イナビルの予防投与の適応と効果
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
インフルエンザになってしまうと、周りにいる人のことも考えなければいけません。インフルエンザは感染してしまうので、患者さんのまわりの家族や職場の方も不安になるかと思います。
産業医として企業に訪問させていただくと、「インフルエンザ感染者と接触した方はどうすればよいのですか?」という質問もよくうけます。
イナビルはインフルエンザの患者さんを治す治療薬としてだけではなく、周りの方をインフルエンザから予防する効果も認められます。ここではそんなイナビルの予防投与をみてみましょう。
1.インフルエンザをイナビルで予防する必要性とは?
インフルエンザは「飛沫感染」と「接触感染」で他の人に移ってしまいます。手洗い・うがいだけでは防げないことも考慮して、イナビルを予防的に吸入することがあります。
インフルエンザにかかってしまうと高熱が出て、と患者さん自身がつらいのは当然ですが、患者さんのインフルエンザが周りの方に移るのも考えなくてはいけません。インフルエンザの感染経路は、
- 飛沫感染
- 接触感染
の大きく2つがあげられます。
飛沫感染とは、インフルエンザに感染している人の咳、クシャミ などによる飛沫が原因による感染です。接触感染とは、インフルエンザに感染している人が咳を手で抑えて、その手で触れたものにウイルスが付着します。さらにそれを触れた人が、その手で自分の身体を触ったり食事をして体内に侵入してしまう感染です。
このためインフルエンザの予防としては手洗い・うがいを基本にして、十分な睡眠、加湿、予防接種、人込みを避けるなどを意識することが大切です。
しかし免疫力が落ちてる人などは、それだけでは防げないことが多いです。そんな現状を踏まえて、イナビルの予防投与が行われることがあります。
2.イナビルの予防投与の適応とは?
イナビルの予防投与は、世間ではあまり知られていません。さらに治療ではないので自費になります。誰にでも勧められているわけではありませんが、ひとつの予防の方法にはなります。
ここでは、イナビルの予防投与はどのような方に使われるのか、建前と実情をみていきましょう。
2-1.添付文章でのイナビルの予防投与の対象とは?
インフルエンザ患者さんと同居している家族の方、もしくは共同生活者の中で、①65歳以上②肺や心臓に病気がある方③糖尿病や甲状腺に病気がある方④腎臓に障害がある方が対象とされています。
2016年の時点でイナビルの添付文章の記載では、インフルエンザ患者さんと同居している家族の方、もしくは共同生活者の中で、
- 高齢者(65 歳以上)
- 慢性呼吸器又は慢性心疾患
- 代謝性疾患(糖尿病など)
- 腎機能障害
が対象となっています。これらに当てはまる人は免疫が落ちており、インフルエンザにかかりやすい、もしくはかかった時に重症化しやすいです。このため、積極的なイナビルによる吸入予防が勧められています。
インフルエンザシーズンは非常にこみ合うため、医師は患者さんのことばかりに気を取られてしまい、家族に上記のような病気の方がいるか確認しないことの方が多いです。
自分が、もしくは家族に上の4つに当てはまる人がいたら、積極的に相談してみましょう。ただしこの予防内服は保険適応外としての処方です。これらの条件が当てはまっても、通常の治療と比較して治療費が高くなるので注意が必要です。
つまり自費診療になりますので、いつもの医療費の3倍強になってしまいます。そうするとイナビルの薬価が2000円程度ですので診察料などを含めると5000-7000円程度かと思います。
2-2.イナビルの予防対象でない人は処方されないのか?
上記の4つの条件が挙げられていますが、その他にも色々な病気を持った方もいるかと思います。もともと保険適応外の予防投与ですので、まずは医師に相談してみましょう。
家族でインフルエンザの人が出たら、積極的に予防内服して自分の身を守りたいと皆さん当然思うでしょう。ではなぜイナビルの予防投与に制限を加えたのでしょうか?
