肺炎球菌はなぜ脅威??肺炎球菌の肺炎の症状・治療とは?

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平成26年10月1日から、65歳以上を対象とした肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)が定期接種となりました 。一方で小児用の肺炎球菌ワクチン(プレベナー)も、赤ちゃんの頃から積極的にうつように言われています。

しかし、なぜ肺炎球菌のワクチンをうつ必要があるのでしょうか?疑問に思われる方も少なくないかと思います。肺炎球菌は肺炎を最も起こしやすい菌と同時に、非常に重症化しやすい菌です。

実際に日本の死亡率順の疾患では、1位癌、2位心疾患、そして3位がこの肺炎なのです。特に80歳以上になると肺炎のリスクが急激に高まり、85歳では死因の第2位、90歳以上では死因の第1位が肺炎です。

ここでは、命に関わる肺炎の最も原因として可能性が高い肺炎球菌の脅威についてみていきたいと思います。肺炎球菌による肺炎の症状と治療についてもみていきましょう。

 

1.肺炎球菌ってどんな菌?

成人が日常的にかかる肺炎の原因菌としては、肺炎球菌が一番多いと言われています。さらに肺炎に限らず、中耳炎や髄膜炎など他の部位にも感染しますし、全身に回ってしまうこともあります。

肺炎球菌は医療現場だと、

  • 肺炎双球菌
  • 肺炎レンサ球菌

とも呼ばれています。球とついてるのは菌の形が球状だからです。実際に菌がいるかどうかは、肺炎だと痰を顕微鏡で見て調べます。グラム染色といった染色で菌を染めてみると、紫色の球状のものが2つくっついて見えます。そのため、肺炎双球菌などと呼ばれます。

顕微鏡で実際に見ると、非常に特徴的な菌です。1881年に肺炎を契機に発見されたため、肺炎球菌と「肺炎」という単語がついています。実際に肺炎になった場合、原因菌として肺炎球菌は多いといわれています。我が国の成人肺炎ガイドラインをみると、

  1. 肺炎球菌(26.4%)
  2. インフルエンザ菌(18.5%)
  3. マイコプラズマ・クラミドフィラなどの非定型菌(11.3%)

となっています。ちなみに小児ではインフルエンザ菌が最も多く、肺炎球菌が2番目とされています。小児でも、肺炎の原因として非常に多い菌です。

また成人の中でも、高齢者の肺炎は誤嚥性肺炎の可能性が高いです。一般的には唾や食べ物が食道に行かずに肺に行くことで、一緒に入った口の中の菌(嫌気性菌)が繁殖することで誤嚥性肺炎は起こると考えられています。しかし起因菌をみてみると、最も多いのは肺炎球菌であったとするデータが非常に多いです。

このように肺炎の原因菌として有名な肺炎球菌ですが、「肺炎」以外の感染症の原因菌となることが近年分かっています。

小児では、特に中耳炎を引き起こしやすいです。お子さんでは鼻と耳をつなぐ耳管が短いため、鼻の中にいる肺炎球菌が耳の中で繁殖しやすいと言われています。

また、鼻の中にいる肺炎球菌がさらに奥に繁殖すると、脳にもおよびます。正確にいうと脳がぷかぷか浮かんでる髄液に感染するのです。髄液に感染すると、髄膜炎といって非常に重篤な病気になります。

髄液は基本的に無菌とされ、ばい菌が全くいない状態です。そのため防御態勢がほとんどないため、髄液で繁殖するとあっという間に悪くなってしまいます。激しい頭痛や嘔吐を伴い、最悪死にも至ります。

また「肺炎」「中耳炎」「髄膜炎」などが悪化すると、血液中に肺炎球菌が回り全身にいくようになります。これを敗血症と呼びます。敗血症は肺炎球菌に限らず全ての菌でありえるのですが、肺炎球菌は病状の進行が早いため起こりやすいと言われています。

この肺炎球菌の感染経路としては、肺炎などになっている方の咳やくしゃみによって周囲に飛び散り、それを吸い込んだ人へと広がっていくと考えられています。この咳やくしゃみで感染する経路を飛沫感染といいます。特に免疫力が弱い、

  • 65歳以上の高齢者
  • 小児の方

を中心に肺炎球菌は感染しやすいと言われています。そのため、これらの方でのワクチン接種が勧められるのです。

 

2.肺炎球菌の肺炎の特徴は?

