クエチアピンの副作用(対策と比較)
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
クエチアピンは、2001年に発売された第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)セロクエルのジェネリックです。おもに統合失調症や双極性障害の治療に使われています。
クエチアピンは、いろいろな受容体に穏やかに作用するお薬です。抗精神病薬で多い錐体外路症状や高プロラクチン血症が極めて少ないお薬です。一方で、鎮静作用による眠気やふらつき、体重増加には注意が必要です。
ここでは、クエチアピンの副作用について詳しくお伝えしていきます。他の抗精神病薬とも比較しながら、対策を考えていきましょう。
1.クエチアピンの副作用とは?
- 第一世代抗精神病薬よりも全体的に副作用が少ない
- 体重増加・糖尿病・脂質異常症など、代謝系の副作用が多い
- 鎮静作用が強いので、眠気やふらつきが多い
- 錐体外路症状・高プロラクチン血症といったドパミン遮断作用による副作用が最も少ない
クエチアピンは、第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)になります。MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)に分類されていて、いろいろな受容体に作用するのが特徴です。ですが作用が優しいので、そこまで副作用は目立ちません。
第一世代の抗精神病薬(定型抗精神病薬)と比較すると、副作用は全体的に軽減されています。
- 錐体外路症状(ソワソワやふるえなど)
- 高プロラクチン血症(生理不順・性機能低下など)
といった副作用は大きく軽減されました。クエチアピンは、錐体外路症状や高プロラクチン血症が最も少ないお薬です。
しかしながら定型抗精神病薬よりも、代謝への悪影響が多くなってしまいました。この原因はよくわかっていませんが、クエチアピンでは体重増加や糖尿病、脂質異常症などがよく認められます。糖尿病の患者さんでは禁忌となっています。このため、定期的に採血をして確認していかなければいけません。
クエチアピンは、気持ちを抑える鎮静作用が強いお薬です。鎮静作用が強いお薬には眠気やふらつきがつきもので、クエチアピンでも注意しなければいけません。
クエチアピンの効果について詳しく知りたい方は、
クエチアピン錠の効果と特徴
をお読みください。
2.クエチアピンと他の抗精神病薬の副作用比較
第二世代抗精神病薬の中では、クエチアピンは副作用が全体的に多いです。
クエチアピンと代表的な抗精神病薬の副作用を比較してみましょう。まずはお薬の作用の特徴を比較してみましょう。
非定型抗精神病薬には、大きく3つのタイプが発売されています。それぞれの副作用の特徴をざっくりとお伝えしたいと思いま す。
- SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬):ドパミンとセロトニン遮断作用が中心
商品名:リスパダール・インヴェガ・ロナセン・ルーラン
特徴:ドパミン遮断作用による副作用が多め - MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬):いろいろな受容体に適度に作用
商品名:ジプレキサ・クエチアピン(セロクエル)
特徴:鎮静作用が強く、代謝への悪影響が大きい - DSS(ドパミン受容体部分作動薬):ドパミンの分泌量を調整
商品名:エビリファイ
特徴:副作用は全体的に少ないが、アカシジア(ソワソワ)が多い
定型抗精神病薬もまだまだ使われています。急性期の激しい症状を抑えるためには、定型抗精神病薬の方が効果が優れています。また、代謝への影響は定型抗精神病薬の方が少ないのです。
定型抗精神病薬は、セレネースの系統とコントミンの系統の2つに分けることができます。
- セレネース系(ブチロフェロン系):ドパミン遮断作用が強い
特徴:ドパミン遮断作用による副作用がとても多い - コントミン系(フェノチアジン系):いろいろな受容体に全体的に作用する
特徴:鎮静作用が強い
クエチアピンは非定型抗精神病薬のMARTAに分類されています。体重増加や眠気、ふらつきが目立ちます。具体的な症状で副作用を比較すると、以下の表のようになります。
3.クエチアピンの副作用
クエチアピンの特徴をふまえて、具体的な副作用についてみていきましょう。他剤とも比較しながら、それぞれの副作用への対策もお伝えしていきます。
3-1.錐体外路症状
クエチアピンでは、錐体外路症状はきわめて少ないです。
統合失調症では、ドパミンの過剰な分泌が幻覚や妄想といった陽性症状を引き起こします。抗精神病薬はドパミンの働きをブロックするお薬ですが、必要な部分でもドパミンをブロックしてしまうと副作用になります。
その症状のひとつが錐体外路症状です。脳の黒質線条体という部分では、身体の運動の細かな調節を勝手にしてくれています。黒質でドパミンが作られて線条体に伝えられています。お薬がこのドパミンの働きを邪魔してしまうと、運動の調節が上手くいかなくなってしまいます。この症状のことを錐体外路症状(EPS)といいます。
パーキンソン病という病気をご存知でしょうか?この病気は、黒質の神経細胞が変性してしまってドパミンが作れなくなってしまう病気です。ちょうどパーキンソン病に似た症状が出現します。その他にもいろいろな運動系の症状が認められることがあります。
- 薬剤性パーキンソニズム(ふるえ・筋肉のこわばり)
