べロテック(フェノテロール)の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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べロテック(一般名:フェノテロール塩酸塩水和)は、1999年にベーリンガーから発売された短時間型のβ2刺激薬の吸入薬になります。

主に喘息の発作時のお薬になります。喘息発作で狭まった気管支を、β2刺激薬として広げることで症状を和らげます。喘息発作を予防するには適しておらず、症状がある時に使われるお薬です。

発売当初、べロテックはβ1も少し刺激してしまう事で心臓に負担となることが懸念されていましたが、しっかり決められた量を使えば心臓への負担は少ないです。

現時点では、β1刺激がより少ないメプチンやサルタノールの方が使用される方が多いのではないでしょうか?ただし年配者では、昔からべロテックを愛用されている方もいらっしゃるかと思います。

ここでは、べロテックの効果と特徴についてまとめていきます。

 

1.べロテックの効果のメリット・デメリット

<メリット>

  • β2刺激薬の中で即効性がある
  • 発作時に使用するお薬
  • スプレー式で吸入する力が弱くても吸入できる

<デメリット>

  • β2刺激薬は短期しか効果がない
  • 吸うタイミングとボタンを押すタイミングを合わせる必要がある

喘息の治療薬は、

  • 毎日治療することで喘息の症状や発作が出現することを予防する長期管理薬
  • 喘息発作が出たときの発作治療薬

の2つに大まかに分けられます。このうちべロテックは、発作が出現した時に治療するお薬となっています。喘息発作とは、急に咳や喘鳴とともに息苦しさが出現する状態です。

重症度としては、

  • 小発作:動くと息苦しい
  • 中発作:息苦しくて横になれない/なんとか歩ける状態
  • 大発作:苦しくて動けない/会話も苦しくてとぎれとぎれ
  • 重篤:呼吸が弱くなってきている/会話不能

に分かれています。べロテックはβ2刺激薬として気管支を拡張することで、全ての状態において適応があります。しかし中発作以上は、べロテックを吸ったら様子をみるのではなく、すぐに病院を受診するようにしましょう。

また小発作でも、べロテックを吸っても症状が改善しない場合は受診することが大切です。べロテックは、吸入してから15分程度で効果がみられる即効性が高い吸入薬です。そのため30分たっても症状が改善しなかった場合は、病院を受診してください。

小発作で様子を見ていたら、一気に大発作まで悪くなることは多々あります。重篤になると命にかかわる病気です。必ずべロテックを吸った後は安静にして、状態を評価しましょう。

べロテックは、スプレー式のお薬です。スプレー式は吸入力が弱くても吸うことができるのが利点です。しかし一方でボタンを押すタイミングと吸うタイミングを合わせる必要があるので注意が必要です。

 

2.べロテックの剤形と用量とは?

べロテックは、1つで100回吸入できます。べロテックは、1回の喘息発作中に成人は2回、小児は1回吸入するお薬です。

ベロテックは、錠剤やシロップも発売されています。ここでは、吸入薬としてのベロテックについてお伝えしていきたいと思います。

ベロテックの吸入薬には、ベロテックエロゾルが発売されています。そこまで広く使われているお薬ではないので、ジェネリックは発売されていません。

商品名 吸入回数 薬価
ペロテックエロゾル 100 654.6

※2016年6月25日時点の薬価になります。

べロテックの適応疾患は、気管支喘息・慢性気管支炎・肺気腫・塵肺症になります。現在では、ほとんどが喘息発作に対して使われています。

べロテックは喘息発作に対して、成人1回200μg(2吸入)、小児1回100μg(1吸入)を吸入します。つまり成人は50回分、小児は100回分の治療ができる薬になります。

べロテックは、15~30分で効果が出てきます。べロテックは成人の場合、1回2吸入を原則としますが、はじめは1回1吸入からで様子を見ていきます。

吸入後2~5分を待っても十分な効果がみられない場合には、2吸入(1回分)を限度として追加吸入できます。それ以上の追加吸入を行うときは、少なくとも6時間の間隔をおく必要があり、1日4回までとなっています。

この時に連続でべロテックを吸ったり、投与回数を超えて吸うと、最悪の場合は不整脈や心停止が起こりえます。喘息発作時は慌てずに、指示された量を吸いましょう。もし改善がなければβ2刺激薬を何度も吸うのではなく、病院に行くようにしましょう。

特にべロテックが発売された当初は、発作時の効果よりも心臓発作で亡くなってしまうケースが注目されたお薬です。これは、不必要に乱発した結果招いたものと考えられています。そのため、不用意にべロテックを使わないことが大切です。

 

3.べロテックの副作用とは?

