対人恐怖症で悩んでいる方へ、仕事やバイトでの対処法
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
対人恐怖症は、他人と接するときに極度の恐怖に襲われてしまう心の病気です。その症状の程度は、「人付き合いが苦手」なレベルから「まったく人付き合いができない」レベルまで人によって様々です。
対人恐怖症は幼少期や思春期から発症することが多いのですが、なかなか周りに相談できずに耐えて過ごしています。そんな中で進学し学生生活を送ります。部活やアルバイトをしたいのにできない方もいます。いろいろなことを経験して成長していく時期に、対人恐怖症が影響してしまうのです。
そして時期が来ると、就職活動をして社会人となります。そして実際に仕事を始めると、会議やプレゼン、客先での営業や接客、仕事のための会食や接待など、さまざまな場面で悩まされるのです。
対人恐怖症のせいで仕事やバイトで悩んでいる方も多いと思います。ここでは、対人恐怖症のせいで本来の自分を発揮できていないと感じている方に、お伝えしたいことを書いていきたいと思います。
そして対人恐怖症の方の現実的な仕事やバイトでの対処法を考えていきましょう。また、職場ではどのようなことができるのかについても触れていきます。
1.対人恐怖症は仕事につく前から影を落とす
対人恐怖症は、10代の前半から発症する患者さんが多いです。このため、進学やアルバイト、就活の時点から影響を及ぼします。
対人恐怖症は日本で伝統的に呼ばれてきた病名で、欧米など国際的な診断基準では、そのほとんどが社交不安障害と分類されます。「人から悪く思われないか」という恐怖が根底にあり、過度に緊張してしまう病気と考えられています。
対人恐怖症の患者さんの中には、社交不安障害の概念に収まりきらない症状の方もいます。「自分の臭いが迷惑をかけているのではないか」「自分の視線が相手を不快にさせるのではないか」「自分が醜いから周りの人が嫌悪感を抱くのではないか」といった、周囲からは理解しづらい恐怖にとらわれていることがあります。
このような対人恐怖症は確信型対人恐怖症と呼ぶこともあり、国際的な診断基準では身体醜形障害や妄想性障害と診断されることも多いです。ちなみに、周りからも理解できるような恐怖の方は緊張型対人恐怖症と呼びます。
いずれの場合も、対人恐怖症は幼少期や思春期から発症することが多いという特徴があります。アメリカでは、社交不安障害の平均発症年齢は13歳と報告されています。そして75%の患者さんが、8~15歳に発症します。このように、対人恐怖症では10代での発症が多いのです。
妄想型対人恐怖症の方が重症には違いありませんが、周りから見ても「おかしい」と感じられることが多いので治療に繋がりやすいという点ではよいのです。緊張型対人恐怖症では、「緊張しい」「ビビり」「人見知り」「引っ込み思案」といった性格と思い込んでしまいます。
自分はこのような性格だと割り切ってしまい、親も学校の先生もそのように考えて接してしまいます。学校では控えめに過ごすことが多く、ときにイジメの対象にあったりしてしまいます。発表や授業中に当てられるのがつらかったり して、不登校気味になってしまうこともあります。
課外の部活やアルバイトなども消極的になってしまい、この時期にしかできない経験ができなくなってしまいます。いざ就活という時にも、「本当は〇〇に興味があるけれども、自分には向いていない」といって消去法の選択になってしまいます。
このように、対人恐怖症は仕事につく前の段階から影を落とす病気なのです。緊張型対人恐怖症は軽症といえども、それによって本来の人生を歩めていない時には治療に取り組まれた方がよいです。
2.対人恐怖症の方の仕事やバイトの選び方
対人恐怖症の方の仕事やバイトの選び方は、消去法になってしまうことが多いです。バイトは将来のため、積極的にやりたいことをしてみてください。仕事を選ぶに当たっては、何とかなりそうなものはチャレンジした方が治療的です。
対人恐怖症の方は、人と関わること全般を苦手とする方が多いです。その根底には、「自分が否定的な評価をされること」を恐れているので、裏を返すと「人から評価されたい」という気持ちが強いのです。ですから、不安や緊張さえなければ人と積極的に関わりたいと思っている方が多いのです。
しかしながら対人恐怖症の方は人間関係を築くのが苦手で、内向的になってしまう方が多いです。ときに不登校やひきこもりに発展してしまうこともあるのです。
対人恐怖症を発症する原因は明らかではありませんが、子供の時から不安になりやすかったり、行動抑制という物事を避けたがるような生まれ持っての気質があることも多いです。様々な経験が重なり、徐々に生活全般に対して消極的になってしまいます。
このため、仕事やバイトの選び方に対しても消極的になってしまいます。自分が選んだ道と疑問を感じていない方もいますが、選択肢がすでに絞られている中から選んでいることも多いのです。例えば、以下のような仕事やバイトの選び方になります。
- できるだけ人との接触の少ない仕事やバイトを選ぶ
- フリータとして仕事する
- 自宅で内職やネットビジネスを仕事とする
対人恐怖症でも、人によって苦手な対象が異なることがあります。顔見知り程度の人は全然ダメだけど、まったく見知らない人は大丈夫という人もいます。そのような方では、客先営業などは苦にならないこともあります。
ですから、「意外とやってみたら何とかなった」ということもあります。
対人恐怖症で悩まれているのでしたら、バイトはぜひ積極的に選んでみてください。バイトでしたらどうしても無理ならば、やめることだってできます。就職してしまうとそうもいきません。バイトは練習だと思ってください。
対人恐怖症に悩みながら仕事を探されている方も、諦めている仕事が本当に自分にはできないのかを考え直してほしいです。余裕があるならばインターンなどをして確かめましょう。何とかなると思えるのでしたら、仕事を練習場所にして治療をすすめていくこともできます。
3.対人恐怖症の方が仕事で苦手とすることは?
