セレベントディスカス(サルメテロール)の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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セレベント(一般名:サルメテロールキシナホ酸塩)は、長期作用型のβ2刺激薬として2004年に発売されたお薬です。

セレベントの有効成分は、吸入ステロイド薬のフルタイドの有効成分(一般名:フルチカゾン)と配合して、アドエアという吸入薬として発売されています。アドエアは非常に多くの患者さんに使われて、最盛期は世界で2番目の売り上げをほこったお薬でした。(最もよく売れたのは、高脂血症に対して使うリピトールでした。)

このアドエアの陰に隠れて、セレベントが使われることは減ってきています。

セレベントは、ディスカスといわれる丸い緑色の円盤のお薬です。セレベントディスカスには50μgのサルメテロールキシナホ酸塩が含まれており、おもに大人で朝・夕2回吸入していきます。

ここでは、セレベントの効果と副作用の特徴についてまとめていきます。

 

1.セレベントディスカスの効果の特徴

<メリット>

  • ドライパウダーで吸った感じがある
  • セレベントは長期作用型のβ2単剤吸入薬では、唯一喘息にも保険適応がある

<デメリット>

  • 朝・夕2回吸わなければならない
  • 喘息発作に対して即効性はない
  • 喘息やCOPDの治療薬としては古い薬になっている

セレベントは、長時間作用型のβ2刺激薬になります。β2刺激薬には気管支を広げる作用があるので、呼吸状態を改善するお薬になります。セレベントは効果の持続が長いのですが、効果が発揮されるのが遅いという特徴があります。

このような特徴のため、セレベントは喘息発作の予防のために使われてきました。その一方で、喘息発作の時に使っても即効性は期待できないお薬になります。

しかしながら喘息の治療が進むにつれて、ステロイド吸入薬を使っていくことが中心となりました。ステロイド吸入薬の効果が不十分な時にβ2刺激薬も使われますが、合剤が発売されているのでセレベントが使われることは少ないです。

また、COPDにも使われていましたが、現在は抗コリン吸入薬にその地位を奪われています。この点は詳しく後述しますが、セレベントは喘息やCOPDの治療薬としては古いお薬になってしまっています。

現在使われるのは、咳喘息の診断目的が多いと思います。長時間作用型のβ2刺激薬単剤の吸入薬は、セレベントしかありません。このため、咳がなんとなく続く患者さんで咳喘息が疑われる場合、セレベントが使われることがあります。

セレベントは作用時間が長いといっても、1日2回の吸入が必要になるお薬です。またセレベントは、ドライパウダーのため粉っぽさが残ります。吸った後でうがいをしなければいけない手間がありますが、吸った感覚はあるというメリットがあります。

 

2.セレベントディスカスの喘息・COPDでの位置づけ

喘息の治療薬としては、吸入ステロイドとの合剤が主流となっています。COPD治療薬としては、セレベント<スピリーバ=オンブレスという位置づけになってしまっています。

喘息のガイドラインでは、最も軽症な方は吸入ステロイドのみで加療することとなっています。その次はステロイドの吸入量を増やすとともに、

  • β2刺激薬の吸入
  • 抗ロイコトリエンの内服
  • テオフィリンの内服

これらを併用することになります。つまり、β2刺激薬の吸入だけで喘息を治療することはまずありません。

吸入ステロイドがどうしてもうまく吸えない人はβ2刺激薬だけを使うこともありますが、その場合はβ2刺激薬の吸入もできません。メプチン錠などの錠剤やホクナリンテープなどの貼り薬で代用していきます。そのため、喘息でセレベントをみることはほとんどなくなりました。

 

セレベントは、COPDにも適応があります。2009年までのCOPDのガイドラインでは、

  • β2刺激薬吸入薬
  • 抗コリン吸入薬

のどちらかが推奨されていました。しかし2011年に医学界で最も有名な雑誌の一つ The New England Journal of medicineの2011年の論文で、β2刺激薬の代表であるセレベントと抗コリン薬代表であるスピリーバの対決の結果、スピリーバの方が効果があることが示されました。セレベントは残念ながら、敗れてしまったのです。