べロテックでは、動悸や手の震えが出現します。

べロテックの調査症例4,729例中副作用が報告されたのは53例(1.12%)でした。主な副作用は、

  • 動悸33件(0.70%)
  • 振戦19件(0.40%)
  • 頭痛3件(0.06%)
  • 嘔気3件(0.06%)

β刺激薬は心臓の動きも強めてしまい、結果としてドキドキする人がいます。またべロテックは吸入薬なので、肺の奥まで届かせようと思いっきり吸入すると頭痛や嘔気が出現することがあります。

またβ刺激薬を吸うと、手の震えを訴える人もしばしばいます。

またべロテックでは、電解質の一つであるカリウムが低下することが報告されています。普通に食事している分には野菜や果物に多く含まれているため、まず問題になることはありません。しかし食事量が減ってきた高齢者などでは、注意が必要になります。

 

4.べロテックが使用できない人は?

べロテックが使用できない人は基本的にいません。

べロテックが禁忌となる疾患はありません。使用するのに注意が必要な疾患は、以下の5つです。

  1. 甲状腺機能亢進症の患者[甲状腺ホルモンの分泌促進により症状悪化の恐れ]
  2. 高血圧の患者[α及びβ1作用により血圧を上昇させる恐れ]
  3. 心疾患のある患者[β1作用により症状を悪化させる恐れ]
  4. 糖尿病の患者[グリコーゲン分解作用により症状を悪化させる恐れ]
  5. 高齢者

①~④の疾患は、喘息発作が起きた時点でさらに悪化する可能性があります。喘息発作治療薬としては、β2刺激薬の他にはステロイド点滴があります。このステロイドの方が上記の疾患をより悪化させる可能性を考慮すると、喘息発作が起きたときにべロテックをためらう理由はないと思います。

また⑤の高齢者ですが、高齢者の場合は代謝も低下しており、また①から④の疾患も合併している可能性があります。そのため初めて使う場合は、1回吸入してみて副作用がないか確認してから2回吸入する方が良いかもしれません。

また妊婦さんですが、添付文章では、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること(動物実験(マウス)で催奇形作用が報告されている。)

と記載されています。催奇形と書かれるとぎょっとしてしまうかもしれませんが、これは吸入する何百倍もの量を血液に投与したことで認められたものです。

喘息発作が出現したときにべロテックの有益性が危険性を下回るケースは、ほぼありません。喘息発作が出現して治療を遅れてしまうと、もっと重篤になります。体の中の酸素が足りなくなると、お腹の子供にも影響が出かねません。

そのためべロテックを吸入した後、妊婦の方は速やかに病院を受診することをお勧めします。

またお薬で併用が禁忌となっているのは、以下の二つです。

  1. アドレナリン
  2. イソプレナリン

これらのお薬は、交感神経を刺激するお薬です。β2も交感神経に属する神経です。そのため併用することで、さらに効果が高まる可能性があります。しかしアドレナリンなどは、血圧が低下して集中治療室に入院しているような方に使用するお薬です。そのため普通に生活している人では、まずお目にかかることはないでしょう。

気を付けるべきは、

  1. キサンチン誘導体(テオフィリン、アミノフィリン)
  2. ステロイド剤(ベタメタゾン、プレドニゾロン、コハク酸ヒドロコルチゾンナトリウム)
  3. 利尿剤(フロセミド)

これらのお薬とべロテックを併用したことで、低カリウム血症が起こることがあります。この中で①キサンチン誘導体と②ステロイドは、喘息発作が起きたときに一緒に使用することが多いお薬です。

低カリウム血症のリスクが高まりますが、普通に食事を摂取している人では心配はまず必要ありません。食事がとれないような方でこれらの治療を使用する場合は、入院する場合が多いです。

また利尿剤は、尿と一緒にカリウムが一緒に出ていってしまうお薬です。そのため利尿剤を投与している方は、定期的に採血でカリウムを調べていることが多いです。低カリウム血症の症状としては筋力の脱力があります。もし気になる方は一度医師に相談してみましょう。

 

5.べロテックが向いてる人は?

  • 喘息発作が出現した人
  • 発作時にドライパウダー式よりスプレー式の方が良い人

べロテックは、症状が出現した場合にすぐに吸うべきお薬です。毎日吸っても喘息を予防効果は期待できないので、注意が必要です。

軽発作だけの患者さんでは、「毎日吸うと大変だから、発作が出たときだけべロテックを吸っている」という人をたくさん見かけます。さらには喘息治療に慣れていない先生もこの処方で対応していることがありますが、これは大間違いです。

喘息発作を繰り返すと、気管支がどんどん太くなってきます。これは筋トレをイメージしていただけると理解していただけると思います。筋トレをすると、徐々に腕の筋肉が太くなります。腕だと筋トレの効果があって喜ばしいことですが、気管支が太くなることは喘息を悪化させてしまいます。

