本当のトラウマとは?PTSD(心的外傷後ストレス障害)について

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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PTSDは心的外傷後ストレス障害といわれていて、戦争や犯罪など、誰もが経験すると深い心の傷をうけるような出来事に出くわした時に、ストレスが上手く処理できずにこびりついてしまう病気です。

先の東日本大震災では、日常では想像ができないような凄惨な経験をされた方も多くいらっしゃいました。多くの方が傷つき、命を落とされた方もいらっしゃいましたが、それだけでなく心に大きな傷を受けた方もたくさんいらっしゃいます。

このような方の中には、今なおPTSDで苦しんでいる方がいらっしゃいます。PTSDとは、ただの「トラウマ」とは似て非なるものです。ここでは、PTSDとはどのような病気なのか、お伝えしていきたいと思います。

 

1.PTSDと「トラウマ」は違うもの

「PTSDのトラウマ」は、本人が直視できないような過去の強烈な体験があります。

PTSDと聴いて即座に意味が分かる人は、おそらくそれほど多くはないでしょう。でもトラウマなら話は別で、この言葉を耳にしたり口にしたことがある人は珍しくないはずです。

ここでのトラウマという言葉、「嫌なことがあった」「ショックなことがあった」くらいの意味合いで使われているかと思います。中には本当につらい経験をした方もいるかとは思いますが、本当の「トラウマ」は簡単に話題にすることができません。

「PTSDのトラウマ」では、そのトラウマに関係する出来事とわかるだけで強烈な恐怖心が襲って着ます。ですから、安易に自分の口から語れるようなトラウマではないのです。自分で語れるようなトラウマをPTSDだと思っている人が案外多いのです。ですが、両者のもつ意味は全く異なるのです。

PTSDは「post traumatic stress disorder」の略語です。postという単語でも分かるように、大きな精神的打撃を受けた後に心に残る「外傷後ストレス障害」のことです。

その精神的な打撃は、命の危険を感じるような誰もが重大だと感じるような出来事になります。戦争、テロ、大地震、大津波、洪水、強姦、監禁など・・・です。「彼氏にひどいふられ方をした」とか「上司に理不尽に怒られた」といったものではありません。

 

2.PTSDは簡単には診断できない

PTSDにはお金などの利害関係が絡むことも多いので、診断は慎重に行います。

PTSDの診断は、簡単につけることができないことが多いです。なぜなら、多くのケースで利害がからんでくるからです。PTSDと診断されたということは、何らかの出来事のせいで重大なストレスをうけたことを証明することになります。ですから、多くの病院では安易にPTSDは診断しません。

PTSDは詐病されることが多いです。自ら外傷体験をたんたんと語るような方は、PTSDでも何でもありません。本当にトラウマを抱えた方は、その外傷体験をできるだけ避けようとします。

PTSDは歴史的にも、疾病利得のための心因反応(ヒステリーの一種)と考えられていた時代がありました。病気になることでのメリットから症状が生じると考えられていて、賠償神経症とまで命名されていた時代もあります。

しかしながら、第二次世界大戦の兵士やナチス強制収容所のユダヤ人生存者、ベトナム帰還兵やレイプ被害者などの精神的後遺症には類似した症状が認められることが明らかになってきました。これらを受けて1980年に、アメリカ精神医学会の診断基準であるDSM-ⅢにてPTSDという概念がとりあげられました。

わが国でPTSDの概念が注目され始めたのは、今から20年前の1995年に起きた阪神・淡路大震災やオーム真理教による地下鉄サリン事件以降ことです。日本でのPTSDの歴史はまだ浅いといえます。

現在は、PTSDは疾患として確かに存在するというのが定説になっています。しかしながらその診断には、さまざまな利害関係が絡むことがあります。患者さんの本当の状態像を見極めてからでないと、PTSDは安易に診断することはできません。

 

3.人はなぜPTSDになるのか

トラウマ体験に対して恐怖の条件付けがされて、その記憶を消去できないためと考えられています。

PTSDは外傷後ストレス障害のことですが、その名前が示すようにショッキングな出来事による体験が強いストレスとなって心の中に残ってしまいます。でもショッキングな体験とはいえ、たいていのことは時間の経過とともに肯定的に考えられてきたり、記憶が薄れることによってストレスを感じなくなります。

しかし体験したショックがあまりにも大きい場合、時がたっても記憶がうすれることがありません。自分自身の中で体験の処理がうまく進まず、そのため大きな障害として残るのです。その外傷的体験はやがてトラウマ(心的外傷)となり、避けがたい心の障害を引き起こすのです。

トラウマは外傷的体験がもたらすものです。では、どのような出来事が外傷的体験につながるのでしょうか。

外傷的体験とは本人や周りにいる身近な人たちの生命を脅かすような重大な出来事の体験を指します。こうした重大な出来事は脳に「外傷記憶」を形成します。近年の研究では、これが脳に生理学的変化を起こさせることがわかってきています。

大きく2つの変化があります。

  • トラウマ体験に対して恐怖の条件付け反応
  • その恐怖を消去できない

トラウマ体験に関係することを見たり聞いたりすると、それに条件付けされて恐怖がおこるような反応ができあがってしまうのです。普通の記憶であれば、時がたって脅威が去ると次第に薄れていきます。しかしながら外傷記憶では、その恐怖をうまく消去することができません。このため、症状が持続してしまうのです。こうして、外傷記憶としてこびりついてしまって「トラウマ」となるのです。

 

4.「PTSDのトラウマ」となるような出来事とは?