そのためCOPDの治療は、一時期は抗コリン薬>β2刺激薬という流れになってしまいました。

その後汚名返上とばかりにオンブレスという新しいβ2刺激薬がスピリーバと対決し、ほぼ同等の効果という結果になりました。このため現在では、再びβ2刺激薬と抗コリン薬はCOPDではどちらも同等に第一選択薬となっています。しかしこの流れで、

セレベント<スピリーバ=オンブレス

という図式が成り立ってしまい、現在COPDのβ2刺激薬はオンブレスがほとんど処方されています。そのため喘息・COPDともに、セレベントはほとんど処方されなくなってしまいました。

 

3.セレベントディスカスの咳喘息での位置づけ

軽い咳が一日続くような患者さんで咳喘息が疑われる場合、診断目的にセレベントが使われることがあります。

セレベントが処方されている方の多くは、咳喘息の診断になります。咳喘息の診断基準では、β2刺激薬で治療して症状が改善するかどうかがポイントとなっています。しかしながら具体的に、どのようにβ2刺激薬を使っていくかは書かれていません。

β2刺激薬には、長期作用型と短期作用型があります。またβ2刺激薬は、錠剤・貼り薬・吸入薬があります。

吸入ができる人であれば、多くは吸入薬で治療すると思います。ここからは個人的な見解ですが、セレベントは1日中咳が何となく続いてる人に向いているお薬となります。

同じタイプのお薬のオンブレスでは、喘息に適応が認められていません。そのためセレベントの方が喘息に適応があるため、咳喘息に使いやすいイメージがあります。

ただし咳が出始めたら止まらない人では、サルタノールやメプチンなどの短期作用型のβ2刺激薬の方が診断しやすいことが多いです。咳が出た瞬間にβ2刺激薬を吸って、喘息症状が改善したかどうかが分かりやすいのです。

咳喘息を診断するにしても、どちらのタイプの咳かよく考えてから治療薬を選ぶ必要があります。

 

最近では、アドエアやシムビコートなどの吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤を加えることが多いです。吸入ステロイドを加えてしまうと、咳喘息とアトピー性咳嗽を見極めることができなくなってしまいます。

しかし咳がひどい人にβ2刺激薬だけ加えても、なかなか症状が改善しないことも多いです。咳がひどい人に、診断を優先することが良いこととは限りません。そのため夜眠れなかったり、日中も生活できないくらい咳がひどい場合は、β2刺激薬単独で治療しない先生の方が多いかと思います。

 

4.セレベントディスカスの剤形の種類と用法とは?

セレベントディスカスは、喘息とCOPDに適応がある吸入薬です。成人の方は朝・夕1回ずつ、計2回吸入します。

セレベントは緑色の円盤の形をした吸入器になっており、

  • セレベント50ディスカス60吸入用

があります。

セレベントは、成人では朝夕2回、1回につき1度吸入するお薬です。セレベントの横に書いてある50の数字は、サルメテロールキシナホ酸塩が50μg含まれていることを示します。

吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤であるアドエアでは、サルメテロールはセレベントと同じ50μgの量になります。喘息とCOPDに適応がありますが、現在はほとんど処方されていないが現状です。

小児ではセレベント25ロタディスクがあり、こちらも朝・夕方に1回ずつ計2回吸入します。しかし小児の喘息でセレベント処方されることも、現在はほとんどありません。

セレベントは、吸入方法を正しく行わないと効果が期待できません。動画でしっかりとセレベントの吸入方法を確認しましょう。

 

5.セレベントディスカスの薬価は?

