2017年2月1日 / 最終更新日時 : 2017年1月25日元住吉こころみクリニックムコフィリン(アセチルシステイン)

アセチルシステイン吸入液の効果と副作用

元住吉こころみクリニック: 2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック

アセチルシステイン吸入液は、去痰薬として使用されているムコフィリン吸入液のジェネリック医薬品です。

アセチルシステイン吸入液は痰の成分のジスルフィド結合を分解することで、痰のネバネバを取る効果があります。ただしアセチルシステイン吸入液は、ネブライザーという特殊な機械を使用して吸入するため、自宅でアセチルシステイン吸入液を使用する場合はネブライザーを購入する必要があります。

アセチルシステイン吸入液は副作用も少なく安全に使用されるお薬のため、慢性的に痰がでる病気に使用します。ただし病気が治るわけではないためアセチルシステイン吸入液をずっと使用する必要があります。

ここでは、アセチルシステイン吸入液の効果と特徴についてみていきましょう。

１．アセチルシステイン吸入液のメリット・デメリットは？

＜メリット＞

痰の粘度を低下してさらさらにする
痰を産生する杯細胞の形成を抑制する
副作用が少なく安全性が高い

＜デメリット＞

ネブライザーの吸入器が必要
硫黄臭がする
痰の原因疾患を治すわけではない
さらさらの痰には効果がない

アセチルシステイン吸入液は痰切りとして使用される吸入液です。痰切りの効果としては、

痰のジスルフィド結合を分解して痰をさらさらにする

という効果を示します。アセチルシステイン吸入液は、吸入液としてネブライザーという機械を使って吸入することがほとんどです。

そのためアセチルシステイン吸入液は風邪などの一過性に使うことはほとんどなく、気管支拡張症や肺気腫、喘息などで常に痰がネバネバして出しづらい人が、ネブライザーを購入して吸入することが多いです。また吸入する時に、アセチルシステイン吸入液は硫黄臭がするため臭いが嫌という人もいます。

ただしアセチルシステイン吸入液は、安全性が非常に高いお薬です。実際に副作用もほとんどないですし、使用できない病気や飲み合わせが悪いお薬もありません。

一方でアセチルシステイン吸入液は、痰を分解してさらさらにする効果しかないということです。つまりアセチルシステイン吸入液は、痰がでる原因自体を治療するお薬ではありません。アセチルシステイン吸入液はあくまでも対処療法にすぎません。そのためアセチルシステイン吸入液を吸入する人は、基本的にずっと吸入する必要があります。

またアセチルシステイン吸入液は、さらさらした痰が大量に出てくるような人には向いていません。痰をもっとさらさらにして、出しづらくしてしまいます。そのため、硬くてネバネバした痰に使用するようにしましょう。

２．アセチルシステイン吸入液の適応と用量は？

アセチルシステイン吸入液は、ネバネバして固い痰に適応があります。アセチルシステイン吸入液をネブライザーを使用して吸入します。

アセチルシステインの剤型は、

アセチルシステイン内用液　17.6%
アセチルシステイン吸入液20%　17.62%２ｍＬ

と内用液と吸入液があります。ただしアセチルシステインの内用液は、アセトアミノフェンを大量投与した際のアセトアミノフェン中毒を解毒する作用があるお薬です。そのため内用液と吸入液で全く適応が変わるので注意が必要です。このページでは、アセチルシステインの吸入液を中心にまとめていきます。

アセチルシステイン吸入液は適応疾患は、

慢性気管支炎、肺気腫、肺化膿症、肺炎、気管支拡張症、肺結核、囊胞性線維症、気管支喘息、上気道炎（咽頭炎、喉頭炎）、術後肺合併症の去痰
気管支造影、気管支鏡検査、肺癌細胞診、気管切開術の善後処置

です。ここで注意が必要なのは、これらの疾患の治療ではないことです。去痰と書かれているように、アセチルシステイン吸入液は痰を除去するのみの薬です。そのためアセチルシステイン吸入液を使用する方は、基本的に長い付き合いになることが多いです。アセチルシステイン吸入液の投与量ですが、

アセチルシステイン吸入液を通常、1回1～4mL を単独又は他の薬剤を混じて気管内に直接注入するか，噴霧吸入する

となっています。1～4mLと幅があるように添付文章ではありますが、アセチルシステイン吸入液が効かないからといって倍量で内服することはほとんどありません。原因にもよりますが、効果が不十分な場合は他の内服薬を追加する場合が多いです。

また直接注入や噴霧と記載されていますが、現時点ではネブライザーで噴霧して気管支内に到達させて作用することがほとんどです。

３．アセチルシステイン吸入液の薬価は？

アセチルシステイン吸入液は、ムコフィリンのジェネリック医薬品です。とはいえ、薬価は大きくは変わりません。

次にアセチルシステイン吸入液の薬価です。アセチルシステイン吸入液はムコフィリン吸入液のジェネリック医薬品として発売されています。まず先発品のムコフィリン吸入液の薬価ですが、

