パキシルの妊娠と授乳への影響とは?
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
パキシルはすぐにやめることもできない薬ですので、女性の方は妊娠や授乳への影響を心配をされる方も多いと思います。予想外の妊娠がわかって慌てている方もいらっしゃるかもしれません。
パキシルは妊娠に影響がないでしょうか?
飲みながら妊娠しても大丈夫でしょうか?
飲みながら授乳しても大丈夫でしょうか?
ここでは、そんなパキシルの妊娠や授乳に対する疑問について考えていきたいと思います。
1.パキシルの妊娠への影響
心臓奇形が増えるという報告もあるので、できれば服薬を避けた方がよいです。出産後に赤ちゃんに影響がでることがあるので、産科の先生に服薬していることを必ず伝えましょう。
パキシルの薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)をみてみると、
「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合以外には投与しないこと。」
となっています。つまりは、「絶対に安全とはいえないけど、必要ならば使ってもよいよ」ということです。これは他のSSRIと同じなのですが、パキシルだけは怖い一文がくっついています。
「本剤を投与された婦人が出産した新生児では先天異常のリスクが増加するとの報告があるので・・・」
いったいどのような報告なのでしょうか?アメリカの疫学調査では、パキシルを使っていると心室中隔欠損を中心とした心血管系異常が増加したという報告がされました。心血管系異常は通常1%ですが、パキシルでは2%になったという結果が出ています。先天異常全体で見ても、通常3%のところが、パキシルでは4%となったという結果が出ています。
一方で、スウェーデンで行われた最新の調査では、先天異常全体でみるとリスクはかわらない(通常4.8%:パキシル4.9%)という結果がでています。ですが心血管系異常に関しては、同様の増加傾向(通常1%:パキシル2%)が示されています。
他にも色々な研究のなかで、パキシルは先天異常には関係しないとする報告もあります。ですから、「パキシルは奇形を引き起こす」とはっきりと結論づけられているわけではありません。ですが、心臓奇形が増える可能性は考慮しなければいけません。できれば妊娠を考える時は、パキシルを避けた方がよいです。
パキシルを飲んでいて思いがけずに妊娠がわかってしまっても、過度に心配しないでください。パキシルで増加するかもしれない心室中隔欠損ですが、生後に手術してよくなることがほとんどです。本当にパキシルの影響なのかもはっきりとわかっていないのですから。
どちらかというと、赤ちゃんが産まれた後の方が注意が必要です。妊娠の終わりにパキシルを服用していると、赤ちゃんが生まれてきてから離脱症状や中毒症状が起こることがあります。症状の程度に差がありますが、10~30%程度に認められると言われています。
よく見られる症状としては、落ち着かない、すぐに泣く、ふるえ、筋肉が緩む、筋肉が硬くなる、呼吸困難になる、哺乳がうまくできないなどです。ですが、早めに見つけて症状を和らげる治療をおこなっていけば、問題ないことがほとんどです。後遺症が残るたぐいのものではないので、過度に心配する必要はありません。
大切なことは、パキシルを内服していることを、ちゃんとお産をする病院で伝えてください。事前にしっておけば、離脱症状のリスクも考えて赤ちゃんの状態を注意深く見守ることができます。また、何か症状がみられるとすぐに原因がわかるので早期治療につなげられます。
パキシルを飲んでいる方は、計画的に妊娠を考えていただいた方がよいです。ですが、万が一薬を飲んでいる時に妊娠が発覚したとしても、過度に心配しなくて大丈夫です。はっきりした胎児への影響があるわけではありません。主治医と相談して、できる範囲で薬を減らしていくようにしましょう。漢方や心理療法などもうまく利用すると、薬を減らしていくこともできます。
2.抗うつ剤の妊娠への影響の比較
抗うつ薬のほとんどは、「絶対に安全とは言えないけど、大きな問題はないだろう」と考えられています。もちろん薬は飲まないに越したことはないですが、お母さんが不安定になってしまったら赤ちゃんにもよくありません。
