コートリル(コルチゾール)の副作用と安全性

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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コートリル(一般名:コルチゾール)は、主にステロイドホルモンが作られなくなるアジソン病で使用されるステロイドの経口薬です。

ステロイドと効くと気になるのが、副作用や安全性だと思います。ステロイドは非常に有用なお薬である一方で、様々な副作用があるのは事実です。

これは、コートリルを処方している医師は承知のうえで処方しています。コートリルを処方する場合は多くの場合、「背に腹は代えられない」ほどの治りづらい、もしくは急いで治さないと危ない病気になります。そのため副作用や安全性に関しては、ある程度リスクを背負わざるをえません。

ここではコートリルの副作用や安全性に関して一度確認してみましょう。

 

1.ステロイドであるコートリルが副作用が多い理由

ステロイドは、体内で作られているホルモンです。全身に作用することで、様々な部位に影響を与えます。良い面もあれば悪い面もたくさんあります。

ステロイドホルモンは、実は体の中で作られているホルモンです。副腎でヒドロコルチゾン(ステロイドの一種)に換算して、1日当たり5~30mgのステロイドが分泌されています。一日の中でも分泌量は変化していて、朝に多く分泌されて夜に低下していくホルモンです。

ステロイドホルモンは一言でいうと、「ストレスなどの負荷に対して、体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンです。ですから抗ストレスホルモンともいわれます。そのため一部の臓器に作用せず様々な臓器に作用します。

どのように元気にするかというと、攻撃のスイッチを入れる代わりに防御のスイッチを切る作用のあるホルモンなのです。朝にステロイドホルモン量が多いのは、活動性が上がるために攻撃のスイッチを入れる必要があるからです。つまりステロイドは良い面ばかりではなく悪い面もたくさんあります。

具体的なステロイドの作用ですが、

  作用機序 副作用
抗炎症
作用
炎症性の物質抑制(サイトカイン抑制)
炎症の経路抑制(アラキドン酸カスケード抑制)
 
免疫抑制作用 好中球、マクロファージなど体を守る免疫細胞の抑制
抗体産生の抑制(免疫反応の抑制)
感染しやすくなる
骨代謝
作用
腸管のカルシウム吸収抑制骨の細胞の分化抑制、破壊促進 骨粗しょう症
タンパク質異化作用 筋肉のたんぱく質を分解 筋力低下
糖代謝
作用
血糖値を上げる 糖尿病
脂肪代謝作用 体脂肪増加
コレステロール上昇
脂質異常症
満月様顔貌
水・電解質
作用
Na貯留
水分貯留
高血圧
むくみ

この中で、抗炎症作用と免疫抑制作用の効果を利用して治療することがステロイドは多いです。その他の様々な作用は、副作用となってしまうのです。

代表的な作用をここではあげましたが、他にも眼の眼圧を上げたり、血を固まりやすくするなどの様々な作用があります。

 

2.コートリルの副作用の特徴

コートリルの投与量及び投与期間によって、出現する副作用および頻度が大幅に変わります。特に硬質コルチコイドの作用が強いため浮腫、満月用顔貌、高血圧の頻度は他のステロイドに加えて高いです。

コートリルの添付文章では、詳細な副作用の試験は実施されていないとされています。そのためコートリルを内服したら、どのくらいの副作用が起きるか正確なデータがないのが実情です。そもそもコートリルでは、