	剤型	薬価	3割負担
ムコフィリン吸入液	20%	60.0円	18円

※2017年1月15日の薬価です。

となっています。次に後発品のアセチルシステイン吸入液の薬価ですが、

	剤型	薬価	3割負担
アセチルシステイン吸入液Na	20%	49.6円	15円

※2017年1月15日の薬価です。

このように、ジェネリック医薬品のアセチルシステイン吸入液Na吸入液として先発品のアセチルシステイン吸入液と比較すると、8割程度の薬価で購入できます。

わずかな価格差ではありますが、アセチルシステインを自宅で吸入する人は基本的に長期間に渡って吸入することがほとんどです。長い期間でみると差はでてきますので、価格が気になる人はジェネリック医薬品を選択してもよいかもしれません。

４．アセチルシステイン吸入液の副作用は？

アセチルシステイン吸入液は、ほとんど副作用がないお薬です。ただし、硫黄臭が気になる人は注意してください。

アセチルシステイン吸入液の添付文章には、細かな副作用を実地したデータがないと記載されています。先発品のムコフィリンですが総症例2,634例中、332例（12.60%）の副作用が報告されています。しかし最も多い副作用が、

硫黄臭・刺激臭

となっています。これは副作用でもなんでもありません。ムコフィリン吸入液は、臭いがある吸入薬なのです。それも硫黄臭、分かりやすく言うと「おなら」の様なにおいです。基本的にアセチルシステインもムコフィリンと同じ主成分のためこの不快な臭いは変わりません。

これらを不快だと感じた人が副作用として伝えたため、12.6%という数字になっています。臭いに関してはどうしようもないので、アセチルシステイン吸入液のにおいが嫌な人は別のネブライザーのお薬を使用します。

インタール
ビソルボン

などがネブライザーで使用するお薬としては多いでしょうか。その一方で、この臭いにおい以外の副作用はほとんどありません。実際に私も処方して、アセチルシステイン吸入液で副作用が起きた例は経験ないです。

５．アセチルシステイン吸入液が吸入できない人は？

アセチルシステイン吸入液が吸入できない(意味がない)人は、さらさらした痰が大量に出てる人です。

アセチルシステイン吸入液の添付文章では、禁忌にあたる人は存在しません。また飲み合わせも全く問題にならないため、どのような内服薬を使用している人でも使用することが可能なお薬です。

アセチルシステイン吸入液を吸入できない人、というよりは意味がない人は痰がサラサラな病態の方です。アセチルシステイン吸入液は、痰のネバネバをさらさらに分解して出しやすくする吸入液です。つまり、もとからサラサラな人にアセチルシステイン吸入液を吸入しても意味があまりありません。

むしろさらに痰がサラサラになり、だしづらくなる人もいるかと思います。そのため、必ず医師にはどんな痰がでるか性状を細かく伝えましょう。

特にアセチルシステイン吸入液の添付文章でも、

気管支喘息、呼吸機能不全を伴う患者〔気管支痙攣を起こすことがあるので、異常が認められた場合には投与を中止し、気管支拡張剤の投与等の適切な処置を行うこと。〕

と気管支喘息が名指しで指摘されています。気管支喘息は気道の慢性炎症によって気管支が狭くなる病気です。そのためアセチルシステイン吸入液などの吸入液の刺激で逆に発作が悪化することがあるとも言われています。そのため、喘息発作で受診した際のネブライザーは、

などβ2刺激薬のみを吸入することがほとんどです。気管支喘息で病院を受診する方は、救急外来が多いかと思います。救急外来は、基本少数の医師が大勢の患者さんを診ることがほとんどです。そのためセット処方といって、決まった症状や病気には、万人受けお薬が投与されるようにオーダーすることが多いです。

そのため、

臭いがきつい
ネバネバした痰がないと意味がない
逆に刺激になって喘息が悪化する

ことからなどから、喘息の人にアセチルシステイン吸入液を決めつけで一緒に投与することは少ないです。ただし患者さんによっては、ネバネバした痰がアセチルシステイン吸入液で良くなったという患者さんもいます。

「あの臭いにおいがないと、吸入薬を吸った気にならない」という方もいらっしゃいます。

６．ムコフィリン吸入液とアセチルシステイン吸入液の効果と副作用の比較

先発品・ジェネリックの効果と副作用は、大きな違いはないと考えられます。

多くの方が気になるのは、先発品のムコフィリン吸入液とジェネリック医薬品のアセチル吸入液で、効果と副作用が同じかどうかだと思います。

ジェネリック医薬品では、有効成分は先発品とまったく同じものを使っています。ですから、効果や副作用の大まかな特徴は同じになります。先発品とジェネリック医薬品の違いは、薬を作るときの製造技術です。ジェネリック医薬品を作る時に求められるのは、薬の吸収・排泄と安定性の2つが先発品と同等であることです。

