インプロメン錠(ブロムペリドール)の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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インプロメン錠(ブロムペリドール)は、1986年に発売された第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)です。同じ抗精神病薬のセレネースを改良し、効果の発現が早く、作用時間を長くしたお薬です。発売当時は統合失調症の治療薬として、よく使われていました。

現在では第二世代抗精神病薬が使われることが多くなり、インプロメン錠が使われることも少なくなってきました。

ここでは、インプロメン錠の効果と特徴を詳しくお伝えしていきたいと思います。他の抗精神病薬とも比較しながら、どのような方に向いているのかを考えていきましょう。

 

1.インプロメンの効果と特徴

まずは、インプロメンの作用の特徴をまとめたいと思います。専門用語も出てきますが、後ほど詳しく説明していますので、わからないところは読み飛ばしてください。

インプロメンの効果の特徴は、「ドパミンにしぼって強力にブロックすること」です。

  • ドパミンD受容体遮断作用:⊕陽性症状改善 ⊖錐体外路症状・高プロラクチン血症
  • セロトニン2A受容体遮断作用:⊕陰性症状の改善・錐体外路症状の改善・睡眠が深くなる

インプロメンでは、「D遮断作用>>セロトニン2A遮断作用」となっています。

 

インプロメンは、他の受容体にも作用します。これらは、副作用の原因となってしまいます。

  • セロトニン2C受容体遮断作用(わずか):体重増加
  • α1受容体遮断作用(中程度):ふらつき・立ちくらみ・射精障害
  • ヒスタミン1受容体遮断作用(わずか):体重増加・眠気
  • ムスカリン受容体遮断作用(わずか):口渇・便秘・排尿困難

これらをふまえて、インプロメンの特徴をメリットとデメリットに分けて整理してみましょう。

 

1-1.インプロメンのメリット

  • 抗幻覚・妄想作用が強い
  • 眠気や体重増加が少ない
  • 1日1回で効果が持続する

インプロメンの特徴は、ドパミンD受容体遮断作用が強いことです。ですから、幻覚や妄想などの陽性症状に対してしっかりとした効果が期待できます。

第二世代抗精神病薬でも陽性症状がコントロールできない時は、第一世代抗精神病薬は切り札として使われることもあります。同じタイプのセレネースと比べると効果は優しいですが、それでも効果はしっかりと期待できるお薬になります。

副作用としては、ドパミン以外の受容体にはあまり作用しないので、眠気や体重増加の副作用は少ないです。α1受容体遮断作用が中程度認められるので、ふらつきや多少の眠気は認められます。

また、インプロメンは作用時間が長いです。このため、1日1回の服用でも効果が持続します。

 

1-2.インプロメンのデメリット

  • 錐体外路症状や高プロラクチン血症が多い
  • 鎮静作用が弱い
  • 陰性症状や認知機能障害の改善効果が乏しい
  • 重篤な副作用のリスクがある

インプロメンの特徴は、良くも悪くもドパミンD受容体遮断作用が強いことです。

このため、錐体外路症状が多くみられます。錐体外路症状とは、運動の調節をしている黒質線条体でのドパミンが足りなくなる作用で、パーキンソン病に似た症状がでてきます。具体的には、ふるえ(振戦)、筋肉のこわばり(固縮)、ソワソワ感(アカシジア)、眼球上転や筋肉の異常な収縮(急性ジストニア)などがあります。

また、高プロラクチン血症も認められます。本来は授乳中に上昇するホルモンのプロラクチンが上昇してしまいます。プロラクチンの分泌を抑制しているドパミンが足りなくなるために認められ、乳汁分泌や生理不順、性欲低下や性機能障害などの症状がみられます。

 

インプロメンは、ドパミンとセロトニン以外にはほとんど作用しないお薬です。これは良い面でもあり、悪い面でもあります。眠気が少ないお薬なので、鎮静作用が弱いです。興奮が強い患者さんには向きません。

また、必要なドパミンも強く抑え込まれてしまうため、統合失調症の陰性症状や認知機能障害に対する効果は乏しいです。あまりに強く効きすぎると、悪化することも多いです。

さらに、第二世代抗精神病薬に比べると、重篤な副作用が起こるリスクが高いです。もっとも注意しなければいけないものが、悪性症候群です。発熱や自律神経症状とともに、筋肉が固まったり、話づらくなるといった神経症状が認められます。死に至ることもあるので、注意が必要です。

その他にも、危険な不整脈が起こりやすいといわれていますが、これは第二世代抗精神病薬でも同程度のリスクがあるともいわれています。また、長くインプロメンを使っていると、遅発性ジスキネジアという不随意運動(勝手に身体の一部が動いてしまうこと)が起こりやすくなってしまいます。

 

2.インプロメンの作用時間と使い方

インプロメンは最高血中濃度到達時間が4~6時間、半減期が20.2~31時間の定型抗精神病薬です。1.5~3mgから使われることが多いです。最大36mgまで使うことができます。