ですから、無理をしてはいけません。抗うつ薬の妊娠への影響を比較してみましょう。
2-1.パキシルのガイドラインでの位置づけ
妊娠へのリスクは、FDA基準では「D」、山下分類では「E」となっています。
アメリカ食品医薬品局(FDA)が出している薬剤胎児危険度分類基準というものがあります。現在のところ、もっとも信頼性が高い基準となっています。この基準では、薬剤の胎児への危険度を「A・B・C・D・×」の5段階に分けられています。
A:ヒト対象試験で、危険性がみいだされない
B:ヒトでの危険性の証拠はない
C:危険性を否定することができない
D:危険性を示す確かな証拠がある
×:妊娠中は禁忌
妊娠での薬の危険性をまとめたものは、日本では公的なものがありません。薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)を参考にした山下の分類というものがあります。この分類では、「A・B・C・E・E・E+・F・-」の8段階に分類しています。妊娠と授乳をひっくるめて分類しています。
A:投与禁止
B:投与禁止が望ましい
C:授乳禁止
E:有益性使用
E:3か月以内と後期では有益性使用
E+:可能な限り単独使用
F:慎重使用
-:注意なし(≠絶対安全)
2-2.抗うつ剤での妊娠リスクの比較
パキシルは、抗うつ薬の中では比較的リスクが高いと考えられています。
SSRIでは、大きな奇形がみられたという報告はなく、ほとんど影響がないといわれてきました。最近になって、パキシルでは心室中隔欠損という心臓奇形が増加する可能性が指摘されています。否定的な報告もあり、まだはっきりとわかっていませんが、妊娠を考える時は避けた方が無難です。
FDA基準でも、他のSSRIがCに対して、パキシルではDに引き下げられています。ルボックス/デプロメールは相互作用が強く、他の薬の成分の血中濃度を上げてしまいます。その結果、他の薬と合わせて使った時にリスクが高まってしまうため使わない方がよいといわれています。パキシルとジェイゾロフトは、比較的安全と考えられています。
ドグマチールは生理不順になったりすることが多く、母乳へも薬が出ていきやすいので、妊娠出産を考える女性には使いにくいお薬です。昔からある三環系・四環系抗うつ薬では、大量に使った時に奇形の報告もされているので、妊娠中の安全性は劣ります。特にアナフラニールでは、心血管奇形が増えるという報告もあり注意が必要です。
妊娠への薬の影響を詳しく知りたい方は、
妊娠への薬の影響とは?よくある6つの疑問
をお読みください。
3.パキシルの授乳への影響
安全性は比較的高いと考えられています。
パキシルの薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)をみてみると、
「授乳中の婦人への投与は避けることが望ましいが、やむを得ず投与する場合は授乳を避けさせること」
となっています。ですが、海外のガイドラインなどをみてみると、授乳への安全性は高いといわれています。パキシルは母乳に出ていってしまうことがわかっていて、外国人の実験ですが1.4%ほど母乳に移行してしまうことが報告されています。ですが、これによる赤ちゃんへの影響はほとんどないと考えられています。
ですから医師の立場としては、「安全性は高いといわれているけど、リスクも踏まえて自己判断してください」と患者さんに説明せざるを得なくなってしまいます。母乳保育のメリットは、単に栄養補給だけでなく様々なメリットがあることがわかってきているので、止めてくださいとも言いにくいのです。
パキシルは服用しながら授乳をしても大きな問題はおきないと考えられていますが、用心するならば生後2か月は気を付けた方がよいかも知れません。この頃は、肝臓や腎臓の機能が未熟なので薬が分解されにくく、また脳のバリア(脳血液関門)も十分に出来上がっていません。少量の薬も、大きく影響してしまうことがあります。メリットの大きい初乳だけは赤ちゃんに与えて、生後2か月までは人工乳保育をするのも方法です。
