臨床研修制度と新内科専門医制度を踏まえて、内科医はどう経験を積んでいくのか
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
医学部に入学すると、医学の知識に触れていきます。大学5・6年生になると実習形式での授業となり、大学病院で患者さんと接していくことになります。そして卒業と同時に国家試験を受け、合格すれば晴れて医師免許を取得できます。
医師免許を持ったからといって大学を卒業したての医者は技術も経験もなく、いってしまえば健康オタクにすぎません。
かつて医者は、医局と呼ばれる専門分野の教室に入局するのがスタンダートでした。医局の管理のもとで、専門的な知識や経験、技術を身につけていったのです。それでは医者の知識が偏ってしまうといわれ、平成16年から臨床研修制度が導入されました。
制度導入から今年で10年あまりが経過し、私たちはちょうどその変遷期で医学を学びました。そして平成29年、新内科専門医制度が導入されます。
ここでは臨床研修制度における内科研修から、内科でのキャリアの積み方の実際をお伝えしていきたいと思います。その上で、新内科専門医制度になることでの問題点を考えていきたいと思います。
内科医がどのように経験を積むのかをお伝えすることで、患者さんが信頼できる内科の主治医をみつけられる一助になればと思います。
1.臨床研修制度では、どのように内科を勉強するの?
市中病院か大学病院で研修をうけますが、カリキュラムはそれぞれの病院で異なります。
一般的には医師国家試験に合格して晴れて医師になると、ほとんどは研修医になります。実はこの研修医になりたての時期が、もっとも医学全般に対する「知識」は豊富な時期です。それ以降は自分の専門分野や得意分野への知識は深まりますが、その他の使わない知識は薄れていきます。
ストレート入局制度ではあまりに専門分野に偏り過ぎてしまうとして、平成16年度から臨床研修制度が導入されました。はじめの2年間は研修医として、内科を中心に様々な診療科を数か月単位でローテーションしながら経験を積んでいくことになりました。
その内容は研修病院によってさまざまです。いわゆる市中病院では、よくある病気をたくさんみていきます。ギリギリの医療体制の病院も多く、研修医が即戦力とされる病院もあります。大学病院では、難しい病気を多くの専門医と共に診ていくことが多いです。自分で治療の意思決定をすることは比較的少なく、臨床経験に関してはゆっくりと身につけていきます。論文の書き方や専門的知識の教育などをうけることができます。
どっちがよいかは一長一短ですが、市中病院の研修医は軍曹に、大学病院の研修医はエリートの少尉になるというのが、強ち間違いではないかもしれません。
そして内科は2年間のうち、必ず数か月回ることは義務付けられてます。内科も様々な専門分野に分かれていますので、どの内科を回るのかは各々の病院のカリキュラムや個々の医師の選択によります。
多くの病院で、消化器内科と循環器内科は経験することになるかと思います。なかには消化器内科と循環器内科しか研修していない人もいれば、内科全科を1ヶ月ずつ研修している人もいます。これもどれが良いという正解はありません。
研修の2年間はカリキュラムに従って色々な科を回りますが、研修医の選択により内容は異なります。
臨床研修でどのような病院で働いていたかは、その後の医者としての仕事観に大きな影響があると思います。忙しい所で働いていた人はそれが当たり前と思うでしょうし、楽なところで働いていた人はハードルを上げられなくなってしまいます。
2.臨床研修終了後の内科医のキャリアとは?
ほとんどの医師が医局に入局するか、病院に直接入職して後期研修を受けます。それぞれの専門分野で専門医を目指すことが一般的です。
臨床研修制度の前は、医局に入るのが当たり前の時代でした。多くの方が疑問を感じることもなく入局しました。臨床研修制度が導入されて以来、医者は実際の現場を肌身で感じてから進路を選ぶことができるようになりました。
このため、医者もさまざまなキャリアが生まれてきました。ちょうど医療ニーズがビジネス化されたのと相まって、さまざまな道へ進んでいく人がでてきました。内科は「きつい」「帰れない」「給料が安い」3Kとなりやすく、「楽で」「定時あがりで」「給料がいい」といわれる科にすすむ医者が多くなりました。
そんな中、内科医としての道を選んだ場合のキャリアとしては、ほとんどが以下の2つです。
- 大学に入局して後期研修
- 病院に直接入職して後期研修
すでに廃止されることが決まっていますが、内科医を1年経験して症例報告をすると、内科認定医という資格が取得できます。それまでは入院施設での経験を積む方が多いです。中にはいきなりクリニックでという方もいますが・・・
多くの内科医は、それぞれの専門分野に属して専門医を目指していきます。専門医を取得するまでにかかる年数は科によっても異なりますが、おおむね5年ほどかかります。研修医を含めると、医者になってから7~8年たたないと専門医にはなれません。
病院によっては、様々な内科を研修していくようなプログラムもあります。人によっては、臨床ではなく研究の道に進む人もいます。途中で楽な科に転科してしまう人もいます。
少なくとも何らかの専門医をもっていれば、それなりの経験を積んできている証拠になります。しかしながら、専門の部分だけに力を注いでいる人も中にはいます。専門以外の病気もみることができるかどうかは、市中病院での勤務歴の長さをみれば推測ができます。市中病院では、当直なども含めて専門以外の患者さんを診る機会も多いです。幅広く対応できる先生が多いでしょう。