戦争や大災害、犯罪被害といった命の危険を感じるような出来事や、ストレス対処が未成熟な幼少期での反復的なストレス体験が原因となります。

このような外傷記憶を形成してしまう具体的な出来事としては、大きく2つの体験があげられます。

  • 命の危険を感じるような出来事
  • 幼少期での反復的なストレス体験

命の危険を感じさせるくらいの重大な出来事を経験した時、このようなPTSDを引き起こすような外傷記憶がこびりついてしまいます。戦争、テロ、大地震、大津波、洪水、強姦、監禁など、日常生活とはかけ離れた体験をした時、その記憶をうまく処理することができなくなってしまいます。

 

また近年になって急激に増えてきた、イジメ、幼児期に受けた虐待などのストレス対処が未熟な段階でのストレス体験も原因となります。

こうした体験によるPTSDは「複雑性PTSD」と呼ばれ、長期反復的トラウマ体験によって起こる「心的外傷後ストレス障害」とされています。症状としては衝動性、感情障害、解離性障害、自虐行為、対人関係障害などが特徴的です。他の精神疾患とも合わさって、文字通り複雑な病状になります。

 

5.東日本大震災によるPTSDはこれからです

被災者の精神的なケアはまだまだ必要です。

世界中の人々を震撼させたあの巨大津波をともなった東日本大震災から、はや4年半が過ぎました。しかし時が経過しても被害体験が癒されることなく、あの忌まわしい体験がトラウマになって、フラッシュバックとして恐ろしい場面が生々しく再現されたり、不眠が長い間続き、悪夢にうなされるような症状がある人は今も少なくありません。

症状からしてそうした人たちの多くがPTSDではないのかと疑われています。震災被害者の精神性ストレスは時がたっても減少することはなく、逆に今でも増加を続けているということがいわれています。こうした人々がすべてPTSDであるとは断定できませんが、多くの方がPTSDで苦しんでいることは事実でしょう。

今回の震災のように凄惨な体験をされた方の中には、脳が自分を守るために記憶を封じ込んでいることもあります。よく覚えていない当時の光景が急によみがえってきて、時間が経ってから突然フラッシュバックする方もいらっしゃいます。東日本大震災の被災者の精神的なケアは、これからまだまだ必要なのです。

 

6.PTSDの患者はどれぐらいいるのか

日本では1~2%程度といわれています。

最近ではPTSDがすっかりポピュラーなっており、PTSDではないかと自分から病院を受診する方もいらっしゃいます。自分から外傷体験を話せる人はPTSDではないのですが、中には診断をつけてしまっている医師もいるでしょう。

WHO(世界保健機構)の調査によりますと、日本におけるPTSDの発症率は1.1%~1.6%とされていますが、20代~30代の若年層に絞り込んだ場合は、その率は一気に増えて3.0%~4.1%にも達しています。これだと、この層では100人のうち3~4人がPTSDの患者ということになりますから、若い方が外傷体験に会いやすいとはいえ過剰診断されているように感じます。

また危険で重大な体験をした人の中では、PTSDを発症するのは男性が8.1%、女性が20.4%という報告があります。女性が圧倒的に多いのは、女性にはレイプ被害者が多いと考えられるからです。危険な体験の中でも、レイプに遭った人は60%以上がPTSDになると言われています。

これで分かるように、PTSDの発症率は体験の種類によっても異なってくるのです。一般的にPTSDに最もかかりやすいとされている体験は戦闘とレイプで、いずれも体験者の50~60%が患者になっています。災害では人によって程度にも差がありますが、この2つは誰もが心に重大な傷をうけるほどの体験になるのです。「心の殺人」と呼ばれるレイプという犯罪の重さがわかります。

 

まとめ

「PTSDのトラウマ」は、本人が話題にすることもできないような過去の強烈な体験があります。

PTSDにはお金などの利害関係が絡むことも多いので、診断は慎重に行います。

PTSDを発症するのは、トラウマ体験に対して恐怖の条件付けがされて、その記憶を消去できないためと考えられています。

戦争や大災害、犯罪被害といった命の危険を感じるような出来事や、ストレス対処が未成熟な幼少期での反復的なストレス体験が原因となります。

PTSDの発症率は、日本では1~2%程度といわれています。

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