対人関係療法とはどういう治療法なのか

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック

2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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社会生活の中でのストレスとして一番大きなものは、やはり人間関係のストレスです。患者さんにとっての「重要な他者」との対人関係を見直していき、再構築をはかっていく中で自尊心を高めていくのが対人関係療法です。

対人関係療法は、認知行動療法(CBT)とあわせてエビデンス(研究による根拠)がしっかりとしている精神療法です。精神療法としては期間を区切って行っていくものですが、外来でも対人関係療法の考え方をふまえながら患者さんと接していくと、次第と変化がうまれていきます。

ここでは、対人関係療法についてお伝えしていきたいと思います。

 

1.対人関係療法とは?

「重要な他者」との関係を見つめ、その対処法を見つけていく戦略的な心理療法です。

精神疾患の原因として遺伝や気質などの生まれもってきた要素はもちろんありますが、それだけで発症するわけではありません。人間関係を中心とした社会的な役割がうまくいかなくなることが密接に関係しています。一方で、病気になることで社会的な役割が損なわれてしまうこともあります。

このように精神疾患には、何らかの人間関係の問題による社会的役割の障害があります。対人関係療法では、心理的問題は意思疎通の問題ととらえていきます。うまくコミュニケーションが取れれば心理的なわだかまりも解消でき、社会的役割も回復します。その結果として、社会的な人としての自尊心も高めていくことができます。

対人関係療法では、まずは「重要な他者」を認識することからはじめます。人間関係の誰ともうまくやろうとするのは不可能です。両親や兄弟姉妹、夫や妻、恋人や大親友など、その人との関係性が自分の気持ちの安定に影響が大きい人を確認します。

このような「重要な他者」との現在の関係に焦点をあてて、その人間関係と症状の関係を理解していきます。そしてその対処法を見つけ出していきます。

 

2.対人関係療法の進め方

重要な他者との対人関係の問題を取り上げて、感情を大切にしながら分析し、対処法を考えて実際に行っていきます。

対人関係療法では、4つのテーマのうち1つか2つを選んで治療を進めていきます。

  • 対象喪失体験:重要な他者の死別後の受け入れがすすまない場合
  • 対人関係の不和:それぞれの役割への期待にずれがある場合
  • 役割の変化:生活上の変化についていけない場合
  • 対人関係の欠如:社会的に孤立している場合

これらのテーマに関して、感情を大事にしながら具体的な対人関係のやりとりや出来事を患者さんに言葉にしていただきます。どのような問題があるのか、感情や症状とどのような関係があるのかを理解していきます。

そして、それをどのようにしたら解決できるのかをブレインストリーミング(思いつくままに挙げていく)していきます。その中で実際に行う行動を決めていきます。その行動をロールプレイで練習し、実際に重要な他者に働きかけを行います。

これを期間を区切って集中的に行うのが、精神療法としての対人関係療法です。対人関係のスキルを高めることで、社会的な役割としての自分に対する自尊心を持てるようにしていきます。

 

3.対人関係療法と認知行動療法の違い

認知行動療法では変化の方向が患者さんに委ねられますが、対人関係療法では大まかなゴールがあります。

対人関係療法は、対人関係に対しての認知を修正して、それに基づいて行動をしていきます。そのようにみると、対人関係に焦点をしぼった認知行動療法ともいえるかもしれません。しかしながら、対人関係療法と認知行動療法には大きな違いがあります。

認知行動療法はそれぞれの人に変化の方向性が委ねられていて、ゴールというものが ありません。極端な認知パターンや、本人のマイナスにつながる認知パターンを修正していきますが、どのように修正していくかは人それぞれです。どのように行動につなげていくのかも人それぞれです。

一方で、対人関係療法には明確なゴールがあります。誤解を恐れずに簡単にいってしまうと、「重要な他人とはお互いに良い感じになっておいて、 その他の人たちはほどほどで付き合えればよい」というゴールです。さらには、それぞれのテーマに関しても目標が定められています。訓練的な要素もあるので、努力すればするほど治療効果が上がります。

 

4.対人関係療法が効果的な気分障害とは?