インプロメンを服用すると、4~6時間で血中濃度がピークになります。そこから少しずつ薬が身体から抜けていき、20.1~31時間ほどで血中濃度が半分になります。

この血中濃度がピークになるまでの時間を「最高血中濃度到達時間」、血中濃度が半分になるまでを「半減期」といいます。

 

このためインプロメンは、1日1回の服用で効果が持続します。添付文章では、インプロメンは3~18mgから始め、最大で36mgまで使うことができます。

現在はインプロメンから開始して治療していくことは少なく、第二世代抗精神病薬の効果が不十分なときに使われることが多いです。このため、少量ずつ追加していくことが多いです。

このため、1.5~3mgから使われることが多いです。インプロメンは錠剤として、1mg、3mg、6mgの3剤形発売されています。細粒も発売されています。

インプロメンは、ちょうどセレネースと同じ力価になります。つまり、セレネース1mg=インプロメン1mgとなります。実際にはインプロメンの方が少し弱い印象があります。

 

3.インプロメンとその他の抗精神病薬の比較

インプロメンは、シンプルにドパミンを遮断するお薬です。その他の作用はほとんどないのですが、抗α1作用だけがやや強いという特徴があります。

抗精神病薬の作用を比較して一覧にしました。

この表に当てはめると、インプロメンでは左から順に(++++,++,-,++,-,-)となります。これを踏まえて、代表的な抗精神病薬の作用を比較してみます。それぞれのお薬の位置づけを考えていきましょう。

まずは、第二世代の非定型抗精神病薬から処方されることが一般的になっています。陰性症状への効果も期待できますし、何よりも副作用が軽減されていて患者さんへの負担が少ないからです。非定型抗精神病薬には、大きく3つのタイプが発売されています。それぞれの特徴をざっくりとお伝えしたいと思います。

  • SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬):ドパミンとセロトニン遮断作用が中心
    商品名:リスパダール・インヴェガ・ロナセン・ルーラン
    特徴:⊕幻覚や妄想などの陽性症状に効果的 ⊖錐体外路症状や高プロラクチン血症が多め
  • MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬):いろいろな受容体に適度に作用
    商品名:ジプレキサ・セロクエル・シクレスト
    特徴:⊕鎮静作用や催眠作用が強い ⊖太りやすい・眠気が強い・糖尿病に使えない
  • DSS(ドパミン受容体部分作動薬):ドパミンの分泌量を調整
    商品名:エビリファイ
    特徴:⊕副作用が全体的に少ない ⊖アカシジア(ソワソワ)が多い・鎮静作用が弱い

非定型抗精神病薬がしっかりと効いてくれればよいのですが、効果が不十分となってしまうこともあります。急性期の激しい症状を抑えるためには、定型抗精神病薬の方が効果が優れています。また、代謝への影響は定型抗精神病薬の方が少ないです。

定型抗精神病薬は、セレネースの系統とコントミンの系統の2つに分けることができます。

  • セレネース系(ブチロフェロン系):ドパミン遮断作用が強い
    特徴⊕幻覚や妄想などの陽性症状に効果的 ⊖錐体外路症状や高プロラクチン血症が多い
  • コントミン系(フェノチアジン系):いろいろな受容体に全体的に作用する
    特徴⊕気持ちを落ち着ける鎮静作用が強い ⊖幻覚や妄想などの陽性症状には効果が乏しい

インプロメンは、セレネースと同じタイプの定型抗精神病薬です。セレネースよりも作用時間が長く、副作用は若干軽減されています。効果はセレネースよりも、ややマイルドになっています。

そうはいっても、大まかな特徴はセレネースとかわりません。幻覚や妄想の改善効果が大きいのですが、錐体外路症状や高プロラクチン血症といったドパミン関連の副作用が多くなってしまいます。

その他の作用はほとんどありませんが、抗α1作用だけは中程度認めます。このため、ふらつきなどは認められることがありますが、眠気や体重増加といった副作用は全体的に少ないです。気持ちを落ち着ける鎮静作用は、あまり期待できないお薬です。

 

4.インプロメンの副作用とは?

  • 第二世代抗精神病薬と比べると、副作用が多い
  • ドパミン遮断作用による副作用が多い
  • まれに重篤な副作用がある
  • 体重増加・糖尿病・脂質異常症など、代謝系の副作用が少ない
  • ふらつきがやや多いが、眠気や便秘が少ない

インプロメンは、第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)に分類されます。第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)と比較すると、副作用は全体的に多いです。

第二世代では、ドパミン遮断作用による副作用が大きく軽減されています。具体的にいうと、

  • 錐体外路症状(ソワソワやふるえなど)
  • 高プロラクチン血症(生理不順・性機能低下など)

といった症状です。また、第二世代と比べると、重篤であったり難治な副作用が起こるリスクは高くなります。

  • 悪性症候群(高熱から死に至ることもある)
  • 危険な不整脈(心室細動・心室頻拍)
  • 遅発性ジスキネジア(身体の一部が勝手に動いてしまう)

このような副作用が起こるリスクが高いと言われているので、注意が必要です。

 

それでは、新しい薬がすべて良いのかというと、そんなことはありません。

第一世代の定型抗精神病薬は、第二世代の非定型抗精神病薬よりも代謝への悪影響がありません。この違いはよくわかっていませんが、非定型抗精神病薬には体重増加や糖尿病、脂質異常症などがよく認められます。このため、定期的に採血をして確認していかなければいけません。

また、インプロメンはシンプルにドパミンに作用するように作られたお薬です。このため、体重増加や便秘といった副作用は少ないです。抗α1作用だけは中程度あるので、ふらつきが認められることがあります。

 

5.インプロメンの適応疾患とは?