- アカシジア(ソワソワして落ち着かない)
- 急性ジストニア(筋肉の異常な収縮)
- ジスキネジア(勝手に身体が動く)
クエチアピンは、非定型抗精神病薬の中でも錐体外路症状はきわめて少ないです。
クエチアピンによる錐体外路症状への対策としては、3つあります。
- クエチアピンの減量
- 抗不安薬やβ遮断薬の追加
- 抗コリン薬の追加
まずは、クエチアピンの減量を考えます。量が少なくなれば症状も軽減するので、薬の効果をみながら減量していきます。
減量が難しい場合は、症状を緩和するお薬を使います。抗不安薬(ベンゾジアゼピン系)やβ遮断薬には、錐体外路症状を和らげる働きがあります。それでも効果が不十分なら、抗コリン薬で症状を緩和します。線条体では、アセチルコリンとドパミンがバランスを取り合っています。ドパミンが足りない時はアセチルコリンが過剰になっているので、抗コリン薬がこれを整えることでドパミンの働きを強くします。
このようなお薬としては、アキネトンやアーテンがよく使われます。その他にも、抗ヒスタミン薬に分類されるピレチア/ヒベルナも使われます。これらのお薬には、抗コリン作用があるためです。抗コリン薬にも副作用があり、尿閉・便秘といった身体症状だけでなく、認知機能に影響してせん妄が起こることがあります。必要最小限で使っていきます。
クエチアピンでは、他の抗精神病薬に切り替えなければいけないほどの錐体外路症状はほとんど認められません。
3-2.高プロラクチン血症
クエチアピンでは、高プロラクチン血症はとても少ないです。
クエチアピンが下垂体に作用してドパミンを遮断してしまうと、プロラクチンというホルモンを増やしてしまいます。プロラクチンは本来、子供が産まれてから授乳中の女性に分泌されるホルモンです。ですから、乳汁の分泌を促す作用があります。また、子育てをしている時には次の出産をする余裕もないですから、排卵を抑制して妊娠しないようにする作用もあります。
このため高プロラクチン血症になってしまうと、
- 急に母乳がでてくる(乳汁分泌)
- 生理が遅れてしまう(生理不順)
- 不妊になってしまう(無排卵・無月経)
などの副作用がみられます。女性だけでなく、男性でも症状がみられます。
- 胸がふくらんでくる(女性化乳房)
- 性欲が落ちる(性機能低下)
などの副作用がみられます。それ以外にも、骨粗鬆症や乳がんなどへのリスクも報告されているので注意が必要です。
このような症状がみられたときは、正確に診断するためにプロラクチン濃度を測る血液検査をします。プロラクチン濃度の理想は15以下といわれていますが、30を超えたら高プロラクチン血症と診断します。
クエチアピンでは、ドパミンに対する作用はそこまで強くないので高プロラクチン血症は少ないです。クエチアピンによって高プロラクチン血症の症状がみられたら、薬を中止して他の抗精神病薬にする必要があります。
3-3.便秘・口渇(抗コリン作用)
クエチアピンでは、あまり認められません。
抗精神病薬はアセチルコリンの働きをブロックしてしまうことがあります。アセチルコリンは副交感神経を刺激する作用があります。このため抗コリン作用とは、「リラックできない時はどういう身体の状態か?」をイメージすると理解しやすいです。
リラックしている時に食べ物の消化はすすみます。このため、唾液が分泌され、胃腸は動き、尿や便は排泄されやすくなります。抗コリン作用によってこれらの活動が抑えられると、口がかわいたり、便秘になったり、尿が出にくくなります。
クエチアピンでは抗コリン作用はわずかなため、副作用としてはほとんど認められません。
クエチアピンによる便秘や口渇への対策としては、3つあります。
- クエチアピンの減量
- 生活習慣の改善
- 下剤や漢方などの追加
まずはできる限り、クエチアピンを減薬していきます。それでも改善しない場合は、お薬以外で改善できることは試してみます。下剤や漢方薬などを追加していくこともあります。
詳しくは、「抗コリン作用とは?」をお読みください。
3-4.ふらつき
クエチアピンでは、ふらつきを認めることがあります。
ふらつきは、いろいろな作用が重なって認められる副作用です。眠気が強かったらフラフラしますよね?抗ヒスタミン作用が強いお薬では眠気が強く認められます。また、アドレナリンα1受容体は血管の調整を行っています。抗α1作用によって脳に血液が上手くいかなければ、クラクラしてしまいます。
クエチアピンでは抗ヒスタミン作用が中程度で、抗α1作用は強いです。このため、めまいやふらつき(起立性低血圧)が認められることがあります。
クエチアピンによるふらつきの対策としては、4つあります。
- クエチアピンの減量
- 生活習慣の改善
- 昇圧剤の追加
- 他の抗精神病薬への変更
まずはできる限り、クエチアピンを減量していきます。また、生活習慣でできることは改善していきます。
- 朝食を抜いている方は、しっかりととるようにする
- 立ち上がる時はゆっくりと身体を動かす
これでも日常生活に支障がある場合は、メトリジンやリズミックといった血圧を上げるお薬を使うことがあります。副作用を軽減するためにお薬を使うのはあまり好ましいことではないので、昇圧剤の量が増えてしまうのでしたら他の抗精神病薬に変更します。
3-5.眠気
クエチアピンでは、眠気が強いお薬です。
詳しくは、「セロクエルの眠気と6つの対策」をお読みください。
眠気は、抗ヒスタミン作用の影響が大きいです。抗ヒスタミン作用成分は、花粉症のお薬や風邪薬にも含まれています。これらの薬を飲んで眠くなる経験をされたことはありませんか?
