「いじめ」のトラウマから複雑性PTSDに
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
PTSDは心的外傷後ストレス障害とよばれていて、戦争や犯罪などの強烈な出来事を体験した時に、ストレスが上手く処理できずにこびりついてしまう病気です。PTSDはこのように、はっきりとしたきっかけがあるケースばかりではありません。
いじめや虐待などの慢性的にストレスにさらされ続けていくと、さまざまな症状が認められます。この症状をひっくるめて、複雑性PTSDとよぶこともあります。
複雑性PTSDは診断基準として確立された概念ではありませんが、治療を考えていくためには意識しておいた方がよい疾患概念です。
ここでは、「いじめ」から発展することもある複雑性PTSDについて詳しくお伝えしていきたいと思います。
1.いじめや虐待による複雑性PTSDとは?
症状がさまざまで、複数の病名をつけられていることが多いです。病気の本質をとらえて、複雑性PTSDと診断されることがあります。
PTSDとは、誰もが経験すると深い心の傷をうけるような出来事に出くわした時に、ストレスが上手く処理できずにこびりついてしまう病気です。その出来事は強烈で、はっきりとしたものです。このためPTSDの症状も、出来事があってからすぐに認められることがほとんどです。
診断基準では、このような急性ストレスによる障害だけをPTSDとしています。診断基準に記載されている出来事とは、
- 危うく死ぬ
- 重症を負う
- 性的暴行を受ける
この3つになります。
昨今問題になっているいじめや虐待、心身の成長過程にある幼少期の子供には非常に大きな影響があります。いじめの件数は2013年に過去最多を記録しまし た。また虐待の件数も次第に増えています。
こうした影響もあって、いじめや虐待による慢性的なストレスでの病態をPTSDとしてとらえる概念が、次第にクローズアップされるようになってきました。
いじめや虐待などの体験が原因になるPTSDは、「複雑性PTSD」と呼ばれています。さまざまな症状が認められるので、複数の病気の診断を重ねてつけられていることが多いです。いじめや虐待をうけていた患者さんの症状で多く見られるのは、衝動性、感情障害、解離性障害、自傷行為、対人関係障害などです。
これらの表面的な症状を取り上げて診断をしても、その本質はもっと違うところにあります。ですから、個々の症状を治療していてもよくなりません。複雑性PTSDという病名を使った時は、その本質にある心的外傷(トラウマ)に対して治療が必要であることを意味します。
2.複雑性PTSDの根は深い
度重なるいじめや虐待などによって気分や認知が歪んでしまって、様々な症状に発展することが多いです。
PTSDが一度のショックにより発症するのに対して、複雑性PTSDは恐ろしい体験が単発ではなく、何度も何度も繰り返して起こることにより発症するものです。
この体験とは主に幼少時の虐待、家庭内暴力(DV)、いじめなどです。これらの行為が長く続いた結果による心的外傷体験ですので、とても根が深いのです。
成長の過程でこうした体験をした子供は、その後の気分や物事のとらえ方に対して大きな影響を与えます。うまく友達と遊べなくなってしまったり、デートをしたりといった年頃に見合った機会ができなくなります。
このような社会的な孤立から、自分自身や他者に対する考え方にもゆがみが出てきてしまいます。人生に対する志などを失ってしまうこともあります。
- 絶望から自己破壊的になる
- 衝動的な行動が目立つ
- 他人に敵意を抱く
- 慢性的なうつ状態
- 対人恐怖から外出困難になり、引きこもりになる
このような認知や行動の変化が強くなってしまい、ときに固定化してパーソナリティ障害となります。境界性パーソナリティ障害の方は、このようなトラウマを抱えている方がとても多いです。
辛い体験を避けようとする「解離」が起こることもあります。あまりに強いストレスや葛藤に直面した時に、それを正面から受け止めてしまうと心が耐えられません。
このため、意識や記憶、思考や感情、行動や知覚といっ たものをバラバラにして受け止めます。よくあるのが意識を切り離してしまう解離性健忘です。実際に経験したことでも、自分の意識を切り離すことで記憶がなくなります。このようにして心を守るのです。
いじめや虐待による心的外傷では、受けた後すぐにではなく数年経過してから発症することもあります。大人になって様々な症状で苦しんでいる方の中には、過去に根の深いトラウマをかかえていることも多いです。
3.複雑性PTSDの治療とは?
複雑性PTSDの治療にはカウンセリングは欠かせません。臨床心理士によるカウンセリングが受けられるクリニックを探しましょう。
複雑性PTSDでは薬物療法も必要になりますが、じっくりとした心理療法が欠かせません。長い年月をかけて固定してしまった気分や物事のとらえ方などが根深く、薬で症状を抑えるだけでよくなるものではありません。
心理療法を行っていくのは臨床心理士が中心となりますので、臨床心理士によるカウンセリングが受けられる医療機関を受診するようにしましょう。
カウンセリングは金銭的な負担が非常に大きいです。ですが、自分自身を肯定的に捉えられるようになり、過去の外傷体験や葛藤を解消していくことはとても大切です。
すでに信頼できる先生がいる場合には、カウンセリングだけ別の医療機関を探されてもよいかもしれません。
まとめ
いじめや虐待の過去がある方の症状はさまざまで、複数の病名をつけられていることが多いです。病気の本質をとらえて、複雑性PTSDと診断されることがあります。
度重なるいじめや虐待などによって気分や認知が歪んでしまって、様々な症状に発展することが多いのです。
複雑性PTSDは根が深く、臨床心理士によるカウンセリングが受けられるクリニックを探しましょう。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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