なぜ精神科や心療内科では、病名や診断が告げられないのか

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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患者さんが困った症状があって病院に受診すると、内科や外科などの身体の病気では病名や診断を告げられることがほとんどだと思います。少なくとも、疑っている病気は教えてくれることが多いでしょう。

ガンなどの命に関わるような病気でも、最近では患者さんにしっかりと伝える風潮になってきています。もちろんその告知の仕方は慎重に行います。

しかしながら精神科や心療内科では、病名を告げられることは多くありません。なかには最後まで病名を告げられない方もいらっしゃいます。心の病が多様化する現代では、精神科や心療内科の領域はむしろ告知しにくい方向にすすんでいます。

ここでは、精神科や心療内科ですぐに病名や診断が告げられない理由について、お伝えしていきたいと思います。

 

1.精神科や心療内科で病名・診断をつけるということ

病名をつけるということは、病人としての役割を得られると同時に、社会でのレッテルや本人の逃げ道になることがあります。

精神科や心療内科では、すぐには病名や診断を患者さんに告げないことが多いです。私が精神科医としてなりたての頃は、できるだけ明確な方がよいだろうという思い込みから、浅慮のもとに病名や診断を告げていました。

今思えば間違っている診断もたくさんありますが、そのことは大きな問題になりませんでした。それよりもむしろ、患者さんにとって治療的でなかったと後悔することが度々ありました。

精神科や心療内科では、心の病気を扱っていきます。心の病気は客観的に目に見えず、ときに正常と異常の境界もあいまいになります。その中で、心の病気を診断して病名を付けることの意味を考えていきましょう。

心の病に限らずどの病気でも大なり小なりいえることなのですが、病名を付けることにはメリットもデメリットもあります。「〇〇病」ということがわかることで、患者さんは自分が病人であるということが決まります。今まで「性格かも?」「気のせいかも?」と思っていたことが、「症状」として治療されていくことになります。

そのことは、一時的な患者さんの逃げ道になり、心の安らぎが得られるかもしれません。しかしながら同時に、社会からのレッテルになることもあります。自分の中での言い訳になることもあります。

ですから心の病を診断していく時には、慎重に進めていく必要があります。診断して病名を付けることが患者さんにマイナスになるようでは、診断する意味がありません。

このように精神科や心療内科では、病名をつけることが治療的でないことがあります。それだけでなく、心の病気のもつ特有の問題点や時代背景などによって、病名をつけることが難しくなっています。以下では、その理由についてお伝えしていきます。

 

2.病名を告げない理由①-現時点でわからない

過去の記憶は患者さんに頼らざるを得ず、現在はあくまで長い経過の一時点にすぎません。

まずはじめにお伝えしておきたいのが、心の病気は「現時点ではわからない」ということです。患者さんからみると医師の無能さをごまかしているように感じるかもしれませんが、一回の診察では「わからない」という医師の方が多くの場合で正しいです。

どうしてわからないのでしょうか?それには以下の2つがあげられます。

  • 過去の記憶は患者さんに頼らざるを得ない
  • 現在はあくまで長い経過の一時点にすぎない

心の病気を診断するためには、これまでの経過は非常に重要になります。しかしながら過去のエピソードは、患者さんから語られることから推測しなければなりません。もちろん本当のことをうまく聞きだすのも精神科医・心療内科医の技術なのかもしれませんが、それでも限界があります。

例えば、軽躁状態などはいい例です。患者さん自身は調子がいいので、大抵の場合は自覚していません。人は調子がいいこと=普通と感じてしまいます。

そして心の病は、一時点で判断できるものでもありません。病気によっては症状が動揺したりするものもあります。例えば認知症などは、どのような症状も前駆症状になりえるとまで言われます。経時的に見て、その症状の変化をみていかなければ診断ができないのです。

 

3.病名を告げない理由②-診断基準の変化

様々な精神疾患で、スペクトラム(連続性)という概念が提唱されています。診断基準もそれに伴って過渡期を迎えており、病気としての輪郭がぼやけているのも病名がつけにくい一因です。

明確な診断基準がなかった時代は、心の病気は非常に幅がありました。日本の伝統的診断では、外因性・内因性・心因性と大きく3つにとらえます。その上で、さまざまな病気を診断して治療してきました。今よりもずっと病名自体が少なかったですし、物事の本質を大事にしてきたと言えます。

欧米を中心に、心の病気の診断のあいまいさをなくそうという試みで診断基準が作られました。ICDやDSMなどの診断基準をもとに、それに従っていけばどの医師が診断しても同じ病名になることを目指したのです。このような診断を操作的診断といいますが、できるだけ心の病気の輪郭をはっきりさせることを目指してきたのです。

しかしながら最近は、むしろ回帰していく風潮になってきています。スペクトラム(連続性)という考え方が、いろいろな精神疾患の領域で提唱されているのです。双極性スペクトラム、自閉症スペクトラム、強迫性スペクトラムなどをはじめ、さまざまなスペクトラムが提唱されています。