ジェネリックは発売されていません。合剤に比べると、やや安価になっています。

セレベントディスカスの薬価は、以下のようになっています。セレベントではジェネリック医薬品はまだ発売されていません。吸入薬は吸入器の開発が難しいため、ジェネリックはほとんど発売されないのが実情です。

商品名 吸入回数 薬価 1日薬価 1日薬価(3割負担)
セレベント50 60 4053.0 135.1 40.5

※2016年6月22日時点での薬価です。

ちなみにセレベントに吸入ステロイドを加えたアドエアの価格は、

商品名 吸入回数 薬価 1日薬価 1日薬価(3割負担)
アドエア100 28 2984.3 213.2 64.0
アドエア100 60 6267.3 208.9 62.7
アドエア250 28 3434 245.3 73.6
アドエア250 60 7208.4 240.3 72.1
アドエア500 28 3858.9 275.6 82.7
アドエア500 60 8213.2 273.4 82.0

となっています。

 

6.セレベントの副作用の特徴

主な副作用としては、手の振るえ・動悸があります。

セレベントの副作用は、どれくらいあるのでしょうか。成人を対象とした1293例中100例(7.7%)に、臨床検査値異常を含む副作用が報告されました。その主なものは、

  • 動悸23例(1.8%)
  • 振戦11例(0.9%)
  • 口腔咽頭刺激感(咽頭異和感・咽頭痛)10例(0.8%)

となっています。口の中の刺激感は、セレベントを思いっきり吸いすぎるとよく起こる症状です。β2刺激薬の副作用としては、動悸や手の振るえが時々認められます。

セレベントで副作用がでた場合は、主治医に一度相談してみましょう。

 

7.セレベントが使えない人は?

セレベントが使用できない人はほぼいません。

セレベントが禁忌である疾患の人はいません。慎重投与ですが、

  • 甲状腺機能亢進症の患者[甲状腺ホルモン分泌促進により症状悪化の恐れ]
  • 高血圧の患者[α・β1作用により血圧上昇を起こす恐れ]
  • 心疾患の患者[β1作用により症状悪化の恐れ]
  • 糖尿病の患者[グリコーゲン分解作用・ステロイドの作用により症状悪化の恐れ]

これらの注意書きも、β2刺激薬が少量でも入っていたら決まり文句になっています。セレベントの場合は投与量が少ない上に内服ではなく吸入するため、ほぼ問題になることはありません。

 

8.どのようなお薬ともセレベントは併用して良いのか?

セレベントと一緒に使ってはいけない薬はありません。

セレベントと併用禁忌になっているお薬は、添付文章にはありません。そのためどのようなお薬を使用していても安心して吸入できるお薬です。

セレベントと併用して注意が必要なお薬は、

  • リトナビル
  • アドレナリン
  • キサンチン・利尿剤・ステロイド

リトナビルはエイズで使用するお薬です。基本的にずっと飲み続けなければいけないお薬のため、セレベントと併用する場合中止することはありません。

アドレナリンは血圧をあげる昇圧剤です。こちらは救急部で使用するお薬のため、セレベントと併用してもしっかりと入院下で管理されるため問題になることはまずないです。

キサンチン・利尿剤・ステロイドがおそらく問題になるかと思います。利尿剤は高血圧や心不全に使われます。キサンチンはテオドールという商品名で発売されており、喘息で使うお薬です。ステロイドも、セレベント吸入中に喘息発作が起きた場合は使用します。

これら3剤にセレベントを使用すると、低カリウム血症をきたすことがあると記載されています。ただし確率は非常に低いです。カリウムは野菜などに含まれている栄養素です。普通に生活している人が低カリウム血症になることはまずありません。

病気などで食事などがほぼとれなくなった人は、注意が必要です。

このように併用注意の薬を飲んでいたとしても、セレベントを中止することはまずありません。

 

9.セレベントは高齢者・妊婦・授乳中でも安全?

セレベントは、高齢者・妊婦・授乳中どなたでも使用できます。

まず高齢者からみていきましょう。セレベントの添付文章では、

一般に高齢者では生理機能が低下しているので、患者の状態を観察しながら慎重に投与すること

と記載されています。この文言もほぼすべてのお薬の添付文章に書いてある文言で、高齢者に対しては慎重投与となっています。そのため高齢者に対しても広く使われているお薬です。

次に、妊婦の方について添付文章では、

治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること(大量のβ2刺激剤を投与すると実験動物で催奇形作用が知られています)

