演技性パーソナリティ障害の診断基準と診断の実際
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
演技性パーソナリティ障害(演技性人格障害)とは、周囲からの注目を過度に欲しがるために、日常生活に支障が出てしまう病気です。
人の関心を惹きたいがために、日常生活で目立つ行動をしたり、嘘をついたりしてしまうことで人間関係を損なってしまうことが多いです。派手な格好や誘惑的な態度、分不相応の華やかな生活で周囲に自分をアピールしたり、おおげさで芝居がかった感情表現をしたりするのが特徴です。
内面の空虚さを補うための行動とも言われていて、派手な外面とのギャップに苦しんでいることも多いです。実際にトラブルになってしまうことで、社会生活がうまくいかなくなっていきます。思った通りの関心が得られずに強い苦痛を感じ、抑うつ状態に陥ったり、アルコールや物質に依存したりしてしまいます。
適度なバランスが取れていれば単なる「目立ちたがり屋」で魅惑的な人、ということになりますが、極度になってくると演技性パーソナリティ障害となります。ここでは、演技性パーソナリティ障害の診断基準と、実際の診断の流れについてお伝えしていきます。
1.演技性パーソナリティ障害の診断基準
演技性パーソナリティ障害では、DSM-5とICD-10の2つの診断基準があります。
精神疾患を診断するにあたっては、国際的な診断基準に照らし合わせて行っていきます。まず、2つの国際的な診断基準であるDSM-5とICD-10をご紹介したいと思います。
DSM-5はアメリカ精神医学会が決めたもの、ICD-10は世界保健機構(WHO)が定めたものになります。内容や分類に多少の違いがありますが、公的な診断書などの正式な病名についてはICD-10が使われることが多いです。
それに対して、臨床では作成されたのが新しいDSM-5の診断基準のほうが使われることが多いです。新しい考え方が反映されているためです。
ここでは、2つの診断基準についてみていきましょう。
1-1.演技性パーソナリティ障害の診断基準(DSM-5)
過度な情動性と人の注意を引こうとする範囲の広い様式で、成人期早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち、5つ以上の特徴によって示される。
- 自分が注目の的になっていない状況では楽しくない
- 他者との交流は、しばしば不適切なほど性的に誘惑的な、または挑発的な行動によって特徴づけられる
- 浅薄ですばやく変化する情動表出を示す
- 自分への関心を引くために身体的外見を一貫して用いる
- 過度に印象的だが内容がない話し方をする
- 自己演劇化、芝居がかった態度、誇張した情動表現を示す
- 被暗示的(他人または環境の影響を受けやすい)
- 対人関係を実際以上に親密なものと思っている
(参考文献:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引 医学書院)
1-2.演技性パーソナリティ障害の診断基準(ICD-10)
以下によって特徴づけられるパーソナリティ障害
- 自己の演技化、芝居がかった態度、感情の誇張表出
- 他人や周囲から容易に影響を受ける被暗示性
- 浅く不安定な情緒
- 自分が注目を浴びる行為、興奮を得られる行為を持続的に追い求める
- 不適切に誘惑的な外見や行動をとる
- 自分の身体的な魅力に過度な関心を持つ
(参考文献:ICD-10 精神および行動の障害 臨床記述と診断ガイドライン 医学書院)
2.診断基準での演技性パーソナリティ障害診断のポイント
2つの診断基準は、おおむね共通しています。自分が注目されたいという過度なこだわりがあり、そのために周囲を振り回そうとしてしまいます。
まずはじめに2つの診断基準(DSM-5とICD-10)をご紹介しました。この2つの診断基準を比べてみると、表現の違いはあるものの、ほぼ同じことを言っています。
ここから、演技性パーソナリティ障害を診断するポイントをみていきましょう。
①自分が注目されるということに対する過度なこだわり
- 「自分が注目の的になっていない状況では楽しくない(DSM-5)」
- 「自分が注目を浴びる行為、興奮を得られる行為を持続的に追い求める(ICD-10)」
この2つは、演技性パーソナリティ障害のもっとも大きな特徴と言えます。「自分が注目の的になっていない状況では楽しくない」という感情は、ある程度のレベルなら、わりに多くの人が持つのではないかと思います。
注目を浴びるのが好き、目立ちたい。そんな人はたくさんいますよね。その感情自体には、何の問題もありません。ただ、演技性パーソナリティ障害の人においては、「面白くない」のレベルが通常の範囲でおさまらないのです。
「自分が注目を浴びる行為、興奮を得られる行為を持続的に追い求める」の中では、「持続的に」というのがポイントです。
注目されなくてつまらない…そういう感情があったとしても、多くの場合その感情は流れ、そこの場になじんでいきます。それに、注目されたいシーンは限定されている場合が普通です。
けれど演技性パーソナリティ障害の人は、「自分が注目を浴びる」ことにだけ重点をおき、日常の幅広い場面でそれを追い求めてしまいます。そのため、注目をされていないときには強い不満やストレスを抱え、目標が達成されないときにはイライラを爆発させたり、派手な言動をエスカレートさせたりします。時には自殺をほのめかすこともあります。
