精神科・心療内科の転院では、なぜ紹介状が必要?

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精神科・心療内科では転院を考える時に、現在受診しているクリニックがあると紹介状(診療情報提供書)をもってくるように言われるかと思います。なかには紹介状がないと受け付けてくれないクリニックもあります。

「診てもらいたいとお願いしているのに、どうして断るんだ」と憤慨される患者さんもいらっしゃいます。融通が利かないと感じてしまうかもしれませんが、私も転院のときは紹介状はかならず持参していただきたいと思っています。

紹介状は、適切な治療のために必要なのです。ここでは、どうして精神科・心療内科では紹介状を持参するようにいわれてしまうのか、その理由についてお伝えしていきたいと思います。

 

1.精神科・心療内科の紹介状の料金とは?

紹介状は250円(1割負担)か750円(3割負担)です。できるだけ余裕をもって依頼するようにしてください。

紹介状は正確には、診療情報提供書といいます。診療情報提供書は医療の目的で必要なものなので、病院で保険適応になる唯一の書類です。これに関しては、

  • 文章だけの診療情報提供書・・・2500円(250点)
  • 検査結果つきの診療情報提供書・・・4500円(450点)
  • セカンドオピニオン目的の検査結果つき診療情報提供書・・・5000円(500点)

となっています。ですから一般的な方はこれの3割負担、自立支援医療利用中の方は1割負担となります。精神科や心療内科では文章のみになることが多いので、250円か750円となることが多いでしょう。

 

2.精神科・心療内科の紹介状は、どう依頼するの?

感謝の気持ちを伝えつつ、転院の理由を素直に話してください。できるだけ早く紹介状を依頼していただけると、余裕をもって穏やかな心で書くことができます。自分の治療も振り返りも含めて、詳しく書いてくれることがあります。

精神科・心療内科での転院を考えられている患者さんは、どのようにして紹介状を依頼しようか悩まれている方も多いかと思います。

主治医の心境からすると、治療がうまくいかずに転院されるのはとても堪えます。患者さんは口実を作ってくれることが多いのですが、それが本当かどうかは精神科や心療内科では分かってしまいます。

患者さんが100人きたら100人治せる医者がいるわけでもなく、教授が治せない患者さんでも若手の医師が治してしまうこともあるのが心の病です。治療者が変わればよくなるかもしれないとは、多くの医師が感じていることだと思います。

もしも現在の主治医に誠意を感じているのなら、「先生が一生懸命みてくださって、本当に感謝しています。ですが治療のアプローチを変えてみたいので、転院してみたいと思います。」とストレートに言っていただいた方がよいのではと思います。少なくとも私はそうして欲しいです。

ちゃんと言っていただければ、自分の治療の振り返りも含めて丁寧に紹介状を書こうという気持ちになります。私たち医師も人間ですから、誠意には誠意で応えようとするのです。

なかには機嫌が悪くなる医師もいるかもしれませんが、医者はプライドが高い人が多いので、他の医者にあてる紹介状はそれなりのものを書いてくれることが多いと思います。

 

ただ、ひとつだけお願いしたいことは、余裕をもって紹介状を依頼していただきたいということです。言い出しにくいということもあるのだと思いますが、ギリギリになって紹介状を希望される方がいらっしゃいます。中には依頼した当日に書いてもらえるものだと思っている方もいらっしゃいます。

紹介状はそんなに手軽に書けるものではありません。できるだけ早めに依頼していただけると、穏やかな心でしっかりと紹介状を書くことができます。

繰り返しますが、私たち医師も人間です。プロとして仕事に感情はもちこむべきではありませんが、影響しないというとウソになります。礼儀には礼儀でこたえますので、できるだけ早めに依頼してください。

 

3.精神科・心療内科の紹介状の内容とは?

医者によって内容は様々です。医者の患者さんや医療に対する姿勢そのものが、紹介状には現れていることが多いです。

紹介状とは医者が医者に宛てた手紙ですので、封がされていて患者さんはみることができません。さて、その内容はどのようなことが書いてあるのでしょうか。

紹介状の内容は、医者によって本当に様々です。非常に親切丁寧に書いてくださる先生もいます。診断や現在の治療内容はもちろんのこと、患者さんの生い立ち、発症の状況、病気の経過、患者さんの特徴など細かく書いてくださる先生もいらっしゃいます。

しかしながら、さらっと数行だけしか書いていない医師もいます。私が以前勤めていたクリニックの周辺では、すべての疾患に「統合失調症」と診断名をつけて紹介状を送ってくる医師もいました。

紹介状には、特に内容に決まっているわけでも、フォーマットが決まっているわけでもないのです。内容が濃かったり、量が多かったからといって、病院の報酬はかわらないのです。

私は紹介状の内容に、医師としての姿勢が表れていると考えています。もちろん、ごく短い期間だけ関わった患者さんでは短くなってしまうのは仕方ありません。しかしながら長い経過をみていると、顔を見ただけでその人のことがわかります。どんなに内心で「やっかいな患者さんだなぁ」と思っていたとしても、治療者として関わってきた時間の重みがあるのです。

誠意をもって治療にあたっている先生であれば、自分の知っていることは次につなげて欲しいと思って詳しく紹介状を書きます。ですから、紹介状をみればその医師の姿勢が分かるのです。

紹介状が適当な医師は、どんなに丁寧にうまいこと頼んでも適当です。医療や患者さんに対する姿勢そのものが適当だからです。そういう医師に、紹介状の内容を期待すること自体が意味がありません。

そういう意味では、頼み方で紹介状の内容が変わることはそこまでないと思います。依頼されたときに医師に感情が出ることはありますが、結局のところ、医療や患者さんに対する姿勢そのものが現れることが多いです。

 

4.精神科・心療内科の転院で、なぜ紹介状が必要?