咳・痰・発熱といった、風邪と区別がしづらい症状です。ただし、これらの症状が急激に悪化するのが肺炎球菌による肺炎の特徴です。

肺炎球菌は、先ほど肺炎に限らず様々な部位に感染すると書きましたが、ここでは肺炎を中心にみていきましょう。肺炎球菌に感染しても、症状は一般的な肺炎とあまり変わりありません。具体的には、

  • 発熱
  • 悪寒・だるさ
  • 息切れ・息苦しさ
  • せき

などです。これってよく考えると風邪の症状ですよね?実際に肺炎と風邪を症状だけで見分けるのは、至難の業です。

  • 風邪は微熱で、肺炎は高熱が出る。
  • 風邪の痰は透明で、肺炎は膿性痰である。

なんて区別してる参考書もありますが、あくまで頻度の問題です。

  • 微熱から始まる肺炎もある。
  • 透明な痰の肺炎もある。

ということなのです。そもそも風邪って病名自体、一般用語であり医学用語ではありません。一般的に風邪と言われる病気は、ウィルスが原因の上気道や下気道の感染症と考えられています。そのため医者は、風邪がどこの部位が感染して生じているのか考えて、

  • 咽頭炎
  • 上気道炎
  • 気管支炎

などと診断します。気管支炎と肺炎を見分けるのは、胸部レントゲン写真など写真を撮らないと絶対に分かりません。レントゲン写真でもわからないことも多いくらい、両者は見分けられないのです。

症状の違いで唯一いえるのは、

  • 風邪は数日から1週間程度で治ることが多い。
  • 肺炎は徐々に症状が悪化することが多い。

ということです。つまり風邪と診断していたら肺炎だったということは、実はかなり多いです。これは呼吸器内科の医師からしても、初診だけで全て鑑別するのは難しいと思います。初診では軽症で、後から肺炎が見つかることは多々あります。

肺炎球菌に話を戻しましょう。肺炎球菌の肺炎は他の菌に比べて進行が早いですし、重症化しやすいのが問題になります。

肺炎球菌は気管支ではなく、肺の実質(肺胞)を中心に感染していきます。実質を中心に感染する菌の方が重症化しやすいです。軽度の症状から肺炎が悪化すると、

  • 胸痛
  • 呼吸困難によるチアノーゼ
  • 意識障害

などが出ていきます。特に酸素が足りなくなる状態までいくと、非常に危険です。酸素が足りないと、最悪死に至ってしまいます。そのため息が苦しいといった症状が出た場合は、すぐに病院を受診するようにしましょう。

実際に肺炎の死亡率は、近年どんどん増えています。1980年代は、

  1. 心疾患
  2. 脳出血

が死因の三大原因でした。しかし2016年では、3位の脳出血が肺炎に置き換わっています。つまり死因として順位を上げているのです。さらに肺炎は、年齢が上がれば上がるほど上位にきます。85歳以上だと第2位、90歳以上だと、なんと癌を抜いて第1位に躍り出ます。

たかが肺炎などと甘く見てると、とても危険な病気なのです。

 

3.肺炎球菌はどうやって診断するの?

まず胸のレントゲンを撮影して肺炎と診断します。さらに、痰から肺炎球菌を認めた場合が確定診断になります。また最近では、尿を調べることで肺炎球菌に感染したか分かることがあります。

まず肺炎球菌含めて肺炎と診断するのには、胸のレントゲン写真が必須になります。実際に気管支炎か肺炎か鑑別する場合は、レントゲン写真で異常陰影がないかどうかです。

特に肺炎球菌は肺胞に直接浸潤して広がっていくため、非常に広範囲に浸潤影といってべたっとした白い陰影を伴うことが多いです。しかし胸部レントゲンは、正面から放射線を当てて撮影した「影絵」です。胸の中をレントゲンだけで診断するのは非常に難しいです。

  • 骨や肺の血管と肺炎を見間違えた
  • COPD(肺気腫)で肺の実質がそもそもレントゲンだと見えづらい
  • 横隔膜の下や心臓の影に肺炎が隠れていた

といったことは医療現場では多々あります。そのため胸部レントゲン写真は最初分からなくても、悪化してから発見されることも多いです。

このようにいうと誤診だと思われる方もいるかもしれませんが、熟練した呼吸器内科でもレントゲン写真は完全に読影するのは困難と言われています。呼吸器内科で有名な先生でも、

  • 3流はレントゲン写真の前で立ち尽くし
  • 2流はレントゲン写真の前でべらべら語りだし
  • 1流はレントゲン写真の前でまた黙ってしまう

と語った先生もいます。見習の医師はレントゲン写真が良くわからないため、あまり所見が読めません。一方である程度レントゲン写真が読めるようになると、色々な所見が分かってきて語ることができるようになります。