日常的にそのような状態にあれば、本人も周囲も精神的に疲れてしまい、その言動によって周囲が振り回され、何らかのトラブルに発展してしまうことが多いのです。
②派手だが内容のない話や振る舞い
- 「自己演劇化、芝居がかった態度、誇張した情動表現を示す(DSM-5)」
- 「自己の演技化、芝居がかった態度、感情の誇張表出(ICD-10)」
この2つはほぼ同じ表現です。演技性パーソナリティ障害の人の特徴的な言動として、妙に芝居がかった感じ、大げさな身ぶりや感情表現があります。
周囲の注目を引きたいがため、また、自分自身もそれによって精神を高ぶらせてしまいます。しかしその言動は内容が薄く、浅いものにとどまります。
「浅薄ですばやく変化する情動表出を示す(DSM-5)」「過度に印象的だが内容がない話し方をする(DSM-5)」「浅く不安定な情緒(ICD-10)」
これらの項目に、その特徴が示されています。
演技性パーソナリティ障害の人は、内面から発する自身の感情によって動いているわけではなく、周囲からの注目を浴びるため、自分自身がそこに陶酔するためという目的で自分の行動をつくりあげているだけです。
実際には自分自身の感情が薄く、何を感じているのかよくわかっていない状態にあるため、内容が非常に薄くなってしまいます。その薄っぺらさを補うため、ますます言動は派手に、演技がかったものになってしまいます。
③周囲からの影響を受けやすい
- 「被暗示的(他人または環境の影響を受けやすい)(DSM-5)」
- 「他人や周囲から容易に影響を受ける被暗示性(ICD-10)」
この2つも同じ内容です。「被暗示性」とは、自分というものが不安定で、他人や周囲からの影響をすぐに受け、感情や言動がコロコロ変わってしまうような状態です。
特に権威ある人に対して軽率に信じ込みやすく、その時の流行などにも左右されやすいです。自分自身のカンに従って行動しやすく、容易に確信をもってしまったりします。
ですから長期の人間関係や仕事などが続かない傾向があり、目新しいものや刺激や興奮を求めて、目先の満足を得ようとします。このため安定した人間関係が築けず、初めは熱狂していた仕事もすぐに飽きてしまいます。
こういった暗示の受けやさと持続性のなさは、演技性パーソナリティ障害の人にはよく見られる傾向です。
④外見や性的魅力へのとらわれ
- 「他者との交流は、しばしば不適切なほど性的に誘惑的な、または挑発的な行動によって特徴づけられる(DSM-5)」
- 「自分への関心を引くために身体的外見を一貫して用いる(DSM-5)」
- 「不適切に誘惑的な外見や行動をとる(ICD-10)」
- 「自分の身体的な魅力に過度な関心を持つ(ICD-10)」
演技性パーソナリティ障害の人においては、周囲からの関心を引く手段として、自分の外見、とくに性的魅力をアピールしようとする傾向が強いです。異性から求められることで、自分の存在価値を確かめようとしてしまいます。
恋愛の手段として外見や性的魅力をアピールすることは、別に悪いことではありません。しかし演技性パーソナリティ障害の人の場合は、相手に好意があってやっているというより、自分の価値を確かめる手段としてアピールをするので、多くのトラブルに発展しやすいのです。
仕事場や公的な場、既婚者に対してそのような態度が見られることもあり、人間関係全体に及びがちで、本人にも周囲にもいい結果を招きません。
3.演技性パーソナリティ障害を診断するために
社会生活や日常生活に支障が生じており、一時的ではなく生活の全般に及んでいる必要があります。典型的な演技性パーソナリティの特徴がある方は少なく、いろいろな要素が混じっているため、本質的な特徴を見極めるまで時間がかかることも多いです。
実際の診断では、上記のような特徴に加え、成育環境や現在の状況なども聞き取り、慎重に診断を行います。パーソナリティ障害と診断するためには、大きく2つのことが重要です。
- 社会生活や日常生活で支障が生じていること
- 一時的なものではなく、生活の全般に及ぶこと
演技的なパーソナリティ傾向がある方は、世の中に少なくありません。魅力的な振る舞いや人の注目を浴びるのが好きという性格傾向は、芸能界やサービス業などにおいてはとても大切な要素でもあります。
しかしながら演技性パーソナリティ障害では、その程度が行き過ぎてしまって生活に支障が生じてしまいます。多くの場合、本人の周りの人が悩まされます。人間関係がうまくいかなくなることで、本人も悩みやストレスをかかえます。しかしながら自分の内面に向き合うことができないまま、傷ついていくことが多いです。
また、似たような特徴をしめす他の疾患との判別も必要となります。演技性パーソナリティ障害と診断するためには、性格として特徴が固定されている必要があります。ですから一時的に生じているわけではなく、生活の全般で特徴が認められる必要があります。
例えば彼氏に振られてしまって不安が高まっているときに、一時的に周囲に演技的になってしまうこともあります。そういった場合はパーソナリティとして固まっているとはいえず、一時的な状態になります。
また、パーソナリティ障害は特徴がばっちりとあてはまる人は少なく、いろいろな要素が絡み合っています。演技性パーソナリティ障害と診断されるためには、その特徴がパーソナリティの本質と考えられるときです。
