メプチンスイングヘラーの効果と副作用
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
メプチンスイングヘラー(一般名:プロカテロール塩酸塩水和)は、2014年大塚製薬から発売された短時間型のβ2刺激薬の吸入薬になります。
主に喘息の発作時のお薬になります。喘息発作で狭まった気管支を、β2刺激薬として広げることで症状を和らげます。喘息発作を予防するには適しておらず、症状がある時に使われるお薬です。
メプチンスイングヘラーは、ドライパウダーであるメプチンクリックヘラーの改良版になります。メプチンクリックヘラーと比べるとスイングヘラーは操作が簡単になっており、大きさもコンパクトになったことで持ち運びもしやすくなりました。
そのためメプチンクリックヘラーは2016年3月をもって製造中止となり、今後はこのメプチンスイングヘラーに変わっていきます。
ここでは、メプチンスイングヘラーの効果と特徴について書いていきます。
1.メプチンスイングヘラーの効果のメリット・デメリット
<メリット>
- β2刺激薬の中で即効性がある
- 発作時に使用するお薬
- ドライパウダー式でタイミングを合わせる必要がない
<デメリット>
- β2刺激薬は短期しか効果がない
- 吸入する力が弱いとドライパウダーが上手く吸えない
喘息の治療薬は、
- 毎日治療することで喘息の症状や発作が出現することを予防する長期管理薬
- 喘息発作が出たときの発作治療薬
の2つに大まかに分けられます。このうちメプチンスイングヘラーは、発作が出現した時に治療するお薬となっています。喘息発作とは、急に咳や喘鳴とともに息苦しさが出現する状態です。
重症度としては、
- 小発作:動くと息苦しい
- 中発作:息苦しくて横になれない/なんとか歩ける状態
- 大発作:苦しくて動けない/会話も苦しくてとぎれとぎれ
- 重篤:呼吸が弱くなってきている/会話不能
に分かれています。メプチンスイングヘラーはβ2刺激薬として気管支を拡張することで、全ての状態において適応があります。しかし中発作以上は、メプチンスイングヘラーを吸ったら様子をみるのではなく、すぐに病院を受診するようにしましょう。
また小発作でも、メプチンスイングヘラーを吸っても症状が改善しない場合は受診することが大切です。メプチンは、吸入してから15分程度で効果がみられる即効性が高い吸入薬です。そのため30分たっても症状が改善しなかった場合は、病院を受診してください。
小発作で様子を見ていたら、一気に大発作まで悪くなることは多々あります。重篤になると命にかかわる病気です。必ずメプチンを吸った後は安静にして、状態を評価しましょう。
メプチンスイングヘラーは、ドライパウダー式のお薬です。メプチンエアーはスプレー式のお薬ですが、スプレー式だとボタンを押すタイミングと吸うタイミングを合わせる必要があります。喘息発作でパニックになりやすい方は、このタイミングを合わせるのが難しい場合があります。
そのため蓋を開けたら、自分のタイミングで吸えるメプチンスイングヘラーの方が良いという人もいます。一方でドライパウダーは自分の力で吸うため、吸う力が弱いとそもそも適応になりません。
そのため、吸う力が弱い老人の方やお子さんは注意が必要です。
2.メプチンスイングヘラーの剤形と用量とは?
メプチンスイングヘラーは、1つで100回吸入できます。メプチンスイングヘラーは、1回の喘息発作中に成人は2回、小児は1回吸入するお薬です。
メプチンスイングヘラーはメプチンの製剤で12番目に発売されたお薬です。
- メプチン錠50μg(1980年)
- メプチンミニ錠25μg(1984年)
- メプチン顆粒0.01%(1984年)
- メプチンシロップ5μg/mL(1984年)
- メプチンエアー10μg吸入100回(1987年)
- メプチンキッドエアー5μg吸入100回(1987年)
- メプチン吸入液0.01%(1987年)
- メプチン吸入液ユニット0.3mL(2002年)
- メプチン吸入液ユニット0.5mL(2002年)
- メプチンドライシロップ0.005%(2004年)
- メプチンクリックヘラー10μg(2005年)
- メプチンスイングヘラー10μg(2014年)
となっています。このメプチンスイングヘラーは、メプチンクリックヘラーと同じドライパウダーになります。メプチンクリックヘラーの改良版ともいわれています。メプチンスイングヘラーとメプチンクリックヘラーを比較すると、
- コンパクトになって持ち運びが便利になった
- ワンプッシュで薬が充填でき使用方法が簡単になった
と使いやすくなったのが特徴です。このメプチンスイングヘラーの普及によって、メプチンクリックヘラーは2016年3月に製造中止になりました。
メプチンスイングヘラーは喘息発作に対して、成人1回200μg(2吸入)、小児1回100μg(1吸入)を吸入します。つまり成人は50回分、小児は100回分の治療ができる薬になります。
メプチンは、15~30分で効果が出てきます。メプチンは3時間以上効果が持続するので、その間は次の吸入をしないでください。メプチンの1日の最大吸入量は、4回(成人8吸入、小児4吸入)です。つまり3時間たってもまだすっきりしない場合は、追加であと3回吸入が可能になります。
この時に連続でメプチンスイングヘラーを吸ったり、投与回数を超えて吸うと不整脈や心停止が起こりえます。喘息発作時は慌てずに指示された量を吸いましょう。もし改善がなければ、β2刺激薬を何度も吸うのではなく病院に行くようにしましょう。
3.メプチンスイングヘラーの適応疾患は?
メプチンスイングヘラーは、喘息発作もしくは咳喘息の診断に使用します。
添付文章上では、
気管支喘息、小児喘息、肺気腫、急・慢性気管支炎
これらがメプチンスイングヘラーの適応疾患となっています。有効成分のメプチンは、1980年代から使われている非常に古いお薬です。現在ではほとんどの場合が、気管支喘息の発作時の治療として使用されています。一部の患者さんでは、肺気腫の増悪時にも使用することがあります。
適応疾患に書かれていない使い方としては、咳喘息かどうかの診断のために使用することがあります。咳喘息は、β2刺激薬を吸入して症状が改善するかどうかで診断します。咳喘息は喘鳴が聴取されず、他の検査でも診断がつけられない病気です。
9週間以上続く咳の方では、そのうちの実に7割が咳喘息と言われています。咳喘息を診断する際に咳の症状が強い場合は、シムビコートやアドエアなどの吸入ステロイドとβ2刺激薬の合剤で咳喘息を確認することもあります。
しかし本来は、メプチンなどのβ2刺激薬単剤で確認することが望ましいです。なぜなら吸入ステロイドも加えてしまうと、アトピー性咳そうと咳喘息の区別ができないからです。
咳がひどい人では、β2刺激薬単剤では治療効果が乏しい場合が多いです。そのため何となく咳が長引く軽症な人に、メプチンは処方されます。メプチンには即効性があるため、咳が止まったかどうか確認しやすい利点があります。
4.メプチンスイングヘラーの薬価とは?
メプチンスイングヘラーは、1吸入あたりの薬価が成人では5.7円ほどになります。2014年発売された薬なので、ジェネリック医薬品はありません。
メプチンは、非常に古くからあるお薬です。ですから先発品でも十分に薬価が下がっており、ジェネリック医薬品も発売されていません。
商品名 | 吸入回数 | 薬価 |
メプチンスイングヘラー | 100 | 959.64 |
※2016年6月22日時点での薬価です。
メプチンは、喘息発作のときに使っていくお薬です。成人1回2吸入、小児1回1吸入を吸入になるので、成人は50回分、小児は100回分の治療ができます。
実際に患者さんが負担するのは、薬価に自己負担割合をかけたものです。3割負担の場合は287.7円です。そのため成人は1回5.7円、小児では1回2.9円となります。
メプチンスイングヘラーは、2014年に発売された主に喘息の発作時のドライパウダー型のお薬になります。
メプチンの成分であるプロテカロールは、短時間作用性β2刺激薬に分類されています。つまり即効性がある分、作用時間も短いのが特徴です。
5.メプチンスイングヘラーの副作用とは?
メプチンスイングヘラーでは、動悸や手の震えが出現します。
メプチンスイングヘラーでは調査症例6,655例中101例(1.52%)に臨床検査値の異常を 含む副作用が認められています。その細かい内容が記載がないのですが、頻度が高い0.5~5%の副作用は以下になります。
- 動悸
- 頻脈
- 手の振るえ
- 頭痛
- 嘔気
β刺激薬は心臓の動きも強めてしまい、結果としてドキドキする人がいます。またメプチンは吸入薬なので、肺の奥まで届かせようと思いっきり吸入すると頭痛や嘔気が出現することがあります。
またβ刺激薬を吸うと、手の震えを訴える人もしばしばいます。メプチンスイングヘラーでは0.5~5%と少ない副作用ながら、全体の副作用でみると頻度が多い項目となっています。
またメプチンでは、電解質の一つであるカリウムが低下することが報告されています。普通に食事している分には野菜や果物に多く含まれているため、まず問題になることはありません。しかし食事量が減ってきた高齢者などでは、注意が必要になります。
6.メプチンスイングヘラーが使用できない人は?
メプチンスイングヘラーが使用できない人は基本的にいません。
メプチンスイングヘラーが禁忌となる疾患はありません。使用するのに注意が必要な疾患は、以下の5つです。
- 甲状腺機能亢進症の患者[甲状腺ホルモンの分泌促進により症状悪化の恐れ]
- 高血圧の患者[α及びβ1作用により血圧を上昇させる恐れ]
- 心疾患のある患者[β1作用により症状を悪化させる恐れ]
- 糖尿病の患者[グリコーゲン分解作用により症状を悪化させる恐れ]
- 妊婦の方[妊娠の方の安全性は確立されていない]
①~④の疾患は、喘息発作が起きた時点でさらに悪化する可能性があります。喘息発作治療薬としては、β2刺激薬の他にはステロイド点滴があります。このステロイドの方が上記の疾患をより悪化させる可能性を考慮すると、喘息発作が起きたときにメプチンをためらう理由はないと思います。
また⑤の妊婦の方ですが、
妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること(動物実験(マウス)で催奇形作用が報告されている。)
と記載されています。催奇形と書かれるとぎょっとしてしまうかもしれませんが、これは吸入する何百倍もの量を血液に投与したことで認められたものです。
喘息発作が出現したときにメプチンの有益性が危険性を下回るケースは、ほぼありません。喘息発作が出現して治療を遅れてしまうと、もっと重篤になります。体の中の酸素が足りなくなると、お腹の子供にも影響が出かねません。
そのためメプチンスイングヘラーを吸入した後、妊婦の方は速やかに病院を受診することをお勧めします。
またお薬を内服中で気を付けるものは、以下の通りです。
- アドレナリン・イソプレナリン(カテコールアミン併用により、アドレナリン作動性神経刺激の増大が起きる。そのため、不整脈を起こすことがある。)
- キサンチン誘導体・ステロイド剤・利尿剤 (低カリウム血症による不整脈を起こすおそれがある。)
①のお薬は、交感神経を刺激するお薬です。β2も交感神経に属する神経です。そのため併用することで、さらに効果が高まる可能性があります。しかしアドレナリンなどは、血圧が低下して集中治療室に入院しているような方に使用するお薬です。そのため普通に生活している人では、まずお目にかかることはないでしょう。
気を付けるべきは、②のキサンチン誘導体・ステロイド剤・利尿剤です。特にキサンチン誘導体とステロイドは、喘息発作が起きたときに一緒に使用することが多いお薬です。
低カリウム血症のリスクが高まりますが、普通に食事を摂取している人では心配はまず必要ありません。食事がとれないような方でこれらの治療を使用する場合は、入院する場合が多いです。
また利尿剤は、尿と一緒にカリウムが一緒に出ていってしまうお薬です。そのため利尿剤を投与している方は、定期的に採血でカリウムを調べていることが多いです。低カリウム血症の症状としては筋力の脱力があります。もし気になる方は一度医師に相談してみましょう。
7.メプチンスイングヘラーが向いてる人は?
- 喘息発作が出現した人
- 発作時にスプレー式よりドライパウダー式の方が良い人
メプチンは,症状が出現した場合にすぐに吸うべきお薬です。毎日吸っても喘息を予防効果は期待できないので、注意が必要です。
軽発作だけの患者さんでは、「毎日吸うと大変だから、発作が出たときだけメプチンを吸っている」という人をたくさん見かけます。さらには喘息治療に慣れていない先生もこの処方で対応していることがありますが、これは大間違いです。
喘息発作を繰り返すと、気管支がどんどん太くなってきます。これは筋トレをイメージしていただけると理解していただけると思います。筋トレをすると、徐々に腕の筋肉が太くなります。腕だと筋トレの効果があって喜ばしいことですが、気管支が太くなることは喘息を悪化させてしまいます。
気管支が太くなりすぎてしまうと、メプチンに反応しない状態になってしまいます。喘息発作がおきてメプチンを使っても、気道が広がらなくなってしまって喘息発作が改善しなくなります。これをリモデリング(不可逆性)と、専門用語では呼んでいます。
メプチンに反応しなくなってから慌てて毎日治療する長期管理薬を行っても、一部の人は手遅れになります。β2刺激薬のメプチンで気管支喘息発作が改善しない場合は、次の一手はステロイドになります。
しかしステロイドは、諸刃の治療です。効果もありますが、副作用も強いお薬です。そのためステロイドは気軽に出せるお薬ではないため、喘息をしっかりとみれる病院の受診が必要になります。
毎日吸入するお薬が面倒だからといってメプチンだけでやり過ごしてしまうと、後で大変な思いをしてしまいます。必ず長期管理薬でしっかりと喘息を治療するようにしましょう。
また喘息発作が起きた時に、メプチンの吸入を最高用量よりもたくさん吸う人がいます。これは非常に危険です。メプチンの添付文章には、
本剤の過度の使用により、不整脈、心停止等の重篤な副作用が発現する危険性があることを理解させメプチンを適正に使用すること
と記載されています。一度に大量にメプチンを使うと、非常に重篤な副作用が出現することがあるのです。さらにβ2刺激薬は、吸えば吸うほど気管支が拡張されるわけではありません。そもそも喘息発作は、気管支の炎症が激しくなって起こる状態です。
そのため中発作以上ですと、まずステロイドなどの炎症を押さえるお薬が必要になります。メプチンを何度も吸いたくなるくらい苦しい人は、メプチンを吸ったらすぐに病院に来ることをお勧めします。
まとめると、メプチンは喘息発作の全ての状態で治療可能です。しかしながらメプチンの吸入だけで加療が向いてる人は、軽度の喘息発作に限ります。
この発作時の短期β2刺激薬として、メプチンはスプレー式とドライパウダー式の2つがあります。メプチンスイングヘラーは、ドライパウダー式として粉を自らの吸入力で吸い込むお薬です。
スプレーは押すタイミングと吸うタイミングを合わせる必要があるため、自分のタイミングで吸いたい人はメプチンスイングヘラーがお勧めです。
8.メプチンスイングヘラーとの作用メカニズム
β2刺激薬は、気管に主に存在する交感神経の受容体です。身体が活動的になる時には空気をたくさん必要とするので、β2が刺激されると気管が広がります。
最後に、どうしてβ2刺激薬では気管支が広がるのかについて、そのメカニズムをお伝えしていきたいと思います。
β2とは、交感神経の受容体になります。交感神経にはαとβという2種類の受容体があって、交感神経が活発になった時に命令の受け皿である受容体を通して全身に作用します。
βの中には、おもにβ1とβ2があります。β1は心臓に主に存在していて、β2は気管に主に存在しています。そしてそれぞれの作用は、交感神経が活発になっている状態をイメージすれば理解が出来るかと思います。
交感神経は、身体のスイッチをオンにした時の神経です。運動をした時をイメージしてみましょう。
心臓はバクバクと早くなり、全身に必要な血液を送るべくポンプとして頑張ります。この作用がβ1刺激作用になるのです。気道に関しては、空気をたくさん吸い込むべく気管が拡張します。この作用がβ2刺激作用になるのです。
もう少し詳しく言えば、β2受容体は気管の平滑筋に存在しています。筋肉が弛緩することによって、気管が拡張するのです。
これに対して抗コリン作用は、リラックスする副交感神経に関係しています。副交感神経を優位にするアセチルコリンをブロックするので、結果的には交感神経の働きを強めるのです。
メプチンスイングヘラーは気管におもに存在するβ2だけを刺激するお薬で、心臓への影響をできるだけ避けて気管を広げて呼吸状態を改善するお薬です。
まとめ
- メプチンスイングヘラーはプロカテロール塩酸塩水和を主成分とするドライパウダー式の短期作用型のβ2刺激薬になります。
- メプチンスイングヘラーは主に喘息発作が出現した際に吸入します。
- メプチンスイングヘラーは成人は2回、小児は1回吸入します。
- メプチンスイングヘラーは喘息発作全ての状態で適応がありますが、効果がない、症状が強い場合はすぐに病院を受診する必要があります。
- メプチンスイングヘラーは自分のタイミングで吸える代わりに、粉を吸いきる吸入力が必要になります。
- メプチンスイングヘラーは1度に何回も吸ったり、1日5回以上吸うと不整脈などの重篤な副作用が出現する可能性があります。
- メプチンスイングヘラーの主な副作用は動悸と手の振るえです
- メプチンスイングヘラーが吸えない方はいません。どなたでも喘息発作時は使用することが可能です。
投稿者プロフィール
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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