睡眠薬(眠剤)の依存性と7つの対策

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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どんな人でも不眠になってしまうことはあります。みなさんは眠れない時は、どのように対処していますか?病院にいって睡眠薬をもらおうと考える方は少ないかと思います。

「睡眠薬は一度はじめたら、やめられなくなってしまう」そんな誤解をされている方がとても多いです。確かに睡眠薬には依存の問題があります。ですが、依存症になってしまう方はごくわずか、ちゃんと出口を見据えて使っていけば、睡眠薬も心配ありません。

眠れないと悪循環がはじまってしまいます。ここでは、多くの方が心配されている睡眠薬(眠剤)の依存性について理解していただき、心の健康に大切な睡眠をしっかりとセルフケアできるようにしていただければと思います。

 

1.日本人が一番頼るのは酒!

日本人は病院に受診するよりも、お酒に頼る方が多いです。これは大きな間違いです。

日本人は、不眠時はお酒に頼ります。

みなさんは寝付けない時にどのように対処しますか?

不眠で悩んだとき、日本人はお酒に頼ってしまうことが多いです。欧米人の方がお酒のイメージは強いかと思いますが、意外にも外国と比較してもかなり多いです。そして、医者に受診される方はダントツに低いのです。

お酒を飲むと寝つきがよくなると思われている方はかなり多いです。確かに寝つきは一時的によくなります。ですが、すぐに逆効果になってしまいます。続けて寝酒をしていると、次第にアルコール依存になってしまう方もいらっしゃいます。

不眠で悩んでいる方が病院にいかないのは、「睡眠薬の依存が怖い」ためです。アル中という言葉もあるくらい、アルコールの依存性は強いものがあります。それでも、「アルコールはみんなが飲んでいるから大丈夫、睡眠薬は薬だし怖い」という間違った判断をしてしまうのです。アルコールに頼ってしまって睡眠薬を怖がることは、矛盾しているということを理解してください。ほとんどの方がアルコールと上手く付き合えているので、睡眠薬ともうまく付き合っていけると理解してください。

そのためにも、睡眠薬での依存に関して理解を深めていきましょう。

 

2.アルコールから依存を考えてみよう

耐性・身体依存・精神依存によってコントロールを失うと「依存」になります。休肝日を作って、1日2合までに抑えれば、依存にならずにお酒を楽しめます。

睡眠薬依存のことを考える時は、アルコールを考えたらわかりやすいです。アルコールは、睡眠薬よりも依存になりやすいです。そんなアルコールですが、世の中のほとんどの方はうまく付き合って楽しんでいらっしゃいますよね。依存に関して、アルコールから学んでみましょう。

 

お酒を始めて飲んだのはいつでしょうか?多くの方が大学に入ってからだと思います。もちろん成人になってからでしょう。サークルや部活に入ってお酒を飲む方が多いのではないでしょうか?アルコールを最初からガンガン飲める人もいれば、全然飲めなかった方もいらっしゃるかと思います。弱かった人でも、お酒でつぶれていくうちに少しずつ強くなっていきますね。これを「耐性」といいます。

いつの間にかお酒をたくさん飲めるようになって、毎日の晩酌が楽しみになる方もいらっしゃいます。毎日お酒を飲むのが習慣になっていってしばらくたつと、身体にアルコールがあるのが当たり前になっていきます。すると残業で遅くなってしまったり、何かがきっかけでお酒が飲めない日があると、イライラしたり落ち着かなくなってしまいます。このような状態を「身体依存」といいます。

何か嫌なことがあると、飲んで忘れたくなりますね。お酒を飲むとストレスが発散できて楽になる方もいらっしゃると思います。これがクセになってしまうと、お酒がなくてはいられなくなってしまいます。冷蔵庫にお酒がないと落ち着かなくなってコンビニまで買いに出かけてしまうこともあるでしょう。このような状態を「精神依存」といいます。

多かれ少なかれ、このような状態はあるかもしれません。ですが、これは依存とは言いません。いつものお酒では酔えなくなり(耐性)、お酒がなくなると体調が悪くなってしまうため(身体依存)、お酒を探し回る(精神依存)ようになって、コントロールを失うとアルコール依存症といいます。