ヒスタミンは覚醒状態に大切な脳内物質なので、これがブロックされると眠気が出てきてしまいます。他にも、セロトニン2受容体遮断作用やアドレナリンα1受容体遮断作用も眠気につながります。
クエチアピンは、抗ヒスタミン作用が強いです。セロトニン2受容体遮断作用も強く、アドレナリンα1受容体遮断作用も認められます。このため総合的にみると、クエチアピンでは眠気が強いです。
クエチアピンによる眠気の対策としては、大きく分けると4つあります。
- 睡眠環境や習慣を見直す
- クエチアピンの減量
- クエチアピンの飲み方を工夫する
- 他の抗精神病薬に変更
まずはクエチアピンをできる限り減量します。また、睡眠環境や習慣に関して、改善できることは見直していきます。詳しくは、「不眠を解消する9つの方法」「アルコール・タバコ・コーヒーと睡眠の関係」をお読みください。
効果を見ながら、就寝前や夕食後などにお薬を服用するなど、飲み方を工夫していくとうまくいくこともあります。お薬を変更するならば、インヴェガ・ロナセン・ルーラン・エビリファイなどに変更することもあります。
3-6.体重増加
クエチアピンでは、体重増加の副作用が目立ちます。糖尿病の方は使えません。
詳しく知りたい方は、「セロクエルは太るの?体重増加への5つの対策」をお読みください。
抗精神病薬では、ヒスタミン1受容体遮断作用やセロトニン2C受容体遮断作用によって食欲が増加します。食べてしまった分だけ太るのかというと、それだけではないのです。何らかの代謝への悪影響があることが分かっていて、実際に食べている以上に体重が増加してしまいます。糖尿病や脂質異常症などのリスクも、明らかに上昇します。
クエチアピンなどのMARTAでは、体重増加の副作用がとても多いです。ジプレキサやクエチアピンでは、糖尿病の患者さんには使うことができないお薬となっています。
クエチアピンは抗ヒスタミン作用が中程度で、セロトニン2C受容体遮断作用もわずかです。これによって食欲が増加するのですが、それ以上に代謝抑制作用が強いです。代謝抑制作用の原因はよくわかっていませんが、食べる量以上に太ってしまうのです。
クエチアピンによる体重増加の対策としては、4つあります。
- 体重測定・食事管理
- 運動
- クエチアピンの減量
- 他の抗精神病薬に変更
まずは食生活を整えましょう。カロリーを意識しながら食事をとるようにして、3食をバランスよくとることが必要です。そして、定期的に体重を測るようにしましょう。ちゃんと自分の体重を管理する習慣をつけましょう。また、運動習慣をつくりましょう。消費カロリーが増えれば体重が減少しますし、運動自体が精神的によい効果をもたらします。
そして可能であるならば、クエチアピンを減量します。クエチアピンは量と関係なく太ることもあるのですが、少なくなることで食欲増加はやや抑えられると考えられます。
体重増加傾向が改善できない場合は、クエチアピンの減量を検討します。効果をみながら、できる限り減量していきます。他の抗精神病薬に変更するとしたら、インヴェガ・ロナセン・ルーラン・エビリファイが候補になります。
まとめ
- 第一世代抗精神病薬よりも全体的に副作用が少ない
- 体重増加・糖尿病・脂質異常症など、代謝系の副作用が多い
- 鎮静作用が強いので、眠気やふらつきが多い
- 錐体外路症状・高プロラクチン血症といったドパミン遮断作用による副作用が最も少ない
第二世代抗精神病薬の中では、クエチアピンは副作用が全体的に多いです。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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