境界性パーソナリティ障害(境界性人格障害)をチェック!

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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極端に不安定な感情や対人関係と、依存した人から「見捨てられる」ことへの強烈な不安を特徴とする境界性パーソナリティ障害。若い女性に多く見られます。

ボーダーラインとも呼ばれ、自傷行為や激しい言動が目立ち周囲を巻き込んだ騒動になりやすいため、世間的にも注目度の高いパーソナリティ障害です。

その分、名前や目立つ自傷行為ばかりが取り上げられ、「リストカット=境界性パーソナリティ障害」のように、間違った認識をされていることもあります。

ここでは、医学的な診断基準と実際の診察で見られる特徴に基づき、境界性パーソナリティをチェックしてみましょう。

 

1.境界性パーソナリティ障害とは?

境界性パーソナリティ障害は、自己像と対人関係が不安定で、漠然とした不安感を伴った感情の不安定さが認められます。激しい衝動性となって行動に現れることも多く、周囲を巻き込むことが多いパーソナリティ障害です。

最初に、境界性パーソナリティ障害について簡単にお伝えしていきます。

境界性パーソナリティ障害は、1980年に概念として登場して以来、その疾患概念が臨床的にもしっくりくるため、広く浸透しているパーソナリティ障害です。さまざまなパーソナリティ障害がありますが、その中でも境界性パーソナリティ障害は診断されることが多いと思われます。

境界性パーソナリティ障害は、女性が75%とも報告されています。有病率も1.6%~5.9%ともいわれ、若い女性によくみられるパーソナリティ障害になります。

10代~20代にかけてパーソナリティ障害として症状が目立つようになり、この時期がピークになり、30代~40代にかけて落ち着いてくることが多いです。

境界性パーソナリティ障害には、分裂(スプリッティング)という防衛機制がよくみられます。例えば、人にはいい面もあれば悪い面もあります。境界性パーソナリティ障害の方では、それを統合してみていくことができず、一面しかみることができません。

これが自分自信にも向くので、自己像がとても不安定となり、慢性的な不安を抱えています。そして対人関係も不安定になり、特定の対象者に強く依存する傾向があります。

極端に不安定な感情があり、激しい衝動性がみられます。例えば、依存した対象者に「見捨てられてしまうのでは」という強烈な不安がつきまとい、引き止めようと必死になって行動をしてしまいます。

このように、1人の相手への評価や自己への評価も激しく上下し、「白か黒」「善か悪」のような二極化した考えになってしまいます。不安や虚しさからおこる自傷行為やオーバードラッグ(薬を過剰に飲むこと)、過食嘔吐、依存対象を引き止めようとおこす自殺未遂など、激しい行為が目立ちます。

「境界」とは、神経症と精神病の間に位置する病態という意味で、「ボーダーライン」「BPD」と呼ばれることもあります。

「境界例」という表現もされますが、これは、境界性パーソナリティ障害のみを指しているわけではなく、周囲を振り回す特徴を持つパーソナリティ障害全体を表している場合が多いので、混同しないように注意が必要です。

 

2.境界性パーソナリティ障害をチェックする5つのポイント

境界性パーソナリティ障害は、不安定さの裏にある本質をチェックする必要があります。そして多くの患者さんが外傷体験のようなものを抱えていて、様々な精神疾患を合併しやすいという特徴があります。

境界性パーソナリティ障害の特徴についてお伝えしてきましたが、少し細かく5つのポイントにしてチェックしていきたいと思います。

境界性パーソナリティ障害には、5つの大きな特徴があります。

  1. 感情・対人関係・行動が極度に不安定
  2. 「自分」というものが確立されていない
  3. 依存した対象に「見捨てられるのでは」という不安が非常に強い
  4. 嫌な記憶を抱えていることが多い
  5. 他の精神疾患が合併しやすい

境界性パーソナリティ障害では、感情・対人関係・行動が極端に不安定な形であらわれます。このため、「激しい症状=境界性パーソナリティ障害」と乱暴に診断されてしまうことも少なくありません。

その根底には、「自分とはこういうものだ」というのが確立されていません。ですから周りの変化に揺れ動いてしまい、不安定となってしまいます。難しい言葉でいうと、自己同一性の障害といいます。

