エピレナート錠(バルプロ酸Na錠「フジナガ」)の効果と副作用
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
エピレナート錠は、1975年に発売された抗てんかん薬デパケン錠のジェネリックとして、1981年から発売になっています。
その作用機序ははっきりとしていませんが、エピレナートには脳の活動を抑える働きがあって、さまざまな病気に使われています。脳の異常な興奮である「てんかん」「片頭痛」といった身体の病気だけでなく、気分安定薬としての効果も認められます。
気分安定薬には、大きく3つの効果があります。気分を鎮める抗躁効果、気分を持ち上げる抗うつ効果、気分の波を少なくする再発予防効果になります。気分の浮き沈みの波を小さくし、波が生じるのを少なくするお薬です。
エピレナートは抗躁効果が強く、再発予防効果も認められます。双極性障害の治療に限らず、気持ちを落ち着けるお薬として広く使われているお薬です。
ここでは、気分安定薬としてのエピレナート錠の効果と特徴について詳しくお伝えしていきます。
1.エピレナートの効果と特徴
気分安定薬には、3つの効果が期待されています。エピレナートでの3つの効果の強さは以下のようになります。
- 抗躁効果(中程度~やや強い)
- 抗うつ効果(弱い)
- 再発予防効果(中程度~やや強い)
これを踏まえて、まずはエピレナートの特徴をメリットとデメリットに分けてまとめたいと思います。専門用語も出てきますが、後ほど詳しく説明していますので、わからないところは読み飛ばしてください。
1-1.エピレナートのメリット
- 抗躁効果がしっかりしている
- 再発予防効果がしっかりしている
- 比較的安全性が高い
- 剤形が豊富
- 薬価が安い
エピレナートは抗躁効果がしっかりとしているお薬です。躁状態の治療としては、多くのガイドラインでも第一選択のひとつにあげられています。また、再発予防効果がしっかりとしていて、リーマスよりは劣るという報告もありますが、ほとんど同等という報告もあります。再発予防効果は十分期待できるお薬です。
また、比較的安全性が高いのも特徴です。リーマスのように腎臓だけで排泄するお薬ではないので、リーマスほど血中濃度の変化にシビアにならなくても大丈夫です。他の気分安定薬と比較すると、全体的に副作用も少ないです。
エピレナートはさまざまな病気につかわれています。てんかんでは子供でも使われるお薬なので、飲みやすいように様々な剤形が発売されています。錠剤、徐放錠剤、細粒、シロップなどがあります。飲みやすい剤形を選ぶことができます。
薬価に関しても古くからある薬なので、かなり安価になっています。経済的にも負担の少ないお薬になっています。
1-2.エピレナートのデメリット
- 効果がやや遅い
- 抗うつ効果が弱い
- ラミクタールとの併用に注意が必要
- 肝機能障害・高アンモニア血症に注意が必要
- 眠気がやや多い
- 催奇形性がある
エピレナートは抗躁効果が強いのですが、効果がやや遅いというデメリットがあります。気分安定薬のリーマスよりは早いものの、即効性は抗精神病薬には負けます。あまりにも著しい躁状態の患者さんには向きません。
また、エピレナートは抗うつ効果が弱いです。同じ気分安定薬のラミクタールでは抗うつ効果が期待できるのですが、エピレナートと併用するとラミクタールの効果が急激に増強され、半減期が2倍以上に延長します。併用にあたっては少量ゆっくりと増量していかなければいけません。
エピレナートは肝臓への負担が大きいお薬です。また、アンモニアが蓄積してしまって高アンモニア血症となり、意識障害が生じることがあります。いずれの場合も、少量のエピレナートしか使っていなくても認められることがあります。
エピレナートの一般的な副作用として、眠気がやや多いです。エピレナートは脳の興奮を抑えるため、眠気がどうしても認められてしまいます。また、エピレナートには催奇形性が報告されています。神経管欠損や顔面奇形などが増加するという報告があります。特に妊娠初期ではエピレナートは避けた方がよいと考えられています。
2.エピレナート錠の効果時間・血中濃度と使い方
エピレナート錠は最高血中濃度到達時間が1.0時間、半減期が13.8時間の気分安定薬です。200~400mgから開始して、定期的に血中濃度を測りながら有効血中濃度まで使っていきます。
エピレナート錠を服用すると、1.0時間で血中濃度がピークになります。そこから少しずつ薬が身体から抜けていき、13.8時間ほどで血中濃度が半分になります。
この血中濃度がピークになるまでの時間を「最高血中濃度到達時間」、血中濃度が半分になるまでを「半減期」といいます。
