夏に注意するべき6つの食中毒~予防と対策~

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック

夏の暑い季節になってくると、食品には気を付けなければいけませんね。みなさんが注意をしていても、6月~10月にかけては食中毒のピークになっています。冬の食中毒はノロウイルスによるものがほとんどですが、夏の食中毒はさまざまな「細菌」が原因です。

ここでは、夏に注意しなければいけない6つの細菌について、その予防と対策をお伝えしていきたいと思います。

 

1.夏は細菌、冬はウイルス

夏の食中毒は、カンピロバクター・ウェルシュ・黄色ブドウ球菌・病原性大腸菌・サルモネラ・腸炎ビブリオの6つがほとんどです。

食中毒の原因になる病原体には、細菌とウイルスの2種類があります。食中毒の発生状況は季節によっても変化していきますが、夏は細菌、冬はウイルスに気を付ける必要があります。4月・5月と暖かくなるにつれて、細菌が繁殖しやすくなります。7月~10月にかけて細菌性食中毒がピークになり、少しずつ冬にかけて少なくなっていきます。その一方で、11月~2月にかけてノロウイルスによるウイルス性食中毒が流行します。

食中毒の原因となる細菌としては、カンピロバクター・ウェルシュ・黄色ブドウ球菌・病原性大腸菌・サルモネラ・腸炎ビブリオの6つが大部分を占めます。平成24年~26年でのデータをご紹介します。

細菌性食中毒の原因細菌ごとに患者数を3年通算して比較しました。

年によって多少の差はありますので、あえて3年間をまとめたグラフを作ってみました。こちらを見ていただくと、カンピロバクター・ウェルシュ菌・黄色ブドウ球菌・病原性大腸菌・サルモネラ・腸炎ビブリオの順番となっています。

 

2.夏と冬の食中毒の違い

ノロウイルスでは、「いかに周囲からもらってこないようにするか」が大切です。細菌性では、「いかに細菌を増やさないようにするか」が大切です。

夏の食中毒は細菌で、冬の食中毒はウイルスが中心です。同じ食中毒でも、その発生の特徴には違いがあります。その特徴を探っていきましょう。

まずは、細菌性とウイルス性の食中毒患者数をみてみましょう。ウイルス性のほとんどはノロウイルスですので、ノロウイルスのデータで比較してみます。

食中毒の患者数を3年間通算して、細菌性とウイルス性で比較しました。

このように、食中毒の患者数だけでみるとノロウイルスの方が多いです。ですが、ノロウイルスは感染力が強いので、ひとたび発生すると一気に広がってしまうという特徴があります。1事件あたりの患者数を比較してみましょう。

1回の食中毒が起こった時の、患者数の平均を細菌性とウイルス性で比較しました。

このように、細菌性の方が周囲への広がりは少ないことが分かります。ノロウイルスは感染力が非常に強く、10~100個のウイルスが体内に入ってくるだけで感染します。一方で細菌では、菌が食べ物の中で増殖して増えて、それを食することで感染します。ノロウイルスでは、「いかに周囲からもらってこないようにするか」が大切です。細菌性では、「いかに細菌を増やさないようにするか」が大切です。

 

3.夏の食中毒の原因

夏の食中毒の原因となる細菌としては、カンピロバクター・ウェルシュ菌・黄色ブドウ球菌・病原性大腸菌・サルモネラ・腸炎ビブリオの6つがあります。それぞれみていきましょう。

 

3-1.カンピロバクター

最も多い食中毒です。特に鶏肉に注意しましょう。

カンピロバクターによる食中毒は、もっとも多くみられる食中毒です。100個程度の少ない菌でも感染するので感染力は強いのですが、空気中では生きていけないので人から人へは感染していきません。