しかし多くのレントゲンを読めば読むほど、「このレントゲン写真はこうだと思ったら、実はこうだった…」ということが多々あります。そのためレントゲンの限界が分かってきて、また多くが語れなくなってしまうのです。

胸部レントゲン写真を細かく見る検査が、胸部CTになります。しかし胸部CTはクリニックではなく大きな病院でないと撮影できませんし、放射線の被ばく量もレントゲンの200倍になります。そのため、全身状態が悪い場合のみ胸部CTを含めた精査を考慮することになります。風邪か肺炎かの区別も難しいような軽症な方に、あえて胸部CTで調べることは一般的にはほとんどしません。

また肺炎と診断した場合、さらに肺炎球菌と診断するのも至難の業です。一番確実なのは、痰を調べることです。痰から肺炎球菌の様な菌の形をしたものが見えたり、実際に培養して肺炎球菌を認めたら確実です。

しかし難しいのは、痰から肺炎球菌っぽい菌がなく、培養から生えてこないからといって、絶対に肺炎球菌ではないということはできません。喀痰での診断率は6割程度と報告している論文もあれば、3~4割程度と報告している論文もあります。

しかし原因菌として最も可能性が高く、症状も重症化しやすい肺炎球菌を早急に調べるのは大切なことです。そのため医療現場では、おしっこを調べることで肺炎球菌を診断することができます。これは肺炎球菌に感染した場合、おしっこに肺炎球菌の一部(莢膜多糖抗原)が出てくるのを利用した検査です。

現時点では、他にも重症化しやすいレジオネラ菌がこの検査で検出されます。肺炎と診断されたのに何でおしっこを調べているんだ?って思ってる人もいたかもしれません。実は、肺炎球菌とレジオネラという問題のある菌を鑑別していたのです。

おしっこを調べるのは非常に利点が多いです。

  • 痰がでない、もしくは出しづらい人でも検査できる。
  • 15分程度で検査結果が出てくる。
  • 80~90種類ある肺炎球菌のほとんどの血清型の場合でも診断できる。
  • 他の菌と間違って診断する可能性がほとんどない

などが挙げられます。一方で欠点もあります。

  • 感度 70~80%・特異度94~99%のため、尿中抗原が陰性でも肺炎球菌は否定できない。
  • 感染後1か月~3か月間は、おしっこから肺炎球菌抗原が出続ける。
  • 透析中などおしっこが出ない人には検査できない。

特に、このおしっこの検査が陰性だからといって肺炎球菌ではないと言えないことが重要です。病気がある患者さんでも2~3割は見逃してしまうのです。またおしっこの検査が陽性でも、肺炎を繰り返している人だと前の肺炎の原因菌が肺炎球菌の可能性があります。

そのため一般的には、肺炎と診断した場合は、原因菌として最も多い肺炎球菌に効く抗菌薬(抗生物質)を選択して治療することが多いです。

 

4.肺炎球菌肺炎の治療法は?

ペニシリン系の薬を使用しますが、ペニシリン耐性の肺炎球菌が登場したため注意が必要です。

肺炎と診断された場合次にどうやったら治すのか気になるところです。肺炎は一般的に、ばい菌をやっつける抗菌薬を使用します。肺炎のガイドラインでは肺炎球菌の治療法として、外来と入院の2つのパターンで記載されています。具体的には、

<外来治療をする時>

  1. ペニシリン系(アモキシリン・ユナシン・オーグメンチン)
  2. ペネム系経口薬(ファロム)
  3. (ペニシリン耐性肺炎球菌が疑われる時)レスピラトリーキノロン経口薬(オゼックス・クラビット・スパラ・ガチフロ)  

<入院治療をする時> 

  1. ペニシリン系注射薬(ペニシリン G・ユナシン・ゾシン)
  2. セフトリアキソン(ロセフィン)
  3. 第4世代セフェム(プロアクト・ケイテン・マキシピーム・ファーストシン)
  4. カルバペネム系(チエナム・カルベニン・メロペン)
  5. バンコマイシン

と記載されています。なお()は商品名になります。この中で最も使用されるのが、外来・入院ともにペニシリン系です。肺炎球菌に限らず肺炎の方は、ペニシリンで治療することが多いです。

ここで大切なのは、ペニシリン耐性の肺炎球菌が近年登場していることです。ばい菌と抗菌薬は、「いたちごっこの世界」と言われています。これは、

  1. 菌に対して抗菌薬を乱雑する
  2. 抗菌薬に効かない菌(耐性菌)が生まれる
  3. また違う抗菌薬が登場する。

を繰り返すことから言われてる言葉です。実際に肺炎球菌も最もよく使われるペニシリン系に対して、

  • PSSP(penicillin-susceptible S.pneumoniae)・・・ペニシリンが効く肺炎球菌
  • PISP(Penicillin-intermediate S.pneumoniae)・・・ペニシリンに対して中等度耐性がある肺炎球菌
  • PRSP(penicillin-resistant S.pneumoniae)・・・ペニシリンに対して耐性がある肺炎球菌

