気分安定薬の副作用と、お薬ごとで気を付けるべき副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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気分安定薬(ムードスタビライザー)とは、気分の波を小さくしてくれるお薬のことです。

気分安定薬に分類される薬としては、大きく分けると2タイプあります。炭酸リチウムと抗てんかん薬です。これらの薬に共通する副作用もありますが、それぞれの薬に特有の副作用もあります。

ここでは、気分安定薬で認められる副作用について、詳しくお伝えしていきます。

 

1.気分安定薬の副作用とは?

それぞれの気分安定薬において、頻度の多いものと重篤な副作用にわけて理解しましょう。

気分安定薬の副作用をみていきましょう。気分安定薬は他の多くの精神科のお薬と異なり、「受容体」ではなく、イオンや酵素に作用します。このためターゲットが広くなるので、副作用も薬によってバリエーションがあります。

まずはそれぞれの気分安定薬について、頻度の高い副作用と重篤な副作用に分けてみていきましょう。

気分安定薬には4つのお薬が分類されています。

  • リーマス(炭酸リチウム)
  • デパケン(バルプロ酸)
  • テグレトール(カルバマゼピン)
  • ラミクタール(ラモトリギン)

全体的な副作用の頻度や安全性について比較すると、以下のようになります。

テグレトール>リーマス>デパケン>ラミクタール

テグレトールは副作用の頻度も高く、安全性も低いです。重症薬疹や無顆粒球症などの重篤な副作用に注意が必要です。リーマスも副作用が全体的に多く、治療域と中毒域が近いので注意が必要です。

デパケンやラミクタールは比較的に副作用が少なく、安全性も高いです。そうはいってもデパケンでは、肝機能や高アンモニア血症に注意が必要です。ラミクタールでは、重症薬疹に注意が必要です。

気分安定薬の副作用を比較して一覧にしました。

2.気分安定薬に共通する副作用

これらの気分安定薬で共通する副作用についてみていきましょう。

 

2-1.眠気・ふらつき

眠気やふらつきの起こりやすさは、テグレトール>デパケン>ラミクタール≧リーマスという印象です。

それぞれの薬によって作用の仕方はことなりますが、抗てんかん薬は脳の活動を抑える作用があります。このため、眠気やふらつきといった副作用は、多かれ少なかれ認められます。

気分安定薬の中で比較すると、
テグレトール>デパケン>ラミクタール≧リーマス
になります。

気分安定薬による眠気は飲み始めに認められることが多いですが、少しずつ慣れていくことも多いです。

眠気の対策としては以下の5つがあげられます。

  1. 睡眠環境や習慣を見直す
  2. しばらく様子をみる
  3. 気分安定薬の飲み方を工夫する
  4. 気分安定薬の減量
  5. 他の気分安定薬に変更

まずは睡眠環境や習慣に関して、改善できることは見直していきます。詳しくは、「不眠を解消する9つの方法」「アルコール・タバコ・コーヒーと睡眠の関係」をお読みください。

眠気の副作用は少しずつ慣れていくことも多く、何とかなるのならば様子をしばらく見てみましょう。効果を見ながら、就寝前や夕食後などにお薬を服用するなど、飲み方を工夫していくとうまくいくこともあります。効果との兼ね合いを見ながらで減量すると、眠気が軽減することもあります。

それでも改善がなければ、他の気分安定薬に変更していきます。

 

2-2.体重増加

基本的には太りにくいのですが、病状コントロールが悪かったり、過食発作が認められて太ることがあります。

気分安定薬としての直接的な副作用としては、食欲増加も代謝抑制も少ないです。このため、薬効としての体重への影響は少ないです。ですが気分安定薬でも、体重増加が認められることがあります。

これは気分安定薬の間接的な要因によるもので、以下の2つが多いです。

  • 双極性障害の症状コントロール不良
  • 過食症状

デパケンで体重増加してしまった場合は、その原因がはっきりすれば個々の対策をとっていきます。それ以外の一般的な対策としては、4つあります。

  1. 体重測定・食事管理
  2. 運動
  3. 気分安定薬の減量
  4. 他の気分安定薬に変更

まずは食生活を整えましょう。カロリーを意識しながら食事をとるようにして、3食をバランスよくとることが必要です。そして、定期的に体重を測るようにしましょう。ちゃんと自分の体重を管理する習慣をつけましょう。また、運動習慣をつくりましょう。消費カロリーが増えれば体重が減少しますし、運動自体が精神的によい効果をもたらします。