対人関係療法では、人間関係の問題が明らかなうつ病、気分変調症、双極性障害、トラウマを抱えるうつ病の方などに効果が期待できます。

本来ならば対人関係療法の専門的な訓練をうけた治療者のもと、じっくりと精神療法を行っていった方がよいです。しかしながら、このような精神療法にはお金もかかってしまいますし、専門的な医療機関も数少ないのが現状です。

外来で治療をしていく中でも、回数を分けながら対人関係療法を意識した関わりをしていくことで、少しずつ人間関係の回復という中から自己肯定感や自尊心が取り戻せることがあります。

ここでは、対人関係療法はどのような疾患で効果があるのか、お伝えしたいと思います。

 

4-1.対人関係の問題が明らかなうつ病

状態が落ち着いてから、「重要な他者」との対人関係に問題が残る場合に対人関係療法を意識していきます。

うつ病の患者さんでは、抗うつ剤による治療を行っていくことが一般的です。うつ状態がひどい時は、それによって認知自体も歪んでしまいます。何事にも悲観的になってしまい、現実的な思考ができません。そのような時にはあまり精神療法を行っても効果がありません。

抗うつ剤を使って少しずつ状態がよくなってくると、物事のとらえ方に柔軟性が出てきます。うつ病になったきっかけについても見つめることができるようになります。明らかに「重要な他者」との対人関係に問題がある場合もあれば、病気によって対人関係の問題が生じてしまった場合もあります。

このような現実的に解決しなければいけない問題が残った場合、自ら解決できないことも多いのです。このような時には、対人関係療法の関わり方を意識することは有用です。

 

4-2.気分変調症

性格と病気を混同していることが多く、自分を患者と認識して周囲との関係を見直すことが治療動機に繋がります。

気分変調症では、慢性的に気持ちの落ち込みが認められる病気です。多くの患者さんは、「病気」ではなく「性格」と思い込んでいることがあります。そのような患者さんでは、気分変調症の病気にかかった「患者」という役割を与えることができます。

これによって罪悪感が減り、治療に向けて希望につなげることができます。周囲に対しても患者ということを明確にすることで、役割期待のずれによる不和を解消する効果があります。

このように、性格として後ろ向きな捉え方が、病気という前向きな捉え方に変わっていくことが期待できます。

 

4-3.双極性障害

双極性障害では、対人関係・社会リズム療法が行われることが多いです。

双極性障害では、行動療法的なアプローチの社会リズム療法と組み合わせて対人関係・社会リズム療法(IP-SRT)が行われることが多いです。社会リズムと対人関係は密接な関係があり、双極性障害という病気はこの両方の影響を大きくうけます。

まずは直接の人間関係に目を向けるというよりは、人間関係のストレスを量にして記録していきます。社会生活を送っていく中で、どの部分での人間関係のストレスが気分に影響するのか把握できるようになってきます。それを踏まえて、ストレスの量を適切にコントロールしていくことを目指していきます。

記録を継続することで、生活リズム、対人接触、気分の関係性がだんだんとわかってきます。自分自身でどのように管理していくことが大事か、意識していくことができるようになっていきます。その上で少しずつ、直接の人間関係にも目を向けていきます。

 

4-4.トラウマを抱えるうつ病

トラウマ症状と現在の人間関係に目を向けていきます。

過去に外傷体験(トラウマ)をかかえる患者さんでは、慢性的なうつ状態が続くことがあります。

トラウマの解消をしていくためには、過去の記憶の再処理を行っていくことが必要です。しかしながら対人関係療法では、トラウマの解消という直接的な関わり方をするのではありません。

トラウマによる症状によって、現在の人間関係がどのような影響を受けているのかを問題にしていきます。その対処法を身につけていくことで、現在の対人関係に関するコントロールできているという感覚を持てるようにしていきます。

 

まとめ

対人関係療法とは、「重要な他者」との関係を見つめ、その対処法を見つけていく戦略的な心理療法です。

重要な他者との対人関係の問題を取り上げて、感情を大切にしながら分析し、対処法を考えて実際に行っていきます。

認知行動療法では変化の方向が患者さんに委ねられますが、対人関係療法では大まかなゴールがあります。

投稿者プロフィール

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医3名、精神科医4名で協力して診療をしています。所属医師で協力して、記事を書いています。
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