統合失調症の診断基準と診断の実際の流れ
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
統合失調症は、幻覚や妄想などが認められる病気として認識されているかと思います。
- 本当はないはずの声が聴こえる
- 周囲からは理解ができないことを信じ込んでいる
こういった「ないはずのものがある症状」を陽性症状といいますが、はっきりした陽性症状が認められれば診断はつけやすいです。
ですが統合失調症にはいろいろなタイプがあり、発症の経過も様々です。またはっきりとした症状が出てくるときには、すでに社会的には大きなデメリットが出てしまっていることも少なくありません。
統合失調症はひどくなる前に治療をすすめていく必要があります。そのためには、診断を早くつけていくことが大切になります。
ここでは、統合失調症の診断基準をご紹介し、実際の診断を考えていきたいと思います。
1.統合失調症の診断の流れ
まずは疑うことが大切です。その上で診断基準を考え、時間経過での変化や薬の反応をみていきます。心理検査を行うこともあります。
統合失調症を診断は、簡単なようでとても難しいです。幻聴や妄想は、統合失調症特有の症状というわけではなく、他の病気でもみられることがあります。
確かに、幻聴や妄想などが明らかに認められていれば、統合失調症と診断を付けるのは容易でしょう。ですがそうとも限りません。幻聴や妄想などの陽性症状がみられていない、いわゆる前兆期であることも多いです。
前兆期ですと、そもそも疑うことから始まります。「統合失調症の初期症状にはどのようなものがあるか」をお読みいただければお分かりいただけるかと思いますが、統合失調症と疑わなければ見過ごしてしまうような微妙な違いです。
ベテランの医師になると、「何となくおかしい」という感覚が身に付くといわれます。これをプレコックス感といいますが、私はまだその域に達していません。症状や経過に違和感があれば、疑う意識をすることが大切になります。
統合失調症を疑ったら、診断基準を参考にして診断をつけていきます。統合失調症に特徴的な症状を再確認していきます。それでもはっきりしない場合は多々あります。
そのような場合は、時間経過を見ていくことが重要です。統合失調症は進行性の病気です。時間がたつにつれて、少しずつ社会機能が落ちていってしまいます。少しずつ社会機能が落ちている部分がないか、注意をしていきます。
統合失調症に効果のある薬は気分を安定させる作用もあるので、使ってみることで症状の反応をみることもあります。また、ロールシャッハ検査という影絵をつかった心理検査を行って、無意識の世界を探っていくこともあります。
2.統合失調症の診断基準
統合失調症の診断は血液検査の結果のように、目で見てわかるものではありません。このため、一定の診断基準を設け、それに当てはまるか当てはまらないか、といった観点から診断を行っていくのが欧米での流れです。
診断基準には、アメリカの精神医学会が作成した「DSM」とWHOが作成した「ICD」のふたつが存在します。
診断基準の考え方について詳しく知りたい方は、「統合失調症の基本症状・特有の症状とは?」をお読みください。
2-1.統合失調症の診断基準(DSM‐Ⅴ)
統合失調症の陰性症状を重視している診断基準です。
アメリカの診断基準であるDSMを紹介します。DSMは、順番にチェックしていくと誰でも同じように診断ができるように意識した診断基準になります。つい最近まで、DSM‐Ⅳ‐TRが使われてきましたが、2013年にDSM‐Ⅴが発表されました。
DSM‐Ⅴでも大きく診断基準はかわっていません。Ⅴになって、統合失調症のタイプによる分類をあえてしなくなりました。
大きく変わったのは、統合失調症をとりまく類似疾患のとらえ方です。いろいろな病気を統合失調症と連続していると考えて、統合失調症傾向の強さがどのくらいあるのかで分けて考えるようになりました。この考え方を、統合失調症スペクトラムといいます。
以下に示す要件を全て満たすと、統合失調症と診断されます。
- 疑いのある症状が2つ以上、1ヶ月以上続くこと。
- 6か月以上、何らかの兆候が続くこと。
- 社会的・職業的機能の低下を認めること。
- 統合失調感情障害と感情障害ではないこと。
- 広汎性発達障害の場合は、明らかな幻覚・妄想が1か月以上続くこと。
※疑いのある症状
- 妄想(奇異であれば1つでOK)
- 幻覚(注釈性・対話式の幻聴であれば1つでOK)
- 解体した会話
- 解体した行動や緊張病製の行動
- 意欲の低下や感情の平板化や思考の貧困化などの陰性症状
2-2.統合失調症の診断基準(ICD-10)
統合失調症の陽性症状を重視している診断基準です。
WHOの診断基準としてICD‐10があります。この診断基準も症状のチェックができるようになっていますが、典型的なケースを意識して症状が記述してあります。病気のイメージも大切にしている診断基準といえます。統合失調症として特有の症状を重視した診断基準になっています。
以下の明らかな症状が1つ以上、1か月以上続くこと
- 考想化声・考想吹入・考想奪取・考想伝播
- 他者に支配される、影響される、あるいは抵抗できないという妄想・妄想知覚
- 行動に対して絶えず注釈を加えたり、患者のことを話題にする形式の幻聴・幻声
- 文化的に不適切で実現不可能なことがらについての持続的な妄想
あるいは、以下の明らかな症状が2つ以上、1か月以上続くこと
- 持続的な幻覚が、部分的な妄想や支配観念に伴って、継続的に現れる
- 思考途絶・思考挿入があり、まとまりのない話し方をしたり、言語新作がみられる
- 興奮、常同姿勢、蝋屈症、拒絶症、緘黙、昏迷などの緊張病性行動
- 著しい無気力・会話の貧困・情動的反応の鈍麻や不適切さといった陰性症状
- 関心喪失・目的欠如・無為・自分への没頭・社会的ひきこもりなど、個人行動の質的変化
3.統合失調症の診断のポイント
社会機能の低下(二ボーの低下)が特徴的です。
統合失調症は、その時点では症状がはっきりしないことが多々あります。そのような場合は、症状の経過を考えていくことが大切です。
統合失調症の特徴は、「時間が経過に伴って徐々に社会生活を送る機能が低下していく」病気であるということです。ですから、その時点でははっきりしない場合は、時間経過で社会機能が落ちていないかを考えていくことが診断のポイントになります。
上図のように、統合失調症は時間がたつ中で、少しずつエネルギーが少なくなっていきます。それに応じて、社会機能も少しずつ落ちていってしまいます。
赤線のように、水準が少しずつ落ちていってしまうのです。このことを、フランス語で水準などを意味するniveau(二ボー)という言葉を使って、「ニボーの低下」という表現をします。
まとめ
統合失調症の診断にあたっては、まずは疑うことが大切です。その上で診断基準を考え、時間経過での変化や薬の反応をみていきます。心理検査を行うこともあります。
診断基準には、アメリカの精神医学会が作成した「DSM」とWHOが作成した「ICD」のふたつが存在します。
DSMは、陰性症状を重視している診断基準です。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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