前置きが長くなってしまいましたが、なぜ精神科・心療内科の転院で紹介状が必要なのか考えていきましょう。多くの病院で転院するときには紹介状を求められるかと思います。そこには精神科や心療内科という領域だからこその非常に大きな意味があります。

紹介状を持ってきていただくことで、改めて主治医と患者さんとして治療関係をしっかりと築いていくスタートになるのです。どうして紹介状がないと治療関係があやふやになってしまうのか、その理由としては以下の4つがあげられます。順番にみていきましょう。

  • 転院したいという心の動きも含めて治療であることがあるため
  • これまでの病気の経過は患者さんにとって財産であるため
  • 入院施設での治療が望ましいケースがあるため
  • 薬に依存しているケースがあるため

 

①転院したいという心の動きも含めて治療であることがあるため

精神科・心療内科の診察は特殊な部分があります。治療の過程で、ときには患者さんにとって嫌なことも言わなければならない時があります。そのような時に、患者さんが主治医の先生を避けて転院をしてしまったら治療になりません。

どんな人でも必ず欠点があります。心の病気はさまざまな形がありますが、本人にも変わっていくべき要素がないということはありえません。几帳面な人は細かすぎる、社交的な人は気を使いすぎるといったように、状況によってプラスと思われることもマイナスになります。

人は自分自身に目を向けるのはとても苦手です。それでも目を向ける必要があるならば、いつか自分自身に「直面化」しなければなりません。医師はそのタイミングを図って、アプローチを考えながら直面化していきますが、それが上手くいかないこともあります。

一時的な主治医に対するネガティブな感情も、それを乗り越えるのが治療的であったりもするのです。主治医に対してそれが伝えられば、ひとつの治療機会になるのです。

ですから、転院を希望するならば主治医にもちゃんと伝えていただく必要があります。紹介状を主治医が書いたという事実によって、前の主治医との治療の関係性が終了していることがわかります。

②これまでの病気の経過は患者さんにとって財産であるため

身体の病気では、紹介状がなくても検査をすればだいたいのことがわかったりします。それに対して心の病気では、どうしても検査によって客観的にみていくことができません。

そして心の病気は、一時点で診断することはとても難しいのです。長い経過の中で症状をみていき、患者さんを把握できるようになってはじめて病名を診断することができます。これまでの病気の経過は、患者さんにとっては財産なのです。

しっかりとした先生は、紹介状も非常に丁寧に書いてくれます。たかが1枚の文章ですが、非常に貴重な情報となることがあります。

走り書きで、全く内容のない紹介状を書く医師もいます。こういう部分をみると、その医者の患者さんや医療に対する姿勢がみえます。それはそれで、違う意味で今後の治療の参考にはなります。

③入院施設での治療が望ましいケースがあるため

患者さんのなかには、クリニックよりも入院施設で治療していた方がよいこともあります。紹介状をみると、入院施設での治療が適切な方もいらっしゃいます。

精神科病院への入院を検討しなければいけないのは、以下のようなケースです。

  • 死にたいという気持ちが強く、自分自身を傷つける可能性がある場合
  • 興奮や衝動性が強く、他人を傷つける可能性がある場合
  • 患者さん本人が病気の自覚がなく、家族がみきれない場合

このような時は、患者さんを保護しなければいけませんし、クリニックでは治療を十分に行うことができません。精神科の病院は、なかなかベッドが空いていないこともあります。というのも、精神科はどうしても入院期間が長くなり、退院する患者さんが少ない病院が多いからです。

精神科病院で受診すれば、必要があれば入院の調整は病状によって融通を利いてくれます。心療内科や精神科のクリニックから入院の依頼をかけるときは、近隣の様々な病院に声をかけてベッドが空いている病院を探すことになります。状況によっては、なかなか病院が決まらないこともあります。

④薬に依存しているケースがあるため

向精神薬(脳に作用するお薬)は、依存してしまうものがあります。依存がひどくなってしまうと、どうにかして薬を入手しようと、周囲のクリニックを重複で受診することがあります。

これは医療法や医療費の問題ももちろんのこと、患者さん本人の治療にならなくなってしまいます。このようなケースを避ける目的でも、主治医からの紹介状によって治療の受け渡しを明確にする必要があるのです。

実際に医療機関では、このように薬の重複処方が発覚すると、地域の医療機関のブラックリストとして情報共有されます。

紹介状なしに受診されて、同じ薬の処方を希望されることがたまにあります。乱用性の高いお薬の場合は、私はきっちりとした紹介状などがなければ処方しません。中には、転売目的で薬を集めている方もいるくらいなのです。

 

まとめ

紹介状(診療情報提供書)をみていくだけで、様々なことがわかります。

精神科・心療内科で転院する際には多くの場合で求められますが、その重要さがお分かりいただけたかと思います。

私は紹介状の内容には、医師の姿勢が現れていると思います。いい先生は、どの紹介状をみてもしっかりと書いてくださっています。内容にむらっ気がある医師は、表面上なのだと思います。

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