 

お酒を好きな方は、よく周りの方から言われる耳が痛い言葉があるかと思います。そう、「休肝日」です。休肝日は肝臓のためだけにあるのではなく、依存を作らないためにも重要なのです。アルコールが身体にない状態を作ることが、依存にならないために大切なのです。そして、1日1~2合までに量を抑えれば、お酒と楽しく付き合っていけるのです。決められた量でコントロールするということが大切なのです。

 

3.睡眠薬依存の3つの要素

睡眠薬にも身体依存・精神依存・耐性の3つの要素があります。ちゃんと注意してみていけば、まず依存にはなりません。

睡眠薬にも、身体依存・精神依存・耐性の3つの要素があります。この3つを注意していけば、睡眠薬依存になることもなければ、不眠が落ち着いてきたら薬を少しずつやめられます。

耐性とは、薬が体に慣れてしまい効果が薄れていくことです。はじめは1錠で効いていたのに少しずつ眠れなくなってしまう時は、耐性が形成されています。

身体依存とは、薬が急になくなってしまうことで身体がビックリしてしまう状態です。身体が薬のある状態に慣れてしまうことで、急になくなるとバランスが崩れてしまいます。身体の依存です。睡眠薬を急にやめてしまうと、むしろひどい不眠(反跳性不眠)や体調不良(離脱症状)におそわれることがあります。

精神依存とは、精神的に頼ってしまうということですが、これは効果の実感の強さが重要です。効果が早く実感され、効果がきれる実感が大きいものほど精神的に頼ってしまいます。心の依存です。不眠は非常につらいですから、睡眠薬には頼ってしまうようになります。

 

睡眠薬の依存を心配されている方も多いですが、アルコールに比べたらマシです。過度に心配することはありません。医師の指示通りの量を守って服用していれば、ほとんど問題ありません。睡眠薬依存が本当に問題になるのは、睡眠薬の量がどんどん増えて大量になってしまう方です。耐性ができて薬が効かなくなっていき、その結果どんどん薬の量が増えているのです。このような方は注意が必要ですが、ちゃんとある程度の量でコントロールできているならば大丈夫です。

 

4.睡眠薬による依存性の違い

効果が強く、半減期が短い睡眠薬の方が依存しやすいです。非ベンゾジアゼピン系の方が依存しにくいです。

現在の睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の2種類が主流です。古い睡眠薬である尿素系睡眠薬やバルビツール系睡眠薬もまれに使われますが、依存性がはるかに強いので現在はめったに処方されません。また、最近では依存性のない睡眠薬も開発されてきています。メラトニン受容体作動薬のロゼレムやオレキシン受容体拮抗薬のベルソムラなどですが、これらは即効性がないために合わない患者さんもいらっしゃいます。

ベンゾジアゼピン系睡眠薬や非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は依存性はありますが、バランスにすぐれているのです。これらの中での依存性の違いをみてみましょう。依存性が強い睡眠薬の特徴としては、以下の3つがあげられます。

  • ベンゾジアゼピン系>非ベンゾジアゼピン系
  • 効果が強い(力価が高い)睡眠薬
  • 薬の作用時間(半減期)が短い

 

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬はベンゾジアゼピン系睡眠薬に比べて依存性が少ないといわれています。また、身体への薬の影響の変化が大きいほど、心身ともに睡眠薬の影響が強く出るので依存しやすくなります。

効果の強い睡眠薬ですと、「効いた」という実感が強いです。精神的にも頼ってしまいますし、身体から抜けた時の変化も大きくなるので、依存になりやすくなります。薬の半減期が短くて作用時間が短い薬でも、「薬がきれた」という実感がでやすいです。身体からも急激に薬が抜けるので、依存になりやすくなります。

 

特定の睡眠薬をあげるならば、ハルシオン・サイレース/ロヒプノール・エリミンなどで注意が必要です。どれも効果が強力なベンゾジアゼピン系睡眠薬です。ハルシオンは半減期が最も短く、サイレース/ロヒプノールは催眠作用がとても強力です。エリミンでは、アルコールと併用することで多幸感が出てきて依存につながります。エリミンは、日本では2015年11月をめどに発売禁止になります。