エピレナート錠は作用時間はそこまで長くはないので、1日2~3回に分けて服用することが一般的です。毎日服用していると、およそ6~7日で血中濃度が安定します。このため、少なくとも1週間は様子をみながら効果をみていきます。
エピレナートの開始用量は200~400mgとなることが多いです。月に1回血中濃度を測定しながら、有効血中濃度となるように量を調整します。有効血中濃度は50~100μg/mLが目安です。抗躁効果を期待するときは高用量が必要で、70~120μg/mLを目標にします。
エピレナートの添付文章をみると、以下の用量になっています。
- てんかん・躁症状:400~1200mg
- 片頭痛:400~800mg、最高量1000mg
3.エピレナートとその他の気分安定薬の位置づけ
- 抗躁効果:効果はしっかりしているが、効きがやや遅い
- 抗うつ効果:効果は乏しい
- 再発予防効果:リーマスに次いで効果が認められる
気分安定薬としては、大きく3つのタイプがあります。
- 炭酸リチウム(リーマス)
- 抗てんかん薬(エピレナート・テグレトール・ラミクタール)
- 抗精神病薬(エビリファイ・ジプレキサ・セロクエル・リスパダール)
薬の効きの早さをみると、炭酸リチウムと抗てんかん薬は効果がゆっくりで、抗精神病薬は効果が早いです。双極性障害の治療目的によって、それぞれの薬を使い分けていきます。治療目的にわけて、気分安定薬の位置づけを見ていきましょう。
躁の治療では、症状の程度によって異なります。
軽躁状態であればじっくりと治療ができるので、リーマスかエピレナートの単剤が最も推奨されています。抗躁作用だけを比較するならば、テグレトール>エピレナート>リーマス>>ラミクタールという印象です。後述する再発予防効果や副作用を考慮すると、日本のガイドラインではリーマスが第一選択となっています。
中等度以上の躁状態では、治療のスピードが求められます。抗精神病薬単剤か抗精神病薬の併用が推奨されています。抗精神病薬での抗躁作用を比較すると、リスパダール≧ジプレキサ≧エビリファイ>セロクエルという印象です。リスパダールではうつ転してしまうこともあります。再発予防も意識して、リーマスやエピレナートと併用していくことも多いです。この場合では躁状態が落ち着いてきたら、できるだけ抗精神病薬は減薬していきます。
うつの治療では、使える薬が限られてきます。双極性障害のうつ状態に効果がある薬としては、リーマス、セロクエル、ジプレキサ、ラミクタールの4つがあげられます。
この中でも、セロクエルでの抗うつ効果が示されていて、ガイドラインでも推奨されています。リーマスやラミクタール、ジプレキサでも効果があるといわれていますが、効果が不十分となってしまうこともあります。リーマスとラミクタールの併用も推奨されています。これらの薬で効果がハッキリしない場合は、リフレックス/レメロンなどの抗うつ剤を使うこともあります。
再発予防効果としては、リーマスが最も推奨されています。ラミクタールやエピレナートといった抗てんかん薬、ジプレキサやセロクエルやエビリファイといった抗精神病薬でも再発予防効果が認められています。経過をみながらリーマスとラミクタールといった形で、これらの薬を併用していくこともあります。再発予防の観点からは、抗うつ剤を使った場合、状態が落ち着いたら中止していくことが望ましいです。
4.エピレナートの副作用とは?
- 副作用が比較的少ない
- 眠気やふらつきが多い
- 吐き気などの胃腸障害が多い
- 高アンモニア血症や肝機能障害に注意が必要
エピレナートは、抗てんかん薬や気分安定薬に分類されます。これらのタイプのお薬は受容体に作用するのではなく、イオンチャネルや酵素に作用します。このため薬のターゲットが広がるので、副作用が全体的に多くなってしまいます。エピレナートは、このタイプのお薬の中では副作用が少ないという特徴があります。
エピレナートでは、穏やかな鎮静作用が期待できます。このため、眠気やふらつきの副作用が比較的多いです。また、吐き気や胃の不快感などが認められることが多いです。これらの副作用は、デパケンR錠(バルプロ酸徐放錠)などの徐放製剤によって、かなり軽減されています。
エピレナートで気を付けなければいけないのが、高アンモニア血症と肝機能障害です。高アンモニア血症によって意識障害やけいれん発作などが認められます。
また、エピレナートの肝機能障害には注意が必要です。エピレナートは肝臓に負担の大きい薬なので、少しずつ肝臓にダメージが蓄積していくこともあります。それだけでなく、体質的に急激に肝機能障害が進行することがあります。
エピレナートの量が少なくても認められることがあるので、アンモニアや肝機能を定期的に血液検査でチェックする必要があります。
5.エピレナートの適応疾患とは?
