適応障害は甘えなのか?適応障害の方への家族や職場での接し方
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
私たちは生きている中で、多くの人とかかわりあって生きていきます。みなそれぞれの家庭や仕事、趣味などをもっていて、コミュニティーの中で生きています。
そういった組織の環境は、常に同じではありません。時間の経過の中で変化し、私たちはその変化にうまく適応しながら生活しています。
ですが環境の変化に対してうまく適応できないと、ストレスから心身の不調が生じて適応障害となってしまいます。このようにお伝えすると、「本人が甘えているだけだ」と誤解されてしまうかもしれません。
ですが適応障害は誰にでも生じる可能性があり、有病率も5~20%ともいわれています。メンタルが強い人でも、どうしても価値観が合わないことがあれば適応障害となってしまうことがあります。
このような適応障害ですから、家族や職場の身の回りの方が発症することもあるかと思います。適応障害の方に対して、周囲の接し方はどのような形が理想なのでしょうか。
ここでは、適応障害が決して甘えではないということをお伝えしたうえで、周囲の家族や友人、職場での接し方についてお伝えしていきたいと思います。
1.適応障害と甘えの違いとは?
適応障害では、本人なりに上手く適応できないことのストレスで心身に症状が生じます。決して甘えではなく、むしろ自分自身でも「甘えではないか」と自責的な患者さんが多いです。
適応障害は、本人が環境に上手く適応できないことで発症します。ですからその多くは環境変化の時に発症し、しばしば周りからは甘えと誤解されてしまいます。
周りの方から見れば、「それくらい我慢して割り切るしかないよ…」「どうしてそんな些細なことで…」といったように受け取られてしまい、本人の甘えと誤解されてしまうのです。
確かに適応障害では、本人の要因が大きくて発症することもあります。ですが決してストレス耐性が低いというわけではなく、ストレスに強い人でもどうしても受け入れられないことはストレスになります。
周りからは一見すればよいことであっても、本人には変化に適応できずに適応障害を生じてしまうこともあります。職場で昇進したり、待望の子供を授かったり、玉の輿にのった時などに適応障害になることもあるのです。
適応障害という病気は、本人と環境の価値観が合わず、そのストレスから心身に様々な症状が認められる病気です。適応障害と診断されるということは、病気として治療をしたほうがよいということになります。病気と考えるための線引きとして、
- 想定以上に症状がひどい
- 生活上に支障が認められる
このどちらかが認められることと診断基準に記載されています。
適応障害の患者さんは、ストレスから心身に何らかの症状が認められることがほとんどです。何とか適応しようと頑張って結果、ストレスに体がついてこれなくて症状が認められているのです。ですから適応障害は、甘えではありません。本人の要因が大きかったとしても、その人なりに適応しようと努力しているのです。
適応障害になってしまう方は、どちらかというと自分を責めてしまうことのほうが多いです。「自分は甘えている」と感じてしまって相談できず、症状を悪化させてしまうことが少なくありません。本当に甘えてしまう人は、症状を大げさにアピールしたり、他罰的で環境を批判したりすることもあります。
2.適応障害の原因と治療を理解する
適応障害の治療では、原因として本人の要素と環境の要素のどちらが大きいかを見極めることが大切です。そのうえで、本人と環境の両面から治療を行っていきます。
適応障害の方への接し方を考えるにあたっては、適応障害がどのような原因で発症し、どのように治療していくのかを理解していく必要があります。
適応障害は、環境に上手く適応できないことが原因です。どうして環境に適応できないかというと、本人の価値観や特性と環境が求めている価値観や特性に大きなズレがあるためです。
自分が理想とする環境になることは少なく、環境が変化すれば誰でも多少のストレスはあります。新しい環境で求められる価値観、特性にできるだけ近づこうと努力し、そして適応していきます。適応障害ではそれが上手くできないのです。ですから適応障害では、
- 本人の要素
- 環境の要素
の2つがあります。どちらかだけのせいではなく、程度の差はあれ両方の要因があります。ですから適応障害の治療には、
- 自分が環境に適応できるようになっていく
- 環境を自分が適応しやすくしていく
という2つのアプローチがあります。本人の要素が強い適応障害の方は、自分自身の問題点に目を向けなければ根本的にはよくなりません。それに対して環境の要素が強い適応障害の方は、環境調整をすれば再発することは少ないです。
ですから適応障害では、まずは適応障害の原因を知っていく必要があります。詳しくは、「適応障害は環境のせい?適応障害の原因とは?」をお読みください。
そのうえで、本人と環境の両面から治療を進めていきます。本人の要素が強い場合は、環境調整というよりはむしろ、本人の適応力を高めることが大切です。そして環境の要素が強い場合は、環境調整を行いつつ、本人が改善できることも考えていきます。
このように適応障害の治療では、原因を踏まえながら、本人と環境の両面から治療を進めていきます。適応障害の治療については、「適応障害を完治させる治療法とは?適応障害の治し方」をお読みください。
3.適応障害の周囲の基本的な接し方
適応障害は、その原因が解消されると比較的すぐによくなることが多いです。適応障害だからと構えずに、普段とかわりなく接してください。
適応障害は、その原因となっている環境との不適応が解消されれば、比較的すぐに良くなる病気です。状態がよくなれば後にひきずる精神疾患ではなく、普通の人と同じになります。
しかしながら適応障害と診断されると、周囲の人はどのように接したら良いのか、わからなくなってしまうことも少なくありません。心身に不調が明らかな場合は、無理をさせない方が良いというのはわかります。適応障害がある程度よくなってから、どのように接すればよいのかがわからなくなってしまいます。
これは適応障害に限ったことではなく、精神疾患に広く見られます。身体の病気だったら明確なのですが、心の病気は目に見えずにわからないので、どう接すればよいのかわからなくなってしまいます。
それでは、あなたが適応障害から回復された患者さんだったら想像して、以下の2つの対応を考えてみてください。
- 出来るだけ無理させない接し方
- これまでと同じ普通の接し方
あなただったら、どちらの接し方を望みますか?
