クエチアピン錠の効果と特徴

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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クエチアピン錠は、2001年に発売された第二世代の抗精神病薬(非定型抗精神病薬)セロクエル錠のジェネリックです。いろいろな受容体に作用するので、MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)と呼ばれています。

統合失調症の治療薬としては、陰性症状や認知機能の改善効果に優れています。作用がとても穏やかなので、全体的に副作用も少ないです。

おもに統合失調症の治療に使われますが、興奮を落ち着かせる鎮静作用があるので、双極性障害や認知症などでも使われているお薬です。催眠作用があるので、睡眠薬として使われることもあります。

ここでは、クエチアピン錠の効果と特徴を詳しくお伝えしていきたいと思います。他の抗精神病薬とも比較しながら、どのような方に向いているのかを考えていきましょう。

 

1.クエチアピンの作用の仕組み(作用機序)

様々な受容体を全体的にゆるく遮断するお薬です。全体的なバランスによって、ドパミンの働きを整えます。幻覚や妄想などの「陽性症状」と意欲減退や感情鈍麻などの「陰性症状」を両方改善していきます。

統合失調症では、脳内のドパミンに異常があることが分かっています。

ドパミンが過剰に分泌されると、陽性症状とよばれる幻覚や妄想などが起こります。脳の中でも「中脳辺縁系」と呼ばれる部分で、ドパミンが過剰になっています。

一方で「中脳皮質系」という脳の部分では、ドパミン分泌が落ちています。やる気が起こらない、集中できないなどの陰性症状は、このドパミンの減少が原因となって生じます。

 

統合失調症の目立つ症状は幻覚や妄想といった陽性症状ですから、まずはドパミンをブロックするお薬が開発されました。確かにドパミンをブロックしてしまえば陽性症状は改善が期待できますが、陰性症状には効果が期待できませんね。

そこで注目されたのが、中脳辺縁系以外でドパミンを抑制する働きをする「セロトニン」という物質です。このセロトニンをブロックすると、中脳辺縁系以外のドパミンの量を増やすことができます。

ですから、ドパミンD受容体とセロトニン2A受容体を同時にブロックしてしまえば、陽性症状と陰性症状への効果を両立させることができます。

クエチアピンは、いろいろな受容体にゆるく結合して、その作用をブロックするお薬です。ドパミンD受容体とセロトニン2A受容体はもちろんのこと、様々な受容体に対して作用します。このため、MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬)と呼ばれています。

これらの受容体へのバランスによって、陽性症状にも陰性症状にも効果が期待できるお薬です。

 

2.クエチアピンの効果と特徴

まずは、クエチアピンの作用の特徴をまとめたいと思います。専門用語も出てきますが、後ほど詳しく説明していますので、わからないところは読み飛ばしてください。

クエチアピンの統合失調症への効果は、ドパミンとセロトニンに対する作用によってもたらされます。

  • ドパミンD受容体遮断作用:⊕陽性症状改善 ⊖錐体外路症状・高プロラクチン血症
  • セロトニン2A受容体遮断作用:⊕陰性症状の改善・錐体外路症状の改善・睡眠が深くなる

クエチアピンでは、「D2遮断作用<セロトニン2A遮断作用」となっていますが、ドパミン遮断作用が弱いです。そしてクエチアピンが受容体にくっついても、すぐに離れてしまうという特徴があります。

 

クエチアピンは、他の受容体にも作用します。これが副作用になってしまいますが、鎮静効果にもなります。

  • セロトニン2C受容体遮断作用(わずか):体重増加
  • α1受容体遮断作用(強い):ふらつき・立ちくらみ・射精障害
  • ヒスタミン1受容体遮断作用(中等度):体重増加・眠気
  • ムスカリン受容体遮断作用(弱い):口渇・便秘・排尿困難

さらにはセロトニン1A受容体作用やα2自己受容体遮断作用が認められて、中脳皮質系(前頭前野)でのドパミンの働きが活発になります。これは、抗うつ効果につながります。

これらをふまえて、クエチアピンの特徴をメリットとデメリットに分けて整理してみましょう。

 

2-1.クエチアピンのメリット

  • 鎮静効果が期待できる
  • 陰性症状や認知機能の改善効果が大きい
  • 催眠作用がある
  • ドパミン不足による副作用が少ない
  • 躁症状やうつ症状に有効

