精神科医はどのように教育されているの?

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
元住吉こころみクリニック

世間での精神科医に対するイメージと、実際の精神科医は大きく異なります。診察をしていると、患者さんが期待しているものと私たち精神科医ができることのギャップを感じることがしばしばあります。

その代表例が、「精神科は話をきいてくれてカウンセリングをしてくれる」というイメージです。日本の精神科医の教育は、薬物療法を中心に行われています。カウンセリングなどの心理療法は、むしろ臨床心理士がその専門職になります。

精神科医はどのようにして教育されていくのでしょうか?ひとりの医学部生が精神科医となっていくまでをお伝えしながら、自戒の意味も込めて精神科医の実情を考えていきたいと思います。

どのクリニックがよいのか迷われている方は、「精神科・心療内科クリニックの選び方とは?」をお読みください。

 

1.医学部生から医者になるまで

精神科医になるためには、医師にならなければいけません。日本で医師になるためには大きく2つのルートがあります。

  • 医学部に入学して医師国家試験に合格する
  • 他国で医師免許を取得し、日本の試験で合格する

ほとんどの医師が前者なので、それを前提に話をすすめていきます。

医学部に入学するために必要なのは、学力かお金です。これは決して皮肉ではありません。学力が高いからといってよい医者というわけではなく、医者の仕事は頭だけではないからです。

  • 国公立の医学部:学費は他の学部と同じだが、学力が必要
  • 私立医学部:卒業するまで数千万円単位だが、学力のハードルはやや下がる

いずれにしても、日本にあるいずれかの医学部に入学する必要があります。医学部に入学すると、6年間のカリキュラムの中で医学をまなんでいきます。4年間でひと通りの知識を学んで、5~6年で実習をしていく大学が多いです。

医師国家試験は6年生の終わりにありますので、受験勉強と同じように、6年生の半ばくらいから必死に勉強をしていきます。そして国家試験に無事合格すると、医師の資格が得られます。こうして医者としての仕事ができるようになります。

 

2.研修医ではどのようなことを学ぶのか

医師国家試験に合格して晴れて医師になると、研修医になります。実はこの研修医になりたての時期が、もっとも医学全般に対する「知識」は豊富な時期です。それ以降は自分の専門分野や得意分野への知識は深まりますが、その他の使わない知識は薄れていきます。

平成16年度から臨床研修制度が導入されました。2年間の期間の中で、内科を中心に、様々な診療科を数か月単位でまわります。OJTで実践的な知識や技術を学んでいきます。

その内容は研修病院によってさまざまで、田舎の病院などでは研修医だけで手術するなんでいう話も聞いたことがあります。基本的には指導医のもと、現場での知識を身につけていきます。

この研修の2年間で、将来の自分の方向性を見極めていきます。ですから研修制度以降の精神科医は、医療の現場を知った上で精神科を選んできています。同時に、内科などの経験はそれなりにしてきています。

臨床研修制度以前の多くの精神科医は、卒業と同時に大学の精神科医局に入るものでした。(ストレート入局)ですから内科などの経験は乏しい反面、精神科に本当に興味をもっている方が多かったと思います。

 

3.精神科医をめざす医師の変化

臨床研修制度が導入されて以降、精神科医を目指す医師は明らかに増えています。私も臨床研修制度以降に精神科医になったので、以前のことはわからない部分もありますが、推測しながら書いていこうと思います。

ストレート入局と呼ばれていた時代では、それこそ現場を直接知る機会は少ない中で精神科を選んでいます。現在と比べると精神科医療に対する世間の偏見も強い時代です。その中で精神科医という道を選択した医師は、精神医学や心理学、哲学といった道に対して関心の深い医師が多かったと思います。

臨床研修制度になると、医療の過酷な現場を目の当たりにします。それと比較すると、精神科医療の現場は肉体的なストレスは少ないです。このことで、精神科医を目指す医師は2通りに分かれているように感じます。

  • 本当に精神科領域に興味がある精神科医
  • 消去法で選んだ精神科医

さらには21世紀に入ると、うつ病をはじめとした精神疾患に対する世間の認知も高まり、精神科受診の敷居もかなり低くなりました。この時代背景も、精神科医の多様化につながっています。

精神科は極端な話、部屋と机があればすぐに開業できます。内科などのように、レントゲンやCTなどは必要ありません。このため、他の科から精神科に転科したり、精神科の経験はほとんどなく精神科医として開業するケースなどもあります。

このように、ビジネスを意識した精神科医も増えているような印象です。

 

4.入院と外来での違い

精神科医としての教育をお話しする前に、入院と外来での違いについて理解していただきたいと思います。患者さんの違いと治療の違いをお伝えします。

 

4-1.入院と外来での患者さんの違い

入院患者さんは「入院と日常生活」の間、外来患者さんは「日常生活と社会生活」の間で苦しんでいる方が多いです。

精神科の患者さんといっても、とても幅広いものがあります。私は、町のクリニックでも精神科の病院でも働いたことがありますが、患者さんの層が大きく異なります。

入院患者さんで一番多いのは、統合失調症の患者さんです。幻覚や妄想などの症状がみられる病気ですが、統合失調症はどうしても根治ができないためです。再発を繰り返してしまうと、とても一人では生活ができなくてしまい、入院が長引いてしまいます。それ以外にも躁状態や重度のうつ病、重度の認知症や知的障害の方などが入院しています。