気管支が太くなりすぎてしまうと、べロテックに反応しない状態になってしまいます。喘息発作がおきてべロテックを使っても、気道が広がらなくなってしまって喘息発作が改善しなくなります。これをリモデリング(不可逆性)と、専門用語では呼んでいます。

べロテックに反応しなくなってから慌てて長期管理薬で毎日治療を行っても、一部の人は手遅れになります。β2刺激薬のべロテックで気管支喘息発作が改善しない場合は、次の一手はステロイドになります。

しかしステロイドは、諸刃の治療です。効果もありますが、副作用も強いお薬です。そのためステロイドは気軽に出せるお薬ではないため、喘息をしっかりとみれる病院の受診が必要になります。

毎日吸入するお薬が面倒だからといってべロテックだけでやり過ごしてしまうと、後で大変な思いをしてしまいます。必ず長期管理薬でしっかりと喘息を治療するようにしましょう。

また喘息発作が起きた時に、べロテックの吸入を最高用量よりもたくさん吸う人がいます。これは非常に危険です。べロテックの添付文章には、

本剤の過度の使用により、不整脈、心停止等の重篤な副作用が発現する危険性があることを理解させべロテックを適正に使用すること

と記載されています。一度に大量にべロテックを使うと、非常に重篤な副作用が出現することがあるのです。さらにβ2刺激薬は、吸えば吸うほど気管支が拡張されるわけではありません。そもそも喘息発作は、気管支の炎症が激しくなって起こる状態です。

そのため中発作以上ですと、まずステロイドなどの炎症を押さえるお薬が必要になります。べロテックを何度も吸いたくなるくらい苦しい人は、べロテックを吸ったらすぐに病院に来ることをお勧めします。

 

まとめると、べロテックは喘息発作の全ての状態で治療可能です。しかしながらべロテックの吸入だけで加療が向いてる人は、軽度の喘息発作に限ります。

この発作時の短期β2刺激薬として、べロテックはスプレー式として幅広く使われています。現時点では、β1への作用が少ないメプチンサルタノールの方が処方される機会が多いかもしれません。

しかし副作用としてべロテックが特別動悸や不整脈が多いわけではありません。最初に登場したβ2刺激薬であったため、吸えば吸うほど良いと間違った認識で使われた結果、多くの副作用を認めただけです。

メプチンもサルタノールも乱発すれば、どちらも強く副作用が出るお薬です。べロテックだけが危ない薬ではないので、処方されている人も安心して適量を吸入してください。

 

6.ベロテックとの作用メカニズム

β2刺激薬は、気管に主に存在する交感神経の受容体です。身体が活動的になる時には空気をたくさん必要とするので、β2が刺激されると気管が広がります。

最後に、どうしてβ2刺激薬では気管支が広がるのかについて、そのメカニズムをお伝えしていきたいと思います。

β2とは、交感神経の受容体になります。交感神経にはαとβという2種類の受容体があって、交感神経が活発になった時に命令の受け皿である受容体を通して全身に作用します。

βの中には、おもにβ1とβ2があります。β1は心臓に主に存在していて、β2は気管に主に存在しています。そしてそれぞれの作用は、交感神経が活発になっている状態をイメージすれば理解が出来るかと思います。

交感神経は、身体のスイッチをオンにした時の神経です。運動をした時をイメージしてみましょう。

心臓はバクバクと早くなり、全身に必要な血液を送るべくポンプとして頑張ります。この作用がβ1刺激作用になるのです。気道に関しては、空気をたくさん吸い込むべく気管が拡張します。この作用がβ2刺激作用になるのです。

もう少し詳しく言えば、β2受容体は気管の平滑筋に存在しています。筋肉が弛緩することによって、気管が拡張するのです。

これに対して抗コリン作用は、リラックスする副交感神経に関係しています。副交感神経を優位にするアセチルコリンをブロックするので、結果的には交感神経の働きを強めるのです。

ベロテックは気管におもに存在するβ2だけを刺激することを意識して作られていて、心臓への影響をできるだけ避け、気管を広げて呼吸状態を改善するお薬です。

 

まとめ

  • べロテックはフェノテロール塩酸塩水和を主成分とするスプレー式の短期作用型のβ2刺激薬になります。
  • べロテックは主に喘息発作が出現した際に吸入します。
  • べロテックは成人は2回、小児は1回吸入します。
  • べロテックは喘息発作全ての状態で適応がありますが、効果がない、症状が強い場合はすぐに病院を受診する必要があります。
  • べロテックは1度に何回も吸ったり、1日5回以上吸うと不整脈などの重篤な副作用が出現する可能性があります。
  • べロテックの主な副作用は動悸と手の振るえです
  • べロテックはアドレナリンとプロテノールが使用している方は禁忌となっていますが、このお薬は外来通院してる人はまずお目にかかることはありません。

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