厚生労働省が発表している内科の人数は7~8万と発表されています。現在の医師数が25万前後と言われていますので、3人に1人が内科医と考えられます。このような現状においても、内科医は医者の中で一番多い科となっています。やりがいを大事に仕事を選んでいる医者が多いのです。
3.新内科研修制度の導入が予定されています
幅広く内科疾患をみれるような専門医の養成を目指して、新内科専門医制度の導入が予定されています。
このように臨床研修制度が導入されたとはいえ、研修の内容は人それぞれになります。場合によっては内科をあまり研修しないで終えてしまうこともあります。専門分野に進んだ後も、そのキャリアは人によってバラバラです。人のよっては、自分の専門分野ばかりに経験が偏ってしまうこともあります。
ですが実際の現場で、「頭が痛い、お腹が痛い、胸が痛い・・・でも私は〇〇内科だから診れません。」といったことは通用しません。これではまずいということで、2017年度から内科の研修制度が変わります。
研修医としての2年間を過ぎた後に内科医を目指す医師は、専門分野に進む前に色々な科を3年間ローテーションするプログラムが導入されることになりました。
最初に研修医制度が始まったのも、「いきなり各々の専門分野に行って、他の病気は診れなくなると困る」ということで始まりました。ただこの制度を作ったのは厚生労働省です。つまり医師ではなく役人が作成したことで、色々現場との誤差が生じました。
研修医制度が始まった当初では、内科以外にも外科や精神科、小児科や産婦人科に救急や麻酔科と、さまざまな科をローテーションするように必修化されていました。さらに地域医療の経験を積むようにも規定されていて、2年間に積み込み過ぎてしまいました。すべてが中途半端で終わってしまう感はいなめませんでした。
私も産婦人科を1ヶ月回りましたが、では1ヶ月回ったからお産を診れるかと聞かれますと、正常分娩でも全く対応できません。医療の世界では、何となく診れるは全く診れないとほぼ同義語です。「1ヶ月回ったからできる」というわけには当然いきません。
試行錯誤の中で臨床研修制度の制限はどんどん自由度が高くなっていきました。現在は、内科・救急・地域医療の3科を必修とされています。この流れをみて、日本内科学会で危惧されて、以下の文章が書かれています。
「研修医制度が始まってから、認定内科医の研修期間における内科全体の研修期間が減少する傾向が見受けられるようになりました。そして徐々に内科系研修が専門的な内容(subspecialty)研修に偏り、総合的に診れる内科(generalist)の力が落ちてますし、内科系専門医の領域的、地域的偏在などの問題も顕在化してきました。」
そのため2017年度から新制度が始まります。日本内科学会では、
「内科系医師に必須な条件であるgeneralityと subspecialtyの調和を保った標準レベル以上の新しい世代の内科専門医の養成を目的とします。そのために、内科200症例以上を経験し、そのうち各内科領域について2例ずつ病歴要約を提出することが求められます。提出した病歴要約は査読を受け、さらに筆記試験を合格することにより、新・内科専門医として認定されます。研修には初期研修を含め、5年を要することになります。」
ということが決まりました。つまり初期研修で2年間色々な科を回ったのに追加して、3年間さらに全ての内科分野を回り、全科が診られるようにしましょうといった内容です。
4.新内科専門医制度での懸念点
専門分野への遅れ、女性医師のワークライフバランスの問題、地域性の医師偏在化を増長する恐れ、研修内容の密度の低下などが懸念されます。
新内科専門医制度の理念は最もだと思います。しかし急に決まったことで、現場では混乱が起きているのも事実です。
そもそも医学部6年間+研修5年間、計11年間も要してようやく専門的分野に分かれるというのは、個人的にはかなり疑問です。現役で18歳で医学部に入ったとしても、自分の専門分野のスタートラインにたてるのが30歳ぐらいというのは、医療以外の分野と比べてもかなり遅いかと思います。女性などは婚期や出産の時期を逃すのではという声も挙がっております。
また地域の偏在化がさらに進むのでは?という声も聞かれます。全ての内科がそろっている病院は、大学病院以外だとかなり限られます。地域によっては大学病院以外はほとんどこのプログラムを作れないところも出てきており、中小病院から内科の若手が消えるのでは?と言われています。
そもそも上が一方的に押し付けることが、医療の質の向上につながるのかも疑問です。2年間の研修で必要だと思う人は、今までも自主的に色々な科を回っています。逆に押し付けることで、症例を診る事だけに特化するスタンプラリーのような医師も増えるのではないかと言われています。
大切なのは個々のやる気と考え方であって、どのようなプログラムを回ったかは大切ではないです。臨床研修医制度同様に、2017年度以降に新制度が始まった後、問題が表面化して色々とシステムが変わっていくのではないかと個人的には考えています。
まとめ
臨床研修制度では市中病院か大学病院で研修をうけますが、カリキュラムはそれぞれの病院で異なります。研修期間の2年間で、全員が全ての内科を経験したわけではないです。
その後は、ほとんどの医師が医局に入局するか、病院に直接入職して後期研修を受けます。それぞれの専門分野で専門医を目指すことが一般的です。
幅広く内科疾患をみれるような専門医の養成を目指して、新内科専門医制度の導入が予定されています。研修終了後に、3年間の内科でのローテーションをすることになります。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
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