このような努力によって体重増加傾向が改善できない場合は、気分安定薬の減量を検討します。場合によっては、他の気分安定薬に変更することもあります。

 

2-3.吐き気

薬の飲み始めに認められることが多いです。

気分安定薬では、吐き気や胃部不快感が認められることがあります。気分安定薬の吐き気や胃部不快感は、飲み始めに認められることが多いです。その原因は、はっきりとわかっていません。対策としては、以下の4つがあげられます。

  1. しばらく様子を見る
  2. 増量ペースをゆっくりにする
  3. 吐き気止めを一時的に使う
  4. 他の気分安定薬に変更する

薬を飲み続けていくと、次第に慣れていくことが多いです。増量のペースをゆっくりにしたり、吐き気止めを使うことで、気分安定薬が身体に慣れる時間をかせぐこともあります。

どうしても身体に合わない時には、他の気分安定薬に変更します。

 

3.それぞれの気分安定薬に特有の副作用

気分安定薬は、それぞれの薬によって特有の副作用があります。特徴的な副作用についてみていきましょう。

 

3-1.重症薬疹

ラミクタールやテグレトールでは、薬疹が重症化するリスクがあるので注意が必要です。

ラミクタールやテグレトールの副作用で注意しなければいけないものとして、薬疹があげられます。

薬疹はどのようなお薬でも認められることがあります。ラミクタールやテグレトールで薬疹が認められても、その大部分は問題のないものです。しかしながらこれらの薬疹は、ときに重症化することがあります。万が一の場合は死に至ることもあるので、注意が必要です。

注意すべき重症薬疹としては、以下の3つがあります。

  • 皮膚粘膜眼症候群(Steevens-Johnson症候群)
  • 中毒性表皮壊死融解症(TEN)
  • 薬剤性過敏症症候群(DIHS)

皮膚粘膜眼症候群(SJS)は、眼、口、陰部などの皮膚だけでなく粘膜がやられる薬疹です。発熱が認められて、表皮がはがれて水疱ができます。表皮全体の10%以下のときにSJSといいます。

中毒性表皮壊死融解症(TEN)は、SJSがさらに重症化したものです。まるでヤケドのように表皮がずるむけてしまいます。表皮全体の10%以上のときにTENと診断され、死亡率は20~30%にも及びます。

薬剤性過敏症症候群(DIHS)は、発疹とともに全身に赤い皮疹や紅斑が認められます。それと同時に全身のリンパ節腫脹や肝臓などの臓器障害、血液検査の異常が認められます。

 

これらの薬疹の多くは飲み始めの8週間以内に出現します。DIHSでは服薬後2週間以上たってから認められることが多いので注意が必要です。以下のような症状が認められたら、すぐに主治医に伝えてください。

  • 発疹
  • 唇や口内のただれ
  • 38℃以上の発熱
  • 眼の充血
  • のどの痛み
  • リンパ節の腫れ
  • 全身倦怠感

これらの症状が認められた場合、それがラミクタールやテグレトールの副作用かどうかを総合的に判断します。少しでも重症薬疹が疑われるときには、ただちに原因薬剤を中止します。その上で、直ちに皮膚科に受診をしていただきます。

 

3-2.無顆粒球症(顆粒球減少症)・再生不良性貧血

テグレトールは、血液を作る細胞に影響を及ぼします。

テグレトールを長期にわたって服用していると、血液を作る細胞に影響があります。うまく血液成分をつくれなくなってしまい、好中球が作れなくなる顆粒球減少症、赤血球が作れなくなる再生不良性貧血などが認められることがあります。

顆粒球減少症が酷くなってしまうと、無顆粒球症となってしまいます。好中球(顆粒球)は感染防御に非常に重要な働きをしています。これがなくなってしまうと、細菌に対して無防備になってしまいます。重症感染症をひきおこし、ときに死に至ることもある病気です。

このためテグレトール服用中は、定期的な血液検査が必要になります。検査をすると多少の白血球減少が認められることは多く、重篤化することは少ないので様子をみていきます。

明らかに白血球が少ない場合、ただちにテグレトールを中止します。発熱している場合は、抗菌薬をしっかりと使っていきます。このような状態になると、直ちに血液内科を受診していただきます。

 

3-3.聴覚変化

絶対音感がある方や音が生活に重要な方には、テグレトールには注意が必要です。

テグレトールに特有の副作用として、「すべての音が半音下がって聞こえる」という副作用があります。飲み始めてすぐに認められることが多く、絶対音感がある方や音が生活に重要な方には非常に不快感が強いです。

どうしてこのような変化が認められるのかは不明で、どの程度認められるのかもわかっていません。程度の差はあれ多くの患者さんに存在しているけれども、敏感な患者さんだけが副作用として自覚するだけかもしれません。

聴覚変化がつらい方は、テグレトールから他の気分安定薬に変更します。

 

3-4.高アンモニア血症

デパケンでは、量が少なくても高アンモニア血症が生じることがあります。無症状で気づかないことも多いので、定期的な採血でチェックが必要です。

デパケンの副作用で注意しなければいけないものとして、高アンモニア血症があげられます。

アンモニアが身体にたまっていくと、脳内の興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸濃度を高めてしまいます。このため、脳の異常な興奮によりてんかん発作が起こってしまったり、意識障害が生じることがあります。ですから、デパケンを服用している方が意識障害になったら、必ずアンモニアを測定します。

アンモニアは消化管や腎臓で作られます。肝臓で尿素に変換されることで体外に排泄されていきます。この時にカルニチンが間接的に必要になります。カルニチンはデパケンを代謝するのに必要な物質なので、不足してしまっている方もいます。

このためデパケンで高アンモニア血症が生じるのは以下のように考えられています。

  • 生まれつきの尿素サイクル異常
  • 腎臓でのアンモニア産生過剰
  • カルニチンの欠乏

デパケンを長期に服用している患者さんでは、およそ半数で高アンモニア血症を認めますが、多くは無症状です。血中アンモニア値が基準値をこえても無症状であることが多く、200μg/mLを超えてはじめて症状が出てくる方もいます。

また、デパケンの量には関係なく生じるので、少量しか服用していないからといって油断できません。このため、定期的にアンモニア値をチェックする必要があります。

もし高アンモニア血症が認められたときは、症状がなければ2桁台でしたら様子を見ていきます。さすがに3桁台であったり、何らかの症状が認められたら、以下のような対策をします。

  1. エルカルチン(成分:レボカルニチン)を併用
  2. モニラック(成分:ラクツロース)を併用
  3. アルギメート(成分:グルタミン酸アルギニン)を併用
  4. デパケンを中止

 

3-5.肝機能障害

デパケンは肝臓に負担が大きい薬です。体質的に急激に肝機能障害が生じることもあるので注意が必要です。

デパケンは、肝臓に負担の大きな薬です。このため肝機能障害が認められやすいです。

その大部分は一過性肝機能障害といわれ、程度も軽く、しばらくすると改善します。肝臓は予備能力が高いので、慣れてくるとカバーできるようになるのです。用量が多いほど生じやすく、44%もの方に認められるという報告があります。特に症状がないならば、そのままデパケンを継続して様子を見ていきます。

症状がみられたり、肝機能障害が慢性化する場合は、以下の2つを検討します。

  1. デパケンの減量
  2. 他の気分安定薬への変更

 

非常にまれですが、急激な体質性の肝機能障害に注意しなければいけません。症状としては、傾眠、黄疸、悪心嘔吐、出血、けいれん発作などが認められます。血液検査をすると、肝機能が異常に高くなります。

2歳以下の子供に多いですが、何らかの代謝障害や発達遅延などがあることが多いとされています。ごくまれですが、注意する必要があります。

 

3-6.振戦(ふるえ)

炭酸リチウムでは、振戦が多いです。

炭酸リチウムの副作用として、振戦はよくみられます。飲みはじめから手や指のふるえが認められることがあります。両手を前に出して指を広げると、ふるえがわかりやすいです。

血中濃度が治療域であれば、そこまで振戦は目立ちません。手を広げると確かに振えているものの、生活に支障が来るほどにはならないことが多いです。リチウム血中濃度が1.5mEq/Lを超えて中毒域になってくると、大きな振戦に変わっていきます。