と記載されています。催奇形性といわれると非常に怖いですね。しかしこれは実際に吸入する量の100倍近くの量を、吸入ではなく注射や経口で投与したら起きた症例です。

実際の喘息のガイドラインでも妊娠中の喘息発症は17.1%とする報告もあり、しっかりと治療することの大切さを記載しています。喘息の悪化による母体・胎児の低酸素血症のほうが、赤ちゃんの成長に関与する危険性が高いのです。そのため、妊娠中は積極的な喘息管理が重要とされています。

授乳中は添付文章では、

セレベント使用経験が少ないので、患者に対する本剤の重要性を考慮した上で授乳の中止あるいは本剤の投与を中止すること

とされています。しかしセレベントで喘息コントロールをやめてしまった場合、発作が起きるともっと大量のステロイドが必要になります。このことを考慮すると、セレベントを中止することは得策ではないと思います。大部分の喘息の方はセレベントを吸入しながら授乳していますが、それが問題になったことはまずありません。

ただし添付文章でこう記載されてる以上、セレベントを吸いたくないという方はいらっしゃると思います。その場合は自己中断するのではなく、まず医師に相談してから中止しましょう。

 

10.セレベントが向いている人とは?

  • 長引く咳が認められる咳喘息疑いの方

セレベントが発売された当初は、COPDの第一線のお薬として非常に広く使われていました。しかし現在では、他の長期作用型のβ2刺激薬が使われることが多くなっています。

さらに最近では、ウルティブロやスピオルトといった抗コリン薬とβ2刺激薬の合剤も登場しており、ますますセレベントが処方される機会は少なくなっています。

また喘息も、吸入ステロイドを軸に治療していきます。単剤で吸入ステロイドであるフルタイドでコントロール不十分となった場合、セレベントを足すのではなくて合剤のアドエアに切り替えることがほとんどとなっています。

そのため現状では、どんどん新薬の陰に隠れてセレベントが活躍できる機会は激減している印象です。

唯一の活路が、咳喘息の診断で使用することです。しかし咳が辛くて来ている方ですと、こちらも吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤からほとんど加療してしまいます。そのため本当に軽症な咳が長引く人のみ適応があると思います。

 

11.セレベントの作用メカニズム

β2刺激薬は、気管に主に存在する交感神経の受容体です。身体が活動的になる時には空気をたくさん必要とするので、β2が刺激されると気管が広がります。

最後に、どうしてβ2刺激薬では気管支が広がるのかについて、そのメカニズムをお伝えしていきたいと思います。

β2とは、交感神経の受容体になります。交感神経にはαとβという2種類の受容体があって、交感神経が活発になった時に命令の受け皿である受容体を通して全身に作用します。

βの中には、おもにβ1とβ2があります。β1は心臓に主に存在していて、β2は気管に主に存在しています。そしてそれぞれの作用は、交感神経が活発になっている状態をイメージすれば理解が出来るかと思います。

交感神経は、身体のスイッチをオンにした時の神経です。運動をした時をイメージしてみましょう。

心臓はバクバクと早くなり、全身に必要な血液を送るべくポンプとして頑張ります。この作用がβ1刺激作用になるのです。気道に関しては、空気をたくさん吸い込むべく気管が拡張します。この作用がβ2刺激作用になるのです。

もう少し詳しく言えば、β2受容体は気管の平滑筋に存在しています。筋肉が弛緩することによって、気管が拡張するのです。

これに対して抗コリン作用は、リラックスする副交感神経に関係しています。副交感神経を優位にするアセチルコリンをブロックするので、結果的には交感神経の働きを強めるのです。

セレベントは気管におもに存在するβ2だけを刺激するお薬で、心臓への影響をできるだけ避け、気管を広げて呼吸状態を改善するお薬です。

 

まとめ

  • セレベントは、長期作用型のβ2刺激薬で喘息とCOPDに適応があります。
  • セレベントは1日2回朝夕に1回ずつ吸入することで、現在は咳喘息の診断に用いられます。
  • セレベントの副作用として動悸と手のふるえがあります。
  • セレベントはどんな疾患、内服薬を飲んでいても使用できます。

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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