マイスリーとハルシオンにはどのような違いがあるのか

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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マイスリーとハルシオンは、どちらも寝つきを改善する睡眠薬です。同じような睡眠薬として認識されている方が多いと思います。

確かに、作用時間や効果の特徴などは似ている部分が多いです。ですがハルシオンの方が効果が強い代わりに、副作用や依存性も高い睡眠薬です。

ここでは、日本で処方される睡眠薬の1位、2位を争っているマイスリーとハルシオンの違いをみていき、その位置づけを考えていきたいと思います。

 

1.マイスリーとハルシオンの作用メカニズムの違い

GABAの働きを強めて、脳の活動を抑えます。マイスリーではω1に選択的に作用するので、ふらつきなどの副作用が軽減されています。

現在よく使われている睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系睡眠薬と非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の2種類です。ハルシオンは前者のベンゾジアゼピン系睡眠薬、マイスリーは後者の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬に分類されます。実はこの両者は共通の仕組みで睡眠効果をもたらします。

どちらもベンゾジアゼピン受容体に作用して、GABAの働きを強めて脳の活動を抑えます。「GABAってなんか聞いたことあるぞ?」って方もいらっしゃるかもしれません。リラックスする物質として、GABA入りのチョコレートなどが流行っていましたね。GABAは脳の中での情報の受け渡しに関係していて、神経伝達物質とよばれます。リラックスすると言われている通り、脳の神経細胞の活動を抑える作用があります。

マイスリーやハルシオンがベンゾジアゼピン受容体にくっつくと、GABAがGABA受容体にくっつきやすくなります。GABAが脳内で作用すると、脳の活動が抑えられて睡眠につながっていくのです。

 

マイスリーなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬とハルシオンなどのベンゾジアゼピン系睡眠薬の違いは、ベンゾジアゼピン受容体への作用の仕方の違いです。

ベンゾジアゼピン受容体は、もっと細かくみるとω1受容体とω2受容体の2つに分けられます。このうち、ω1受容体は睡眠作用に関与しており、ω2受容体は抗不安作用や筋弛緩作用に関与しています。

ハルシオンはω1とω2の両方に作用するのに対して、マイスリーはω1受容体にだけ作用するために、ふらつきなどの副作用が少なくなるのです。ですが、マイスリーのω1に対する作用は、ハルシオンよりは緩やかなものとなってしまいます。

 

2.マイスリーとハルシオンの効果の違い

マイスリーもハルシオンも、最高血中濃度到達時間や半減期は類似しています。少しだけマイスリーの方が作用時間が短いです。効果は、ハルシオンの方が強いです。

代表的ンな睡眠薬の作用時間(半減期)を比較しました。

睡眠薬の効果を見る時は、2つのポイントで判断できます。作用時間の違いと作用の強さ(力価)です。

まずは、マイスリーとハルシオンの作用時間の違いを比較してみましょう。薬の作用時間を見る時は、最高血中濃度到達時間(ピーク時間)と半減期をみていきます。

最高血中濃度到達時間が短いほど、効きが早いということですね。マイスリーでは0.8時間、ハルシオンでは1.2時間となっています。どちらも非常に短い時間ですね。どちらも即効性がある睡眠薬といえます。

半減期をみると作用時間が予想できます。マイスリーでは2時間、ハルシオンでは2.9時間となっています。どちらも他の睡眠薬と比較しても非常に短いですね。どちらも超短時間型に分類される睡眠薬です。作用時間がとても短いので、寝つきに効果がある睡眠薬です。

マイスリーとハルシオンに共通する効果としては、

  • 即効性が期待できる
  • 切れ味がよくて身体に残りにくい

という2点があります。作用時間ではどちらも類似しています。

 

マイスリーとハルシオンの効果の違いは、作用の強さと睡眠の質にあります。

作用機序のところでご説明しましたが、睡眠効果をもたらすのはベンゾジアゼピン受容体のω1受容体でした。マイスリーは緩やかに作用するのに対して、ハルシオンはガッチリと作用します。このため、ハルシオンの方が強い薬といえるのです。

このことは最高用量を見ても推測ができます。ハルシオンの方が最高用量が少ないですね。少ないmgでもしっかりとした効果が期待できる強い薬であることを意味します。(例外もありますけどね)

また、睡眠の質に違いがあります。マイスリーでは良くなるのに対して、ハルシオンでは悪くなってしまうのです。ハルシオンは睡眠時間は確保しますが、浅い睡眠を増やすことで睡眠のメリハリが悪くなりま す。REM睡眠も深い睡眠も減らしてしまうのです。

このため全体として、睡眠の質が低下してしまいます。時間はしっかりと寝たのに疲れがとれない、寝不足感がある、となってしまうことがあります。(ベンゾジアゼピン系睡眠薬の中では、睡眠の質への影響は少ないです。)

ですから、マイスリーとハルシオンの効果の違いとしては、

  • ハルシオンの方が強い
  • 睡眠の質がマイスリーは良くなるが、ハルシオンは悪くなる

となります。

それぞれの薬について詳しく知りたい方は、
マイスリー錠の効果と強さ
ハルシオン錠の効果と強さ
をお読みください。

 

