自律神経失調症とはどういう病気?自律神経失調症の症状と診断
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
自律神経失調症という病気は、多くの皆さんが耳にしたことがあると思います。ですが自律神経失調症がどういう病気なのかといわれると、ハッキリとしない方が多いのではないでしょうか。
実のところ、自律神経失調症という病気はガイドラインにはありません。自律神経のバランスが崩れたことで生じそうな症状が認められるときに、自律神経失調症という病名が使われます。
検査などによって身体に病気が認められないとき、自律神経失調症と診断されることもあります。診断がつけられなかったり、診断を患者さんに伝えるのが適切でないと判断したときに、一応の病名として自律神経失調症と診断されることもあります。
このように自律神経失調症は、いろいろな患者さんに使われる病名です。それでは、自律神経失調症にはどのような症状が認められるのでしょうか。また自律神経失調症の症状には、どのような特徴があるのでしょうか。
ここでは、自律神経失調症の症状についてみていき、その診断についても考えていきたいと思います。
1.自律神経失調症とはどんな病気なのか
自律神経失調症は、あらゆる症状が認められています。身体に症状の原因がハッキリしない場合に、自律神経失調症と診断されることが多いです。
まずはじめに、自律神経失調症とはどういう病気なのかについてみていきましょう。
自律神経失調症を理解するためには、自律神経について理解する必要があります。自律神経は、私たちの意思にかかわらずに働いてくれる神経です。身体の外からの刺激や内部からの情報によって、自動的に調整してくれる神経になります。
私たちは、身体の隅々を意識して調整することはできません。自律神経は全身の臓器や血管などに分布していて、生きるために必要なことを自動的に調整してくれています。私たちは普段とくに意識をしなくても、
- 呼吸しています
- 心臓がポンプとなって、血液を循環しています
- 食べ物を消化し、吸収しています
- 体温を調節しています
こういった様々なことを行ってくれるのが自律神経です。このように自律神経は、循環・消化・代謝・体温調整といった生命を維持するために不可欠な機能をコントロールしてくれる神経なのです。
自律神経について詳しく知りたい方は、「自律神経とは?交感神経と副交感神経の働き」をお読みください。
自律神経失調症とは、この自律神経のバランスが崩れてしまった(失調)病気になります。自律神経は全身に影響している神経ですので、様々な症状が認められます。
詳しくは後述しますが、どんな症状でも取りうるといっても過言ではありません。ですから何か症状が認められた時に、身体にハッキリとした原因がなければ自律神経失調症と診断される傾向にあります。
2.自律神経失調症の身体症状と精神症状
自律神経のバランスが崩れると、全身にあらゆる症状が認められます。身体症状だけでなく、精神症状も認められます。
自律神経失調症の症状について詳しく見てみましょう。
自律神経には、交感神経と副交感神経があります。この2つの神経は、身体の状況に合わせてバランスを取り合っています。活動する日中は交感神経が優位になる傾向があり、身体を休める夜間は副交感神経が優位になる傾向にあります。
自律神経失調症の患者さんでは、全体的に交感神経が過緊張状態にあります。このため、本来は副交感神経によってリラックスするようなときにも、交感神経が活性化してしまいます。こうして、様々な症状が生じるのです。具体的に見てみましょう。
自律神経を乱す要因としては、大きく3つが考えられます。
- ストレス
- 生活リズムの乱れ
- ホルモン
こういった原因によって自律神経症状が生じますが、「どういった原因だとこの症状が出やすい」という決まったものがあるわけではありません。
その人の体質によっても自律神経失調症の症状が変わってきます。腹痛や下痢といった腹部症状に出やすい方もいれば、頭痛や吐き気といった方もいます。症状の出方は人それぞれになります。
身体症状だけでなく、精神症状も認められます。脳と身体は密接に関係しています。身体症状が精神症状を引き起こし、精神症状が身体症状を引き起こします。この点について、もう少し詳しくお伝えしていきます。
3.心身相関からみた自律神経失調症の症状
「こころ」と「からだ」は、自律神経系・内分泌系・免疫系で密接に関係しあっています。自律神経失調症は、内分泌系や免疫系とも影響しあって、身体の症状となります。
自律神経失調症とは、私たちの意思によらない自律神経のバランスが崩れてしまった状態のことでした。それによって様々な症状が認められますが、正確には自律神経だけの症状だけではありません。