<適応>

  • 統合失調症

<適応外>

  • 躁症状
  • 自閉症などの興奮や易怒性
  • チック

まずは、正式に添付文章に「適応」となっている病気についてみていきましょう。

インプロメンは、かつては統合失調症治療でよく使われていました。幻覚や妄想などの陽性症状を改善する効果が大きく、鎮静作用が少ないお薬でした。このため、鎮静作用のあるお薬と併用して使われていました。

現在は、陰性症状にも効果が期待でき、副作用も軽減されている第二世代抗精神病薬(非定型抗精神病薬)に主役の座を譲っています。ですが、これらのお薬でも効果が不十分な時は、現在でもよくつかわれています。

 

インプロメンは、これ以外にもいろいろな病気で使われることがありました。

躁状態にはドパミン過剰が関係しているといわれていて、活動的になってしまいます。かつてはインプロメンも使われることがありましたが、こちらも第二世代抗精神病を使うことが多くなっています。

ドパミンは衝動性や攻撃性などと関係していると考えられています。このため、強力にドパミンをブロックするインプロメンによって、これらの症状を緩和できることがあります。現在はこれらの目的でも、第二世代抗精神病薬が使われることが多くなってきています。

また、ひとりでに不自然な身体の動作をしてしまったり、声出しをしてしまう病気としてチックという病気があります。子供に多い病気で、成人すると自然に治っていく方が多いです。チックはドパミンの過活動が原因とも考えられているので、インプロメンが少量で使われることがあります。

 

6.インプロメンが向いている人とは?

  • 第二世代抗精神病薬では効果が不十分な方
  • 昔からインプロメンを大量に使っている方

インプロメンをはじめとした第一世代抗精神病薬は、現在では特別な状況がない限り、はじめに使われることはありません。まずは第二世代抗精神病薬が使われて、昔だったらインプロメンが使われていた患者さんはSDA(リスパダール・インヴェガ・ロナセン・ルーラン)が使われています。

 

それでは、インプロメンが使われる特別な状況とはどのようなものでしょうか?

インプロメンはドパミンを強力にブロックするので、幻覚や妄想などの陽性症状に対する効果が優れています。その効果は、第二世代抗精神病薬よりも強力なことが多いです。第二世代抗精神病薬を使っていても効果が不十分な時は、併用されることがあります。

また、インプロメンは大量に使っても安全性が比較的高いので、昔から治療を受けている患者さんでは大量になっていることがあります。大量のインプロメンに身体が慣れてしまっていて、減量すると調子が悪くなってしまうことがあります。このため、無理に変更しないで使い続けることがあります。

 

7.一般名と商品名とは?

一般名:ブロムペリドール 商品名:インプロメン

まったく成分が同じものでも、発売する会社が異なればいろいろな商品があるかと思います。医薬品でも同じことがいえます。このためお薬には、一般名と商品名というものがあります。

一般名というのは、薬の成分の名前を意味しています。発売する会社によらずに、世界共通で伝わる薬物の名称です。「ブロムペリドール(bromperidol」に統一されています。主に論文や学会など、学術的な領域でこれまで使われてきました。

一方で商品名とは、医薬品を発売している会社が販売目的でつけた名称になります。「インプロメン(impromen)」は、製造元であるヤンセンファーマが独自でつけた名前です。改善をもたらす薬という期待をこめて「improvement」から命名しました。

ルナプロンやプリンドリルといったジェネリックが発売されていましたが、紛らわしさをなくすため、「一般名+会社名」と名称変更されつつあります。

 

まとめ

インプロメンの効果の特徴は、「ドパミンにしぼって強くブロックすること」です。

インプロメンでは、「D遮断作用>>セロトニン2A遮断作用」となっています。

  • セロトニン2C受容体遮断作用:わずか
  • α1受容体遮断作用:中程度
  • ヒスタミン1受容体遮断作用:わずか
  • ムスカリン受容体遮断作用:わずか

インプロメンのメリットとしては、

  • 抗幻覚・妄想作用が強い
  • 眠気や体重増加が少ない
  • 1日1回で効果が持続する

インプロメンのデメリットとしては、

  • 錐体外路症状や高プロラクチン血症が多い
  • 鎮静作用が弱い
  • 陰性症状や認知機能障害の改善効果が乏しい
  • 重篤な副作用のリスクがある

インプロメンが向いている方は、

  • 第二世代抗精神病薬では効果が不十分な方
  • 昔からインプロメンを大量に使っている方

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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