遮断作用とセロトニン2A遮断作用によるものです。

  • ドパミンD受容体遮断作用(強い):⊕陽性症状改善 ⊖錐体外路症状・高プロラクチン血症
  • セロトニン2A受容体遮断作用(中等度):⊕陰性症状の改善・錐体外路症状の改善・睡眠が深くなる

ピーゼットシーでは、「D遮断作用>セロトニン2A遮断作用」となっていますが、他の定型抗精神病薬に比べるとセロトニン2A遮断作用が強いです。

ピーゼットシーは、その他の受容体にも作用します。悪い方に作用すると、副作用となります。

  • セロトニン2C受容体遮断作用(弱い):体重増加
  • α1受容体遮断作用(中程度):ふらつき・立ちくらみ・射精障害
  • ヒスタミン1受容体遮断作用(中程度):体重増加・眠気
  • ムスカリン受容体遮断作用(わずか):口渇・便秘・排尿困難

これらをふまえて、ピーゼットシーの特徴をメリットとデメリットに分けて整理してみましょう。

 

2-1.PZC(ピーゼットシー)のメリット

  • 賦活作用がある(活動的にさせる作用がある)
  • 錐体外路症状や高プロラクチン血症が、比較的少ない
  • 制吐作用が期待できる

ピーゼットシーは、定型抗精神病薬のわりにセロトニン2A受容体遮断作用が強いです。統合失調症の陰性症状は、中脳皮質系のドパミン低下によって生じます。セロトニン2A受容体をブロックすると、この部分でのドパミンの分泌が促されます。

ピーゼットシーは、定型抗精神病薬の中ではセロトニン2A受容体遮断作用が強いです。このため、意欲減退や自発性の低下などの陰性症状への改善効果があります。活動的にさせる賦活作用を認めるのです。

さらにドパミン遮断作用による副作用が軽減されます。錐体外路症状(ソワソワ・筋肉のこわばり・ふるえ)や高プロラクチン血症(乳汁分泌・生理不順・性欲低下・性機能障害)は比較的少ないです。

また、ドパミンをブロックすると嘔吐中枢が抑制されることがわかっています。このため、制吐剤としてピーゼットシーが使われることがあります。不安などによる精神的な要因が大きい吐き気に対して効果的です。メニエール病などのめまいがする時にも使われることがあります。

 

2-2.PZC(ピーゼットシー)のデメリット

  • 抗幻覚・妄想作用が強くない
  • 副作用(眠気・ふらつき・体重増加・便秘など)が多い
  • 重篤な副作用のリスクがある

統合失調症の治療では、ドパミンをしっかりとブロックする必要があります。ピーゼットシーではいろいろな受容体に作用するので、幻覚や妄想を改善できる量まで使うと副作用が強くなってしまいます。このため、ピーゼットシーでは抗幻覚・妄想作用が強くありません。

ピーゼットシーはいろいろな受容体に作用するため、副作用が全体的に多いです。眠気やふらつき、体重増加、便秘といった副作用が多く認められます。

さらに、第二世代抗精神病薬に比べると、重篤な副作用が起こるリスクが高いです。もっとも注意しなければいけない副作用は、悪性症候群です。発熱や自律神経症状とともに、筋肉が固まったり、話づらくなるといった神経症状が認められます。死に至ることもあるので、注意が必要です。

その他にも、危険な不整脈が起こりやすいです。ピーゼットシーの量が多くなってくると、心電図に異常が認められやすいです。時に心室性の不整脈がつながることがあり、死に至る可能性もあります。また、長くピーゼットシーを使っていると、遅発性ジスキネジアという不随意運動(勝手に身体の一部が動いてしまうこと)が起こりやすくなってしまいます。

 

3.PZC(ピーゼットシー)の作用時間と使い方

ピーゼットシーは最高血中濃度到達時間が1~3時間、半減期が9~12時間の定型抗精神病薬です。統合失調症では6~12mgから使われることが多く、制吐剤としては2mgからです。最大量は48mgとなっています。

ピーゼットシーを服用すると、1~3時間で血中濃度がピークになります。そこから少しずつ薬が身体から抜けていき、9~12時間ほどで血中濃度が半分になります。

この血中濃度がピークになるまでの時間を「最高血中濃度到達時間」、血中濃度が半分になるまでを「半減期」といいます。

 