ストレスを与えてしまったら適応障害を再発してしまうのではないかと、腫れものを扱うかのようにびくびく接してこられたら、どのように感じますか?「自分のことはみんな扱いづらいんだ」「自分はもう期待されていないんだ」といった感じを受けてしまいませんか?
「変わってしまった現実」に対してうまく適応できず、それが原因で調子を崩してしまうこともあります。
このように想像してみると、「いつもと変わらずに普通に接してくれること」のほうが気持ちが楽だということがわかっていただけると思います。自分のことをあまり気遣われたくないというのが、多くの心の病気の患者さんの気持ちです。
ですから適応障害の患者さんに対しては、「いつもと同じ家族や友人、同僚や上司」として接してくれることが、もっとも基本的な接し方です。
4.適応障害の方への接し方は治療ステップで変わっていく
適応障害では、心身の状態がつらいときは共感的に接してください。落ち着いて来たら、少しずつ現実的な相談などもすすめてください。
適応障害の治療では、本人の要素と環境の要素の両方に目を向けていく必要があることをお伝えしていきました。
しかしながら症状がつらいときに、いきなり本人の要素に目を向けていくことはできません。まずは心身の状態を落ち着けることを大切にして、必要があれば環境調整などをしていきます。落ち着いて来たら、本人の要素にも目を向けていきます。
このように治療を進めていくため、周囲の方の接し方も2つのステップに分かれます。順番にご説明していきます。
①まずは本人に寄り添う
適応障害の症状で苦しまれているときには、まずは症状を落ち着けることが先決です。つらい症状のなかでは判断力が低下してしまって、正しく事実を認識して判断することができなくなっています。
お薬を使ったり、必要に応じて環境調整することによって、症状を和らげて心身を落ち着ける必要があります。
適応障害の原因として本人の要素が大きかったとしても、自分を見つめるということは大きなエネルギーを必要とします。正常な判断力がないときでは、むしろストレスとなって状態は悪化してしまいます。
ですから周囲の方の接し方も本人に寄り添い、共感的であることが理想的です。「そんなことがあるんだ。大変な中やってきたんだね」「仕事のことは気にしないで、まずはゆっくり休んでね」といった形です。
背中を押すつもりであっても、本人に期待をこめたり、努力をうながすことは避けてください。
「もう少し我慢すれば慣れてくるよ」
「もう少し何とかできる部分があると思うよ」
「みんな待っているから早く良くなって帰ってきてね」
こういった接し方は本人にプレッシャーとなり、焦りにつながってしまいます。
②落ち着いて来たら現実的な相談にのっていく
心身の状態が落ち着いて来れば、少しずつ現実的な問題に目を向けていく必要があります。
これまでを振り返りながら、自分自身と向き合い、そして環境にどのように向き合っていくのかを考えていく必要があります。もちろんストレスはかかりますので調子をみながらにはなります。ですが患者さんも、正常な判断力を取り戻して現実的に考えることができます。
とはいっても、一方的に押し付けたり、責めたりするということではありません。現実と向き合うのはストレスがかかることなので、本人の頑張りを支えて、背中を押すくらいがよいです。
そして本人と現実的なことについて、少しずつ話をしていくことはプラスになります。話をするだけで本人の中での考えが整理されますし、本人のことを考えたうえで周りの人が考えを伝えることは意見になります。
その時に意識していただきたいのが、youメッセージとiメッセージです。「あなたは~である」ではなく、「私は~だと思う」と主語を変えて伝えていただきたいのです。
「あなたは〇〇〇がダメだよ」ではなく、「私は〇〇〇にしていったほうが良いと思う」といった方が、相手にすんなりと伝わりやすいです。
③安易に現実から逃げないように背中を押す
状態が落ち着いて正常に判断できるようになったとはいっても、ネガティブに考えてしまう傾向にはあります。困難なことからは目をそむけたくなってしまいますし、現実から逃げてしまう選択肢をしてしまうこともあります。
こういったときは引き算で考えてしまっていることが多いので、足し算での考え方を促してみるのも方法です。
「いろいろな人に迷惑をかけたし、これからも上手くやっていく自信はないし、会社からも期待もしてもらえないだろう。だから仕事をやめるしかない…」と相談されたとしたら、「最悪会社を辞めてしまえばよいと考えれば、体調は少しずつよくなっているし、理解してくれる人もいる。やってみてから考えるのはどう?」などといった形です。