「心(こころ)」と「身(からだ)」は、相互に影響しています。脳と体の間には、自律神経系・内分泌系・免疫系の3つが密接に影響しあっています。
ストレスがかかると、自律神経系では交感神経が刺激されましたね。それだけでなく、内分泌系にも変化が現れます。
内分泌系では、視床下部―下垂体―副腎皮質系の変化が重要です。ストレスを受けると下垂体からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が分泌されて、ACTHは副腎皮質からコルチゾールが分泌されます。
コルチゾールは、「ストレスなどの負荷に対して、体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンなので、抗ストレスホルモンともよばれます。血糖をあげたり、炎症を抑える働きがあると同時に、精神的にも活力をあたえます。
免疫系はストレスがかかると、一般的に抑制されます。病原体が細胞に感染するのを防ぐ液性免疫(抗体)は強くなることもありますが、感染してしまった細胞をやっつける細胞性免疫(キラー細胞)は弱まります。
このような心と身の関係を、心身相関といいます。自律神経失調症は、この心身相関のバランスが崩れてしまっているのです。ですから内分泌系や免疫系と相まって、身体に様々な症状を引き起こすのです。
4.自律神経失調症を疑う症状の特徴
自律神経失調症の症状の特徴として、身体の病気で説明がつかず、症状が複数認められることがあげられます。ストレスや生活習慣、ホルモンなどとの関連があり、薬を使っても効果が不十分なことが多いです。
自律神経失調症では、全身にありとあらゆる症状が認められます。ですから身体に症状が出てしまったときに、自律神経失調症の症状なのかどうか、どのようにして判断していけばよいのでしょうか。
自律神経を検査する方法は、症状によってはあります。しかしながら一般的に行う検査ではなく、多くの症状では検査そのものがありません。
自律神経失調症による症状かどうかは、その症状の特徴から判断していきます。ここでは、自律神経失調症が疑われる症状の特徴についてお伝えしていきます。
①身体の病気では症状が説明できない
身体に症状が認められれば、まず考えるのは身体に何か症状の原因となるような病気がないかです。身体の病気が原因であれば、それを治療することで症状がよくなります。
いきなり自律神経失調症から疑ってしまうと、隠れている身体の病気を見逃してしまうことがあります。明らかに自律神経失調症と思われることもありますが、それでも考えられる病気があればチェックする必要があります。
なかには、身体の病気と自律神経失調症が合併することもあります。身体の病気にかかったことでストレスがかかり、それによって自律神経失調症の状態になることもあるのです。
②複数の自律神経症状が認められる
自律神経は、全身の臓器や血管などに分布しています。このため自律神経のバランスが崩れると、多くの症状が認められることがあります。
自律神経失調症が軽ければ一つの症状しかないこともあります。それでも、症状が時間によって移り変わったりすることがあります。
身体の病気であれば、症状は一つであることが多いです。上述しましたが、身体の病気に自律神経失調症が合併することもあるので注意が必要です。
③ストレスや生活習慣、ホルモンとの関係があるか
自律神経失調症の原因として、
- ストレス
- 生活習慣
- ホルモン
大きくこの3つがあげられます。これらの原因と症状との関連があれば、自律神経失調症が疑わしくなります。
ストレスと明らかに症状の関係があれば、自律神経失調症が疑わしいです。例えば、仕事のある平日は症状が続くのに、休日になったら楽になるといったことがあれば、自律神経失調症と疑いやすくなります。このようにハッキリしていることもありますが、自分でもストレスがかかっていることを意識できていない場合もあります。
生活習慣に関しては因果関係ははっきりしないかと思いますが、心当たりがあれば生活習慣を改善することで症状がよくなるかもしれません。
ホルモンに関しては、女性では関連がわかることがあります。いつも決まった周期で症状が認められる場合には、女性ホルモンが関係していることもあります。必要に応じて、血液検査で測定することができます。
④身体の薬の反応が不十分
治療の中から分かってくることもあります。原因がハッキリしない場合でも、身体症状を和らげるためのお薬を使っていくことが多いです。胃痛があれば胃薬、頭痛であれば痛み止め、吐き気であれば制吐剤といった形です。
このように身体症状にあわせたお薬を使っても、あまり効果が認められないことがあります。このように薬の反応性が不十分な場合、自律神経失調症の可能性が高まります。
5.自律神経失調症と診断されるケースとは?