こういった状態であると、身近な誰かにベッタリと依存してしがみつこうとします。そういった相手に、ちょっとでも「見捨てられるのでは」という不安が高まると、なりふり構わない行動に出てしまいます。追いすがることもあれば、怒りをぶちまけることもあります。自殺のほのめかしや自傷行為などによって、相手の気を引こうとすることもあります。

このように相手のささいな言動に対して過敏に反応し、そのたびに手放しでほめたり激しく批判したりと、評価も両極端にコロコロと変わります。「理想化とこけおろし」といった対人関係になってしまいます。

自分自身の機嫌も、上機嫌にハイテンションだったかと思えば、その数時間後には急激に不機嫌になってかんしゃくをおこしたりと、感情も何かにつけて両極を行ったり来たり、ジェットコースターのように不安定なのが特徴です。

そして境界性パーソナリティ障害の方は、過去に外傷体験を抱えていることが少なくありません。過去にあった嫌な経験が頭にこびりつきやすく、現在の出来事や誰かの言葉がすぐにそこに結びついてしまうようなこともあります。

そういったストレスから自分を守るため、解離症状を起こすことがあります。ストレスがかかったときに記憶を切り離してしまい、忘れてしまうことで自分を守ろうとするのです。

このようなパーソナリティ障害なので、様々な精神疾患を合併することがあります。うつ病や不安障害、PTSDや解離性障害、摂食障害などが重なることが多いです。双極性障害Ⅱ型(躁うつ病)とは症状が紛らわしく、見極めることが難しい場合もあります。

 

3.パーソナリティ障害の条件をチェック

パーソナリティ障害として診断するためには、それが若いころから慢性的に続いていること、生活の全般にわたっていること、本人か周囲が困っていること、が条件になります。

境界性パーソナリティ障害と診断するには、大きく3つの条件があります。

  • 病気などとは関係なく、若い頃から続いていること
  • 生活の全般にわたって認められること
  • 本人か周囲が苦痛を感じたり、生活に支障が出ていること

この3つを満たすような特徴的なパーソナリティである時に、境界性パーソナリティ障害と診断されます。

パーソナリティ障害とまではいかなくても、パーソナリティの傾向は誰しもあります。その傾向を意識して治療的な関わりをしていくことが大切になります。

一時的な症状として、境界性パーソナリティ障害のような症状が認められることはあります。例えば、双極性障害Ⅱ型は非常に見分けるのが難しいです。気分の不安定性が脳の機能的(内因性)にあって、それによってストレス対処が未熟になってしまい、対人関係や行動が不安定になることもあります。

境界性パーソナリティ障害では、その特徴が一時的ではなく、慢性的に続いている必要があります。そしてその特徴は、一場面だけでなく生活の全般に及んでいる必要があります。

誰しもパーソナリティの傾向はありますが、病気として治さなければいけないかというとそんなことはありません。境界性パーソナリティ障害として病気として治すべきなのは、本人か周囲が苦痛を感じていたり、生活に支障が出ている場合になります。

偏った性格傾向があったとしても、本人や周囲が困っておらず、その人に合った社会生活が営めていれば「障害」ということにはなりません。

ですが境界性パーソナリティ障害は、患者さん本人の苦痛はもちろん、社会生活が困難になるような破滅的な行為に走りやすく、周囲を巻き込み対人関係のトラブルも非常に多くなっています。

患者さん本人も生きづらさを抱えていることが多く、そのようなときは早めに専門家に相談してください。治療につながることで、少しずつ生きづらさが薄れていきます。

 

 

