新型インフルエンザワクチンの現状と今後の展望

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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インフルエンザワクチンは、どのウイルスが流行するかを予測して作られます。ですから、毎年新しいタイプのものが作られています。

医療の世界は日進月歩ですが、特にインフルエンザワクチンは1年違うだけで全く違うワクチンといえます。

インターネットで色々書かれている情報はその時は正解かもしれませんが、数年後は完全に過去の話となっている可能性もあります。

ここでは、2016年時点での今後のインフルエンザワクチンの現状と展望についてまとめます。

 

1.インフルエンザワクチンはどうやって作られるの?

インフルエンザワクチンは卵を利用して作られます。不活化ワクチンといって、感染性のなくなったウイルスの一部です。

インフルエンザワクチンがどのように作られているのかといいますと、インフルエンザウイルスを鶏の卵に接種して作ります。

卵の中でウイルスを増殖させて、それをエーテルで処理することで不活化させて感染性をなくします。その後、副作用に関わる物質を分離して、ウイルスの殻の部分(HA)だけを残します。

こうしてできたものがワクチンとなります。このようなワクチンを不活化ワクチンといいます。端的にいってしまえば、ウイルスの死骸が不活化ワクチンです。

詳しく知りたい方は、「インフルエンザ予防接種の効果と限界・誤解とは?」を参考にしてください。

 

2.インフルエンザワクチンの効果と安全性とは?

毎年どのインフルエンザウイルスが流行するか予測して作られるため当たり外れはありますが、インフルエンザワクチンで7~9割予防できるとされています。2016年時点の日本のワクチンはかなり安全です。

1990年代は、インフルエンザワクチン無効論が提唱されたり、卵からワクチンを作ることで卵アレルギーに対する警告などがされてきました。しかし年々インフルエンザワクチンは進歩しており、効果も認められてきてます。

2015年の成人のインフルエンザワクチンの有効率は70~90%であり、もしインフルエンザワクチンと流行した株が外れてしまっても50~60%の予防効果を示すと言われています。

みなさん心配されるのが副作用です。インフルエンザワクチン接種後約30%に、注射部位の紅斑や疼痛が認められるとされています。

ワクチンは免疫を付けることが目的です。免疫をつけるには、一度戦う必要があるのです。そのときに敵を覚えておくことで、次に敵が来た時にすぐに臨戦態勢をとれるようにするのです。この戦いが大きいと、腫れたり、熱が出たりするのです。このことは、インフルエンザだけなく他のワクチンでも同じことが言えます。

アメリカではこれは有害事象とは呼ばず副反応と呼んでおり、インフルエンザワクチンを接種するば当たり前にみられる反応と考えられています。

インフルエンザワクチンには、その他の副作用はほとんど報告されていません。

 

3.インフルエンザワクチンは卵アレルギーはNG?

2015年、インフルエンザワクチンを投与してアナフィラキシーショックが起きた事例は1例もありませんでした。

日本はヨーロッパやアメリカと比較しても、非常にインフルエンザワクチン関しては進んでる国です。

欧米では卵を食べて軽度のアレルギーを引き起こす人はインフルエンザワクチンは問題ないとされていますが、アナフィラキシーという重度のアレルギーが出る人は避けた方が良いとされています。その欧米のインフルエンザワクチンでの卵の量は、600-700ng以上です。

一方日本では、2015年で打たれたインフルエンザワクチンは1ng程度の卵の量と言われています。

インターネットの情報によっては卵アレルギーを調べてから摂取した方が良いとされていますが、アレルギー検査で陽性となったら不安を仰ぐだけなので検査する必要は全くありません。さらに今後は鶏卵を使わないワクチンも作成されています。

大切なのは、日本でインフルエンザワクチンを打ってアナフィラキシーショックを起こした例は一例もなかったということです。

過度に怖がって打つのを避けるよりも、はるかに可能性が高いインフルエンザにかかる可能性を防ぐ方が合理的ではあります。

 

4.新型インフルエンザワクチン①-細胞培養法ワクチン

細胞レベルでインフルエンザウイルスを培養して作るワクチンです。

卵にインフルエンザウイルスを感染させて作るワクチンは、実は時間もかかるしアレルギーの問題もあります。卵レベルよりさらにミクロの世界で作成するのが、細胞培養ワクチンです。

海外ではすでに卵以外の細胞を使用して作られたワクチンが登場しています。サルの腎臓の細胞(ベロ細胞)で作られたインフルエンザワクチンは、すでにロシアやアメリカでは広く使用されています。日本でも今後登場する可能性があります。

さらに日本でのUMNファーマ株式会社では、

  • バキュロウイルスから昆虫細胞へ遺伝子組み換えして作った細胞(BEVS)
  • イヌ腎臓の細胞(MDCK細胞)
  • アヒル胚細胞(EB66細胞)

など色々な細胞からインフルエンザワクチンを作成しています。卵から作るインフルエンザワクチンと比較すると、どんな利点があるでしょうか?

  • 卵由来の成分を全く含まないため、卵アレルギーの人にも安全に投与できる。
  • 卵の生産に関係なく、安定して細胞レベルで作れる。
  • 卵の中で作るときに強力な毒性を持つインフルエンザだと生産が大変であるが、細胞レベルだと毒性に関係なく生産が可能である。
  • 遺伝子情報を基に生産するため、短期間で製造が可能である
  • 細胞レベルで保存できるため、卵と比べると容易に生産能力が拡大できる
  • 卵ワクチンによる抗原変異で一部効かないインフルエンザウイルスがいたが、細胞ワクチンは変異がない。

ただし日本の鶏卵培養ワクチンは代わりの物を作る必要がないほど優秀で、副作用も少ないワクチンです。細胞培養法によるインフルエンザワクチンはまだ有効性と安全性が完全に確立されていませんので、いきなりこちらに移行することは考えづらいと思います。

しかし2009年の新型インフルエンザの流行のように、突発的に大流行するインフルエンザが登場すると、鶏卵レベルではインフルエンザワクチンが間に合わない場合があります。このような時には、細胞培養ワクチンでスピーディーにインフルエンザワクチンを作ることができる可能性があります。

 

5.新型インフルエンザワクチン②-点鼻ワクチン(フルミスト)

インフルエンザワクチンは注射で投与することが大部分ですが、点鼻でワクチンが打つことができます。

従来のインフルエンザワクチンは、メモリーB細胞という免疫細胞に敵であるウイルスの形を記憶しています。そして次に同じ敵が来た時に、すぐに見つけて一気に攻撃体制を整えます。この攻撃体制をとるときに発現するのがIgGという細胞です。

しかし、インフルエンザウイルスはどこから侵入するのでしょうか?
大部分は飛沫感染や接触感染で鼻腔からインフルエンザウイルスは侵入します。そうすると敵の侵入口であるところをまずしっかり守った方が得策ではないでしょうか?

そういった考えで登場したのがフルミストなのです。フルミストは、インフルエンザの生ワクチン(毒性を弱らせたウイルス)を点鼻で直接鼻腔に投与します。

フルミストによる効果を説明していきましょう。先ほどの攻撃体制をとるIgGは、体内にインフルエンザウイルスが侵入して初めて発現します。一方で点鼻薬は、このインフルエンザウイルスを直接鼻に投与することで、鼻の粘膜に分泌型IgA抗体を産生します。このIgAは、鼻腔にインフルエンザウイルスがついた時点で攻撃を開始するので、IgGより速効性があるのです。

実際に理論だけでなく効果も高いとされており、特に小児では効果が示されています。2歳から8歳では一般的な注射のインフルエンザでは50~60%の効果を示したのに対して、フルミストは80%の効果を示したとされています。

こういった結果から、アメリカでは10年前からフルミストの発売が承認されています。しかしながら日本では、2016年の時点では承認されていません。個人輸入している病院でのみフルミストを受けることができます。

 

フルミストの副作用は、鼻水・鼻づまり・咽頭痛・発熱が言われております。特に鼻づまりは軽度の症状も含めたら3割程度と言われております。

また生ワクチンのため、不活化ワクチンとは異なって感染の可能性がわずかにあります。フルミストによってインフルエンザが発症してしまう例や他の人に移った例も、非常にまれですが存在しております。

こういった副作用が出現した場合、国が承認していない薬を投与したということで国からの保証が受けられませんので注意が必要です。

フルミストを投与できる人は2歳~49歳の方です。

投与できない方は、この年齢以外の方と、

  • 卵に対してアレルギーがある人
  • インフルエンザワクチンに対して以前に副作用があった人
  • 2才から17才までの方でアスピリン、もしくはアスピリン含有薬剤を服用している人
  • 病気や骨髄移植、もしくは特定の薬や癌治療を受けていることによって免疫が低下している人

フルミストは、妊婦の方も生ワクチンのため投与しない方が良いのではと考えられています。

また2015-2016年シーズンでは、フルミストが一部のインフルエンザウイルスに効果を示さなかったため、米国予防接種委員会が推奨を取り下げた経緯もあります。このため国内の医療ジャーナルも、個人輸入している先生に中止を呼びかけた方が良いとしました。

現状では国内からの情報が少ないため、フルミストを使用する場合は海外からの情報をチェックしたうえで使う必要があるワクチンです。

しかし国内でもフルミストが使えるように治験が行われているとのことですので、2016年から数年後には普通に登場しているかもしれません。

 

6.新型インフルエンザワクチン③-ユニバーサルワクチン

全てのインフルエンザウイルスに効くワクチンが、現在開発されています。

今のインフルエンザワクチンは最初に説明したように、ウイルスの殻の部分(HA)を投与することによって我々の細胞に記憶させ、インフルエンザウイルスがいざ来た時にすぐに攻撃態勢がとれるようにできています。

今作られているインフルエンザワクチンは、このHAの先端部分を認識させて記憶させています。しかしインフルエンザウイルスは、このHAの先端部分を色々組み替えられて変異してしまいます。

ユニバーサルワクチンは、HAの根幹部分で変異することがない部分を投与するワクチンです。つまり全てのインフルエンザウイルスが持っている部位を認識させるのです。

これによって、どんなインフルエンザウイルスが侵入したとしても迎撃できるように対応したワクチンとなっています。文章でいうと簡単そうですが、実現するのは非常に難しいワクチンです。

 

細かい話になりますが、我々の細胞がHAを取り込んで記憶する際、樹状細胞が分解して細かくした一部を記憶するのです。

HAの根幹の部分は特定の領域9か所を記憶させることが大切ですが、量が多すぎるので樹状細胞が分解して残ったものは、細胞が覚えていても仕方のない物になってしまいます。

実際2009年の世界インフルエンザワクチン会議で発表された際も、ユニバーサルワクチンを投与したものの感染防御効果が弱く、下火になってしまいました。

しかし2015年の海外の研究報告では、このHAの根幹部分を改良しマウスに投与したところ、インフルエンザウイルスに効果を認めたと報告されています。もちろん人にはまだ投与されてませんし、副作用も分かっておりません。

いつかこのユニバーサルワクチンが登場した時は、インフルエンザにほとんど流行することが無くなるくらい効果が示すことになるかもしれません。

 

まとめ

  • 日本のインフルエンザワクチンは非常に安全であり、効果も7割~9割あります。
  • インフルエンザワクチンは毎年新しく登場します。過去の情報ではなく新しい情報を元に行動することが大切です。
  • 現在開発がすすんでいる細胞培養法ワクチン・点鼻ワクチン(フルミスト)・ユニバーサルワクチンの3種類を紹介しました。

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