演技性パーソナリティ障害の特徴と原因

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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派手な出で立ち、オーバーな言動、状況に関わらず、とにかく人目を引きたがることでトラブルもおきやすい演技性パーソナリティ障害。

正面に見えている華やかさとは裏腹に、内面は非常に不安定と言われ、そのギャップに苦しむことも多くなってしまいます。周囲の人ともトラブルとなってしまい、安定した人間関係が築けないことも少なくありません。仕事やプライベートで居場所が失われていくなど、社会生活にも支障がでてしまうのが演技性パーソナリティ障害です。

そんな演技性パーソナリティ障害の特徴とは、どのようなものでしょうか?
どのような原因でおこっていると考えられているのでしょうか?

ここでは、演技性パーソナリティ障害の特徴と原因について詳しくお伝えしていきます。

 

1.演技性パーソナリティ障害の特徴

演技性パーソナリティ障害は、過度な情動性と人の注意を引こうとするパーソナリティ傾向を特徴とする病気です。

まず初めに、演技性パーソナリティ障害の人の具体的な特徴を見ていきましょう。

  • とにかく人目を引きたがる

演技性パーソナリティ障害のもっとも重要な特徴は、とにかく人目を引きたがるということです。派手な格好や言動は、それに基づいておこっていると言えます。

目立ちたがりな人はどこにでもいるものですが、演技性パーソナリティ障害の方は、その程度が半端ではありません。

ある特定の場面ではなく、日常的に、常に人目を集めていないと不安感があり、自分が望む通りの反応が得られないときには、激しいイライラを爆発させることもあります。

  • 外見や性的魅力への強いこだわり

 人目を引く手段は様々ですが、演技性パーソナリティ障害の方では、自分の外見や性的魅力に強くこだわり、派手でセクシーな出で立ちのことが多いです。

とくに女性で目立ちますが、男性の場合もまるで芸能人かのような出で立ちになっていることがあります。

周囲に自分の注意を引き付けるために、自分の容姿を印象付けることに熱心で、衣服や身づくろいのために過剰なほどの時間と労力、費用をかけます。

  • 芝居がかったオーバーアクション

「演技性」という言葉通り、全体的に芝居がかって大げさな身ぶり手ぶりが目立ちます。

同じ演技であっても、本気で人をだまそうとする詐欺師などの巧妙な演技と違い、一目見て「芝居くさい」印象を与えるのが特徴です。

過剰に感情表現をして、まわりの友人などを戸惑わせることもあります。例えば、些細な出来事に涙を流し、癇癪をおこしたりします。ちょっとした知り合いなのにも関わらず、過度に情熱的に抱擁をしたりします。

しかしながらこういった感情表出は表面的で、コロッと変わってしまいます。周りから見ると、芝居をしているように見えることすらあります。

  • 内容の無い話し方

演技性パーソナリティ障害の方は、人に関心を持ってもらおうと、積極的に話すことも多くなります。

しかしその内容が浅く、具体性に欠けます。感情表現は「私はすごく悲しかった」などオーバーなのですが、その根拠などがあいまいであったりします。

過剰に印象的な話しぶりなのですが、内容や根拠のなさが目立ちます。

  • 人や環境に強く影響されやすい

演技性パーソナリティの方は、周囲にいる注目を集める人物や何かのストーリー、場の雰囲気などに飲まれやすく、自分の意見や感情もそれに左右されてコロコロと変わる傾向があります。

カリスマ性のある人物に影響され、すぐ暗示にかかってしまう場合もあります。

 

2.演技性パーソナリティ障害の心理背景

演技性パーソナリティ障害の方は、一見すると自信に満ちているように見えるかもしれません。しかしながら自分がよくわからず、内面の充実感が得られていないことも多いです。

これまでご紹介したような特徴が認められますが、どのような心理背景によっておこっているのでしょうか。演技性パーソナリティ障害の患者さんの心理状態についてお伝えしていきたいと思います。

①「自分」というものがよくわからない

とにかく注目を集めたがり、派手なアピールをくり返す…そのわりに、話や感情表現に内容がともなわない…

それはつまり、「自分がわからない」状態です。自分で自分の感情がわからず、価値や生きがいを自分自身で見出すことができず、人から注目されていないと自分の存在価値を見出せないのです。

1人でも安定して充実した時間を過ごすためには、自分自身が「自分」というものを理解している必要があります。そして自分はそのままでよいという自己肯定感が大切になります。

そのうえで、自分は何を楽しいと思うか、いま何がしたいか、どういうものにやりがいを見出せるかが生まれてきます。仕事や生活や人間関係における役割や目標など、自分の内面を知っていれば、自分自身の力でその充実をはかることができます。

ですが演技性パーソナリティ障害の方は、自分自身の情感や生きる目標、価値や役割などがよくわからず、その不安や虚しさを埋めるため、必死で人目を引こうとすると言われています。

他人との関係性の中でしか自分のアイデンティティーが見いだせないため、他人に嫌われないようにするために自分自身の本当の欲求や感情を無視してしまいます。

②内面の充実を得られない

演技的な振る舞いは人目を引く目的以外に、まるで自分が女優になったかのような陶酔におちいり、つくったストーリーをなぞることで、自分自身を一生懸命ふるい立たそうとしているとも考えられます。