特徴だけをお伝えすると簡単に見えるかもしれませんが、実際にその人の性格の本質を見抜くのは難しいです。いきなり初診の時に診断することは難しく、時間をかけて診察を重ねていくことで少しずつ見えてくることも多いです。様々な合併症が認められることがあるので、その治療をしていく中で少しずつ本質がみえてくることが多いです。
4.演技性パーソナリティ障害と判別が必要な疾患
さまざまなパーソナリティ障害の特徴が混じっていることが多いです。
演技性パーソナリティ障害と紛らわしい、または、併発しやすい疾患はいくつかあります。それらを少しずつ見極めていくことで、演技性パーソナリティ障害を診断していきます。本質的な治療をしていくためには、正しく診断していく必要があります。
①境界性パーソナリティ障害
激しく変化する不安定な感情、大げさな言動で周囲の気を引こうとする傾向が目立ちます。この点は一見すると、演技性パーソナリティ障害とわからないことも多いです。
ただ、基本的には自分と密接なつながりのある特定の家族や恋人、友人に対してそのような言動がおこり、自傷行為や過食嘔吐など、演技的振る舞いより強い手段に訴える場合が多いです。自殺願望を口にし、実際に行動へ移すこともめずらしくありません。
しっかりとした自分をもてずに、どう生きたらよいかわからなくなっています。人にはいい面も悪い面もありますが、それを合わせて考えるができずに極端に揺れ動いてしまいます。ですから、親密な関係性なのに怒りが爆発したりします。
慢性的な空虚感から漠然とした希死念慮がある方も少なくなく、演技性パーソナリティ障害の方に比べて自傷行為なども多いです。
若い女性に多く、演技性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害の両面を合わせ持っている人も多いです。
②反社会性パーソナリティ障害
反社会性パーソナリティ障害の方も、衝動的で誘惑的であることがありますが、その根底にある特徴が異なります。反社会性パーソナリティ障害では、利益や権力などの満足を得るために操作的なのであって、演技性パーソナリティ障害のように他人からの注目を浴びるためではありません。
演技性パーソナリティ障害の方が情動をより誇示する傾向にあり、反社会的な行動には関わりません。
③依存性パーソナリティ障害
他者に強く依存し、自分というものを持たず、人間関係では常に保護を求めるような傾向が目立ちます。演技性パーソナリティ障害の方も、相手に見捨てられたくないという思いなどで依存している部分もあります。
ですが、演技性パーソナリティ障害の人のような大げさな感情表現や派手な振る舞いは見られません。
④自己愛性パーソナリティ障害
自己愛性パーソナリティ障害とは、傷つきやすい自己を守るために、偉大な自分を信じ込んでいる特徴があります。健全な自己愛が育たないゆえに、相手に完璧な自分を求めてしまうことが根底にあるといわれています。
自分の非を認めず、周りの評価に対しては過敏で良い評価を常に求め、自分が優先されるべきと思っています。他者には共感ができず、おもいやることができません。
相手に対して誇大にふるまうことはありますが、「相手の注目を浴びたい」という思いよりは、「相手の注目されて当然」という思いが本質です。
演技性パーソナリティ障害では、注意をひけるのであれば、自分が依存的や傷つきやすいと思われることも厭いません。自己愛性パーソナリティ障害では、そのように思われることは許せません。
⑤身体化障害
身体化障害とは、医学上は異常の見られない様々な身体的不調をくり返し訴え続ける病気です。
相手の理解が得られないと強い不満を抱き、イライラを爆発させることもあります。その心理背景には、自分に注意を向けてほしい、自分の苦しみをわかってほしいという疾病利得が隠れているといわれています。
しかしながら、訴えている身体的不調そのものは演技ではなく、実際の苦痛を感じています。演技性パーソナリティ障害の患者さんでは、こういった身体化障害が合併していることが多いです。
演技性パーソナリティ障害では、無意識でも病気であるということの利得に振り回されてしまいます。
⑥転換性障害
手や脚が動かなくなったり話せなくなるなど、本来の機能が失われてしまうといった症状が認められることがあります。しかしながら医学的には異常が見られず、心理的な原因と思われる場合に転換性障害と診断されます。
検査で異常がないために、その状態が演技(詐病)ではないかと疑われる場合もありますが、そういうわけではありません。
身体化障害と同様で、疾病利得が背後にあるといわれています。ストレスから自分を守るために、無意識に症状となってしまいます。
転換性障害も、演技性パーソナリティ障害の患者さんに合併することが多いです。
まとめ
演技性パーソナリティ障害の診断基準と、診断の実際をご紹介しました。
精神疾患、とくにパーソナリティ障害はその境目があいまいで、複数のものが重なって発症していたり、何かの疾患の2次的なものとしておこっていたりするケースも多くあります。
自分で判断するのは困難なので、何かの支障や苦痛を感じているときには専門家に相談するようにしましょう。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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