 

5.睡眠薬以外の依存につながる要因

服薬期間が長く、量が多いと依存しやすいです。アルコールとの併用は絶対に避けましょう。睡眠薬以外の努力をしていくことも大切です。

睡眠薬自体ではなく、睡眠依存につながりやすい要因を考えていきましょう。依存につながりやすい要因として4つあげられます。

  • 服薬期間が長い
  • 睡眠薬の量が多い
  • アルコールと併用している
  • 睡眠薬以外の努力をしていない

 

服薬期間が長くなればなるほど、身体にとっては睡眠薬があるのが当たり前になってきます。睡眠薬依存の大きな特徴としては、精神依存が強いことです。「眠るためには睡眠薬がないとダメ」という思い込みが強くなってしまうのです。これは、年月が経てば経つほど強くなってしまいます。

睡眠薬の量が多いと、身体への影響も強くなってしまいます。薬が効かなくなって、ドンドンと薬の量が増えている場合は要注意です。身体が睡眠薬に慣れてしまって耐性ができています。

睡眠薬とアルコールの併用は絶対にやめましょう。眠れないから寝酒をしている方も多いかも知れませんが、これは睡眠には悪影響です。それに加えて睡眠薬と併用すると、相互作用で睡眠薬の影響が増大してしまい、依存になりやすくなってしまいます。

不眠の解消に有効なのは睡眠薬だけではありません。睡眠薬だけに頼ってしまうので精神依存が強くなってしまうのです。睡眠によい生活習慣を積極的に取り入れましょう。睡眠薬以外の柱を作っておくと、依存にはなりにくいです。

 

6.睡眠薬依存にならないための対策とは?

睡眠薬依存になりやすい要因をみてきましたが、どのような点に注意すれば睡眠薬依存にならないですむでしょうか?

 

6-1.なるべく非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を使う

マイスリー・アモバン・ルネスタといった非ベンゾジアゼピン系睡眠薬をなるべく使いましょう。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の方が、ベンゾジアゼピン系睡眠薬よりも依存しにくいと考えられています。

ルネスタでは1年、マイスリーでは8か月連続服用しても耐性が認められなかったとする報告があります。これには、睡眠効果のあるベンゾジアゼピン受容体(ω1受容体)への作用の緩やかさが関係していると考えられています。

非ベンゾジアゼピン系睡眠薬は作用時間の短いものしかありません。基本的には入眠障害を改善する睡眠薬です。

 

6-2.適切な強さの睡眠薬を使う

不眠の程度にあった、適切な強さの睡眠薬を使いましょう。

不眠は苦しいので、できるだけ早く改善したい気持ちになるかもしれません。ですが、必要以上に強い睡眠薬を使わないようにしましょう。薬を選ぶのは医者側のモラルや意識もあります。薬がすぐに効いて不眠が改善したら、患者さんにも感謝されます。ですが本当に患者さんのことを思うならば、弱い薬から少しずつ強くしていく方がよいのです。

ハルシオンやロヒプノール/サイレースなどの強い睡眠薬を出すと、すぐに効くので名医気分を味わえますが、それはあるべき姿ではありません。もちろん効果を優先しなければいけない場合もありますが、できるだけ焦らずに適切な薬をみつけましょう。

睡眠状態が安定してきたら、今度は少しずつ薬を弱くしていく意識も大切です。必要がなくなっているのに強い薬を使い続けないようにします。

 

6-3.作用時間(半減期)が長い睡眠薬を使う

中途覚醒や早朝覚醒で悩んでいる時は、半減期が長い睡眠薬の方が依存性は少ないです。

依存の起こりやすさという面だけを考えると、作用時間が長い薬の方が安全です。身体から睡眠薬が抜けていくのがゆっくりなので影響が少ないのです。薬が「効いてきた」という実感や、「きれた」という実感も少ないのです。

