ベルソムラの副作用(対策と比較)

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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ベルソムラは、2014年に新しく発売された睡眠薬です。身体が生理的に行っているメカニズムを利用して、自然な眠りに導く睡眠薬です。このため、副作用や依存性はとても少なく、安全性の高い睡眠薬です。ベルソムラ特有の副作用も懸念されていましたが、現在のところ問題がなさそうです。

ここでは、市販後6か月しての調査結果も踏まえて、ベルソムラの副作用についてまとめたいと思います。

 

1.ベルソムラの副作用の特徴

眠気と悪夢の副作用が多いですが、その他の副作用や依存性という面では非常に安全性が高い睡眠薬です。

2014年11月に発売されたベルソムラですが、少しずつその効果や副作用などがわかってきました。新薬が発売されると発売開始から6か月間は、市販直後調査というものが行われます。ベルソムラが発売されると多くの患者さんに使われるので、実際に臨床の現場でどのような副作用がみられるのかを調べていきます。

ベルソムラでは、6か月間の市販後調査が2015年5月に終了しました。およそ75000人の患者さんでの自発的な報告に基づいて副作用がまとめられています。私が実際に使ってみた印象も踏まえて、ベルソムラの副作用を考えていきたいと思います。

 

ベルソムラでは、「眠気」と「悪夢」の2つの副作用に注意が必要です。

睡眠薬ですから、どうしても眠気の副作用は出てきてしまいます。服用した翌朝の眠気もありますが、日中に眠気が強くなることがあります。市販後調査で報告が一番多かったのも眠気でした。添付文章でも、自動車の運転や危険作業をしてはいけないとされています。

ベルソムラの睡眠の特徴としては、夢が増えることがあげられます。不眠で悩んでいる方はストレスを感じている方が多いです。このため、悪夢となってしまうことも多いのです。従来の睡眠薬では夢をみなくなるので、薬を切り替えた方は眠りの質がガラッと変わって、ビックリすることもあります。

 

ベルソムラでは、従来の睡眠薬で見られていたふらつきや健忘などの副作用はほとんど認められません。市販後調査でも予想通りの結果となっています。ベルソムラで懸念されていた副作用としては、ナルコレプシー様症状と摂食行動の異常があります。

ナルコレプシーとは、過眠症と呼ばれる病気です。日中に突然強烈な眠気に襲われて眠ってしまう病気です。この病気の原因は、オレキシンが変性して機能しなくなってしまうことにあると考えられています。ベルソムラはオレキシン受容体拮抗薬ですので、ナルコレプシー様の症状が出てきてもおかしくないと懸念されていました。

オレキシンは睡眠だけでなく、様々な身体の働きに関係していることがわかってきています。オレキシンは、摂食行動にも密接に関係していることがわかってきました。このため、何らかの摂食行動への影響を与えることが懸念されていました。

市販後調査をみると、ナルコレプシーは報告されていませんし、摂食行動や体重に関する報告はごくわずかです。2つの懸念は問題ないと考えてもよいかと思います。

 

このようにベルソムラは、副作用も少ないですし、依存性も低いと考えられています。以下では、ベルソムラで重要な副作用について、ひとつずつ見ていきましょう。

 

ベルソムラの効果について詳しく知りたい方は、
ベルソムラ錠の効果と強さ
をお読みください。

 

2.ベルソムラの副作用①-眠気

ベルソムラでもっとも多い副作用が眠気です。

睡眠薬にはつきものの副作用ですが、ベルソムラでも効きすぎてしまうとどうしても眠気や倦怠感が起こってしまいます。ベルソムラの眠気は翌朝の持ち越しだけでなく、日中の眠気が多い印象があります。

ベルソムラの半減期は10時間ですので、20時間たっても1/4は身体に残っています。服薬の開始から3日ほどは、少しずつ薬が身体にたまります。このため、日中でも少量のベルソムラが作用するようになります。ベルソムラがよく効く人であれば、日中の刺激がなくなってくると眠気が出てきてしまいます。

ベルソムラの承認時には、4.7%の報告があります。市販後調査でも、もっとも多い副作用として報告されています。また、市販後調査では、10件の運転中の眠気があったとの報告があります。そのうち1例では実際に自動車事故を起こしています。しかしこの1例の方は、前日に日本酒1合飲んだうえで、レンドルミンと併用してベルソムラ20mg使用した高齢男性ではあります。

眠気のために、自動車の運転は禁止されている睡眠薬になります。眠気は一番多い副作用なので、注意が必要です。睡眠時間は7時間を目安に、確保しておいたほうが良いでしょう。

 

3.ベルソムラの副作用②-悪夢

ベルソムラでは夢が増えますが、悪夢となって精神症状に影響することがあるので注意が必要です。

ベルソムラでは睡眠の質に影響を与えます。ベルソムラを服用すると、浅い睡眠が減り、レム睡眠と深い睡眠が増えます。

レム睡眠では、身体が休みをとり、脳では情報の処理がすすみます。ですからレム睡眠が減ると、身体の疲れが取れずに記憶などが定着しづらくなります。深い睡眠では、脳が休みをとって、体は寝返りをうちます。ですから深い睡眠が減ると、熟眠感がなくなって免疫などが低下します。

レム睡眠と深い睡眠の両方が増えるので、ベルソムラでは睡眠の質がよくなります。よく使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬では、どちらも減ってしまって浅い睡眠が増えるので睡眠の質が落ちてしまいます。