仕事の中で苦手に思うのは、①プレゼンやスピーチ②接客・営業③電話④会食・接待などがあげられます。
対人恐怖症の方が仕事で苦手とする状況について、代表的なものを見ていきたいと思います。
①プレゼンやスピーチ
もっとも苦しまれている方が多いのは、プレゼンやスピーチです。人前にたって話をするときには、必然的に多くの人からの注目が自分に集まります。
用意周到を超えた準備や予行練習が必要になったり、本番で頭が真っ白になってしまったり、声や身体が震えたりしてしまいます。「うまく話せていない」という気持ちが、さらに不安や緊張を高めてしまいます。
このような人前に出る機会は、職位があがるにつれて増えていきます。朝礼で挨拶をしなければいけなくなったり、プレゼンや会議などで発言を求められる機会も増えます。立場が変わった途端、周囲からの評価の目がかわることもあります。
②接客・営業
多くの仕事は、お客さんがあって成り立ちます。組織人として仕事をするということは、同僚や上司部下との連携が必要です。仕事を円滑に進めていくには、人とのコミュニケーションは欠かすことができません。
対人恐怖症の患者さんは、人と接すること自体に恐れを抱いていることがあります。気心が知れている方では問題ないのですが、よく知らない方と会う時に緊張感が高まってしまいます。
このため、接客や営業などの積極的なコミュニケーションを苦手とする方が多いです。中にはまったく見知らない人は大丈夫という方もいて、そのような方ではむしろ、社外で知らない人と接している時は大丈夫だったりします。
③電話
対人恐怖症では、電話を苦手にする方が多いです。電話では相手の表情も動作もみえません。相手の様子がわからないため、相手に変に思われていないかと想像してしまいます。
そんな中で、「ちゃんと必要なことを伝えられているだろうか?」「声は震えていないだろうか?」などと緊張感が高まり、電話恐怖になってしまいます。
④会食・接待
レストランなどで外食をすると、いろいろな人から見られていると感じて緊張してしまう方もいます。とくに相手が上司やお客さんの場合、相手に対しても迷惑をかけていないかと気になってしまいます。
このようにして筋肉がこわばってしまい、「うまく料理をきれないのではないか?」「うまく喉を料理が通らないのではないか?」「おいしそうに見えないのではないか?」と気になってしまいます。
4.対人恐怖症の方の仕事への向き合い方
職場を苦手な社会状況の練習の場と考えてください。プライベートの時間も含めて、アルコールやタバコなどに頼らないように注意してください。
対人恐怖症の患者さんには、仕事で苦手な状況は様々あるかと思います。人と接すること自体を苦手としている方は、職場に行くこと自体がつらいかもしれません。ですが対人恐怖症を克服していくためには、職場を練習の場と考えた方がよいです。
まずはできそうなことから、少しずつ積み上げていくことが大切です。少しずつ自分の不安感もコントロールできるようになっていき、自信もついていきます。
対人恐怖症の患者さんでは、不安なことからは逃げてしまう行動パターンが強まっていることが多いです。確かに逃げることで、一時的に不安はおさまります。ですがより一層、苦手意識がこびりついてしまうのです。
不安の病気はどれも、自分から挑んでいなければ克服はできません。ぜひ対人恐怖症の治療をうけながら、職場を対人恐怖症の治療の場と考えてください。少しずつ自分のできることが広がっていき、いつか世界が開ける時がきます。
一点だけ、気を付けていただきたいことがあります。対人恐怖症の患者さんでは、アルコールやタバコ、違法薬物などに頼ってしまう方が多いことです。
アルコールは気持ちを紛らわせることができるので、一種の自己治療になっています。しかしながらアルコールを飲まないと、手の振えや発汗などの離脱症状に襲われるようになります。このせいで対人恐怖症も悪化してしまい、アルコールもやめられなくなって依存症に発展していってしまうのです。
違法薬物はもちろんのこと、プライベートの時間も含めてお酒やタバコに頼ることはやめましょう。
5.仕事で対人恐怖症を克服するには?
