自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)の特徴とは?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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「自己愛性」と聞くと、なんとなく「自分大好き!」な人が浮かびませんか?周囲にいる自分大好きな人…自分の自慢話ばかり…人のことなんておかまいなし…ちょっと迷惑な存在ですよね。

けれど、自己愛性パーソナリティ障害は、「自分大好き」な人ではありません。反対に、「あるがままの自分を愛せない」人達です。自分を愛せないし、他人も上手く愛せません。自己愛性パーソナリティ障害は、愛情という感覚が働けなくなった状態とも言えるわけです。

自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)とは、自分が特別で優秀な存在であるという思いこみがあり、周りは自分を称賛し優先させてくれて当たり前、人は自分の欲求を満たすためのものと考えています。

そんな自己愛性パーソナリティの特徴を、お伝えしていきたいと思います。

 

1.人間らしさのもとになる愛情。その基本は健全な自己愛

自己愛性パーソナリティ障害の人の特徴は、自己愛の未発達によって抱えた自信の無さがあります。

他人を思いやる気持ち。優しい心で接すること。それができるのは、愛情という感覚がその人の中に備わっているからです。家族愛、隣人愛、男女の愛、友人への愛、ペットへの愛、愛情の種類はたくさんありますが、その大元となっているのが「自己愛」です。

自己愛は、読んで字のごとく、自分への愛情です。健全な自己愛とは、あるがまま、等身大の自分を正当に愛してあげられる状態をいいます。

自分はけっして完璧でも偉大でもない。人から常に評価されるほどの特別な何かもない。だけど自分には自分のいい部分があり、それでじゅうぶんに価値のある人間だと思えるのが、健全な自己愛を持つ人です。

健全な自己愛を持つ人は、失敗して他人に批判されたり誤解されたりしても、自分の力で自己を励まし、ときに反省や改善の努力をし、自信を回復することができます。他者に対しても同じように、共感や尊重の気持ちを持って接しようとします。

 

しかし、自己愛性パーソナリティ障害の人はそれができません。

自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己愛が成長する幼少期から思春期にかけて、何らかの形で自己愛が傷つくような経験をしていると言われています。そのため、自己愛が未熟で、常に誰かに評価されるような自分でなければ存在を許されないという恐怖感が無意識化にあり、いびつな自己愛のまま大人になってしまっています。

失敗をする自分、他者に批判されることは、彼らにとって絶対にあってはならないことです。

完ぺきな自分しか許せない人は、他者をも自分の望み通りにコントロールしようとします。自己愛性パーソナリティ障害の人の特徴は、自己愛の未発達によって抱えた自信の無さからおこる、不安定な態度として表面にあらわれてきます。

 

2.自己愛性パーソナリティ障害の人の特徴

自己愛性パーソナリティ障害の人には、3つの大きな特徴があります。

 

2-1.自分の失敗や否を、絶対に認めようとはしない

自己愛性パーソナリティ障害の人にとって、自分が完ぺきな人間ではないという事実はあってはならないものです。自分は常に完ぺきで、誰よりも優れていると信じていなければ、自己を保つことができないからです。

そのため、自分の失敗や否を認めようとはしません。それを指摘する誰かがいれば、普通では考えられないような怒りを見せて、相手を攻撃することがあります。

 

2-2.他者の評価に対する過剰な反応

自己愛性パーソナリティ障害の人は、自分自身の力で自己の価値を感じることができません。このため、他者に評価され、ほめられ、持ちあげられることで自己の価値を確かめようとして、常に他者からの良い評価を求めています。

ですが、自分自身では、そのような心理状態に自覚がありません。自分は、他者から高評価を受けるのが当たり前、特別で偉大な存在であると信じこんでいます。信じこもうとしています。

自分を評価しない他者がいた場合は、「その相手がおかしい」「自分の価値がわからない無能な人間」という認識になって、激しい攻撃をしたり、悪口を言いふらしたりという行動にでることがあります。