実際に先発品のムコフィリン吸入液とアセチルシステイン吸入液は主成分は全く同じです。

ジェネリック医薬品について詳しく知りたい方は、「ジェネリック医薬品の問題点とは？ジェネリックの効果と副作用」をお読みください。

７．アセチルシステイン吸入液が向いてる人は？

＜向いてる人＞

肺気腫、喘息や気管支拡張症など慢性的に痰がでる病気
間質性肺炎の方

アセチルシステイン吸入液は、ネブライザーを使用して使用する痰切りのお薬です。

そもそも痰とは、正常な人にも作られています。気管支などにある杯細胞などから粘液物がでてきて、肺の中を綺麗にしています。杯細胞が出した粘液物をゴミとしてまとめたのが痰になります。

実は痰として肺や咽頭で作られたゴミは、少ない場合は食道の方に落ちていきます。食道は胃につながっているため全く問題になりません。ただしこの痰の量が増えて咽頭から口に溜まる場合が、喀痰として症状となって表れます。

喀痰の原因は、

異物が体に入ってきたのを粘液物で絡めとって外に出す防御反応
気管支や咽頭のどこかから粘液物が漏れ出ている

このように2つあります。

喀痰について詳しく知りたい方は、「痰はどうして出るのか？喀痰の原因と病気の見分け方」を参照してみてください。

このような背景を踏まえたうえで、アセチルシステイン吸入液はどのような人に向いてるのか考えてみましょう。アセチルシステイン吸入液はネブライザーを購入して使用するため、風邪などの一過性に痰がでる疾患には向きません。一番良いのは、ずっと慢性的に痰がでる

気管支拡張症
COPD
喘息

などの病気です。これらの病気は、アセチルシステイン吸入液以外の治療薬で基本的には治療します。しかし重篤な病態までいくと、どうにもこうにも痰が切れないことが多い病気でもあります。

特に気管支拡張症やCOPDは、コントロールするのが難しいです。こういった方は夜間を中心に痰が切れずに、一日中不快感が付きまといます。痰が喀痰できなくて苦しい方は、ネブライザーを購入して痰が固くて出しづらくなるごとに、アセチルシステイン吸入液を吸うこともあります。

実際にCOPDなどはタバコで肺がボロボロになる病気ですが、治すことがほとんどできません。そのため、アセチルシステイン吸入液などを定期的に吸入して痰を出しやすくし続けることで、息苦しさなどの改善もデータとして示されています。

もし喘息発作などで痰が固くて取れなくて苦しさがある場合は、吸入する前に事前に医師や看護師に伝えましょう。喘息発作で受診した際のネブライザーは、

などβ2刺激薬が吸入します。この際、病院によって痰切りを一緒に投与するかどうか意見が分かれています。もし痰が固くて取れないのであれば、これらβ2刺激薬と一緒にアセチルシステイン吸入液の吸入も考慮してもらえるかもしれません。

アセチルシステイン吸入液が使用されるもう一つの疾患が間質性肺炎です。実は日本では、まだ適応疾患に入っていません。しかし世界では、間質性肺炎でアセチルシステイン吸入液を定期的に吸入し続ける人もいます。

一部ではアセチルシステイン吸入液を吸入し続けることで、間質性肺炎の増悪が防げたというデータがあるからです。ただしこれは確立されておらず、間質性肺炎に対してアセチルシステイン吸入液を吸っても吸わなくてもあまり差がないというデータもあるため、一定の見解が得られていません。

日本の保険診療は、確実に効果があると認められたものしか適応が通らないため、現時点ではアセチルシステイン吸入液は間質性肺炎に対して適応がありません。

一方で間質性肺炎に対して、今のところ有効な手立てはありません。

ピレスパ
オフェブ

などの新薬が、一部の間質性肺炎(肺線維症)に対して適応があります。しかしこれらの薬は、悪化するスピードを緩徐にするのみでよくすることはありません。基本的には間質性肺炎は、急激に悪化した場合はソルメルコートなどでステロイドを大量に投与し、その後プレドニンの内服を継続するといった流れが多いです。

ただし改善する可能性は低いうえに、ステロイドの副作用に苦しむことが多いです。そのため間質性肺炎は、実は癌より治療薬がない分、予後が悪いと言われています。こういった実情を踏まえ、間質性肺炎の専門病院では、間質性肺炎に効くかもしれないアセチルシステイン吸入液を導入することもあります。

間質性肺炎にアセチルシステイン吸入液を投与することの是非については、今後もデータが待たれています。

８．アセチルシステイン吸入液の作用機序は？

アセチルシステイン吸入液は、痰のジスルフィド結合を分解して痰をさらさらにします。

痰切りの去痰剤などは色々なお薬が処方されています。その中でも色々なタイプがあります。大まかなタイプを下にまとめました。

種類	作用機序	代表薬
気道分泌促進薬	気道の中のさらさらの痰を増やすことで、気道を綺麗にする。	ビソルボン
気道粘液溶解薬	ネバネバの痰をさらさらに変える。	アセチルシステイン吸入液
気道粘液修復薬	淡の粘液を整える。	ムコダイン
気道潤滑薬	気道内のサーファクタントを活発にして、気道を掃除する。	ムコソルバン