このようなお薬なので、1日効果を持続させるためには1日2回以上服用する必要があります。統合失調症で使う時は、2~3回に分けて使っていきます。6~12mgから開始していくことが多いです。添付文章では、慢性期の統合失調症では6~24mgを維持用量となっています。上限としては、48mg使えるお薬です。

ピーゼットシーは、嘔吐やめまい時に頓服として使われることもあります。頓服としては、2mgから使われることが多く、効果の実感をみながら調整していきます。

ピーゼットシーは、2mg・4mg・8mgの錠剤、1%細粒、2mg/mlの筋注製剤が発売されています。

 

4.PZC(ピーゼットシー)とその他の抗精神病薬の比較

ピーゼットシーは、いろいろな受容体に作用するお薬です。コントミンよりは、副作用が軽減されています。

抗精神病薬の作用を比較して一覧にしました。

この表に当てはめると、フルメジンでは左から順に(++++,++++,+,++,++,-)となります。これを踏まえて、代表的な抗精神病薬の作用を比較してみます。それぞれのお薬の位置づけを考えていきましょう。

まずは第二世代の非定型抗精神病薬から処方されることが一般的になっています。陰性症状への効果も期待できますし、何よりも副作用が軽減されていて患者さんへの負担が少ないからです。非定型抗精神病薬には、大きく3つのタイプが発売されています。それぞれの特徴をざっくりとお伝えしたいと思います。

  • SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬):ドパミンとセロトニン遮断作用が中心
    商品名:リスパダール・インヴェガ・ロナセン・ルーラン
    特徴:⊕幻覚や妄想などの陽性症状に効果的 ⊖錐体外路症状や高プロラクチン血症が多め
  • MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬):いろいろな受容体に適度に作用
    商品名:ジプレキサ・セロクエル・シクレスト
    特徴:⊕鎮静作用や催眠作用が強い ⊖太りやすい・眠気が強い・糖尿病に使えない
  • DSS(ドパミン受容体部分作動薬):ドパミンの分泌量を調整
    商品名:エビリファイ
    特徴:⊕副作用が全体的に少ない ⊖アカシジア(ソワソワ)が多い・鎮静作用が弱い

非定型抗精神病薬がしっかりと効いてくれればよいのですが、効果が不十分となってしまうこともあります。急性期の激しい症状を抑えるためには、定型抗精神病薬の方が効果が優れています。また、代謝への影響は定型抗精神病薬の方が少ないです。

定型抗精神病薬は、セレネースの系統とコントミンの系統の2つに分けることができます。

  • セレネース系(ブチロフェロン系):ドパミン遮断作用が強い
    特徴⊕幻覚や妄想などの陽性症状に効果的 ⊖錐体外路症状や高プロラクチン血症が多い
  • コントミン系(フェノチアジン系):いろいろな受容体に全体的に作用する
    特徴⊕気持ちを落ち着ける鎮静作用が強い ⊖幻覚や妄想などの陽性症状には効果が乏しい

ピーゼットシーは、コントミンと同じ系統に分類されます。コントミンほどではありませんが、いろいろな受容体に作用します。このため、軽減されているとはいえ副作用が比較的多いです。

 

5.PZC(ピーゼットシー)の副作用とは?

  • 第二世代抗精神病薬と比べると、副作用が多い
  • 副作用が全体的に多い(眠気・ふらつき・体重増加・便秘)
  • ドパミン不足による副作用は少ない
  • まれに重篤な副作用がある

ピーゼットシーは、第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)に分類されます。第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)と比較すると、副作用は全体的に多いです。

第二世代では、ドパミン遮断作用による副作用が大きく軽減されています。具体的にいうと、

  • 錐体外路症状(ソワソワやふるえなど)
  • 高プロラクチン血症(生理不順・性機能低下など)

といった症状です。

また、第一世代では、重篤であったり難治な副作用が起こるリスクは高くなります。

  • 悪性症候群(高熱から死に至ることもある)
  • 危険な不整脈(心室細動・心室頻拍)
  • 麻痺性イレウス(腸が動かなくなってつまってしまう)
  • 遅発性ジスキネジア(身体の一部が勝手に動いてしまう)

このような副作用が起こるリスクが高いと言われているので、注意が必要です。

 

それでは、新しい薬がすべて良いのかというと、そんなことはありません。

第一世代の定型抗精神病薬は、第二世代の非定型抗精神病薬よりも代謝への悪影響がありません。この違いはよくわかっていませんが、非定型抗精神病薬には体重増加や糖尿病、脂質異常症などがよく認められます。このため、定期的に採血をして確認していかなければいけません。

ピーゼットシーは、いろいろな受容体に作用するお薬です。このため、第一世代の中でも副作用が全体的に多いお薬です。眠気やふらつき、体重増加や便秘といった副作用が目立ちます。その一方で、ドパミン不足による副作用は少ないです。このため、錐体外路症状や高プロラクチン血症はそこまで多くはありません。

 

6.PZC(ピーゼットシー)の適応疾患とは?

