自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)の原因とは?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
他者への共感を持たず、ごうまんな言葉や態度が目立つ自己愛性パーソナリティ障害。その裏側には、極端な自信のなさが隠れていると言われています。
なぜそのような不安定な心理状態になってしまうのか、その原因についてはいくつかの説があります。どの説が正しいということではなく、人それぞれによって関わる要素も違い1つにはしぼれないのでしょう。
今回は、自己愛性パーソナリティ障害(自己愛性人格障害)の発症する原因について、考えていきたいと思います。
1.自己愛性パーソナリティ障害とは?
自己愛性パーソナリティ障害は、健全な自己愛が育っていない病気です。
自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己愛が未熟で等身大の自分を愛せないと言われています。そのため作り上げた偉大な自分のイメージを信じこみ、現実の自分からは目を背けようとしてしまいます。
しかし、ある程度の年齢までは誰しもそんな傾向があります。子供の頃、ヒーローごっこやお姫様ごっこをしたり、自分には特別な能力や才能があると信じ込んでいたりするのは特にめずらしいことではありませんよね。
しかし、成長とともに現実の自分を受け入れられるようになり、特別ではないあるがままの自分でも価値があるという健全な自己愛の感覚が育っていきます。
ところが、様々な要因によってその成長が妨げられると、自分の現実の姿に直面することが耐えられず、いつまでも幻想の自分を追い続けてしまう状態になってしまうことがあります。自己愛性パーソナリティ障害は、幼い子供の感覚のまま大人になってしまった自己愛の病ともいえるのです。
こうして等身大の自分を愛せず、他人を鏡にして理想の自分を映し出しているのが自己愛性パーソナリティ障害です。
2.自己愛性パーソナリティ障害の原因は遺伝か?
生まれもっての性格傾向である気質は、遺伝的な要素も認められます。このような性格傾向と育っていく環境によって、性格の偏りが固まっていきます。
それでは、自己愛性パーソナリティ障害の原因を考えていきましょう。
「カエルの子はカエル」ということわざの通り、自己愛性パーソナリティ障害は遺伝するものでしょうか?まずはこの問いから考えていきましょう。
パーソナリティ障害に共通して言えることですが、その発症には生まれ持った性格傾向と環境の組み合わせが関わると言われています。そして性格傾向には、一定の遺伝要因はあります。
うまれもっての性格傾向を気質といいますが、親の気質は子供に受け継がれる部分があります。そういう意味では、自己愛性パーソナリティ障害になりやすい気質を受け継いでいる部分はあるでしょう。
しかしながら、そのような性格傾向の人がみな自己愛性パーソナリティ障害になるかというと、そんなことはありません。育っていく環境との関わりの中で、性格が形成されていくのです。
環境とのかかわりが原因となるといっても、「こういう家庭だからパーソナリティ障害の原因になる」ということではありません。本人の性格傾向と環境の相性の問題になります。同じ家庭環境で育った兄弟でも、二人とも自己愛性パーソナリティ障害を発症するとは限りません。
例えば、生まれつき繊細で敏感な子供は親からの影響ばかりでなく、もっと広い社会やテレビなどからも様々なものを感じとる場合があります。そのようなケースだと、いくら親が愛情深く理想的な接し方をしたとしても、パーソナリティ障害が発症する可能性はあります。
現代は、幼いころからたくさんの情報に触れる機会があります。容姿が優れていたり特別な才能があったりする子供がもてはやされるテレビ番組や広告の影響、ネットで自己発信をする人が増え、「自分が人からどう評価されるか」「注目をされることが優れている」という意識の強くなった社会傾向の影響なども、自己愛性パーソナリティ障害の増加を後押ししている社会背景になっているかもしれません。
ただ、自己愛性パーソナリティ障害の場合、親自身が自己愛に問題を抱えている、過度な甘やかしや期待や否定があったりするなど、偏った成育環境の影響が比較的大きいと言われています。
3.自己愛性パーソナリティ障害になりやすい性格傾向
負けず嫌いで他人の評価を気にし、過敏で傷つきやすいです。人に弱みを見せられない人も多いです。
元々の性格傾向に様々な環境要因がからむことで、自己愛性パーソナリティ障害はより発症しやすくなります。自己愛性パーソナリティ障害になりやすい性格傾向についてみていきましょう。
自己愛性パーソナリティ障害の患者さんの病前性格(病気になる前の性格)を聞いていくと、以下のような特徴がみえてきます。
- 負けず嫌い
- 他人の評価を気にする
- 傷つきやすい
- 過敏
- 人に弱みを見せられない
自己愛性パーソナリティ障害になりやすい性格傾向として第一は、負けず嫌いがあげられます。人と競争し自分を向上させようとすることが悪いわけではなく、プラスに向かえばモチベーションになります。
パーソナリティ障害全般に言えることですが、どのような性格傾向も、基本的にはそれ自体が悪いわけではありません。上手く生かせば長所になる可能性のあるものが、成育環境の影響などでマイナス方向へ肥大し、本人や周囲に支障をおよぼす結果になってしまっているだけです。
