不安神経症で悩んでいる方へ、仕事での対処法

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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不安神経症はかつて使われていた病名で、現在は正式な病名ではありません。現在の診断基準では、全般性不安障害と診断されることが多いでしょう。

不安神経症の患者さんは、日常生活のささいなことで不安や心配がつきない病気です。不安や心配が心を占めてしまって、目の前のことに集中できなくなります。仕事が手につかなくなってしまったり、心配ごとで眠れなくなったりします。

また、仕事でのささいなことが気になってしまいます。何度も細かなところをチェックしてしまって、仕事が円滑にすすまなくなってしまいます。周りの人に細かなことを質問してしまって、人間関係がギクシャクしてしまうこともあります。

周囲からは「神経質な性格」と誤解をうけやすく、本人も自分の性格の問題と片付けてしまうことが多いです。

ここでは不安神経症を悪化させないために、仕事で注意すべきポイントをお伝えしていきたいと思います。

 

1.不安神経症のことを正しく理解することが大切

不安神経症は、「心配性」や「神経質」といった性格の問題と片付けてしまうことが多いです。不安神経症は治療が必要な不安の病気ということを、正しく理解することが大切です。

不安神経症は、慢性的な不安が日常生活で続く病気です。その不安の内容は、日常生活のとりとめもないことです。ただその不安や心配が過剰なだけで、「誰にでもある不安」なのです。

周りの人からみても、パニック障害のような強烈な不安が認められるわけでもなく、「気にしすぎだな…」「細かい性格だな…」といったようにみられることが多いです。ですから病気という感じはうけず、心配性や神経質といった性格の問題と思われることが多いです。

これは患者さん本人にも言えることで、自分自身の性格のせいと片付けてしまうことが多いです。

不安神経症は元々の性格も原因となりますが、日常生活のストレスなどの積み重ねによって、脳の機能にも何らかの異常が生じていると考えられています。ですから不安神経症は、治療するべき慢性不安の病気なのです。

お薬を使うことで、不安神経症の症状がコントロールすることができます。それによって仕事への支障も少なくなり、物事のとらえ方も変化していきます。こうした良い循環になれば、日々の日常生活の中で少しずつ良くしていくことができます。

ですから不安神経症は、専門家に相談して治療をしていくことが大切です。

不安神経症の原因に関して詳しく知りたい方は、「全般性不安障害(不安神経症)はどのような原因で生じるのか」をお読みください。

 

2.不安神経症での仕事でみられる支障

不安神経症では、仕事のスピードが遅くなり、人間関係もギクシャクしてしまいます。これが悪循環となり、仕事では誤解されてしまうことが多いです。

不安神経症は、20代~30代で発症することが多いと言われています。ですが私たちが診察室でお会いする患者さんは、中年であることが多いです。ですから10年、20年と年月のなかで長く苦しみ、どうにもならなくなって受診される方が多いのです。

不安神経症の患者さんは、仕事の中では様々な支障が認められます。ささいなことに不安になり、心配してチェックしてしまったりします。このため、

  • 仕事のスピードが遅くなる
  • 対人関係がうまくいかなくなる

このような大きな問題が生じます。仕事が出来ないと思われると人間関係がさらに悪くなってしまい、職場での悪循環がすすんでしまいます。

仕事の細かなことが気になってしまって、いちいちチェックしないと気が済まなくなります。もう終わってしまったことに気を取られてしまい、「やっぱりこうした方がよかったかな」といった具合に、気を取られてしまったりします。仕事中にプライベートのことで気が気でなくなり、仕事に集中できないということもあります。

人間関係もスムーズにいかなくなっていきます。ささいなことを細かく確認されると、誰でもあまりいい気はしません。ピントが外れていることを尋ねられると、中にはムッとしてしまう上司や同僚もいるでしょう。仕事で足を引っ張る形で、人間関係もギクシャクしてしまいます。

こうして周囲から誤解をうけやすいのが不安神経症です。その症状の程度に差はありますが、誤解されて仕事では疎まれてしまうことも少なくありません。

 