ですから、炭酸リチウムをしばらく服用していて振戦がみられた場合は、血中濃度を測定する必要があります。中毒域にはいっていれば、炭酸リチウムの減量が必要です。

中毒域に入っていない場合や炭酸リチウムの飲み始めでは、振戦の対策としては以下の4つがあげられます。

  1. 気にしない
  2. βブロッカーを追加
  3. 抗不安薬を追加
  4. 他の気分安定薬に変更

生活に大きな支障がないのでしたら、気にしないのも方法です。慣れることは少ないですが、特に後遺症として残ることはありません。症状を軽減したい場合は、βブロッカー(インデラルなど)や抗不安薬(リボトリールなど)が有効です。パーキンソン病の症状を軽減させる抗コリン薬(アキネトンやアーテンなど)は効果が期待できません。

それでも改善がない場合は、他の気分安定薬に変更します。

 

3-7.多尿(腎性尿崩症)・口渇(多飲)

炭酸リチウムでは、多飲多尿がよく認められます。

炭酸リチウムは腎臓に2つの大きな影響のあるお薬です。

  • 腎機能低下
  • 腎性尿崩症

炭酸リチウムは腎臓だけで代謝されるお薬なので、腎臓に負担がかかってしまうのは避けられません。腎機能低下に関しては、患者さんによって程度に差があります。まったく問題ない方もいれば、どんどん腎機能が低下してしまう方もいます。定期的に腎機能を確認していく必要があります。

 

炭酸リチウムの腎臓への影響としては、もうひとつ大きなものがあります。抗利尿ホルモンのバソプレシンの働きを弱めてしまうのです。バソプレシンは、一度腎臓で濾過された尿のうち、必要な水分を身体に再吸収する働きがあります。この働きがブロックされるので、水分を再吸収できなくなって利尿(尿を出す)してしま うのです。

ひどくなると腎性尿崩症という病名がつけられます。長期に炭酸リチウムを服用している患者さんの20~40%に認められるという報告もあります。このような状態になると多尿はもちろんのこと、身体から水分が失われるのでのどが渇きます。水をたくさん飲んでしまうのです。

多尿・多飲の対策としては、以下の2つがあげられます。

  1. 炭酸リチウムの減量・中止
  2. サイアザイド系利尿薬を使う

症状がひどい場合は、脱水になってしまって炭酸リチウムの血中濃度も不安定になってしまいます。炭酸リチウムは血中濃度をきっちりと測定して維持していく必要があるので、腎性尿崩症にまでなってしまった場合は、炭酸リチウムから他の気分安定薬に変更した方がよいです。

炭酸リチウムを中止しても続く場合は、サイアザイド系利尿薬(フルイトランなど)を使います。多尿になっているのに利尿薬を使うのは変に感じるかもしれません。

サイアザイド系利尿薬は遠位尿細管という終わりの方で働きます。終りの方で利尿作用が働くと、反対に近位尿細管では水分の吸収をしようと頑張ります。結果として遠位尿細管では水分量が少なくなり、全体で見ると尿が減少します。

 

3-8.内分泌異常

炭酸リチウムでは、甲状腺機能低下症や副甲状腺機能亢進症が認められます。

炭酸リチウムを長期で服用していると、ホルモンの分泌を行っている内分泌異常が生じることがあります。具体的には、甲状腺機能低下症や副甲状腺機能低下症が認められます。

甲状腺機能低下症は、炭酸リチウムを使っている方では頻度が6倍ほどにもなります。甲状腺ホルモンは代謝を高める働きがあるので、この機能が低下することで全身に症状が認められます。むくみ、食欲低下、体重増加、徐脈、寒がり、うつなどの症状が認められます。

副甲状腺機能亢進症では、カルシウム代謝のバランスをとっている副甲状腺ホルモンが増加します。副甲状腺ホルモンは血中のカルシウム濃度を高める働きがあります。骨を壊してカルシウムを作るので、骨がもろくなって骨折しやすくなります。また、カルシウムがいろいろなところに沈着してしまい、動脈硬化や関節炎、心臓弁膜症などにつながります。

これらの内分泌異常が見つかった場合、対策の基本は炭酸リチウムの減量・中止になります。甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモン(チラージン)を補充することもあります。

 

まとめ

それぞれの気分安定薬において、頻度の多いものと重篤な副作用にわけて理解していきましょう。

気分安定薬の副作用比較

投稿者プロフィール

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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