4.境界性パーソナリティ障害の具体的な症状からチェック

境界性パーソナリティ障害の症状を、具体的にみてみましょう。

次に、具体的によく見られる症状を箇条書きにしてみます。その症状からチェックしてみましょう。

  • 上機嫌だったり不機嫌だったり、感情が短いスパンで変動する
  • ささいなことですぐに怒ったりイライラしたりしている
  • 同じ人に対しての評価が激しく上下する
  • 自分への自己評価や自己像も不安定で、生活も一定しない
  • 家族、恋人、友人などに強く依存し執着する
  • 依存対象から「見捨てられるのでは」という強い不安が常にある
  • 常に不安感や空虚感があり、衝動買い、むちゃ食いや過食嘔吐、過剰服薬などの行為に走ってしまう
  • 依存対象に対し、時間を無視して何度も電話をしたり束縛したりしようとする
  • 依存対象を引き止めようと自殺願望を口にし、未遂をすることもある
  • いつも虚しさが心を支配している

境界性パーソナリティ障害の症状というと、自傷行為や破滅的な行為が取り上げられがちですが、それは極度に不安定な感情や対人関係によっておこるもので、そのような行為が見られたら必ず境界性パーソナリティ障害にあたるというわけではありません。

自傷行為や破滅的な行為は、発達障害や脳の問題、その他の精神疾患によってもおこることがあり、そこだけにとらわれて判断しないことが重要になってきます。

境界性パーソナリティ障害の不安定さは、脳の器質的・機能的な問題ではなく、成育環境や遺伝的な性格要素が絡んだ生きづらい性質によるものになります。

 

5.境界性パーソナリティ障害を国際的な診断基準からチェック

境界性パーソナリティ障害は、ICD-10では情緒不安性パーソナリティ障害の境界型に分類されます。境界性パーソナリティ障害の診断基準としては、おもにDSM-Ⅴの診断基準が使われます。

最後に、医療現場で使用されている、国際的な診断基準から境界性パーソナリティ障害をチェックしてみましょう。

こちらは医師向けで、一般の方がこれを見て判断できるわけではありませし、また、あくまで基準で絶対的なものではありません。ですがそれを知ることで、障害の全体像が見えやすくなります。

診断基準には、DSM-5(アメリカ精神医学会基準)とICD-10(WHO基準)の2つがあります。ICD-10の方では、「境界性パーソナリティ障害」として独立した扱いがされていないため、主に使われるDSM- 5 の方をご紹介していきます。

【DSM-5の診断基準】

対人関係、自己像、感情などの不安定性および著しい衝動性の広範な様式で、成人早期までに始まり、種々の状況で明らかになる。以下の5つ(またはそれ以上)によって示される。

  1. 現実に、または想像の中で、見捨てられることを避けようとするなりふり構わない努力
  2. 理想化とこき下ろしの両極端を揺れ動くことによって特徴づけられる、不安定で激しい対人関係の様式
  3. 同一性の混乱:著名で持続的に不安定な自己像または自己意識(「自分」というものがしっかりせず、自己像や考えがコロコロ変わる状態)
  4. 自己を傷つける可能性のある衝動性で、少なくとも2つの領域にわたるもの(浪費、手当たり次第の性行為、物質乱用、無謀な運転、過食や過食嘔吐など)
  5. 自殺の行動、そぶり、脅し、または自傷行為のくり返し
  6. 顕著な気分反応性による感情の不安定性(通常2~3時間持続し、2~3日持続することはまれな、エピソード的におこる強い不快気分、いらだたしさ、または不安など)
  7. 慢性的な空虚感
  8. 不適切で激しい怒り、または怒りの制御の困難(しばしばかんしゃくをおこす、いつも怒っている、取っ組み合いのけんかを繰り返すなど)
  9. 一過性のストレス関連性の妄想様概念または、重篤な解離症状

(参考・引用文献:DSM-5 精神疾患の分類と診断の手引き 医学書院)

 

まとめ

境界性パーソナリティ障害をチェックするためのポイントをご紹介しました。

激しい言動ばかりがとらえられがちですが、その根本は、どこにも居場所がないような強い不安定さと虚しさです。

その特徴は、

  1. 感情・対人関係・行動が極度に不安定
  2. 「自分」というものが確立されていない
  3. 依存した対象に「見捨てられるのでは」という不安が非常に強い
  4. 嫌な記憶を抱えていることが多い
  5. 他の精神疾患が合併しやすい

現段階で目立った言動が無くても、基本に境界性パーソナリティ障害の素因が隠れている場合もあります。気になることがあるときは、専門の病院を受診しましょう。

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