双極性障害(躁うつ病)は遺伝する病気なのか

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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双極性障害(躁うつ病)は、「躁」と「うつ」という2つの気分を繰り返す心の病です。若くして発症することが多く、その平均初発年齢は21.2歳と報告されています。

一生涯で発症する確率は0.24~1.6%と報告されていて、およそ100人に1人の人がかかる病気です。日本にも100万人くらいの方が発病する病気なのです。

残念ながら双極性障害が生じるメカニズムはよくわかっていません。しかしながら、何らかの脳の機能異常があるのではと考えられています。その原因として、双極性障害では遺伝の関係が大きいと考えられています。

みなさんに知っていただきたいのは、双極性障害がどれくらい遺伝の要因が大きいのかということと、その情報をどのように生かせばよいのかということです。

ここでは、双極性障害の遺伝についてお伝えし、どのように遺伝と向き合えばよいのかを考えていきましょう。

 

1.双極性障害はどれくらい遺伝するの?

双子研究では、一卵性の方が二卵性よりも2~3倍の遺伝がみられます。双極性障害の患者さんの子供の罹患率は5~10%といわれており、10倍ほどリスクが上がると考えられています。

双極性障害は遺伝の影響が大きい心の病といわれています。実際に患者さんの家族のお話を伺うと、血縁に双極性障害の方がいたり、診断基準を満たさないまでも気分の波がある方がいらっしゃいます。

それでは双極性障害では、どれくらいの遺伝の影響があるのでしょうか?遺伝の影響の大きさをみるときには、双子の研究がよく行われます。どうして双子なのかというと、育った環境がほとんど同じだからです。環境の影響を排除して考えられるのです。

双子には2パターンがあります。

  • 一卵性双生児:ひとつの受精卵が分かれるので、遺伝子が100%同じ
  • 二卵性双生児:別々の受精卵なので、遺伝子が50%同じ

このような双子を集めてきて、病気になる確率を調べます。一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも病気になる確率が高ければ、すなわち遺伝の影響が大きいといえます。

この研究の問題点は、双極性障害の双子を見つけてくるのがとても難しいことです。数が少ないと結果にばらつきがでてしまいます。しかしながら双極性障害では、1930年のルクセンブルガーによる調査にはじまり、現在まで数多くの報告があります。昔の調査では重症例ばかりなので、軽症例も含めた最近の調査をご紹介します。

調査年 一卵性一致率(組数) 二卵性一致率(組数) 相対危険率
1977年 58.3%(55) 17.3%(52) 3.4
1986年 37.8%(37) 12.3%(65) 3.1
1991年 53.2%(62) 27.8%(79) 1.9
1993年 48.2%(56) 23.4%(128) 2.1

およそ、一卵性双生児では40~50%の一致率、二卵性双生児では15~25%の一致率になります。一卵性の方が2~3倍高く、双極性障害における遺伝の影響は大きいことが分かるかと思います。

双極性障害の生涯有病率は0.24~1.6%といわれています。これに対して双極性障害の患者さんの子供では、5~10%で発症が認められます。およそ10倍にリスクが上がると言われており、遺伝の要素が大きな疾患なのです。

 

2.双極性障害の遺伝には何が関与しているの?

双極性障害は多因子遺伝と考えられています。

それでは双極性障害の遺伝とはどのようなものでしょうか?これに関しては従来からさまざまな遺伝様式や原因遺伝子が考えられてきましたが、現在もはっきりとわかっていません。

上述しましたように、遺伝子の影響は非常に大きいです。先ほどの一卵性双生児の研究での一致率は40~50%でした。遺伝子が同じで、ほとんど変わらない環境で過ごしてきたのに100%の一致にならないのはなぜでしょうか?これには遺伝子の浸透率が関係しています。

遺伝子はすべてがそのまま表れるわけではありません。遺伝子ごとにその発現のされやすさには違いがあり、双極性障害の遺伝子浸透率は低いと考えられます。

 

また、もし双極性障害がひとつの遺伝子によって決まっているとしたら、理論的には一卵性双生児の一致率は二卵性双生児の一致率の2倍になるはずです。実際には2~3倍となるので、複数の遺伝子が関係しており、多因子遺伝の形式をとると考えられています。

さらには、両親がともに双極性障害でも片方が双極性障害でも、子供の発症率には大きな差がないと報告されています。このことは、常染色体優先遺伝の関与があることを示唆しています。

原因遺伝子の候補としては、XBP1遺伝子など様々な遺伝子が考えられています。また、母方で遺伝していく家系もあることから、母系遺伝の形式をとるミトコンドリア遺伝子も関係しているのではと考えられています。双極性障害を引き起こす遺伝には、複数のパターンがあるのかもしれません。

 

3.双極性障害の遺伝をどう向き合うのか

双極性障害は、精神科の疾患の中でも遺伝の影響が大きいです。

双極性障害の患者さんがご家族にいらっしゃる方は、自分が発症してしまったらどうしようと心配に思ってしまうかもしれません。双極性障害で苦しんでいる患者さんは、子供に遺伝してしまうのではないかと心配してしまうかもしれません。

それでは、双極性障害の遺伝についてどのように向き合えばよいのか、考えていきましょう。

 