その範囲が広がって敵意が社会に向くと、「自分がうまくいかないのは社会が悪いからだ。自分を評価してくれない社会はおかしい」と言って、反社会的なことをやってしまう人もいます。

 

2-3.他者への愛情の欠落、思いやりの無さ

自己が不安定な人は、他者を別人格として尊重することができません。自己愛性パーソナリティ障害の人にとって、他者は自分の価値を確認させてくれる道具のような感覚として認識されてしまいます。

そのため、相手の立場になって考えようとか、相手を思いやることが上手くできません。自分の望み通りの言動や対応を求め、それに反した場合は、相手の人格を否定するような言葉を投げつけたり、威圧的な態度で抑えつけようとすることがあります。

 

3.自分の問題への無自覚

自己愛性パーソナリティ障害の方は、自分から悩んで受診することはありません。ほとんどが、うつや不安など他の悩みで受診します。

パーソナリティ障害の「障害」とは、本来2つの意味を持っています。

1つ目は、本人にとっての障害です。

その傾向があることによって、仕事が続けられない、人間関係が上手くいかない、日常の中で苦痛を感じる場面が多いなど、生活に支障が出ている状態を「障害」と呼びます。

2つ目は、周囲にとっての障害です。

上司や家族や友人、地域や何かのコミュニティの中に不安定な態度の人がいれば、周囲も巻き込まれて苦痛な思いをしなければならないことがあります。もしも本人が自分の傾向に問題意識を持っていなくても、周囲がなんらかの不自由を感じさせられているのなら、それは「障害」にあたります。

 

自己愛性パーソナリティ障害の人の場合、たいていは自他ともに苦しい状態になっています。しかし、本人には問題意識がないのが普通です。自分の性格傾向に問題があるかもしれない、自分がひどい劣等感に苦しんでいるなどといった事実と直面することが耐えられないからです。だから問題をすり替え、悪いのは周囲や社会という認識になってしまいがちです。

このため、自ら治療機関を訪れることはあまりありません。うつや不眠など、別のことで精神科を受診した際に発覚するケースが多いのです。

 

4.自分が自己愛性パーソナリティ障害の特徴にあてはまると感じたら…

自覚ができるということは、治療の大きな一歩を踏み出したことになります。

さて、以上の特徴を読んで、「もしかしたら自分も…」と思ったとしたら、あなたには十分に回復の可能性があります。

重度の場合は、その認識自体がかなり困難だからです。パーソナリティ障害全体にいえることですが、自分自身が自分の性格傾向を理解し、周囲との折り合いを良くするために改善したい!と望むことが治療にはもっとも重要になってきます。

それを自覚できた時点で、治療の第一段階は成功といっても過言ではありません。

自己愛性パーソナリティ障害の治療には、じっくりとカウンセリングを重ねていく必要があります。カウンセリングを受けられる医療機関に受診をしましょう。

 

5.自己愛性パーソナリティ障害の方との付き合い方

距離を保ち、相手の言葉に動揺しないようにしましょう。困った時は、「相談」という形で病院に受診できることが多いです。

もしも、自分ではなく「もしかしたらあの人…」と思い当たることがあった場合はどうしたらいいのでしょうか。その人達の困った言動が「障害」だとしたら…本人も無意識化では苦しんでいるとしたら…

「治ってほしい」そう思うかもしれません。特にそれが家族や恋人ならば。自分の努力で相手を苦しみから救ってあげたい、理解者になってあげたい、そう感じるかもしれません。

しかし、自己愛性パーソナリティ障害は、他者からの働きかけが非常に難しいとされています。本人は、おそらく心の奥底では苦しんでいて、何とかしたいという気持ちは隠れているはずなのですが、いくら他者が手を差しのべようとしても、彼らはそれを受け取ることができません。