  • 投与量
  • 投与期間

で全く副作用の出現頻度が違います。さらにいえば、

  • 年齢
  • 体の大きさ
  • 肝臓や腎臓の機能状態
  • ステロイドを使用する病態
  • 他にある病気の有無

によっても副作用は大幅に変わります。そのため、一概にどの副作用がどれくらい起きるかとは個々人によって大きく異なります。代表的な副作用としては、

  1. 満月様顔貌・肥満(ステロイドによる脂肪細胞の増殖および水分を体内に取り込む作用で起きます。)
  2. 細菌やカビなどの感染症に弱くなる(免疫を抑えるため防御が下がります。普段なら感染しないような特殊な菌にも感染しやすくなります。)
  3. 糖尿病(ステロイドが筋肉や脂肪を燃やし血糖値を上昇させます)
  4. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍(ステロイドが胃腸に働くことでストレスがかかります)
  5. 高血圧・浮腫(ステロイドで血管が収縮します。さらに水分やNaを貯留するため血管内の水分が増えます。)
  6. 肝機能障害(ステロイドが肝臓を通して炎症を抑えるため負担がかかります)
  7. 緑内障・白内障(ステロイドで眼圧が上がったり、目のレンズが濁ったります)
  8. 精神障害(ステロイドでイライラしたり眠れなくなります)
  9. 骨粗鬆症(ステロイドは骨にも作用し、骨密度が低下します)
  10. 筋力低下(ステロイドによる筋肉を分解する作用で筋力が低下します)
  11. 月経異常(ステロイドホルモンは性ホルモンと似ている部分があるため、生理不順が起きます)
  12. ニキビ・皮下出血(皮膚の代謝異常でおきます。ステロイドで皮膚や筋力が衰え出血しているように見えます)

ここにあげたのは代表的なものです。この中でコートリルの特徴として、水・電解質作用を引き起こす硬質コルチコイドの力価がステロイドの内服薬の中で最も高いことが挙げられます。

硬質コルチコイドの作用で

  • 高血圧
  • 満月用顔貌
  • むくみ
  • 心不全
  • 電解質異常

は他のステロイドよりも起きやすくなります。

多くの疾患に使用される抗炎症作用や免疫抑制作用は糖質コルチコイドによってもたらせられます。そのため硬質コルチコイドは副作用をもたらす作用のため敬遠されやすくなっています。

それぞれの副作用の対策はプレドニンと同じため、「プレドニンの副作用と対処法は?」を一読してみてください。

 

3.コートリルの安全性について

コートリルを使用するにあたり気を付けるべき点は多いですが、絶対に使用してはいけない病気や内服のお薬はありません。

コートリルの原則禁忌ですが、

  1. 感染症・全身の真菌症の患者[免疫が抑制されるため]
  2. 結核性疾患の患者[免疫が抑制されるため]
  3. 消化性潰瘍の患者[胃潰瘍が悪化するため]
  4. 精神病の患者[中枢神経に作用して精神症状が悪化するリスクがあるため]
  5. 単純疱疹性角膜炎の患者[免疫が抑制されるため]
  6. 白内障や緑内障の患者[水晶体線維や眼圧に影響するため]
  7. 高血圧症の患者[電解質代謝作用により、 高血圧症が悪化するため]
  8. 電解質異常のある患者[電解質代謝作用により、 電解質異常が悪化するため]
  9. 血栓症の患者[血液凝固促進作用により、血栓症が悪化するため]
  10. 直近に手術を行った患者[創傷治癒が障害されることがあるため]
  11. 急性心筋梗塞を起こした患者[心破裂を起こしたという報告があるため]

これら11項目が示されています。ただし「原則」禁忌と、原則の二文字が記載されています。これは、上記の疾患の患者さんには投与しないことを原則としますが、特に必要とする場合には慎重に投与するということです。

コートリルなどのステロイドは、必要とする場合にのみ投与するお薬です。多少の副作用があっても、「背に腹は代えられない」状態で使われるのです。

その他、禁忌までは行かなくても気を付けた方が良いとされている疾患は、

  1. 糖尿病の患者(血糖値が上昇するリスクがある)
  2. 骨粗鬆症の患者(骨がもろくなる可能性がある)
  3. 腎不全の患者(腎機能を悪化させる可能性がある)
  4. 肝機能低下・脂肪肝の患者(脂質代謝に働き、肝機能が悪くなる)
  5. 脂肪塞栓症の患者(脂質代謝に関与し、塞栓がさらにできる可能性がある)
  6. 重症筋無力症の患者(初期に症状が一時的に悪化することがある)
  7. 甲状腺機能低下の患者(甲状腺機能が悪化することがある)