スペクトラムとは虹をイメージしていただくと理解しやすいです。虹は7色ともいわれますが、くっきりと分かれているわけではなく連続しています。もとはといえば、色の見え方は光の波長の問題です。波長が長ければ赤、短ければ紫になります。

 

最近改訂されたDSM-Ⅴでは時期早尚とされましたが、診断基準としてもディメンション診断が検討されています。様々な要素を色の濃さで診断していこうという試みです。

これまでの診断基準では、合併症に関しても診断基準をみたせばすべて病気としてあげられました。しかしながら合併症にも、本質的なものもあれば付加的なものもあり、程度の強いものも弱いものもあります。

今後の診断基準は、その症状の要素ごとに明確にはしながら、より本質を大事にしようという方向にいくと思います。このような過渡期にあることも、精神科・心療内科で診断により病名をつけにくい一因です。

 

4.病名を告げない理由③-軽症例が増加している

正常と病気の境目がぼやけていて、軽症といえども難治なケースが増えています。

近年では、心の病気に対する敷居がかなり低くなっています。「うつ病は心の風邪」といったキャンペーン以来、心の病気が少しずつ精神科や心療内科で相談しやすい環境になってきています。ストレスチェックも導入され、ますます敷居は下がっていくでしょう。

このこと自体はいいことなのですが、大きな問題点が2つ存在します。

  • 正常と病気の境目がぼやけている
  • 軽症とはいえ難治なケースが増えている

とあるチェーンクリニックでアルバイトをして、本当に痛感したことがあります。病院にくるレベルではとてもない方が、心配されて受診されるのです。それこそ、先輩に相談すれば解決するような話なのです。

そのようなケースでは、とても診断はできません。しかしながらクリニックも経営がありますので、病名は告げずにカウンセリングを受けさせたり、投薬をしたりすることもあります。病名がつかないと保険点数がつかないので、何らかの病名がつけられています。患者さんの生命保険などのことも考えると、せめて適応障害やストレス性障害にしてほしいのですが、人によってはうつ病になっていることもあります。

また、軽症とはいえ難治なケースが増えています。うつ病をとってみても、その症状や背景は多様化しています。詳しく知りたい方は、「うつ病の種類(メランコリー親和型と新型うつ病)とは?」をお読みください。

このようなケースでは、薬を使えば単純によくなるというものではありません。そしてその多くの背景には、明らかに社会不適応な心理的・人格的な課題があります。病名を告げることも含めて、それが治療的でなければいけないのです。

 

5.病名を告げない理由④-治療的でないことがある

社会での病名に対するイメージによるレッテルで社会復帰が妨げられたり、本人が直面化して耐えられないことがあります。

病名を告げることが、必ずしも治療的でないことがあります。もちろんいずれは自分の病名を正しく知って、それを受け止めたうえで前向きに治療をしていく必要があります。しかしながら心の病気では、その病名を受け止められない方も多いのです。そのような方に病名を伝えても、治療的ではなくなってしまうのです。

新型うつ病という社会の否定的な概念がつきまとう非定型うつ病を例に、病気を伝えることの治療へのデメリットをみてみましょう。非定型うつ病では病名を告げるに当たっては、大きく2つの面を考慮する必要があります。

  • 社会での病気のイメージの悪さ
  • 本人が病気を受け止められない

非定型うつ病は、その症状は気分反応性があり、過眠や過食、鉛のようといわれる強烈な倦怠感、拒絶されることの過敏さを特徴とするうつ病です。気分反応性とは、自分にとってよいことがあると気分が軽くなるということです。周囲から見れば、「嫌なことをしている時はぐったりしているのに、遊びにはいけるのか」という印象になります。

このような診断がつけられると、怠けもの、自分勝手、未熟者、わがまま、という病気につきまとう印象がレッテルになります。ただでさえ精神疾患は腫れ物に触るように対応されることも多いのに、このレッテルが社会復帰を妨げることもあります。

また、本人が病気を受け止められないこともあります。自分の本当の姿と向き合うことには、非常に大きなエネルギーを必要とします。症状が悪いときに伝えても、その大きさに耐えられません。さらに調子が悪化してしまいます。病名を告げる時は、本人が直面化に耐えられる状況でなければいけません。ですから精神科医は、少しずつその状況を探りながら病名を伝えていくのです。

非定型うつ病では、拒絶過敏性が特徴的です。他人からの目を過度に意識し、否定されることに対しておびえています。非定型うつ病という診断すること自体に対して、否定的な捉え方をしてしまうことがあるのです。そうなると、通院をやめるという選択肢をとってしまうこともあります。

 

6.病名を告げられないことのデメリット

病名を告げなくても、薬に関する情報はいくらでも自分で調べることができます。情報のリテラシーの問題、精神科の薬特有の適応外処方や経験的処方の問題が生じます。

インターネットの普及に伴って、医療情報にも非常にアクセスしやすくなりました。気になることを検索すると、ありとあらゆる情報が飛び込んできます。精神科や心療内科の患者さんは、心配になって薬や病気のことを調べることも多いでしょう。