とくに適応障害を繰り返している人や、回避傾向が強い人は、現実から逃げてしまいがちになります。それは「甘え」といったものではなく、仕方がないことです。現実的な相談に乗っていく中でこういった傾向が認められた場合は、本人の気持ちを受け止めながらも、現実に向き合えるように背中を押すのが本人のためにもなります。
5.適応障害の方への誤解しやすい接し方
適応障害では、本人のストレス耐性のせいだと誤解されたり、精神疾患は何があるかわからないと誤解されてしまうことがあります。適応障害を正しく理解した接し方をしていただくことが、何よりの治療になります。
適応障害の患者さんへの接し方は、基本的には普段通りに接することになります。そして治療にはステップがあり、まずはゆっくりと休養し、症状が落ち着けば現実的な部分に目を向けていきます。
ですから周りの方の接し方も同様で、心身の体調がよくなければ無理をさせずにそっとしておき、調子が戻ってくれば普通に接していただくのが理想です。
適応障害の患者さんに接するにあたって誤解されやすいことを具体的にみていきましょう。以下の3つをよく誤解されています。
- 適応障害は甘えで、本人のストレス耐性の低さが原因だ
- 適応障害は治ったといっても、いつ再発するかわからない
- 適応障害の再発リスクがあるから、本人を叱咤激励できない
①適応障害の原因は、本人の甘えやストレス耐性の低さではない
繰り返しお伝えしてきましたが、適応障害は決して甘えではありません。適応できないこと=本人のストレス耐性が低いと誤解されがちですが、適応障害で問題となるのはストレスの質です。
毎日残業してもへっちゃらな人が、苦手な上司の下では不適応になってしまうこともあります。仕事もバリバリこなすし社交的な人でも、単調な仕事ばかりの業務では不適応になってしまうこともあります。
このように適応障害は、それぞれの価値観によってストレスのかかり方は変わります。人はそれぞれ異なる価値観を持っていて、十人十色です。周りからは些細に思えることでも、当人にとっては耐え難いことだってあります。そのことを理解してくださると、本人への接し方も変わるかと思います。
②適応障害は再発の多い病気ではない
また適応障害は、明確なストレス因が解消できれば、症状は次第に落ち着いてきます。症状が落ち着けば後に引きずることはなく、普通の生活ができます。
適応障害に限らず精神疾患は、「いつ再発するかわからない」と考えられてしまいがちです。このため、責任のある仕事は任せられないなどといったレッテルを張られてしまうこともあります。
ですが適応障害は、原因に折り合いがつけば普通に生活できる病気です。調子が落ち着いてきたら、これまでと同じような期待も持ちながら接していただければと思います。
③適応障害がよくなれば、ふつうに叱咤激励することは問題はない
同じように、「精神疾患は何があるかわからない」ということから、本人に対してキツイことを言ってはいけないのではないかと身構えてしまうこともあるかと思います。
症状が酷いときにはキツイことをいうべきではありませんが、症状がよくなってくれば普通に接していただいてよいのです。ミスがあれば事実を指摘して叱るべきですし、適度にはっぱをかけるのは差し支えありません。
うつ病では励ましはNGといいますが、適応障害で状態が回復されている方には適度な励ましも大切です。うつ病では病的な気分の落ち込みから正常に判断できず、何事も悲観的に考えてしまいます。ですが適応障害で回復された方は、正常な判断力に戻っています。本人の適応力を上げていくためには、背中を押してくれる存在はプラスになります。
このように適応障害では、誤解された接し方をされることが少なからずあります。適応障害という病気を正しくまわりが理解し、適切な接し方をしてくださることが何よりの治療になります。
まとめ
適応障害では、本人なりに上手く適応できないことのストレスで心身に症状が生じます。決して甘えではなく、むしろ自分自身でも「甘えではないか」と自責的な患者さんが多いです。
適応障害では、心身の状態がつらいときは共感的に接してください。落ち着いて来たら、少しずつ現実的な相談などもすすめてください。
適応障害では、本人のストレス耐性のせいだと誤解されたり、精神疾患は何があるかわからないと誤解されてしまうことがあります。適応障害を正しく理解した接し方をしていただくことが、何よりの治療になります。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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