の7項目が挙げられます。しかし先ほど同様に、①~⑦の項目は、ある程度他のお薬でコントロールができる病気です。ただし先ほど記載したようにコートリルは硬質コルチコイドの作用が強いお薬です。上にあげた疾患の中で、

  • 高血圧の患者
  • 電解質異常のある患者
  • 急性心筋梗塞を起こした患者
  • 腎不全の患者

の4つの疾患は硬質コルチコイドで悪化する病気です。そのためこの4つの病気の方はコートリルを内服する際はよく注意する必要があります。

 

次に内服中のお薬で気を付けた方が良いのは、添付文章では以下のものが記載されています。

  1. フェノバルビタール・フェニトイン・リファンピシン(コートリル自体の作用が弱まります)
  2. アスピリン・アスピリンダイアルミネート・サザピリン(サリチル酸中毒を引き起こす可能性があります)
  3. ワルファリンカリウム(抗凝固作用を弱めます)
  4. 経口糖尿病薬、(経口糖尿病用剤の効果を減弱させます。)
  5. 利尿剤(低カリウム血症を引き起こします)
  6. エストロゲン(コートリルの効果が増強する可能性があります)

以上のお薬をよく使う場合は、コートリルの効果が増強・減弱するため、それを予測して投与量を調整します。また電解質異常や血糖上昇などの副作用が出現するため、結果としてお薬の効果を弱めたり、他の薬の副作用と合わさって効果が大きくなったりします。

そのため上記の内服を他の医療機関で処方されている方はコートリルを内服している旨を必ず伝えるようにしましょう。

 

4.コートリルは妊婦さんにも安全か?

コートリルは、20~30mgであれば安全性が高いと言われています。

コートリルの副作用や安全性が強く言われているお薬ですと、妊娠中に内服する方は心配になりますよね?実際にコートリルの主成分であるステロイドは、お薬で内服しなくても我々の体で5~30mg作られているホルモン剤になります。

そのため、体内に全く存在しない異物を内服しているわけではありません。このため、妊婦に投与して良いお薬かどうか判断するオーストリア基準でもAランクになっています。オーストリア基準は以下の通りです。

胎児への安全性のカテゴリー

コートリルは最も評価が高いAのため、妊婦さんにとっても安全性が高いお薬といえます。一方でこれは、コートリルを20~30mg程度内服している時の話です。高用量であれば話は変わります。

実際にコートリルの添付文章でも、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること。[動物試験(ラット,マウス,ウサギ,ハムスター)で催奇形作用が報告されており,また,新生児に副腎不全を起こすことがある。]

と記載されています。こう記載されていると怖くなりますよね。ただし重要なのはコートリルがそもそも高用量必要な方は病気自体が非常に重篤なことが多いです。そのため

  • 自分の病気でコートリルを内服しないとどうなるか?
  • 自分の病気でコートリルは、今後どれくらい投与するのか?もしくは、どの程度減量できるのか?

特にコートリルが高用量内服している時は、あえて妊娠しない方が無難かと思います。

一番大切なのは、コートリルが怖いからといって自己中断してしまわないことです。特にコートリルを内服している多くの方はアジソン病といってステロイドが作られなくなる病気です。そのためステロイドを補充するのをやめてしまうと、妊娠のストレスも加わって、

  • 吐き気・嘔吐・下痢・腹痛などの腹部の症状
  • 発熱
  • 脱水症状・血圧低下
  • 意識障害
  • 呼吸困難

などの副腎不全の症状が一気に出てきます。これらは胎児に影響するばかりでなくご自身の命も危険にさらすことになります。ぜひ医師に相談して、妊娠と病気の治療を両立してください。

 

まとめ

  • コートリルは硬質コルチコイドの作用が強いお薬のため、むくみ、高血圧、心不全が他のステロイドに比べて起きやすいです。
  • コートリルは高血圧、電解質異常、心筋梗塞後、腎不全の方は注意が必要です。
  • コートリルはどのようなお薬を内服していても併用可能なお薬です。
  • コートリルは妊婦でも通常量であれば安全に使用できるお薬です。

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