仕事をしていると、自分の仕事ぶりが周囲から評価されていると感じる場面は多いです。苦手なことを耐え忍んだり、上手く逃れたりすることで何とか日々の仕事をこなしている方も多いです。
しかしながら対人恐怖症は、苦手なことに挑んでいなければ克服できません。どのようにすれば対人恐怖症を職場で少しずつ克服できるかをみていきましょう。
①病院に相談する
主治医と一緒に日々の出来事を整理しながら、仕事の場で練習していくことが大切です。
対人恐怖症は、自分の性格と考えてしまって病院に通わない患者さんも多いです。病気だと気づいても、何とか自力で克服できないかと努力されている方もいます。
ですが対人恐怖症の治療は、病院に通って治療を行っていったほうがよい疾患です。お薬もちゃんと効きますし、精神療法を行っていくにも客観的な目線は大切になります。
とくに対人恐怖症で、身体的なとらわれが強い方は薬物療法を行った方がよいです。抗うつ剤やときに抗精神病薬を使うことで、症状が軽減することで治療がすすみます。
ですから対人恐怖症を仕事の中で克服していくためには、必ず病院で相談しながら治療してください。自力で何とかしようとして間違った方向に進むと、むしろ症状が悪化してしまうこともあります。主治医と相談しながら少しずつ積み重ねていけば、克服できる病気なのです。
②上司や同僚に相談する
まずは自分でできるところまでやってみるのも方法です。行き詰ったら、職場で理解をしてもらいながら治療をすすめていきましょう。
患者さんからの質問として、「職場には伝えるべきですか?」と聞かれることが多いです。
もちろん職場での理解がある方が、対人恐怖症の治療としては望ましいです。理解してもらえているという安心感もうまれますし、相談にのってもらったりフォローもしてもらえるでしょう。仕事の内容をふまえて業務調整してくれることもあります。
しかしながら、「職場にはバレたくない」という気持ちの方も多いかと思います。そのような方は、まずは職場に伝えずにできることから治療を始めてみてもよいと思います。その上で治療が前に進まない時は、職場に伝えることを考えた方がよいでしょう。
職場への病状の伝え方としては、以下の4つのルートがあります。
- 直接上司に自分から相談する
- 人事・総務の担当者に相談する
- 産業医に相談する
- 主治医から診断書で意見を書いてもらう
どの場合も、「少しずつ苦手なものを克服したい」という前向きな部分を伝えた方がよいかと思います。必要に応じて、会社に伝えていくようにしましょう。
③できる仕事から少しずつ広げていく
不安階層表を作成して、できることから少しずつ成功体験を積み重ねていくことが大切です。
対人恐怖症を克服するに当たっては、小さなことから積み重ねていくことが治療の基本になります。できることから克服することで少しずつ自信を積み重ねていきます。
まずは仕事の中で、自分が不安に感じたり緊張したりする状況をリストアップしましょう。その不安の大きさに点数をつけてみます。このようにして表にしたものを、不安階層表といいます。ついでにプライベートでの不安も含めて作ってみましょう。
このうち、不安の点数の少ないものから順番に克服していきます。不安を感じるかもしれませんが、それが少しずつ薄れ、自分でコントロールができることを実感してください。
行き詰ってしまったら、頓服薬などをうまく使いながら少しずつ克服して自信をつけていきます。いきなりハードルの高いものにチャレンジすると、失敗してしまいます。ひとつずつ積み重ねていくことが大切です。
④あまりにつらい状況では一呼吸おく
いざやってみたけど不安が強い場合は、トイレに逃げて落ち着くのを待つか、頓服を服用して一呼吸置きましょう。呼吸法など、薬を使わずに落ち着かせる方法もありますので、うまく活用してください。
いざ不安に挑んでみたけれども、その不安に支配されてしまった時は、無理をせず逃げて一呼吸を置くのも方法です。
あらかじめ予想できる時は、頓服薬をポケットに忍ばせておいてもよいかも知れません。推奨はされていませんが、水なしでかみくだいても服用はできます。舌下投与という方法ですが、多くの薬は苦味がありますが抗不安薬のワイパックスでは甘みがあります。詳しく知りたい方は、「ワイパックスの舌下投与は効果的?」をお読みください。
薬でなくとも、呼吸法など薬を使わずに落ち着けられることもあります。詳しく知りたい方は、「薬に頼らずに不安を解消する4つの方法」をお読みください。
トイレに行ける状況であれば、トイレに一度避難して落ち着くまで待ってもいいかも知れません。失敗体験をしてしまったからと落胆することはありません。今のあなたには山が高かっただけですので、できるところに戻って少しずつ克服していきましょう。