自律神経症状だけが認められていたり、診断がつけられない場合に自律神経失調症と診断されます。診断書の印象を和らげるために、自律神経失調症と診断することもあります。
これまで、自律神経失調症の症状についてみてきました。自律神経失調症は正式には病気ではなく、ガイドラインなどにも記載されていません。
自律神経失調症は、正確には自律神経失調している状態ということを意味しています。このような「状態」なので、あらゆる病気で認められることがあります。
うつ病、不安障害、統合失調症、双極性障害など、ありとあらゆる精神疾患の患者さんで自律神経症状は認められます。身体疾患だけの患者さんでも、そのストレスから自律神経症状も重なることがあります。
このように自律神経失調症は様々な疾患で認められますが、「自律神経失調症」と診断されるのはどのような時なのでしょうか。
自律神経失調症に近い病気として、身体表現性自律神経機能不全という病気がICD-10という国際的な診断基準に記載されています。ですがこれは、
- 自律神経症状が認められていること
- 医師が繰り返し説明しても納得しない
この2つを満たすものとなっています。一般的に使われている自律神経失調症の患者さんは、自律神経失調症と伝えると納得してくれることがほとんどです。ですからこの病気とは異なります。どちらかというと、転換性障害(変換症)の方が近いでしょうか。
自律神経失調症と診断されるのは、
- 自律神経症状だけが認められる場合
- 現時点では診断できない場合
- 診断書を書くときに患者さんを守る場合
自律神経症状だけが認められる場合に、暫定的に自律神経失調症と診断することがあります。また、診断が現時点でできない場合にも、自律神経失調状態があれば診断することがあります。
診断ができないというのは、いろいろな場合があります。医師の診療能力がないという場合というよりは、精神疾患はそもそも、一時点だけではわからないことも多いのです。患者さんのことを知り、症状の経過をみていくうちに診断がついていきます。
また診断書を会社などに提出するのにあたっては、患者さんを守るためにやわらかい診断名にすることがあります。そのときに自律神経失調症を使うことがよくあります。
心の病気に対する社会の認識はだいぶ広がったとはいえ、いまだに根強い偏見があります。ですから患者さんのことを考えて、印象がやわらかい病名にするのです。
詳しく知りたい方は、「なぜ精神科や心療内科では、病名や診断が告げられないのか」「精神科・心療内科での診断書の実情とは?」をお読みください。
自律神経の乱れによる症状がひとつだけですと、
- 過敏性腸症候群
- 機能性胃腸症(ディスペプシア)
- 線維筋痛症
- 慢性疲労症候群
といったように診断されることもあります。身体に異常が認められないのにもかかわらず身体症状が認められる病気のことで、これらは機能性身体症候群(FSS)とも呼ばれています。自律神経が関係していることが多く、自律神経失調症として診断されることも多いです。
まとめ
自律神経失調症は、あらゆる症状が認められています。身体に症状の原因がハッキリしない場合に、自律神経失調症と診断されることが多いです。
「こころ」と「からだ」は、自律神経系・内分泌系・免疫系で密接に関係しあっています。自律神経失調症は、内分泌系や免疫系とも影響しあって、身体の症状となります。
自律神経失調症の症状の特徴として、身体の病気で説明がつかず、症状が複数認められることがあげられます。ストレスや生活習慣、ホルモンなどとの関連があり、薬を使っても効果が不十分なことが多いです。
自律神経症状だけが認められていたり、診断がつけられない場合にも自律神経失調症と診断されます。診断書の印象を和らげるために、自律神経失調症と診断することもあります。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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