パキシルを飲みながら母乳保育をしていく決断をされた方は、できるだけ赤ちゃんに影響が出ない工夫をしましょう。抗うつ剤の中ではパキシルは安全性が高いので、薬を変更する必要はありません。授乳した直後に内服をするなど、飲み方の工夫をしましょう。パキシルを服用すると4~5時間で血中濃度がピークになります。できるだけ、そのピークをずらしましょう。
赤ちゃんの影響を心配して、薬を中止しようと思われる方もいらっしゃるかと思います。ですが、無理をしてはいけません。お母さんが健康で元気でなければ、お子さんの成長にも影響しますので、ご自身のことを大事にしてください。
ただでさえ、人生でも数えるほどの大イベントを乗り越え、生活も一変したかと思います。夜泣きで赤ちゃんに起こされることもしばしば、ホルモンのバランスも崩れていますし、妊娠出産のダメージの回復もあります。
ですから、必要なお薬はしっかりと続けていく必要があります。パキシルは比較的安全といわれていますし、わずかなパキシルが母乳に含まれていたとしても、赤ちゃんにとってもメリットも大きいこともあります。主治医の先生に相談して、気持ちを整理しましょう。
4.抗うつ剤の授乳への影響の比較
抗うつ薬のほとんどは、比較的安全といわれています。ですが、薬の説明書には「服用する場合は授乳を避けること」とされています。それでは、どの抗うつ薬で安全性が高いでしょうか?抗うつ薬の授乳への影響を比較してみてみましょう。
4-1.パキシルのガイドラインでの位置づけ
パキシルの授乳へのリスクは、Hale分類では「L2」、山下分類では「B~C」となっています。
薬の授乳に与える影響に関しては、Hale授乳危険度分類がよく使われます。Medication and Mothers’ Milkというベストセラーの中で紹介されている分類です。
この分類では「L1~L5」の5段階に薬剤を分類しています。新薬は情報がないのでL3に分類されます。
L1:最も安全
L2:比較的安全
L3:おそらく安全・新薬・情報不足
L4:おそらく危険
L5:危険
授乳での危険度を分類したものも妊娠と同様、日本にはありません。薬の説明書(添付文章・インタビューフォーム)を参考にした山下の分類があります。上述しました通り、「A・B・C・E・E・E+・F・-」の8段階に分類しています。
A:投与禁止
B:投与禁止が望ましい
C:授乳禁止
E:有益性使用
E:3か月以内と後期では有益性使用
E+:可能な限り単独使用
F:慎重使用
-:注意なし(≠絶対安全)
4-2.抗うつ剤での授乳リスクの比較
パキシルは、他の抗うつ剤と比較して、比較的安全と考えられています。
SSRIは、どれも比較的安全といわれています。4剤で比較すると、パキシルとジェイゾロフトで母乳に出てしまう薬の量が少ないことがわかっています。
ジェイゾロフトの方が全体的に副作用も少ないので、Haleの分類ではジェイゾロフトがL1、パキシルがL2となっています。レクサプロでは、薬が母乳に出ていきやすいことがわかっています。それでもL2となっているのは、レクサプロが副作用の少ない抗うつ薬だからです。
その他の抗うつ薬でも、比較的安全性は高いといわれています。ですが、日本の添付文章を参考にした山下分類では、ほとんどが授乳を避けた方がよいor授乳禁止となっています。古くからある三環系抗うつ薬のアモキサンだけが、有益使用となっています。これは、古い薬なので添付文章が厳しくないためです。
確かにアモキサンは、三環系抗うつ薬の中では副作用が少ないです。ですが、より副作用の少ない新しい抗うつ薬が軒並み禁止とされているので、違和感は大きいかと思います。時代の変化を反映しているのでしょう。
薬の授乳への影響に関して詳しく知りたい方は、
授乳への薬の影響
をお読みください。
まとめ
パキシルは、SSRIの中では妊娠へのリスクが高いと考えられています。授乳中の安全性は比較的高いといわれています。
心臓奇形が増えるという報告もあるので、注意が必要です。
妊娠中は、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」
授乳は、「授乳を避けること」
とされてしまいます。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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