3-1.双極性障害の患者さん

遺伝を過度に心配しないでください。子供の生活リズムを大切にしながら、少しずつストレスの対処法を上手にしていく。子供の気分の変化に注意して、早く見つけることも大切です。

双極性障害の患者さんは、子供に遺伝してしまうのではと心配される方も多いです。自分だけならまだしも、子供までが双極性障害で苦しんでしまったらどうしようと悩まれている方も多いです。

双極性障害は確かに遺伝することの多い病気です。遺伝と聞いてしまうと、避けることができないイメージをもってしまうかもしれません。しかしながら、双極性障害は遺伝がすべてではありません。実際に子供に双極性障害(軽症も含めて)が発症する確率は、5人に1人といわれています。

双極性障害の発症には遺伝だけではなく、環境やストレスなども大きく関係しています。といっても、どんな環境にすればよいのか答えがあるわけではなく、ストレスがない人生などありえません。親としてどのようなことを意識すればよいのか、私が思うところは以下の4つになります。

  • 生活リズムを規則正しくさせる
  • ストレスの対処法を上手にしていく
  • 親を頼れるようにする
  • 子供の気分の変化に早く気付く

 

双極性障害では、規則正しい生活リズムを保つことで気分の波を和らげることができます。起床時間、食事の時間、帰宅時間、就寝時間などを大きくずれないような生活にしましょう。

双極性障害に限らず、ストレスがかかると発症しやすくなります。だからといって子供にできるだけストレスをかけないようにするのは、問題の先送りにすぎません。大切なのはストレスへの対処法を身につけることです。

もちろん過度なストレスがかからないように気をつける必要はありますが、大事なのは自分で乗り越えていく経験をつけていくことです。それを支えていくという意味でも、親を頼れるような関係を築いていくことが大切です。

そして、子供の気分の変化に注意をしましょう。双極性障害は若いころに発症することが多いです。子供は自分から精神的なことを訴えることはほとんどありません。気分や行動の変化がみられたときには注意しましょう。順調に成長しているにもかかわらず、生きることへの虚無感を抱えているようなこともあります。心配に思うことがあったら、病院で相談してください。

 

3-2.双極性障害の患者さんの家族

自分自身にも遺伝リスクがあることを正しく認識し、規則正しい生活習慣を意識したり、ストレス対処法を身につけたりしましょう。

双極性障害の遺伝を考えた時に、「自分も双極性障害になってしまったらどうしよう」と心配される方もいらっしゃいます。

かなり古い研究になりますが、双極性障害になる確率を血縁の近さで調べた調査があります。

 関係   子供  兄弟姉妹 いとこ   甥姪  一般人口
確率 24.4% 12.7% 2.5% 2.4% 0.44%

当時の診断では明らかな躁状態がある方が双極性障害とされていたので、遺伝の影響がより強く出ています。軽症例も含めれば、もっと遺伝の影響は小さくなります。

現在では子供での障害発症率は5~10%程度と考えられており、リスクがおよそ10倍になるといわれています。ただ、この結果からは近親であるほど遺伝の影響が強いことがわかります。

 

ご家族としても、双極性障害のリスクが自分にあることを知っておくことは大切です。自分の気分の変化に気を付けるようにしましょう。気分がよい時は普通と感じてしまうので、軽躁状態では気づけないこともあるので注意しましょう。また、規則正しい生活リズムを意識したり、ストレス対処法を上手にしていきましょう。

 

4.双極性障害の遺伝は悪い面ばかりではない

循環気質などの性格傾向、躁のエネルギーの高さによって、社会的に成功している方も多いです。

双極性障害の遺伝は、確かに病気としての悪い側面が目立ってしまいます。しかしながら双極性障害の遺伝は、決して悪い側面だけではないのです。

双極性障害のご家族をお聞きすると、社会的に成功している方がいたり、ときに有名な方がいたりします。というのも、2つの理由があります。

  • 循環気質は社会性につながる
  • 躁方向の強いエネルギー

双極性障害の患者さんの病気の前の性格には、傾向が見受けられます。双極性障害の方に多い性格傾向として、循環気質があります。

循環気質とは、社交的で人間味があふれ親しみやすく、他人への気配りも上手で周囲と同調していこうとする性格です。このような方は周囲の人間関係を盛り上げて、仕事も快活にバリバリこなします。社会的に成功を収めやすいといえます。

 

また、躁状態とまでいってしまうと生活に支障がでてしまいますが、軽躁状態ですとそのエネルギーがプラスに向くことも多いです。普通の人ではもたないような仕事を一気にやりきってしまうので、周囲から評価されることも多いです。

さらには発想が活発になって、普通の人では思いつかないようなアイデアやイメージが湧き出てくることがあります。芸術家や企業家などには双極性障害の傾向を持っている方は、意外と多いと思われます。

私自身も親族に双極性障害で苦しんでいる方がいます。遺伝傾向を知って病気に発展しないように意識することは大切ですが、双極性障害のよい側面も受け継いでいるのです。良い部分は肯定的に生きていくことが大切です。

 

まとめ

双極性障害の双子研究では、一卵性の方が二卵性よりも2~3倍の遺伝がみられます。

双極性障害の患者さんの子供では5~10%といわれており、10倍ほどリスクが上がると考えられています。

双極性障害は多因子遺伝と考えられています。

循環気質などの性格傾向、躁のエネルギーの高さによって、社会的に成功している方も多いです。

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