クエチアピンの特徴は、「いろいろな受容体を穏やかにブロックすること」です。このためクエチアピンは、幻覚や妄想などの陽性症状にも効果がありますが、同時に気持ちの高ぶりを抑える鎮静作用も期待できます。

クエチアピンの大きなメリットは、陰性症状や認知機能にも改善効果が期待できることです。セロトニン2A受容体遮断作用だけでなく、セロトニン1A受容体作用やα2自己受容体遮断作用などによって、中脳皮質系(前頭前野)でのドパミンの働きが活発になります。このため脳の働きが活発になり、陰性症状や認知機能の改善効果が大きいです。

また、セロトニン2A受容体遮断作用は睡眠を深くする効果があり、抗ヒスタミン作用や抗α1作用には入眠作用があります。クエチアピンは催眠作用がるといわれていて、一般的な睡眠薬のように睡眠の質を落とすことがありません。

 

クエチアピンのもうひとつの特徴として、ドパミン遮断作用が緩やかなことがあげられます。ドパミン受容体への結合が緩やかで、すぐに受容体からも離れてしまう特徴があります。このため、ドパミンをブロックしすぎることによる副作用が非常に少ないです。抗精神病薬の中でも最小でしょう。

具体的には、錐体外路症状(ふるえ・ソワソワ・筋肉のこわばり)や高プロラクチン血症(乳汁分泌・生理不順・性機能障害)などが軽減されています。

クエチアピンは、気分安定作用が認められて、躁症状にもうつ症状にも効果が期待できます。海外では、双極性障害の第一選択薬と位置付けられています。

 

2-2.クエチアピンのデメリット

  • 幻覚や妄想に対する効果が不安定
  • 体重増加や代謝の悪化が目立つ
  • 糖尿病の方に使えない
  • 眠気・ふらつきが強く出てしまうことがある
  • 1日2~3回服用しなければいけないことが多い
  • 薬価が高い

クエチアピンの最大のデメリットは、幻覚・妄想作用の不安定さです。ドパミンをブロックする作用が非常に穏やかなので、どうしても幻覚や妄想といった陽性症状に対するコントロールは甘くなってしまいます。

また、体重増加の副作用が多いです。抗ヒスタミン作用が強く、食欲が増加してしまいます。それだけではなく、クエチアピンでは代謝が大きく悪化してしまうことがあります。このため、実際に食べている以上に体重増加がみられることもあります。個人差はあるのですが、太りやすいことは意識していかなければいけません。

また、糖尿病の方には使えないという大きな制約があります。発売当初、急激に血糖が悪化して亡くなったケースがあったためです。血糖値を定期的にチェックすることを意識づけるため、糖尿病の方は禁忌という扱いになりました。

クエチアピンは鎮静作用が強いお薬ですまた、抗α1作用が強いので、起立性低血圧(立ち上がった時にふらつく)などが認められます。このため、眠気やふらつきといった副作用も強く出てしまうことがあります。

クエチアピンは、薬価が高いのも難点です。クエチアピンは高用量で使うことも多く、薬価が非常に高くなってしまいます。ジェネリックのクエチアピン錠が発売されたことで、薬価は5.5割ほどとなりました。それでも薬価は、高い部類になります。

 

クエチアピンの副作用について詳しく知りたい方は、
クエチアピンの副作用(対策と比較)
をお読みください。

 

3.クエチアピンの作用時間と使い方

クエチアピンは最高血中濃度到達時間が1.3~1.4時間、半減期が3.3~3.5時間の非定型抗精神病薬です。外来では25~50mgから、入院では50~200mgから使われることが多いです。最大750mgまで使えます。

クエチアピンを服用すると、1.3~1.4時間で血中濃度がピークになります。そこから少しずつ薬が身体から抜けていき、3.3~3.5時間ほどで血中濃度が半分になります。

この血中濃度がピークになるまでの時間を「最高血中濃度到達時間」、血中濃度が半分になるまでを「半減期」といいます。

代謝産物のノルクエチアピンは、クエチアピンと比べて約100倍強力なノルアドレナリン再取り込み作用や約10倍のセロトニン1A受容体作用があります。このため、ノルアドレナリンやセロトニンが増加し、抗うつ効果が期待できます。