カンピロバクターは、ペットを含むあらゆる動物に存在しています。カンピロバクターにも17菌種が確認されていますが、その中でカンピロバクター・ジェジュニが大部分をしめます。カンピロバクターは、汚染された肉を食べることで感染することが多く、特に鶏肉に注意が必要です。鶏肉の汚染率は20~40%といわれています。原因の食事をとってから、2~5日程度の潜伏期をへて症状がでてきます。

ですから、夏場の鶏肉には要注意です。以下のことに注意しましょう。

①十分に加熱する。
②お肉と他の商品を分ける。
③お肉を扱ったら手を洗う。
④お肉を調理したら調理器具を洗浄殺菌する。

生肉は危険です。夏場は特に、十分に加熱しましょう。また、お肉から他のものに菌がうつってしまい、気づかずに食べてしまうこともあります。生肉を取り扱う時には周りのものにも注意しましょう。

 

3-2.ウェルシュ菌

集団発生することがあります。煮込み料理に気を付けましょう。

ウェルシュ菌は、人や動物の腸や土壌・下水など、いろいろなところに生息しています。酸素のないところで増殖し、芽胞という鎧を作るという特徴があります。このため、100℃で加熱しても1~6時間ほど死なずに生き残ります。1gあたり10万個以上に細菌が増殖して感染となるので、感染力の弱い菌ではあります。それではどのような時に感染してしまうのかというと、煮込み料理です。よくあるのが、煮込み料理を作って一晩寝かして、そのうちに増殖してしまうケースです。この料理が弁当屋・飲食店・旅館などで提供され、感染者が大人数になってしまうことも多いです。潜伏期は10時間ほどです。

ですから、夏場の煮込み料理には注意しましょう。以下のことに気をつけてください。

①作ったらすぐ食べる。
②保存する場合は、短時間で冷却して低温保存。
③再加熱するときは、十分に加熱する。

 

3-3.黄色ブドウ球菌

毒素は熱に強いです。おにぎりを作る時は手をよく洗いましょう。

動物に広く存在する菌で、人にもありふれて存在する細菌です。手足や鼻咽頭などに存在していて、エンテロトキシンという毒素を作ってしまい、これが悪さをします。菌そのものは熱ですぐに死んでしまいますが、毒素は100℃で30分加熱しても無毒化しません。ありとあらゆる食品が原因となりますが、一番よくあるのが「おにぎり」です。不衛生な手でおにぎりを握ると、毒素がこびりついてしまいます。4割ほどの原因がおにぎりといわれています。毒素なので身体に入るとすぐに悪さが始まります。潜伏期は1~3時間です。

ですから、夏場の手洗いは十分にしましょう。以下に気をつけてください。

①しっかりと手洗いをする。
②手に傷がある人は調理をしないor指サックをする。
③調理器具は洗浄する。
④食品を低温保存して菌の増殖を防ぐ。
⑤防虫・防鼠対策をする。

 

3-4.病原性大腸菌

激しい腹痛や血便がある方は要注意です。

大腸菌は、人も含めて動物の腸にも存在します。ほとんどのものは無害ですが、人に下痢などの消化器症状や合併症を起こすことがあり、これを病原性大腸菌と呼ばれています。病原性大腸菌が怖いのは、毒素を作って腸から出血させたり、腎臓を攻撃して溶血性尿毒症症候群(HUS)という急性腎不全をひきおこすことです。場合によっては死に至ることもあるので、3類感染症とされています。三類感染症とは、感染力や重症度からは危険性が高いとはいえないが、業務上注意を要する感染症のことで、医師も見つけたら保健所に報告しなければいけません。報告をうけた保健所は、原因の調査や感染の封じ込めに動きます。

病原性大腸菌の中で一番多いのは、「O157」と呼ばれる腸管出血性大腸菌です。ベロ毒素という強い毒素を持っていて、これが腸や腎臓を攻撃してしまうのです。感染力強く、少量の菌でも感染します。さまざまな食品が感染の原因になりますし、不衛生な井戸水からの感染も報告されています。食肉での報告例が多いので、やはりお肉の取り扱いには注意をしましょう。一時はほうれん草が危ないといわれていましたが、感染したイノシシからほうれん草に二次感染したと考えられています。3~8日の潜伏期と長く、症状のある人の6~7%に合併症がみられます。激しい腹痛や血便がある方は注意が必要です。