自分というものがわからず、内面の充実が得られない分、そのようなことで高揚感を求める傾向が強くなってしまいがちです。

しかし、内容がともなっていないため表現も行動も情感はともなわず、高揚感は一時的な浅いものとなり、真の喜びは得られません。それゆえ、虚しさはかえって深まってしまいます。突然に虚無感に襲われる方が多いです。

そんなとき、再び高揚感を得るために一番手っ取り早いのは、外見や性的魅力によって異性に訴えかけるということです。また同性に対しても、「まるでモデルさんみたい…」と羨望のまなざしを向けてほしいと願う傾向があります。

演技性パーソナリティ障害の方の場合、とにかく何でもいいから人目を引きたいというのとも違って、自分が価値ある人間、みんなから憧れられるような魅力ある人間でありたい、それによって充実感や高揚感を味わいたいという欲求が強い傾向にあります。

③自分という存在への無価値感

演技性パーソナリティ障害の方が人目を引こうとしたり、魅惑的な自分を演出しようとする根本には、「そうでないと私には何の価値もない。誰からも必要とされない」という、悲しく不安な心理が隠れているともとれます。

その不安から外面を派手に演出し、素敵だと思える人物に成り代わり、好きでもない相手に性的に求めたがるということにもつながっていきます。

自分という存在への無価値感は、生きていく気力が無くなるほど苦しく寂しいものです。それに基づいた「人目を引きたい」という欲求は、単純な目立ちたがりとはわけが違い、そのためには手段も選ばないほど必死の欲求となります。

このように自分の無価値観や虚無感が認められることもありますが、自分自身の内面に対して関心が薄い方もいます。

④ストレス耐性の低さ

人の気を引きたい、モテたい、周囲から羨望のまなざしで見られたいという欲求があったとしても、通常それが生活に支障を及ぼすことはありません。

そうなれないことに不満は感じても、あきらめて他ごとに関心を切り替え、自分をおさめていきます。

しかし、演技性パーソナリティ障害の方においては、演技的な態度をとることで相手の気持ちを操ろうとします。それはつまり、自分のストレスを内面で対処することができないというストレス対処法の未熟さになります。

このように演技性パーソナリティ障害の方は、自分の欲求が満たされないというストレスへの耐性が弱く、手に入らないとなると子どものような癇癪をおこしてしまうこともあります。

本来、年齢とともに成長していくはずのストレス耐性が上手く育たず、子どものような不安定さのまま大人になってしまった状態ともいえます。

 

3.演技性パーソナリティ障害の原因

演技性パーソナリティ障害は、遺伝的な気質に加えて養育環境を含めた成長の過程で形作られた認知的スキーマが原因となります。

以上のような心理状態がなぜおこってしまうか。その原因については様々な考え方があり、おそらく1つに限定されるものではないと思います。

患者さん1人1人にそれぞれの要因があり、複数の何かが絡み合って発症すると思われます。とはいえ、多くの患者さんに共通して見られる傾向から、推測される原因について考えていきたいと思います。

人はそれぞれ、生まれながらの気質があります。そしてその後の養育環境や人生経験の中で、性格として形作られていきます。

同じような環境や経験の下で育って、それがどのような形で表に現れてくるかには個人差がありますので、気質との関わりは無視できない要因と思われます。不安になりやすく、行動を抑えてリスクを好まない生まれ持っての性格傾向などが関係しているとみられます。

また、おかれている環境や様々な経験の中で、物事を判断するときのモノサシ(認知的スキーマ)が形成されていきます。

演技性パーソナリティ障害の方は、

  • 全か無か思考(二分法思考)
  • 過度な一般化
  • 感情的な決めつけ

といった認知のパターンが強い傾向にあります。演技性パーソナリティ障害の方は、じっくりと一つのことを考えたり、理屈で考えていくことが苦手です。その場の感情によって、場当たり的な判断をしてしまいがちです。

こういった認知のパターンは、親の養育の仕方や価値観も大きな影響があります。

  • 親からの注目を得られなかった
  • 親が「親」としてより「男女」の部分が強かった
  • 両親どちらかの異性問題を目の当たりにして育った
  • 外見的に華やかな誰かと比較され続けて育った

こいういった外見的魅力や性的魅力が大きな存在感を持つようになる養育環境、その後の経験が影響していきます。自分が他人からどのように見られているのかという観点のみでした自分のアイデンティティを見つけられず、自分自身の内面に目を向けられない認知パターンが出来上がってしまいます。

このように演技性パーソナリティ障害は、遺伝的な気質に加えて養育環境を含めた成長の過程で形作られた認知的スキーマが原因となります。このためストレスに対する対処がうまくできず、未熟な防衛機制をとりがちになってしまいます。

 

まとめ

演技性パーソナリティ障害の特徴と原因についてご紹介しました。

その外観や言動とは裏腹な虚しさや孤独を抱えるため、患者さん自身の苦痛も大きく、周囲からの誤解を招きやすいパーソナリティ障害です。

派手な出で立ちや言動、人目を引きたがる性質、セックスアピールの強さ自体は、上手く生かせば芸能のジャンルなどでは必要な要素ともなります。

内面が充実していて、生活している世界に合っているのなら、多少常識外れでも、とても魅力的な人物とも言えます。ただ、内面の充実がともなわず、内外のギャップが開いてしまった場合には、生活や人間関係や精神状態に様々なトラブルをおこす要因となってしまう危険があるとされています。

外から見た外見や言動、人間関係や人生が華やかだったとしても…それが「演技」だったのだとしたら、その人自身にとって、それほど苦しいことはないのかもしれません。

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