3.不安神経症の方が向いている仕事と苦手とする仕事

不安神経症の患者さんが向いているのは、やることが決められていてマニュアル化されている仕事です。一方で、自分で判断する仕事や、人との関わりが多い仕事は苦手とします。

不安神経症では、

  • 仕事のスピードが遅くなる
  • 対人関係がうまくいかなくなる

となってしまう傾向があります。仕事をしながらささいなことを心配してしまい、なかなか効率的に仕事がすすまなくなってしまいます。そしてその心配を自分で処理できなくなり、同僚や上司に確認を求めたりすることで、対人関係もうまくいかなくなってしまいます。

つまり不安神経症の患者さんは、自分で判断することが苦手なのです。ですから、マニュアルがしっかりできていて、決められたことを行う仕事が向いているといえます。「こういう場合はこうする」というのが決まっていれば、不安に思うポイントは少なくなります。

一方で、自分で判断する部分が大きな仕事や、人との関わりが大きい仕事は苦手になることが多いです。具体的にあげてみると、以下のようなものになります。

  • 対人業務
  • チームで取り組む業務
  • 流動的な業務
  • 責任の大きい業務

人によって苦手なものの程度は異なります。不安神経症の症状がひどい時は避けることが大切ですが、ある程度落ち着いてくると、これらの苦手なことを避けることは治療的ではありません。少しずつ慣れて、克服していくことが大切です。

 

4.不安神経症を克服するための仕事への向き合い方

不安は決して悪い面ばかりではありません。良い面にも目を向けましょう。まずは「何とかなると思えるまで」負荷をおとして仕事をしていき、落ち着いてきたら苦手な仕事にも取り組んでいくことが大切です。

不安になるということは、誰にでもあることです。不安であるから人は危険を避けられ、不安であるから準備をし、不安があるから慎重に取り組みます。不安は生きていく上で必要不可欠な感情なのです。

心配性や神経質というと悪いイメージになってしまいますが、几帳面や抜け目がないというと良いイメージになるかと思います。心配しやすいということは心を配れるということでもあり、不安神経症ではその心配が過剰なのが問題なだけです。

ぜひ自分のいい面にも目を向けて、足を引っ張ってしまう面を少なくしていくように取り組んでいきましょう。

 

ストレスのない仕事など、この世の中にはないかと思います。不安神経症の患者さんは仕事を休んだ方がよいのかというと、必ずしもそんなことはありません。むしろ苦手なことを避けていると、ますます不安神経症が悪化してしまうこともあります。

不安神経症の患者さんは、2段階に分けて仕事への向き合い方を意識していただけたらと思います。

  1. 不安神経症を悪化させない
  2. 不安神経症を克服する

不安神経症を発症したばかりの時期は、負荷をかけ続けてしまうと症状はますます悪化してしまうことがあります。不安が不安を呼んでしまうのです。

まずは不安神経症が悪化しないために、「何とかなる」と思えるなかで仕事をしていきましょう。「何とかなる」と思えないならば、つきあっていける仕事の負荷にしてもらうように会社と相談した方がよいです。この点については、後ほどお伝えしたいと思います。

不安神経症の症状とつきあっていけるようになったら、不安神経症を克服していくために、苦手なことにも少しずつ慣れていく必要があります。

不安なことが多いかも知れませんが、ガマンをしていると少しずつ不安はうすれてきます。仕事に支障がない中で、確認は1回だけにする、同じことを人に聞かないなどのルールを決めてしまって、それを守るようにします。

不安神経症の治療について詳しく知りたい方は、「不安神経症を完治・克服するために!不安神経症に有効な薬と治療法」を読みください。

 

5.不安神経症の職場への相談の方法

①直接上司②人事・総務③産業医などの方法で相談できますが、それでも職場理解が得られなければ、主治医に診断書で就労上の意見を書いてもらうのも方法です。

「不安神経症を会社にいうべきですか?」という質問を患者さんからよくうけます。不安神経症に限らず、精神疾患に対する会社の理解はまだまだ十分とは言えません。しかしながら不安神経症は治療期間が長くなりがちで、再発することも多い病気です。

しっかりと不安神経症の治療をすすめていくためには、職場で相談しながら仕事を行っていけることが理想です。苦手な仕事を調整してくれる可能性もありますし、理解してもらえる人がいると安心して仕事にとりくめます。

ここでは、職場でどのようにして相談していくのか、その方法について具体的にお伝えしていきたいと思います。

職場にはどのようにして不安神経症のことを伝えればよいでしょうか?そのルートとしては4つあります。

  1. 直接上司に自分から相談する
  2. 人事・総務の担当者に相談する
  3. 産業医に相談する
  4. 主治医から診断書で意見を書いてもらう

直接的に仕事のマネージメントをしているのは上司になります。相談にのってもらえそうな上司ならば、自分から直接相談する方がよいでしょう。上司に相談しにくい場合は、人事・総務部の担当者に相談してみるのも方法です。上司にアプローチしてくれたり、これからの仕事のやり方について相談にのってくれるでしょう。

また、50人以上の従業員がいる事業所では、産業医が月1回以上必ず訪問しています。産業医に情報コントトロールを上手くしてもらいながら、会社にどのように伝えるのかを相談するのも方法です。

これらによっても職場の理解が得られない場合は、主治医から就労に関する意見を書いてもらうしか方法がありません。具体的に書かれすぎてしまうとマネージメントができなくなってしまうので、「適切な業務上の配慮が望ましい」といった具合に診断書をお願いしてみましょう。

 

6.不安神経症が悪化してしまった場合は休職も必要

うつ状態になってしまったり、仕事をしながらでは不安がコントロールできない場合は、仕事を休職することも必要です。無理して仕事を続けると、不安神経症が悪化してしまうこともあります。

不安神経症は、不安や緊張と日々戦っていくので大きなストレスになります。不安神経症の状態によっては、一度しっかりと休んで治療に専念した方がよい時もあります。

私が不安神経症の患者さんに休職をすすめるのは、以下の3つのケースです。

  • 不安神経症が「何とかなる」と思えない
  • 不安神経症の治療をしていても徐々に悪化している
  • うつ状態になっている

できる仕事の工夫を行っても、「何とかなる」と思えない時には休んだ方がよいです。自己効力感(self-efficacy)といったりしますが、これはとても大切です。病は気からではありませんが、「何とかなる」という感覚をもって治療をできるかどうかは、不安神経症を克服していくためには重要です。

また、不安神経症の治療をはじめても徐々に悪化していく場合も、休職を考えた方がよいです。不安をコントロールしきれずに悪循環から抜け出せないと、不安神経症が徐々に悪化してしまいます。

日々の仕事でのストレスから、気分が落ちこんだり気力が出なくなってしまって、うつ状態になってしまう患者さんもいらっしゃいます。そのような時は無理してはいけません。しっかりと休んで治療をすることが大切です。

 

医師から休職をすすめられたときは、その指示にしっかりと従って休職をしてください。「休んでしまったら二度と戻れなくなるんじゃないか」「職場復帰した時に居場所がないのではないか」と不安になるのももっともです。

ですが無理して仕事を続けると失敗体験も続き、不安神経症も悪化してしまいます。会社からもミスが目につき、むしろ自己管理ができていないと評価を落としてしまうこともあります。仕事をしっかり休んで療養した方がよいです。

しっかりと心身の調子を整えて復職できるようになったら、産業医を交えて相談していきましょう。

 

7.不安神経症の方への職場でできる配慮

精神疾患に対して理解をしてあげてください。出来る範囲で仕事の中で治療していける環境を調整してください。

最後に、これらを踏まえて職場ではなにができるかについて考えていきましょう。

もっともお願いしたいことは、不安神経症に対して理解してあげていただきたいということです。不安神経症は長い経過をたどることが多い病気なので、病気というよりは性格と考えがちです。