腸管出血性大腸菌は、加熱や消毒に弱いので、対策としては以下に気を付けましょう。

①しっかりと加熱する。(75℃1分以上)
②野菜は湯がきする。(100℃5秒程度)
③生肉の取り扱いに注意する。
④調理器具をしっかりと洗浄する。
⑤手洗いをしっかりする。

 

3-5.サルモネラ

卵と鶏肉に注意しましょう。

動物の腸や川・下水・湖など、広く自然界に存在しています。特に卵と鶏肉を通して感染することが多いので注意が必要です。感染するには大量の菌が必要と考えられてきましたが、最近は少量でも感染するケースが報告されています。幼児や高齢者には感染しやすいといわれています。乾燥に強いといわれています。6~72時間の潜伏期があります。

このため、夏場の卵と鶏肉には注意をしましょう。

①しっかり加熱する。(75℃1分以上)
②新鮮な卵以外は生で食べない。
③低温で保存する
④生肉の取り扱いに注意する。

 

3-6.腸炎ビブリオ

海産物はしっかり洗いましょう。

河口や沿岸などの海で生息している菌で、塩分を好む菌です。魚介類にくっついてやってきます。3%程度の塩分濃度で増殖がよくすすみますが、水や酸に弱いという弱点があります。食品衛生に関する知識が飲食業で広まって、発生件数はだいぶ減りました。最近は、家庭でポツポツと発生することが多くなっています。潜伏期は8~24時間です。

このような特徴の菌ですので、6月ころから海産物には注意をしましょう。

①海産物はよく洗う。
②海産物を使った調理器具はよく洗う。
③短時間でも冷蔵庫に保存する。
④加熱する。(60℃10分間で死ぬ)

 

4.夏の食中毒対策

8つのポイントに注意しながら、厚労省のパンフレットを確認してみましょう。

それでは、全部ひっくるめてどのようなことを意識すればよいでしょうか?これまでの話を整理してみましょう。

①できるだけ加熱。
②生肉の取り扱いに注意。
③魚は洗う。
④生卵は新鮮なものだけ
⑤調理器具やまな板も洗う。
⑥作り置きしない。
⑦保存は冷蔵・冷凍で。
⑧手洗いをしっかり

といったところでしょうか。これらを意識していくようにしましょう。

厚労省は食中毒の予防に関しては、「食中毒菌を付けない・増やさない・やっつける」の3つを原則としています。これに基づいて、家庭で食品と関係する6つの場面での注意点を啓発しています。

①食品の購入
②家庭での保存
③下準備
④調理
⑤食事
⑥残った食品

それぞれの具体的なポイントに関しては、
家庭でできる食中毒予防の6つのポイント
を参照してください。

 

まとめ

夏は、カンピロバクター・ウェルシュ・黄色ブドウ球菌・病原性大腸菌・サルモネラ・腸炎ビブリオの6つの細菌が原因となります。

ノロウイルスでは、「いかに周囲からもらってこないようにするか」が大切です。細菌性では、「いかに細菌を増やさないようにするか」が大切です。

カンピロバクターは鶏肉、ウェルシュ菌は煮込み料理、黄色ぶどう球菌はおにぎり、サルモネラは卵と鶏肉、腸炎ビブリオは海産物に注意しましょう。病原性大病菌は、激しい腹痛や血便がある方は要注意です。

食中毒の予防のために、以下の8点を意識しましょう。

①できるだけ加熱。
②生肉の取り扱いに注意。
③魚は洗う。
④生卵は新鮮なものだけ
⑤調理器具やまな板も洗う。
⑥作り置きしない。
⑦保存は冷蔵・冷凍で。
⑧手洗いをしっかり

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック