精神障害者保健福祉手帳の診断書の実情とは?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)とは、精神疾患の治療を半年以上行っていてもなかなか治らず、生活への支障が大きい方に対して交付されます。

その最大のメリットは、障害者雇用にあります。障害者雇用促進法によって障害者の社会復帰促進がすすめられていて、将来的には精神障害者にさらなる追い風となる方針となっています。

精神障害者福祉手帳を申請するには、医師の診断書が必要となります。私も多くの患者さんに診断書を書いてきました。

ここでは、精神障害者福祉手帳の診断書の実情をお伝えしていきたいと思います。

 

1.精神障害者福祉手帳の診断書とは?

精神障害者の等級判定は、診断書の内容によって決まるといっても過言ではありません。このため余裕をもって、主治医に診断書の依頼をしましょう。

精神障害者福祉手帳を申請するには、医師による診断書が必要になります。医師の診断書をもとに審査がされて、精神障害等級が判定されます。

身体障害や知的障害と異なり、精神障害は客観的な根拠が少ないです。このため精神障害者手帳は、医師による主観が大きくなってしまいます。悪い言い方をすれば、医師の書き方次第になります。

ほとんどのケースでは、実際の患者さんの状態をそのまま診断書に書いていきます。しかしながら中には、オーバーに病状を書かざるを得ないケースもあります。

精神障害者保健福祉手帳の診断書は、以下のような書式になります。

東京都の精神障害者保健福祉手帳(Excel)

これらの書式は、通常は医療機関で用意してあります。都道府県や政令指定都市などの大都市ごとに、それぞれ別の書式になっているので注意が必要です。

ほとんど内容は同じなので、異なる書式で書いてしまった時も特例で認められたことはありました。もう一度書き直しになってしまう可能性もあるので、間違えないようにしましょう。

精神障害者保健福祉手帳の診断書は、医者が記載しなければいけない事項はそれなりに多い書類です。とくに初回申請のときは、病歴をそれなりに詳しく書く必要があります。ですから、ある程度余裕をもって主治医に依頼するようにしましょう。

その方が丁寧にかいてくれるでしょうし、結果として等級認定がしっかりと行われる可能性があります。

 

2.精神障害者保健福祉手帳の等級の目安

生活への支障の程度を診断書から判断して、1~3級の等級に分けられます。

精神障害者保健福祉手帳は、患者さんの状態によって3つの等級に判定されます。その等級は総合的に判断されますが、おおよその目安としては以下のようになっています。

  • 精神障害者保健福祉手帳1級:寝たきり
  • 精神障害者保健福祉手帳2級:日常生活に支障がある
  • 精神障害者保健福祉手帳3級:社会生活に支障がある

精神障害者手帳1級は、生活が著しく困難な方になります。寝たきり生活となっているようなレベルの方になります。

2級と3級の違いは、社会生活が出来るかどうかです。社会生活ができなくて日常生活にも支障があれば2級、日常生活はおくれているが社会生活に支障がある場合は3級となります。

生活への支障は、さまざまな日常生活をもとに判断していきます。食事・整容・買い物・通院・人間関係・安全保持・公共手続き・趣味や娯楽などを見ていきます。

主治医の診断書の中で、これらの日常生活への支障の程度を判断していきます。

 

3.精神保健福祉手帳を医師からすすめるケース

障害者雇用と生活保護の障害者加算のメリットが大きい時に、医師から精神障害者手帳の取得をすすめることがあります。

精神障害者手帳を医師から患者さんにすすめるのはどのようなケースでしょうか?それは、手帳を取得することでの患者さんのメリットが大きい場合です。そのようなケースとして、以下の2つがあげられます。

  • 障害者雇用での就労を検討する場合
  • 生活保護での障害者加算をとる場合

精神障害者手帳を取得する最大のメリットは、障害者雇用にあります。障害者雇用促進法により、一定規模(現在は従業員100人以上)の企業では障害者の雇用が義務付けられています。もしも雇用が満たせなかった場合、1人につき月5万円を徴収されます。事実上の罰則規定があるのです。

障害者雇用という形で、規模の大きな企業に就職できる可能性があります。企業側も障害者という認識で雇用するため、病状に関して理解してもらいながら仕事をしていくことができます。

ですから、病気が慢性化して仕事をしながら治療継続が必要な方には、医師から精神障害者保健福祉手帳をすすめることが多いです。

 

もうひとつは、生活保護受給者の障害者加算です。精神疾患を抱えている患者さんは、生活保護を受給されている方が多いです。詳しくは、「精神科医療現場での生活保護の実情とは?」をお読みください。

障害をかかえている方はサポートも必要になるので、お金もより必要になるだろうということで障害者加算が認められています。お住いの場所にもよりますが、精神障害者手帳1級・2級相当の場合は障害者加算が認められることがあります。

  • 1級:22,260~26,750円
  • 2級:14,830~17,820円

正式には、障害年金1級か2級でなければ支給されません。精神障害者手帳は初診から6か月で支給されますが、障害年金は1年6か月たたなければ支給されません。このため、その間の措置になります。障害年金を支給して1級や2級と認められなかった場合は、障害者加算は打ち切りになります。

その他、精神障害者保健福祉手帳の申請方法やメリットについて詳しく知りたい方は、「精神障害者保健福祉手帳(精神障害者手帳)のメリットとは?」をお読みください。

 