他人の評価を気にするのも同じで、そのような意識は自分を高める力とも言えます。しかしながら自己愛性パーソナリティ障害の人は、自己意識が高い一方で傷つきやすく、繊細な一面を持っていることが多いのです。
理想の自分と現実の自分のギャップを直視することが耐えられず、妄想の自己イメージを信じ他者を批判することで、自分の心を守ろうとします。
また、自分の弱さを他者に見せられない人がなりやすいとも言われており、自己愛性パーソナリティ障害は、プライドの高い男性に多く見られます。このような性格傾向なので、社会的に成功している人も少なくありません。
4.自己愛性パーソナリティ障害になりやすい環境要因
同じ自己愛性パーソナリティ障害でも家庭環境は様々で、障害の原因が必ずしも親や家庭にあるとは限りません。
しかし、「自己愛性パーソナリティ障害が発症しやすい環境」というのはいくつかあげられています。また家庭だけではなく、学校でのいじめや教師の偏った対応が原因となるケースもあるといわれています。
①親も未熟で不安定な自己愛を抱えている
親が不安定な心理状態だと、子供もその影響を受けます。親自身が自己愛性パーソナリティ障害の傾向がある場合、子供を別の人格として尊重できず、自分の優秀さをアピールする道具のような扱いになってしまうことがあります。
周囲に自慢できる要素を持っている子供は大切にしますが、そうでなければ「こんな子は自分の子ではない」という態度をとったり、兄弟間に扱いの差がでたりして、子供の健全な自己愛の成長を妨げる原因になる恐れがあります。
また反対に、子供が自分のパートナーや周囲の大人にチヤホヤされることに強く嫉妬し、子供に辛くあたるケースもあります。子供は自分の何が悪くて怒られているのかがわからず、自己愛に深く傷を負うことも考えられます。
②親や親族にとことん甘やかされる環境
親からの不安定な態度が子供の自己愛を傷つける可能性がありますが、周囲の大人にとことん甘やかされる環境も、肥大した自己愛をつくりだす原因となることがあります。
あるがままの自分が受け入れられることと、悪いことをしても怒られないこととは違います。健全な自己愛が育つためには、自分のいい部分と同じように弱い部分や未熟な部分も認め、改善すべき点は努力する姿勢のもとに成り立ちます。
自分の言動を反省し、誰かに迷惑をかければ素直に謝る、そのようなことをくり返しながら人は大人になっていきます。
しかし、子供の頃から何をしても怒られずひたすらほめられ、わがままがすべて通るような環境に育つと、学びの機会が失われてしまいます。その状態で社会生活が始まり初めて自分の意に沿わない場面や他者の対応に出会うと、「相手が悪い」という認識になってしまう可能性があります。
そして親や親族が同調して「あなたではなく相手が悪い」という姿勢をとれば、ますます歪んで肥大した自己愛が増長してしまいます。
ごうまんで他者に共感を持たない態度はさらに社会との溝を深め、孤立感が増す分だけよけいに強い自己アピールをして称賛を求める悪循環におちいってしまいます。
③特別な存在であることを常に求められ続けられる環境
親や親族が世間からもてはやされるような何か(特別な能力・美貌・名声・財力など)を持っている場合、子供も同じような存在でなければいけない強いプレッシャーがかかることがあります。
実際にその子が特別な何かを持っていれば良いのですが、とくに目立ったものが無かったとき、無理に特別な自分を演じ続けなければいけない状態に追い込まれてしまう可能性があります。
本来の自分を否定し常にコンプレックスに追われ、そういう弱さが露出しないようにごうまんな態度をとって他者を批判し自分を保つ…自己愛性パーソナリティ障害の人の中にはそのような心理背景を持つ人もいます。
④等身大の自分を否定され続ける環境
家庭内で常に否定的な言葉をかけられていたり、学校でいじめを受けたり、等身大の自分を否定され続ける環境があると、自己愛が傷を負ってしまいます。
そのときどのようにして自分を守るかは個人差があり、もともとの性格傾向や他の環境によっても違います。その中の1つとして、周囲には卑屈な態度をとりながら、自分の心の内では偉大な自己像をつくりあげ、自己愛がそれ以上傷つくことを避けようとする方法があります。
自己愛性パーソナリティ障害の中でも、表面にはごうまんな態度が見えず、心の内に秘めた偉大な自己イメージが傷つかないよう対人を避けるタイプがありますが、そのタイプの人に多い心理背景とされています。
まとめ
自分や周囲の人がなぜパーソナリティ障害を発症したか、その原因を探る目的は犯人探しとは違います。原因を知り、現在おきている問題を客観的に眺め、現実の解決策を探すヒントにするためです。
親や周囲の言動が発症に影響していたとしても、それを責めたり、反対に自分の接し方が悪かったのだと罪悪感を持ったりしても何も解決はしません。ただ、その部分にわだかまりがあって前に進めないのだとしたら、話し合いが有効な場合もあります。
いずれにしてもそのようなときには、パーソナリティ障害の知識のある専門家のアドバイスが必要になります。思い当たる原因やそれによって現在も苦しい状態が続いていると自覚したときは、専門家に相談してみましょう。
パーソナリティ障害の治療は非常に難しく、お薬だけでは根本的な解決になりません。臨床心理士と連携している経験の豊富な先生のもと、相談していくようにしましょう。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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