3.マイスリーとハルシオンの副作用の違い

マイスリーもハルシオンも、健忘には注意が必要ですが、眠気の翌朝への持越しは少ないです。ハルシオンの方が、筋弛緩作用からふらつきがあり、また依存性も高いので注意が必要です。

マイスリーとハルシオンの副作用を考えるにあたっては、作用時間と睡眠薬の系統の違いの2つがポイントとなります。

まずは、マイスリーとハルシオンの作用時間をみていきましょう。この2つの睡眠薬は、作用時間としては同じような特徴をもっている睡眠薬です。切れ味がよく、スッと効いてスッと抜けていく睡眠薬です。このため、副作用として共通する特徴があります。

  • 健忘が多い
  • 眠気の翌朝への持ち越しは少ない

健忘とは物忘れのことですが、睡眠薬を飲んでから物忘れが起こってしまうので「前向性健忘」といいます。このような状態になるのは、睡眠薬が中途半端な覚醒状態にしてしまうためです。

その結果、海馬を中心とした記憶に関わる部分の機能だけが落ちてしまうのです。急激に作用する睡眠薬で起こりやすく、作用時間の短い睡眠薬で多い副作用です。

作用時間が短ければ、寝ているうちに睡眠薬は抜けてしまいます。このため、翌朝の睡眠薬の眠気は少ないです。あまりにも睡眠時間が短いときは別ですが、睡眠時間が確保できていれば「持越し効果」は少ないです。

 

それでは、マイスリーとハルシオンの副作用での違いはどこにあるのでしょうか?これは、睡眠薬としての系統の違いに他なりません。マイスリーはω1選択性の非ベンゾジアゼピン系睡眠薬であるのに対し、ハルシオンはω1にもω2にも作用するベンゾジアゼピン系睡眠薬です。

ω2受容体には、抗不安作用や筋弛緩作用があります。このため、マイスリーではこれらの作用がありませんが、ハルシオンでは認められます。筋弛緩作用があると、ふらついてしまうことがあります。

高齢で足腰が弱っている方に筋弛緩作用が強く出てしまうと、ふらついてしまって危ないです。トイレで夜中に目が覚めた時に、眠気も相まって転倒して骨折してしまうこともあります。

また、ハルシオンはω1にガッチリと作用します。このため効果が強く、作用の実感が得られやすい薬です。このため、ハルシオンでは依存性が高く、長期で服用していると離脱症状や反跳性不眠がみられることがあります。このため、なかなかやめられなくなってしまう方もいらっしゃいます。漫然と使い続けないように意識しなければいけませんね。

ですから、マイスリーとハルシオンの副作用の違いとしては、

  • ハルシオンでは筋弛緩作用からふらつきがある
  • ハルシオンの方が依存性が強い

となります。

それぞれの薬について詳しく知りたい方は、
マイスリーの副作用(対策と比較)
ハルシオンの副作用(対策と比較)
をお読みください。

 

4.マイスリーとハルシオンの位置づけ

まずはマイスリーから使います。ハルシオンは、マイスリーなどの安全な睡眠薬の効果が不十分であった時のセカンドチョイスという位置づけです。

これらの特徴をふまえると、マイスリーとハルシオンはどのように使っていけばよいのでしょうか?その位置づけを考えていきましょう。

簡単にいってしまえば、マイスリーの方が効果はマイルドだけれども副作用や依存性は少ない睡眠薬といえます。安全性が高いのはマイスリーといえます。

どの睡眠薬を選ぶかは、不眠を改善しなければいけないスピードにもよります。ですが原則としては、安全性の高い優しい睡眠薬から使っていくべきです。

強い睡眠薬を使うと、すぐに効いて患者さんにも感謝されますし、処方する医者も名医気分を味わえるかもしれません。ですがそれは本当に患者さんのことを思うと、あるべき姿ではありません。安全性の高いマイスリーから始めていくべきなのです。

マイスリーが効果が不十分でしたら、できるならば非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のアモバンやルネスタも試してみましょう。最高用量で比較すると、アモバン>マイスリー≧ルネスタという印象をもっています。ですが人によって効果の差があるので、試してみる価値はあります。

 

それでも効果がない、もしくは不眠を早く改善しなければいけないという時には、ハルシオンを検討します。ですからハルシオンは、マイスリーなどの非ベンゾジアゼピン系睡眠薬の効果が不十分であった場合のセカンドチョイスという位置づけなのです。

 

まとめ

マイスリーもハルシオンも、GABAの働きを強めて脳の活動を抑えます。マイスリーではω1に選択的に作用するので、ふらつきなどの副作用が軽減されています。

マイスリーもハルシオンも、最高血中濃度到達時間や半減期は類似しています。少しだけマイスリーの方が作用時間が短いです。効果は、ハルシオンの方が強いです。

マイスリーもハルシオンも、健忘には注意が必要ですが、眠気の翌朝への持越しは少ないです。ハルシオンの方が、筋弛緩作用からふらつきがあり、また依存性も高いので注意が必要です。

まずはマイスリーから使います。ハルシオンは、マイスリーなどの安全な睡眠薬の効果が不十分であった時のセカンドチョイスという位置づけです。

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