<適応>
- 躁病および躁うつ病の躁状態
- 各種てんかん
- 片頭痛発作の発症予防
<適応外>
- 不安や興奮が強い場合
エピレナートは、添付文章では3つの適応疾患があります。
双極性障害の適応としては、躁状態のみとなっています。しかしながらエピレナートは、再発予防効果を期待して使うこともあります。ですから、双極性障害のどのような状態でも使われることがあります。
また、脳の異常な興奮であるてんかんにも使われます。意識消失をしてしまうような全般性てんかんでは、エピレナートは第一選択となっています。さまざまな種類のてんかんで有効性が確認されています。
片頭痛の予防薬としても使われます。片頭痛では、血中濃度が50μg/mL未満でも有効性が確認されたので、低用量で使っていきます。
エピレナートは適応外として、これ以外にもさまざまな疾患で使われます。エピレナートは気持ちを鎮める鎮静作用があるので、不安や興奮が高まっている時に有効です。知的障害や発達障害、統合失調症や認知症、パーソナリティ障害など、さまざまな病気で使われます。うつ病の補助として使われることもあります。
6.エピレナートが向いている人とは?
- 再発予防効果を意識する方
- 興奮がそこまで強くない躁状態の方
- 複雑な躁状態の方
エピレナートの特徴は、「抗躁効果に優れ、再発予防効果も期待できる気分安定薬」でした。この特徴を踏まえて、どのような方に向いているのかを考えていきましょう。
エピレナートは再発予防効果が期待できるお薬です。はじめから再発予防効果を意識して使っていくことも多いです。他の気分安定薬を使っていて気分の波が目立つ方では、エピレナートを併用することもあります。
また、エピレナートは効き始めがゆっくりです。このため、衝動性や攻撃性が強く、興奮が強い躁状態の方には向きません。じっくりと治療ができるような方に使われることが多いです。興奮が強い方でも再発予防効果を意識して、抗精神病薬と併用されることはあります。
エピレナートの効果は、複雑な躁状態に効果が期待できます。
- エピソードが10回以上(気分の波を繰り返している)
- 躁うつ混合状態
- 急速交代型(躁とうつを短期間で繰り返す)
- 焦燥感が強い
ピュアな躁状態に効果的なリーマスとは対照的です。
7.一般名と商品名とは?
一般名:バルプロ酸 商品名:デパケン・エピレナート
まったく成分が同じものでも、発売する会社が異なればいろいろな商品があるかと思います。医薬品でも同じことがいえます。このためお薬には、一般名と商品名というものがあります。
一般名というのは、薬の成分の名前を意味しています。発売する会社によらずに、世界共通で伝わる薬物の名称です。「バルプロ酸(valproic acid)」に統一されています。主に論文や学会など、学術的な領域でこれまで使われてきました。
商品名とは、医薬品を発売している会社が販売目的でつけた名称になります。「デパケン(depakene)」は、製造元である共和発酵キリン社がつけた名前です。「エピレナート(epirenat)」は、製造元である第一三共がつけた名前です。
デパケンは、日本では1975年から発売されています。すでに特許もきれて、ジェネリック医薬品もいろいろなものが作られました。エピレナートもそのうちのひとつで、他にもサノテン、セレブ、バルプロ酸などのジェネリックが発売されました。いろいろ種類がありますと患者さんも違う薬と誤解してしまいますし、医療機関での薬の管理も大変になってしまいます。
このため現在では、「バルプロ酸」という一般名(成分名)への統一がすすめられています。バルプロ酸「会社ごとの名称」といった形になっています。エピレナートもこの流れをうけて2015年6月、バルプロ酸「フジナガ」に名称変更となりました。
エピレナートの効果や副作用について詳しく知りたい方は、
デパケン錠・デパケンR錠の効果と特徴
デパケンの副作用(対策と比較)
をお読みください。
まとめ
エピレナートは、「抗躁効果が強く、再発予防効果も期待できる気分安定薬」です。
- 抗躁効果(中程度~やや強い)
- 抗うつ効果(弱い)
- 再発予防効果(中程度~やや強い)
エピレナートのメリットとしては、
- 抗躁効果がしっかりしている
- 再発予防効果がしっかりしている
- 比較的安全性が高い
- 剤形が豊富
- 薬価が安い
エピレナートのデメリットとしては、
- 効果がやや遅い
- 抗うつ効果が弱い
- ラミクタールとの併用に注意が必要
- 肝機能障害・高アンモニア血症に注意が必要
- 眠気がやや多い
- 催奇形性がある
エピレナートが向いている方は、
- 再発予防効果を意識する方
- 興奮がそこまで強くない躁状態の方
- 複雑な躁状態の方
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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