となっています。最近このPRSPが増えてきたと報告があります。さらにこれらは実際に痰をペニシリンと一緒に育てて、どの濃度だと育って、どの濃度だとやっつけられたか見ることで診断されます。つまり肺炎球菌が育つまで、実際はどうか分かりません。

PRSPのリスクがある人として、

  1. 65歳以上
  2. アルコール多飲
  3. 幼児と同居
  4. 3ヶ月以内にペニシリン系の薬を使用

などが挙げられますが、これらも一般論です。どの方でもPRSPに感染する可能性があります。そのため肺炎と診断したら、クラビットやジェニラックなどといったニューキノロンから治療する医師も多いです。ただしニューキノロン系も、

  1. 乱雑するとニューキノロン系が効かなくなる菌が出てくる
  2. ニューキノロン自体が結核に効いてしまう
  3. 発熱などを抑えるロキソニンなどのNSAIDsと一緒に使用すると、けいれんが出現するリスクがある

などの問題点があります。特に問題なのが、②の結核に中途半端に効いてしまうことです。これだけ聞くと、結核もやっつけられていいんじゃ?と思われるかもしれません。

しかし結核は、

  1. イスコチン
  2. リファンピシン
  3. エブトール
  4. ピラマイド

といった複数の薬を、半年から9か月内服してようやく治療できる菌です。そのためニューキノロンだけで治療してしまうと、結核だった場合中途半端に効いてしまいます。中途半端に結核に効いてしまうと、診断が難しくなってしまいます。結核と診断するには、

  1. 胃液
  2. 気管支洗浄液 

などから結核菌を見つける必要があります。一番簡単なのは痰です。胃液は管をお鼻から入れてとるため、辛い検査になります。

さらに気管支洗浄液は気管支鏡といって、口からファイバーを入れて調べるのですが、非常に大変な検査になります。胃カメラは食べ物の通り道に入れるため、まだ楽です。

それに対して気管支鏡は、空気の通り道である気管支に強引にファイバーを入れていくため、かなり苦しいです。また施設によっては、全身麻酔をすると呼吸状態が悪くなるため、麻酔なしで行うところも多いです。

つまり中途半端に結核を治療してしまうと、後で結核が疑われても痰で診断できなくなってしまいます。しかし結核は他の人に移してしまう怖い病気のためほっとくわけにもいきません。そのため鼻に管を入れたり、口からファイバーを入れる検査を行わなければならなくなってしまいます。

そのため肺炎=全てニューキノロンは、かなりリスクがあります。

肺炎球菌の治療法を調べて「ペニシリン耐性」の文字を見つけた人は、ペニシリン系のお薬で治療していた場合心配になる人もいると思います。しかしペニシリン以外のお薬でも色々とデメリットがあると分かっていただけたら、呼吸器内科医としては嬉しい限りです。

一番大切なのは、そもそも肺炎球菌にかからないように予防することです。そのために肺炎球菌ワクチンが、65歳以上の高齢者や小児の方など重症化しやすい人に推奨されているのです。

ここまで読んで肺炎球菌の怖さが分かった65歳以上の方は、ぜひ肺炎球菌ワクチンを考慮してみましょう。成人の方は、ニューモバックスが適応になります。65歳以上ではない方でも、

  1. 脾摘患された方や鎌状赤血球などで脾機能不全である方
  2. 心・呼吸器の慢性疾患がある方
  3. 腎不全、肝機能障害がある方
  4. 糖尿病がある方
  5. 免疫抑制作用を有する治療が予定されている方

などはニューモバックスの対象となります。気になる方は一度医師に相談してみましょう。

 

まとめ

  • 肺炎球菌は、肺炎の中でも最も可能性が高い細菌です。
  • 肺炎球菌は、肺炎以外に中耳炎や髄膜炎の原因になります。
  • 肺炎球菌の肺炎は特徴的な症状はありませんが、急速に重症化しやすいです。
  • 肺炎球菌は痰やおしっこを調べて診断しますが、確実に診断するのは難しいです。
  • 肺炎球菌の治療はペニシリン系が多いですが、ペニシリンに耐性がある肺炎球菌も登場しています。
  • 高齢者・小児や免疫力が抑制されている方は、肺炎球菌ワクチンを考慮しましょう。

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