 

クエチアピンは作用時間がとても短いお薬です。このため、1日3回から服用を開始するのが一般的です。

クエチアピンの添付文章では、1回25mgを1日2~3回から開始(50~75mg)して、最大量750mgまでとされています。実際には、外来では25~50mgから、入院では50~100mgから使われることが多いです。

クエチアピンを頓服として使う時は、25mg~200mgで効果の実感をみていきます。

 

クエチアピンはいろいろな受容体に優しく作用するので、他の薬から切り替えたり、新しく開始するときのリスクが少ないです。このため、副作用がおきてもすぐに対処できる入院治療では、比較的すぐに量を上げることが多いです。1週間ほどで400mg以上まで増量していきます。

幻覚や妄想などの急性期の症状が目立つときは1日中クエチアピンを効かせる必要があります。このため、1日3回がっちりと服用する必要があります。

症状が落ち着いてきたら、クエチアピンは1日1回にすることもできます。統合失調症の再発予防には、1日どこかのタイミングでしっかりとドパミンD受容体をブロックすることが重要と考えられています。400mg以上を服用すると、しっかりとドパミンがブロックできます。

 

4.クエチアピンとその他の抗精神病薬の比較

クエチアピンは、いろいろな受容体に穏やかに作用する鎮静作用の強いお薬です。抗ヒスタミン2C作用と抗コリン作用が少ないのが特徴です。

抗精神病薬の作用を比較して一覧にしました。

代表的な抗精神病薬の作用を比較して、それぞれのお薬の位置づけを考えていきましょう。

統合失調症の治療薬としては、まずは第二世代の非定型抗精神病薬から処方されることが一般的になっています。陰性症状への効果も期待できますし、何よりも副作用が軽減されていて患者さんへの負担が少ないからです。

非定型抗精神病薬には、大きく3つのタイプが発売されています。それぞれの特徴をざっくりとお伝えしたいと思います。

  • SDA(セロトニン・ドパミン拮抗薬):ドパミンとセロトニン遮断作用が中心
    商品名:リスパダール・インヴェガ・ロナセン・ルーラン
    特徴:⊕幻覚や妄想などの陽性症状に効果的 ⊖錐体外路症状や高プロラクチン血症が多め
  • MARTA(多元受容体標的化抗精神病薬):いろいろな受容体に適度に作用
    商品名:ジプレキサ・クエチアピン(セロクエル)
    特徴:⊕鎮静作用や催眠作用が強い ⊖太りやすい・眠気が強い・糖尿病に使えない
  • DSS(ドパミン受容体部分作動薬):ドパミンの分泌量を調整
    商品名:エビリファイ
    特徴:⊕副作用が全体的に少ない ⊖アカシジア(ソワソワ)が多い・鎮静作用が弱い

非定型抗精神病薬がしっかりと効いてくれればよいのですが、効果が不十分となってしまうこともあります。急性期の激しい症状を抑えるためには、定型抗精神病薬の方が効果が優れています。また、代謝への影響は定型抗精神病薬の方が少ないです。

定型抗精神病薬は、セレネースの系統とコントミンの系統の2つに分けることができます。

  • セレネース系(ブチロフェロン系):ドパミン遮断作用が強い
    特徴⊕幻覚や妄想などの陽性症状に効果的 ⊖錐体外路症状や高プロラクチン血症が多い
  • コントミン系(フェノチアジン系):いろいろな受容体に全体的に作用する
    特徴⊕気持ちを落ち着ける鎮静作用が強い ⊖幻覚や妄想などの陽性症状には効果が乏しい

クエチアピンは、非定型抗精神病薬のMARTAに分類されます。いろいろな受容体に穏やかに作用することで、鎮静作用と抗幻覚・妄想作用の両方が期待できます。

 

5.クエチアピンの適応疾患とは?