中途覚醒や早朝覚醒で悩んでいる方は、作用時間が長い薬を選ぶのもよいかもしれません。ですが、これらの睡眠薬は寝付きやすい土台を作るようなお薬です。効果がじわじわと出てくるので、即効性がない方もいらっしゃいます。また、睡眠薬が身体にたまっていくので、日中の眠気やふらつきなどの副作用が起こりやすくなります。

 

6-4.なるべく睡眠薬の服用期間を短くする

必要がなくなったら睡眠薬は減らしていく意識が大切です。

睡眠薬も必要がなくなったら減らしていく意識が必要です。服薬期間が長くなるほど、依存しやすくなります。精神的にも薬に頼ってしまいます。身体に負担の少ない優しい睡眠薬でしたら無理することもないのですが、できれば睡眠薬を減らしていく意識をもつことが大切です。

 

6-5.睡眠薬の量はなるべく少なくする

必要最小限の睡眠薬を使っていくようにしましょう。

睡眠薬を使っていく時は、できるだけ少なく使っていくのが原則です。理想をいえば、休肝日のように「休薬日」があるとよいです。

睡眠薬を使う時のステップとしては3段階あります。

①ベッドに入って眠れない時だけ頓服で使う
②睡眠薬を少しだけ常用して、眠れない時だけ頓服を追加
③睡眠薬をしっかりと常用

心身の状態によって、早く睡眠の改善をした方がよいときは②から始めていきます。ですが、仕事の前だけはしっかり寝たいという方や、日によって眠れる日があるという方は、できるだけ①から始めていった方がよいです。

 

6-6.アルコールと一緒に飲まない

絶対にやめましょう。

アルコールとの併用は絶対にやめましょう。睡眠薬とアルコールを併用すると、相互作用により睡眠薬とアルコールの影響が増大します。アルコールにも睡眠薬にも依存しやすくなってしまいます。人生を狂わすレベルでの睡眠薬依存になってしまう方の多くは、アルコールとの併用が多いです。一緒に飲むことは絶対にやめましょう。

 

6-7.睡眠薬以外の柱を作る

薬に頼るのではなく、睡眠によい生活習慣や自律訓練法などを取り入れましょう。

不眠の治療は薬だけではありません。睡眠によい生活習慣や自律訓練法などを活用しましょう。睡眠薬依存の大きな特徴は、精神依存が多いことです。不眠は改善しているのに、睡眠薬に頼ってしまってやめられなくなってしまいます。ですから、睡眠薬以外の柱を作ることが大切なのです。これは、飲みはじめから実践している方が効果的です。そのおかげで眠れていると思えますから。

睡眠に良い生活習慣を取り入れるようにしましょう。

不眠を解消するためのポイントを3つ示し、それぞれに具体的な方法を3つずつ紹介しました。

詳しく知りたい方は
不眠を解消する9つの方法
をお読みください。

 

自律訓練法などの自己暗示のリラックス方法を身につけるのも手です。身体の緊張状態とリラックス状態を知って、自分でリラックス状態を作れるようにしていきます。

詳しく知りたい方は、
自分でできる!自律訓練法の効果
をお読みください。

 

まとめ

日本人は病院に受診するよりも、お酒に頼る方が多いです。これは大きな間違いです。

睡眠薬にも身体依存・精神依存・耐性の3つの要素があります。ですが、ちゃんと注意していれば依存にはなりません。

効果が強く、半減期が短い睡眠薬の方が依存しやすいです。非ベンゾジアゼピン系の方が依存しにくいです。服薬期間が長く、量が多いと依存しやすいです。アルコールとの併用は絶対に避けましょう。睡眠薬以外の努力をしていくことも大切です。

睡眠薬依存を避けるための対策としては、以下の7つがあります。

  • なるべく非ベンゾジアゼピン系睡眠薬を使う
  • 適切な強さの睡眠薬を使う
  • 作用時間(半減期)が長い睡眠薬を使う
  • なるべく睡眠薬の服薬期間を短くする
  • 睡眠薬の量はなるべく少なくする
  • アルコールと一緒に飲まない
  • 睡眠薬以外の柱を作る

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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