<適応>

  • 統合失調症
  • 術前・術後の悪心・嘔吐
  • メニエール症候群(めまい・耳鳴り)

<適応外>

  • 不安や焦燥感(妄想に基づくもの)

まずは、正式に添付文章に「適応」となっている病気についてみていきましょう。

ピーゼットシーは、かつては統合失調症治療の急性期をすぎるとよく使われるお薬でした。定型抗精神病薬には賦活作用のあるお薬が少なく、陰性症状が目立ってきたときに有効な選択肢が少なかったのです。現在では非定型抗精神病薬がたくさん発売されたので、処方される機会はかなり減りました。

ピーゼットシーは、術後の悪心や嘔吐にも適応が認められています。術後に限らず、制吐剤として幅広く使われています。ドパミンがブロックされると、嘔吐中枢が抑制されます。ピーゼットシーの効果が期待できるのは、とくに不安などの精神状態が大きく関係している悪心・嘔吐の時です。

また、メニエール症候群でも適応が認められています。メニエール症候群は原因がよくわからないことも多く、ピーゼットシーが有効なこともあります。

 

適応外としては、うつ病のかたなどの妄想的な不安や焦燥感に使われることがあります。いろいろなことに敏感になってしまい、周囲からは理解がしにくいような不安や焦りを感じていることがあります。そのような時に、ピーゼットシーが効果がみられることがあります。

 

7.PZC(ピーゼットシー)が向いている人とは?

  • 興奮が強くない方
  • 意欲が減退し、自発性が低下している方
  • 吐き気が強い方

ピーゼットシーをはじめとした第一世代抗精神病薬は、現在は主剤として初めから使われることはありません。まず第二世代抗精神病薬が使われて、ピーゼットシーはそのサポートとして補助的につかわれることがほとんどです。

ピーゼットシーは鎮静作用はそこまで強くないので、興奮が強くて錯乱状態になっている方には向きません。統合失調症の急性期をすぎて、意欲の減退や自発性の低下などが目立ってきたときに効果が期待できます。

現在使われるのは、その多くが吐き気が強いケースです。抗精神病薬は多くが吐き気を止める方向に作用するのですが、ピーゼットシーは制吐剤としての正式な適応があるので使いやすいのです。

 

8.一般名と商品名とは?

一般名:ペルフェナジン 商品名:PZC(ピーゼットシー)

まったく成分が同じものでも、発売する会社が異なればいろいろな商品があるかと思います。医薬品でも同じことがいえます。このためお薬には、一般名と商品名というものがあります。

一般名というのは、薬の成分の名前を意味しています。発売する会社によらずに、世界共通で伝わる薬物の名称です。「ペルフェナジン(perphenazine」に統一されています。主に論文や学会など、学術的な領域でこれまで使われてきました。

一方で商品名とは、医薬品を発売している会社が販売目的でつけた名称になります。「ピーゼットシー(PZC)」は、一般名を短縮してつけられました。

 

まとめ

ピーゼットシーの効果の特徴は、「賦活作用のある定型抗精神病薬」です。

ピーゼットシーでは、「D遮断作用>セロトニン2A遮断作用」となっていますが、定型抗精神病薬の中ではセロトニン2A受容体遮断作用が強いです。

  • セロトニン2C受容体遮断作用:弱い
  • α1受容体遮断作用:中程度
  • ヒスタミン1受容体遮断作用:中程度
  • ムスカリン受容体遮断作用:わずか

ピーゼットシーのメリットとしては、

  • 賦活作用がある(活動的にさせる作用がある)
  • 錐体外路症状や高プロラクチン血症が、比較的少ない
  • 制吐作用が期待できる

ピーゼットシーのデメリットとしては、

  • 抗幻覚・妄想作用が強くない
  • 副作用(眠気・ふらつき・体重増加・便秘など)が多い
  • 重篤な副作用のリスクがある

ピーゼットシーが向いている方は、

  • 興奮が強くない方
  • 意欲が減退し、自発性が低下している方
  • 吐き気が強い方

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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