よくなって社会復帰される方も多いですが、多くの患者さんが入退院を繰り返しています。なかには、一生を病院で過ごす患者さんもいます。日常生活をひとりで過ごすことができない患者さんが多いのです。

 

外来患者さんは、様々な方がいらっしゃいます。もちろん入院歴のある患者さんもいます。ですが、外来で治療ができるということは、少なくとも誰かの支えがあって日常生活は過ごせています。日常生活と社会生活の間の患者さんが多いです。

日々の仕事や家事、育児などは何とかできているものの、ストレスで心が疲れてしまって来院される患者さんも多いです。ちょっと前まで仕事にいけてたけど、急に仕事に行けなくなってしまった方もいらっしゃいます。

 

4-2.入院と外来での治療の違い

入院では症状のコントロールが最優先であり、「患者さんを教育する力」が求められます。外来では社会生活に戻れるようなサポートが必要で、「社会と患者さんのすり合わせる力」が求められます。

患者さんの困っていることが違えば、当然、求められる治療も異なります。

多くの入院患者さんの場合、ゴールが「日常生活をおくれること」になります。ですから、症状のコントロールということが重要になってきます。薬をしっかりと使って、症状をしっかりと抑えなければいけません。そして、患者さんが自分でお薬を飲めるようにしていく必要があります。

ですから、入院での治療で求められているのは、薬の知識であり、患者さんを教育する力です。薬も思い切って使う傾向がありますし、多少の副作用にも動じません。そして、医者が上に立って患者さんを教育するという構図になりがちです。なかには、自分が病気ということすら認識できていない患者さんもいるので仕方がないのです。

 

それに対して多くの外来患者さんの場合は、ゴールが「社会生活をおくれること」になります。ですから、ただ症状をよくするだけでなく、社会生活に戻れるようなサポートが必要になります。薬に関しても、副作用がひどいと社会生活の妨げになります。

ですから、外来の治療で求められるのは、薬の知識はもちろんですが、社会と患者さんのすり合わせる力です。薬はより慎重に使っていかなければいけません。患者さんの考え方を軌道修正したり、社会復帰への道筋をつけたりと、具体的なアドバイスも必要になります。

 

このように、患者さんが違えば求められる治療の形も異なります。そして、求められる医者の腕も異なります。

 

5.日本の精神科医・心療内科医の教育とは?

日本の精神科医教育は、入院治療がベースにした薬物療法が中心になっています。

ここまで見ていただくとお分かりになると思いますが、精神科医としての教育をうけるまでは、精神科領域に関してはまったく知識も経験もありません。

精神科医の教育の道は、3つあります。

  1. 大学病院の医局に入る
  2. 町の病院に直接入る
  3. クリニックにいきなり入る

たいていの精神科医は①か②です。③の精神科医はめったにいないでしょう。

大学の医局に入ると、体系的に精神科の教育が受けられます。ですから精神科医としての知識はしっかりとつきます。ですが、多くの場合が入院患者さんをベースにした教育になっています。しかしながら、大学によっては治療が偏ってしまったり、研究に追われることもあります。

町の病院に直接入ると、外来があっても入院患者さんのフォローアップが中心になります。ですから、極端に入院患者さんに偏ってしまいます。

クリニックにいきなり入ると、自分で試行錯誤していくことになります。外来で求められる力は身につきますが、治療が独学になってしまいます。また、入院も必要となるような病気に対しては弱くなるでしょう。

日本では、外来教育に力がいれられていないと私は思います。入院治療をベースとした教育をうけた精神科医が、外来を行いながら独自に外来での力をつけているのが実情として多いかと思います。

 

そしてこの教育というのは、日本では薬物療法が中心になっています。もちろん精神療法に関しても知識としては学んでいきますが、深く探求する精神科医は昔に比べると少ないです。精神療法や心理療法は、臨床心理士がそれを専門としています。

ですから、「精神科は話をきいてくれてカウンセリングをしてくれる」「精神科医は心理学に詳しい」と期待されると、精神科医療に不満に感じてしまうかもしれません。医者の精神療法は、もともとのコミュニケーション能力も含めて「センス」の要素も大きいです。むしろ丁寧に薬物療法を行ってくれるかどうかが、精神科医としての教育の深さを表しているかもしれません。

 

まとめ

医学部から精神科医になるまでという形で、精神科医の実情をお伝えしてきました。なぜこのような試みをしたかというと、大きく2つあります。

1つ目は、患者さんの精神科医療へのイメージと実情のギャップを少なくして、納得した上で精神科医療を受けていただきたいからです。心の病はひとりでは深みにはまってしまうことが多いです。しっかりと病院やクリニックに通院しながら、信頼できる医師を信じて治療に取り組んでいただきたいのです。

2つ目は、メンタルヘルスと精神科医療の方向性の違いを感じるからです。日本の精神科医療は、薬物療法が中心です。薬の知識は当然勉強しなければいけませんが、それだけではいけません。

外来をする精神科医ならば、もっと社会を知る必要があります。人が社会で直面する悩みを知って、一緒に考えなければいけません。私自身もですが医者は社会を知らないので、少なくともそのことを自覚する必要があります。その自覚もなく、「メンタルヘルスに強い」とうたっているクリニックは非常に多いです。

あくまで私見ですので偏りがあるとは思いますが、精神科医の実情を知っていただくことで、患者さんに納得して精神科医療を受けていただきたければと思います。

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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