孤独な自分に気付かないように、弱い自分が露出しないように、無意識に脳がシャットアウトしてしまう障害だからです。下手に問題に直面させようとすれば、とんでもない怒りをまねいて攻撃的になるおそれがあります。

①距離を保つ

周囲に自己愛性パーソナリティ障害の傾向を持つ人がいるときは、自分自身がそれに巻き込まれて精神的ダメージを受けないように、ある程度の距離を保つようにしましょう。

こちらから積極的に相手の問題を指摘すると、事態が混乱するおそれがあります。

もしも、その人がうつや不眠の症状があるのなら、それを楽にするためにといって精神科の受診をすすめる程度はいいかもしれません。ただ、「あなたは病気だから」「治療をしてほしい」のように言うのは避け、先に専門家のアドバイスを聞きに受診された方がよいです。「相談」という形で、病院に受診できることが多いです。

その場合でも1人で抱え込まず、周囲の人と協力態勢をとってください。

もしも、そこから離れられる環境にあるなら、完全に距離を置いてしまうのも1つの手です。自己愛性パーソナリティ障害の人に深入りするのは並みの精神力では難しく、相当な覚悟が必要です。自分自身がつぶれてしまうかもと感じたときには、相手を刺激しないようにそっと距離を置きましょう。

それができない状況ならば、つかず離れず、下手にも上手にもならずに受け流していくことです。相手を変えようとするより、自分自身が上手く付き合える方法を身につける方が得策です。

②相手の言動に動揺しない

彼らがあなたの人格否定をするような発言をしても、それは彼ら自身の心の問題から発していることで、実際のあなた自身に問題があるわけではありません。

下手になってオドオドすると、かえって相手の攻撃欲を刺激することがあります。反対に、こちらが威圧的になると、さらなる反発をかう恐れがあります。

 

6.周囲が自己愛性パーソナリティ障害の特徴を理解することの意味

あなたは、あなた自身を一番に尊重することが大切です。結局はそれが、本人に問題を自覚させていくことにつながります。

健常な自己愛を持っている人には理解しがたいですが、自分自身を愛せない、虚栄を張り続けなければ生きられないというのは、実はとんでもなく辛いことです。

他者を尊重できないということは、いくら周りに人がいても心の触れ合いはなく、感謝や尊敬や情愛の念を抱くことができないのです。そして自分自身に対しても、そういう感情が持てません。その孤独は想像を絶するものです。

周囲に自己愛性パーソナリティ障害の人がいて避けることができず、その言動に心が折れそうになった場合は、少し相手の心情を考えてみてください。相手は無自覚のまま、どうにもならない孤独の中にいて、あなたを攻撃することで自分を保とうとしているだけです。そう思えば、言動を受け流すことも少しはしやすくなるかもしれません。

 

同情心などを見せると逆効果ですし、相手が気の毒だからと無理な要求に従う必要は一切ありません。自分が相手の理解者になりたいという思いを持っても、それはなかなか相手には届きません。

ただ、理解をすることで、あなた自身が相手の言動に振り回されにくくなること、不必要な摩擦を避けること、冷静な対処がしやすくなることを目的としてください。あなたは、あなた自身を一番に尊重することが大切です。

周囲が自己愛性パーソナリティ障害の特徴を理解し、相手に巻き込まれないように心がけること。自分の手に負えないと感じたときは、冷静に距離を置く選択も視野に入れること。相手を変えようとするのではなく、自分自身がどう付き合うかの手段を考えること。

結局はそれが、本人に問題を自覚させ、改善したいという気持ちを引きだす可能性につながっていくのではないかと思います。

 

まとめ

以上、自己愛性パーソナリティ障害について、その特徴を簡単にまとめました。

パーソナリティ障害は個人差が大きく、ここに書かれていることがあてはまらないケースもあるかもしれませんし、原因や対策などについても様々な説があります。

あくまで、1つの参考としてください。気になることがあった場合は抱え込まず、専門家に相談してください。

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