6.仕事をしていてうつ状態になったときは・・・
うつ状態になると考え方が極端になり、悲観的な考えになってしまいます。それが対人恐怖症の悪化につながることがあるので、しっかりと休んで休養しましょう。
対人恐怖症では、不安を克服していく練習の場という意識で仕事に向き合ってほしいということをお伝えしてきました。そうはいっても不安や緊張と日々戦っていくのはストレスがかかります。そんな中で、気分が落ちこんだり気力が出なくなってしまって、うつ状態になってしまう患者さんもいらっしゃいます。
そのような時は無理してはいけません。しっかりと休んで治療をすることも大切なのです。
うつ状態になってしまうと、考え方が極端になりがちです。「休んでしまったら二度と戻れなくなるんじゃないか」「職場復帰した時に雰囲気が悪くなるんじゃないか」といった悲観的な考えになってしまいます。
こうして無理して仕事を続けると失敗体験も続き、対人恐怖症も悪化してしまいます。会社からもミスが目につき、むしろ自己管理ができていないと評価を落としてしまうこともあります。このような時は仕事をしっかり休んで療養した方がよいです。
この判断をしてもらうためにも、主治医の先生と相談しながら治療をすすめていただきたいのです。自分だけではなかなかわからず、どんどんと悲観的になって追い込まれていきます。
しっかりと心身の調子を整えて復職できるようになったら、産業医を交えて今後のことを相談していきましょう。
7.対人恐怖症の方への職場でできる配慮
精神疾患に対する偏見をなくしてください。少しずつ成長(治療)していく機会を与えて、そのサポートをしてください。
最後に、これらを踏まえて職場ではなにができるかについて考えていきましょう。
もっともお願いしたいことは、偏見をなくしていただきたいということです。対人恐怖症は本人ですら性格ととらえることもある心の病気なので、周囲の人からは当然そのように見えます。精神科に対する偏見も強く、「精神疾患の従業員は何があるかわからない」「人前で話せないヤツは使えない」というレッテル張りだけはしないでほしいのです。
不安になりやすいということは、決して悪いことばかりではないのです。不安を感じるからキッチリ準備することが習慣化されていたり、物事を慎重に判断する目を持っていたりします。対人恐怖症では、真面目で几帳面な方も多いのです。
少しずつ治療がすすんでいくと、その人の良さが発揮されていきます。ですから、少しずつ職場で成長(治療)していく機会を与えて、相談に乗りながらサポートして欲しいのです。
対人恐怖症の患者さんの中には、まわりからは理解ができない恐怖を抱えていることもあります。そしてその恐怖を信じ込んでいることもあります。「おかしい…」と思われることがありましたら、病院の受診につなげていただけると助かります。
本人を抵抗なく受診につなげやすいのは、「最近眠れている?」と聞いていただくことです。不眠に関しては、あまり抵抗感なく教えてくれる方が多いです。そして睡眠状態は、客観的にもわかる指標です。
その時に「普段悩んでいることも含めて、心療内科で相談してみたら?」と誘っていただければ幸いです。本人の許可があれば、病院に同席していただくこともできます。そこまでいかなくても、ぜひ病院での治療につなげてください。病院に受診させてくだされば、そこからどのように治療導入するのかは医者の腕の見せ所です。
まとめ
対人恐怖症は、10代の前半から発症する患者さんが多いです。このため、進学やアルバイト、就活の時点から影響を及ぼします。
対人恐怖症の方の仕事やバイトの選び方は、消去法になってしまうことが多いです。バイトは将来のため、積極的にやりたいことをしてみてください。仕事を選ぶに当たっては、何とかなりそうなものはチャレンジした方が治療的です。
仕事の中で苦手に思うのは、①プレゼンやスピーチ②接客・営業③電話④会食・接待などがあげられます。
職場を苦手な社会状況の練習の場と考えてください。プライベートの時間も含めて、アルコールやタバコなどに頼らないように注意してください。
うつ状態になると考え方が極端になり、悲観的な考えになってしまいます。それが対人恐怖症の悪化につながることがあるので、しっかりと休んで休養しましょう。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
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