しかしながら不安神経症は、症状がコントロールできるようになると、少しずつ良くなっていく病気です。不安になりやすいということは、仕事で良い面につながることもあるのです。

それでは会社としては何が出来るでしょうか?不安神経症の従業員に対して、会社はどんなことができるのかをお伝えしていきたいと思います。

①不安神経症の治療をうけていなければ病院をすすめる

不安神経症は、しっかりと治療していくことで少しずつよくなっていく病気です。もしも従業員の方が不安神経症の治療をうけていなければ、病院への受診をすすめてください。健康面のことですが被害的に感じてしまう方もいるので、産業医を通した方がトラブルにならないかと思います。

なかにはお薬の治療を嫌がって、漢方薬やカウンセリングなどで治療をしている方もいると思います。会社として無理強いすることはできないとは思いますが、ぜひ私のサイトもご活用いただいて、病院での治療をすすめてください。

②本人の同意のもとで職場での情報共有をはかる

不安神経症で悩んでいることが分かった場合、できるだけ職場で情報共有ができた方がよいです。ただし繊細な個人情報になりますので、本人としっかりと相談して同意のもとで、必要最小限に情報共有してください。

  • 直接のマネージメントをしている上司
  • 仕事を一緒に行っている同僚
  • 管理職
  • 人事・総務

などの中で、本人のために情報共有した方がよい範囲を相談しましょう。周りが自分の状況を理解してくれている中で仕事ができれば、「何かあっても大丈夫」と安心感を持って仕事ができます。これからお伝えするような仕事での配慮も行いやすくなります。

③相談しやすい環境を整える

不安神経症に限ったことではありませんが、何かあった時に相談ができない環境はストレスになります。

相談しやすい環境をつくっていくのは従業員側でも大切なことなのですが、不安神経症の患者さんに対しては会社から体制を整えていただけると助かります。

どのように相談したらよいのか、具体的に決めておいてください。「困ったら同じ部署の人に相談して」といった形で漠然としてしまうと、本人も相談ができません。

「不安神経症の病気のことで困ったら〇〇に連絡して。必要に応じて産業医とも相談するよ」とか、「仕事のことで困ったら△△さんに相談して」といったように具体的に決めると相談しやすいです。

さらには、「会社で伝えてほしくないことは産業医の先生にそう言って相談して」と伝えていただけると理想です。情報コントロールをしっかりすることで、相談しやすくなります。

④業務内容を調整する

不安神経症の患者さんでは、その症状の程度によって業務内容の調整が望ましいこともあります。

会社として気を付けた方がよい点は、運転業務や危険業務です。不安神経症の治療を始めていくと、ほとんどの場合で精神科のお薬を服用します。精神科のお薬は運転がダメと書いてあるものがほとんどなので、何か事故があった場合は会社の責任も問われてしまいます。

運転や危険作業をしない業務に変更するようにしましょう。ときに主治医に意見を求める会社もありますが、主治医からは添付文章に運転禁止と書かれているものに対して「運転可」とは書けません。

それ以外の業務で不安神経症の患者さんに向いている業務は、マニュアル化されていてやることが決まっている仕事です。

どこまで調整が可能かは、現実的には実際のマネージメントとのバランスかと思います。出来る範囲で業務調整をしてください。

 

まとめ

不安神経症では、仕事のスピードが遅くなり、人間関係もギクシャクしてしまいます。これが悪循環となり、仕事では誤解されてしまうことが多いです。

不安神経症の患者さんが向いているのは、やることが決められていてマニュアル化されている仕事です。一方で、自分で判断する仕事や、人との関わりが多い仕事は苦手とします。

不安神経症の患者さんは苦手な状況を把握して、できれば会社とも相談して仕事の中で治療をすすめていきましょう。ただし、状況によっては休職も必要になります。医師から休職をすすめられたときは、休んでしっかりと治療しましょう。

投稿者プロフィール

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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