夢はレム睡眠の時にみているので、ベルソムラでは夢が多くなります。ベンゾジアゼピン系睡眠薬では夢が減るので、ベルソムラに切り替えた方はビックリされることもあります。自然な眠りでよくなったと感じる方もいれば、深く眠れた感じがしないという方もいらっしゃいます。

夢をみたとしても楽しい夢だったらよいのですが、不眠で苦しんでいる方はストレスがかかっていることが多く、悪夢を見ることも多いです。薬の承認時では、異常な夢と悪夢をあわせると2.0%との報告でした。市販後調査では眠気に次いで報告が多い副作用でした。悪夢がひどいて精神症状に影響を与えることがありますので、悪夢が続く方は薬を変更した方がよいでしょう。

 

4.ベルソムラの安全性-依存性

ベルソムラの依存性は非常に低いと考えられます。

ベルソムラでは、長期に使用した症例がまだないので依存性に関しては確実なことはいえません。ですがその作用機序や臨床試験の段階では、依存性が非常に少ない睡眠薬であることが推測されています。

従来のベンゾジアゼピン系睡眠薬などでは、長期に服薬をしていると依存が形成されてしまいました。身体が薬に慣れてしまって、薬を中止すると離脱症状や反跳性不眠(以前より不眠がひどくなること)が起こってしまいます。ベルソムラでは、承認用量の₂倍量を12か月間服用した試験で、離脱症状や反跳性不眠は起こさなかったという報告があります。

 

ただ、ベルソムラには依存性がまったくないとはいえません。薬物乱用経験のある36人を対象として、高用量のベルソムラで薬物嗜好性があるかを調べた試験があります。この試験では、ベルソムラの嗜好性は「プラセボ(偽薬)よりも高く、マイスリーと同等」と報告されました。このような結果をうけて、ベルソムラは「習慣性医薬品」という扱いになっています。

とはいえ、ベルソムラは従来の睡眠薬よりも依存性は非常に低いと思われます。実際にベルソムラが合わなくてやめてみて、症状が出てきた方はいらっしゃいません。

 

5.ベルソムラで懸念される副作用①-ナルコレプシー様症状

発売当初に懸念されていましたが、ナルコレプシー様症状は報告されていません。

ベルソムラには、発売当初から懸念されていたことがありました。それは、ナルコレプシーに似た症状が起こるのではないか?ということです。ナルコレプシーとは、過眠症とも呼ばれている病気です。その原因は、オレキシン神経の変性と考えられていて、覚醒に必要なオレキシンが足りないために、急に睡眠状態に入ってしまう病気です。

①睡眠発作(昼間の突然の眠気)
②入眠時幻覚(眠った瞬間に夢を見る)
③睡眠麻痺(金縛り)
④情動脱力発作(喜怒哀楽の後に、急に力が抜けてしまう)

この4つの症状がみられるような病気です。眠っている間は悪夢をみやすいです。

ベルソムラは、オレキシンをブロックする薬です。このため理論的には、ナルコレプシー様の副作用が起こることが懸念されていました。現在のところ、市販後調査でも報告されていませんので、問題ないかと思います。ですがこのような懸念があるため、ナルコレプシー患者には「慎重投与」という扱いになっています。

 

6.ベルソムラで懸念される副作用②-摂食行動の異常(太る・痩せる)

摂食行動や体重に関する大きな影響はないと考えられます。

オレキシンは睡眠だけでなく、様々な身体の働きに関係していることがわかってきています。オレキシンは、摂食行動にも密接に関係していることがわかってきました。空腹を感じると、オレキシンが活発になることで覚醒して食事をとります。そして活動的になってエネルギーを消費します。このようにオレ キシンは食欲や代謝と大きく関係し、摂食行動に影響を与えることが懸念されていました。

市販後調査では、摂食障害や体重に関しては目立った報告はありません。実際に処方してみても、体重に関しては大きな影響はないかと思います。

 

ただ、肥満の女性ではベルソムラの血中濃度が上がりやすくなることがわかっています。BMIが30以上になると、成人用量の20mgを投与した時に15%以上血中濃度が高くなります。このため、肥満の女性では少量で使った方がよいかも知れません。

 

7.ベルソムラで懸念される副作用③-うつ症状の悪化

悪夢が原因でうつ症状が悪化している可能性があります。

うつ症状にベルソムラを使うと悪化してしまうことが懸念されています。その原因ははっきりとわかっていませんが、うつ症状の悪化や自殺念慮が生じることがあります。薬の承認時では、0.2%の報告ですので、たまたま症状が悪くなったタイミングと重なったのかもしれません。ですが、今後は注意していく必要があります。

うつ症状でのオレキシンの役割はよくわかっていません。もしかすると、うつ状態の時はオレキシンが低下しているのかもしれません。それでしたら、ベルソムラが悪化させてしまうこともあるかもしれませんね。

うつ症状の悪化に、悪夢が関係していることは間違いがないかと考えています。市販後調査でも、重篤な悪夢のためにうつ症状が悪化した症例が1例あります。悪夢にうなされると、翌朝から気持ちが沈み込むのは無理もありません。

大きな問題はないかと思いますが、悪夢が増えるということも含めて精神状態を注意してみていかなければいけません。

 

まとめ

ベルソムラでは眠気と悪夢の副作用が多いですが、その他の副作用や依存性という面では非常に安全性が高い睡眠薬です。

発売当初に懸念されていたナルコレプシー様症状や摂食行動の異常は認められていません。

悪夢が原因でうつ症状が悪化する方がいらっしゃるので、注意が必要です。

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