4.精神障害者福祉手帳の診断書の実情

疾病利得によって治療上マイナスのケースもあります。更新の時に前よりも等級を落とせないので過大評価して書かざるを得ないこともあります。医者が診断書を書くのがめんどくさいと感じることもあります。

精神障害手帳の診断書を書いて欲しいと医師に依頼すると、快い返事をしてくれないこともあります。私も診断書はたくさん書いてきましたが、なかには書きたくないものもありました。

精神障害者手帳の診断書を書き渋ってしまうケースとしては、以下の3つがあります。

  • 精神障害者になるのが治療上プラスではないケース
  • 本当は病状がよくなっているけれど、過大評価して書かざるを得ないケース
  • 医者が診断書を書くのがめんどくさいケース

もっとも悩ましいのが、手帳を出すことで「精神障害者」に患者さんがなることです。自分が障害者であるということでメリットを受けると、治療が進まなくなってしまうことがあるのです。疾病利得といったりしますが、病気であった方が得をすると思えば、良くなろうとする前向きなエネルギーが無くなってしまいます。

本人の病気であるという認識が薄くて無理しがちな方は、むしろ「精神障害者」という役割が得られることで療養に専念できるようになることもあります。しかしながら、疾病利得に流されてしまう方の方が多いでしょう。

あるべきことではありませんが、診断書の内容を盛って書かなければいけないこともあります。一番多いのが、精神障害者手帳の更新の時です。すでに認定されている等級よりも状態がよくなっている場合、そのまま書かなければいけません。しかし患者さんの中には、等級が下がることに強い抵抗を示すことがあります。

等級をそのまま認められるように診断書を書く方が、事なかれで済みます。ですから、症状を過大評価して書かざるを得ないことがあります。過小評価して書くケースはほとんどないでしょう。医師は不用なトラブルを避けたいからです。

最後に、診断書を医者が書くのがめんどくさいケースです。様々な診断書は、診察の合間や診療終了後に書いていきます。精神障害者手帳の診断書は、そこまで手がかかるものではありませんが、少し手間はかかります。カルテをひっくり返しながら、病歴をまとめる必要があります。

ですから、診断書を書くのを面倒に感じて書き渋ってしまう医師もいます。患者さんにとってメリットがあるならば、これはあってはなりません。

 

5.精神障害者福祉手帳の診断書はどこが大切か

診断書右上に記載する「生活能力の状態」の部分が大切になります。生活への支障の大きさをここで判断し、精神障害者の等級判定がされていきます。

最後に、精神障害者手帳の診断書ではどこが大切かについてお伝えしていきたいと思います。

精神障害者手帳の診断書は、大きく以下のことを記載していきます。

  • 発病から現在までの病歴
  • 現在の病状と状態像
  • 生活能力の状態

このうちで、精神障害者手帳の認定に重要なのは、生活能力の状態です。病歴や状態についても大切ではあるのですが、生活への支障の大きさは生活能力の状態を見ることで分かります。

障害者手帳について

順番に見ていきましょう。

  • 現在の生活環境
  • 日常生活能力の判定
  • 日常生活能力の程度
  • 日常生活能力の程度の具体的程度、状態像等

この4つになります。ここをしっかりと書くことが大切です。

まず現在の生活環境ですが、単身生活なのか家族との同居なのかを記入します。ここは事実しか書くことができませんが、単身ならばより生活への支障が大きいことが伝わります。

次に、代表的な日常活動を具体的にあげて、日常生活能力の判定を行っていきます。

  • 適切な食事摂取
  • 身辺の清潔保持・規則正しい生活
  • 金銭管理と買い物
  • 通院と服薬
  • 他人との意思伝達・対人関係
  • 身辺の安全保持・危機対応
  • 社会的手続や公共施設の利用
  • 趣味娯楽への関心・文化的社会的活動への参加

それぞれに対して、「自発的(適切に)できる」「おおむねできるが援助が必要」「援助があればできる」「できない」の4段階にわけて評価をしていきます。

1級の方では、ほとんどが「できない」に丸がつく必要があります。2級と3級の線引きが難しいところで、「援助があればできる」が相対的に多ければ2級となることが多いです。

これらを総合して、日常生活能力の判定を5段階で行います。

  1. 日常生活および社会生活は普通にできる
  2. 日常生活または社会生活に一定の制限を受ける
  3. 日常生活に著しい制限を受けており、時に応じて援助を要する
  4. 日常生活に著しい制限を受けており、常時援助を要する
  5. 身の回りのことはほとんどできない

①は精神障害者として認定されません。②は3級になります。③は2級と3級のどちらにもなりますが、最近は判定が厳しいので3級となることが多いです。④は2級となり、⑤は1級となります。

最後に文章で、日常生活の能力がどのようにして障害されているのかについて記述します。

 

まとめ

精神障害者の等級判定は、診断書の内容によって決まるといっても過言ではありません。このため余裕をもって、主治医に診断書の依頼をしましょう。

生活への支障の程度を診断書から判断して、1~3級の等級に分けられます。

障害者雇用と生活保護の障害者加算のメリットが大きい時に、医師から精神障害者手帳の取得をすすめることがあります。

診断書右上に記載する「生活能力の状態」の部分が大切になります。生活への支障の大きさをここで判断し、精神障害者の等級判定がされていきます。

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