それは、本当に治療が必要な人に治療薬が足りなくなることを防ぐためです。インフルエンザは年によっては大流行します。最近では2009年の新型インフルエンザが思い出されます。この年のインフルエンザにかかった人は900万人以上でした。
2009年に日本にあったタミフルは400~500万程度でした。(2010年にイナビルが発売されたためこの年はまだありません。)この時、インフルエンザの治療薬が途中で足りなくなってしまうのでは?と当時は危惧されていました。
ですから国としても、インフルエンザの治療薬が途中で足りなくなってしまうのを防ぐために、このように予防投与するのにも制限を加えてあります。しかしこの条件に当てはまらなかったら全て処方しないのか?というと、現状では非常に難しいところです。
癌で抗癌剤の治療を受けている方、リウマチなどの膠原病で免疫抑制剤を処方されている方などは、65歳以上で元気な方よりも予防内服が必要かと思います。このような場合は、まず医師も予防投与してくれるでしょう。
上の4つに当てはまらないからイナビルの予防吸入は無理だと諦めるのではなく、まずは医師に相談してみましょう。もともと保険適応外ですので、場合によってはイナビルの予防内服が処方されることもあります。それこそ健康の方であっても、状況によっては、医師によっては処方されることがあります。病院に確認してみてください。
3.イナビルの予防投与の方法
イナビルの予防内服は、1キットを1日1回2日間で計2キットを吸入します。
家族にインフルエンザが発症した場合、特に重症化のリスクがある方はすぐに医療機関でイナビルの予防内服を希望しましょう。イナビルの作用機序は、インフルエンザウイルスを殺すことではなく、増殖を防ぐことにあります。
インフルエンザの予防投与ですので、インフルエンザが発症したら治療を考えていく必要があります。イナビルはインフルエンザウイルスの感染拡大を防ぐので、予防投与もできるだけ早い方が効果が期待できます。感染がうたがわれたら早期に内服することが大切です。
イナビルの予防内服は、1キットを1日1回2日間で計2キットを吸入します。治療に使用する際も同じ2キットですが、こちらは一度に2キット吸入するので間違えないようにしましょう。
4.イナビルの予防投与の効果とタミフルとの比較
イナビルを吸入してから10日間は予防されていると考えられています。タミフルとイナビルで予防効果については差がないと考えられています。
一番の予防方法は、インフルエンザワクチンの予防接種ですが、こちらも毎年流行するインフルエンザを予想して作られるため100%ではありません。
イナビルなどのインフルエンザ治療薬の予防投与は、インフルエンザワクチンより一般的には効果が落ちるといわれています。ただし、予防接種した上にイナビルを予防投与することは可能です。
気になるのは、どの薬を予防投与すると一番効果があるかということですが、タミフルとイナビルで予防効果に差があるといったことは報告されていません。タミフルもイナビルも10日間予防できるということで、期間も差がないです。
差があるとすれば、イナビルは2日間で予防投与できるの対して、タミフルは10日間毎日内服しなければならない点でしょう。
イナビルが短期間で長期に効果を認めるのは、気管や肺に存在する加水分解酵素により活性体のラニナミビルに変換され、そのまま標的器官である気管や肺に長時間貯留されるためです。このため2日間の予防投与で済むことができます。
ちなみに臨床試験で2日間と3日間で比較しましたが、10日間での効果には差がありませんでした。この結果をふまえて、イナビルの予防投与は2日間が採用されています。
タミフルは、自己判断でタミフルを途中でやめてしまっては予防になりません。(臨床研究で最低何日間飲まなければならないかは検証されておりません。)そればかりか、中途半端な量を内服してしまうと、タミフルが投与されているにも関わらず残った強いウイルスが発病する可能性があります。タミフルに耐性を持ったインフルエンザウイルスが発病すると、かなり治療が難しくなります。
このため、中途半端で飲むのをやめてしまいそうであれば、タミフルの予防内服はむしろ行わない方が良いです。途中で内服するのを忘れてしまいそうな方は、イナビルの予防投与の方が短時間で済む分良いかもしれません。
まとめ
- イナビルの予防内服は1キットを1日1回2日間吸入します。
- 一般的には吸入してから10日間は予防されているとされています。
- タミフルとイナビル、どちらがより予防効果があるといったことはありません。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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