病名を告げないことの最大のデメリットは、この情報のアクセスの容易さにあります。というのも、病名を知らなくても薬の情報は患者さんが自由に調べられるからです。さすがにラベルをつけかえて処方することはできません。

情報の面では3つの点があげられます。

  • 間違った情報が氾濫している
  • 心の病気には適応外処方が多い
  • 主治医の経験に基づく意図が一般論から反することがある

精神科の薬のことを調べていると、「この薬は怖いって書いてある」「症状がよくなったら止めていいって書いてあります」といった表現がいっぱい飛び込んでいます。なぜか精神科医を目の敵にして断薬をすすめている内科医もいるくらいです。

このような情報を真に受けてしまって薬を自己中断してしまったり、ひどい場合は通院を自己中断してしまうこともあります。これが主治医としてはもっとも恐ろしいです。

 

また、心の病気の治療薬は、適応外処方という形で処方されることが多いです。実際には効果があるけれども、正式には承認されていない使い方というのは非常に多いです。例えば統合失調症に使われる抗精神病薬は、症状によってはありとあらゆる患者さんに使われるのです。

ですから、患者さんがインターネットで調べて、びっくりしてしまうこともよくあります。抗精神病薬を服用している患者さんでは、「私は統合失調症なんですか?」と非常に心配される方もいると思います。

 

主治医が自分自身の経験に基づいて、何らかの意図をこめていることもあります。それが一般論から外れることもよくあります。「一般論から外れてしまうのはよくない」といえばそれまでですが、それが患者さんのタメであることもあります。

例えば、抗うつ剤のジェイゾロフトで説明してみます。ジェイゾロフトは1日1回の処方でも効果が持続する薬です。しかしながら、なかにはジェイゾロフトを飲むと落ち着くという患者さんがいます。プラセボ効果(偽薬効果)なのでしょうが、これを上手く使えば薬を減らせることがあります。あえて1日3回とかに分けて服用させることで、抗不安薬を使わなくても済むことがあるのです。

理論的に考えれば、ありえないとなるでしょう。しかしながら心の病気は、理屈だけではないのです。ですから私は、前医の処方に疑問点があってもその意図をできるだけ考えます。そのまま処方して様子を見ることも多いです。さすがにジェイゾロフト頓服で処方しているケースは、即効で中止しましたが・・・

 

7.精神科や心療内科の病名をどのように聞けばいいか

症状がひどい時は、まずは主治医がどのような意図で薬を使っているのかを聞いてみましょう。症状が落ち着いてから病名を聞いてください。

それでは、精神科や心療内科で病名や診断を聞くべきなのでしょうか?

それには、現在の情報化社会での精神科医療の現状も考えていく必要があります。要点をいえば、「薬の情報はいくらでも調べられる」という点が大きいのです。

私はできるだけ病名か状態像は伝えたいと思っていますが、それでも病気によっては慎重に伝えていきます。病名を主治医から伝えられていない方もお読みかもしれませんが、そこには意図がある場合も多いのです。

病名を知ることに耐えられるような状態でしたら、直接主治医に聞いてみてもよいでしょう。しかしながら症状がひどい時は、知ること自体がストレスになることもあります。そんな時には、主治医も教えてくれないことが多いでしょう。

そのような方は、まず自分の服用している薬がどうして使われているのかを知ることから始めましょう。薬についてて知りたい方は、「薬物療法のカテゴリー」をご覧ください。ひと通りの精神科の薬はまとめています。

その上で薬がどうして使われているのか、主治医に聞いてみましょう。それによって、自分の病気をどのように考えているのか、どういう症状を抑えることが大切なのか、主治医の考えも見えてくるかと思います。症状が落ち着いてから、自分の病名を聞くようにしてください。

 

まとめ

精神科や心療内科で病名を告げられない理由についてみてきました。

  • 診断には時間経過が大切なこと
  • 診断基準がぼやけてきていること
  • 軽症例が増えていること
  • 治療的でないことがあること

それに対して、医療情報へのアクセスのしやすさが招く弊害をお伝えしました。

イ ンターネットにあふれる情報は、正しいものばかりではありません。なかには専門家(騙っている人もいますが)として書いていても、アフィリエイトなどの自己利益のために情報を操作していることもあります。患者さんが自分の体験談として書いていると、ことさらに悪い部分が強調されてしまうこともあります。

私の書いている記事も間違っているところはたくさんあると思います。ですが、私のリテラシーで正しいと思う医療情報は、そこまで大外れしていないだろうと思って情報発信しています。

ぜひ適切なタイミングで自分の病名や診断を知って、正しい方向に治療がすすむように情報を活用して下さい。その一助になれるように、これからも情報発信をつづけていきます。

投稿者プロフィール

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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