<適応>

  • 統合失調症

<適応外>

  • 双極性障害における躁症状及びうつ症状の改善
  • 不穏状態(興奮や衝動性が強くて落ち着かない状態)
  • うつ病の増強療法
  • 睡眠薬

クエチアピンは、添付文章上の適応疾患としては、統合失調症のみとなっています。鎮静作用が強いお薬なので、興奮や衝動が強い時に使われるお薬です。幻覚や妄想に対する効果がやや甘いですが、うまくコントロールできる副作用も少なく、しっかりと陰性症状や認知機能障害を改善してくれるお薬です。

海外では、双極性障害にも適応が認められていて、第一選択薬として使われています。うつ症状にも躁症状にも効果が期待でき、気分の波が小さくなる気分安定薬としての効果が期待できます。クエチアピンは、同じMARTAと比べてもうつ症状への効果が期待できます。

 

クエチアピンは、これ以外の目的でも使われることがあります。

  • 知的障害・発達障害・パーソナリティ障害・認知症の方の興奮や衝動性を抑えるため
  • せん妄を落ち着かせるため
  • 抗うつ薬の効果を増強するため
  • 睡眠を深くするため

クエチアピンには鎮静作用があり、また薬の効果も持続しません。このため、興奮や衝動性が高まっている時に、気持ちを落ち着かせることができます。副作用も少ないので、高齢者でも比較的使いやすいです。

せん妄とよばれる一時的な意識障害がみられるときにも、クエチアピンが効果的です。

うつ病には正式に適応が認められていませんが、焦燥感が強い時や妄想を伴ううつ病の時に使われることが多いです。抗うつ剤と併用することで、抗うつ剤の効果も増強されます。このような使い方をする時は、少量で使うことが多いです。

さらにクエチアピンには催眠作用があるので、通常の睡眠薬で効かない時に使われることもあります。

 

6.クエチアピンが向いている人とは?

  • 興奮が強く鎮静が必要な方
  • うつや躁の症状がみられる方
  • 不眠が強い方
  • 錐体外路症状や高プロラクチン血症が認められた方

クエチアピンの特徴は、「いろいろな受容体に作用する鎮静作用の強いお薬」でしたね。この特徴を踏まえて、どのような方に向いているのかを考えていきましょう。

クエチアピンがよく使われるのは統合失調症や双極性障害の2つです。統合失調症の患者さんでは、幻覚や妄想に左右されていて、興奮や衝動性が強いことがあります。このような時には、クエチアピンが向いています。

双極性障害においても、躁状態で興奮している時に効果が期待できます。クエチアピンはうつ症状にも大きな効果が期待できるお薬です。このため、双極性障害に限らず、統合失調症でうつや躁の傾向がある方にも向いています。

また、クエチアピンは催眠作用が強いお薬です。一般的な睡眠薬では効果が不十分な時に、クエチアピンで改善できることがあります。不眠が強い方にはクエチアピンが向いています。

もうひとつのクエチアピンの特徴として、ドパミン遮断作用が緩やかなことがありましたね。このためクエチアピンは、ドパミン不足による錐体外路症状や高プロラクチン血症が非常に少ないです。ですから、他の抗精神病薬でこれらの副作用に苦しめられている時は、クエチアピンに変更すると改善が期待できます。

 

まとめ

クエチアピンの特徴は、「いろいろな受容体に作用して鎮静作用の強いお薬」ということです。

ドパミンD受容体遮断作用とセロトニン2A受容体遮断作用の両方があります。

  • セロトニン2C受容体遮断作用:わずか
  • α1受容体遮断作用:強い
  • ヒスタミン1受容体遮断作用:中程度
  • ムスカリン受容体遮断作用:弱い

クエチアピンのメリットとしては、

  • 鎮静効果が期待できる
  • 陰性症状や認知機能の改善効果が大きい
  • 催眠作用がある
  • ドパミン不足による副作用が少ない
  • 躁症状やうつ症状に有効

クエチアピンのデメリットとしては、

  • 幻覚や妄想に対する効果が不安定
  • 体重増加や代謝の悪化が目立つ
  • 糖尿病の方に使えない
  • 眠気・ふらつきが強く出てしまうことがある
  • 1日2~3回服用しなければいけないことが多い
  • 薬価が高い

クエチアピンが向いている方は、

  • 興奮が強く鎮静が必要な方
  • うつや躁の症状がみられる方
  • 不眠が強い方
  • 錐体外路症状や高プロラクチン血症が認められた方

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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