ジプレキサが糖尿病に禁忌な理由とは?

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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ジプレキサは、MARTAと呼ばれる第二世代(非定型)抗精神病薬です。2001年6月に発売されましたが、高血糖による死亡例が認められたため、糖尿病の患者さんには禁忌となりました。

ジプレキサは統合失調症や双極性障害によく使われていて、非常に有効なお薬です。一番のネックが、体重増加の副作用となっています。食欲増加だけでなく、代謝も悪化してしまいます。

ここでは、ジプレキサではどうして糖尿病が禁忌となったのか、その経緯をお伝えします。どのようなことに注意をすればよいのか、みていきましょう。

 

1.ジプレキサはなぜ糖尿病に禁忌なのか

ジプレキサによって急激に高血糖がすすみ、糖尿病性昏睡となって2人が亡くなったためです。

ジプレキサは2001年6月に発売されました。ですが、発売後まもなくの2002年4月、イエローレターが出されました。

イエローレターは緊急安全性情報と呼ばれていて、緊急で重大な注意喚起や使用制限が必要な状況に出されます。厚労省の指示や製薬会社の判断で、医療機関と患者さん向けに配布されます。抗精神病薬の持続注射剤のゼプリオンでブルーレターと呼ばれる安全速報が出されましたが、これよりも緊急性の高いものになります。

発売から数か月、およそ137000人にジプレキサが使われている中で、重篤な糖尿病性昏睡が9例(うち2例で死亡)という報告がなされたためです。

 

発売時点でも、ジプレキサの添付文章の重大な副作用の中に、「高血糖が現れることがあり、糖尿病性昏睡や糖尿病性ケトアシドーシスに至った例が報告されている」と記載されていました。しかしながら、十分な注意はできていないのが実情でした。

このイエローレターをうけてジプレキサの添付文章が改定され、以下の2つが追加されました。

  • 禁忌:糖尿病・糖尿病の既往歴
  • 慎重投与:糖尿病の家族歴・高血糖や肥満などの糖尿病の危険因子を有する患者

さらに、重大な副作用と警告という形で、「血糖値の測定などの観察を十分に行い、口渇・多飲・多尿・頻尿などの異常に注意すること」とされています。

 

ジプレキサでは、糖尿病が疑われたり肥満がみられる方では、このように急激な高血糖による昏睡のリスクは高くなります。ですが、血糖値が正常な方でも、代謝を急激に悪化させて高血糖になることがあります。まったく正常だった方が、新たに高血糖や糖尿病になってしまうリスクとしては、4.5%前後という報告もあります。このため、血糖を定期的にチェックしなくてはいけません。

 

ジプレキサの体重増加について詳しく知りたい方は、
ジプレキサは太るの?体重増加への5つの対策
をお読みください。

 

2.ジプレキサによる糖尿病関連の死亡例とは?

2名とも若い男性で、ペットボトル症候群によって糖尿病性昏睡が生じて亡くなりました。

ジプレキサを投与中、糖尿病による合併症で亡くなってしまった患者さんは2名いらっしゃいました。いずれも比較的若い男性で、糖尿病と診断されていない患者さんでした。

この2名の患者さんで共通している合併症は、ペットボトル症候群やソフトドリンクケトアシドーシスなどといわれているものです。ソフトドリンクのペットボトルをがぶ飲みして悪化していく病気なので、この名前がつけられています。

高血糖になると、水分をとって血糖を薄める必要があります。このため、のどが渇いて身体が水分を欲するのです。のどが渇いたからといって糖をたくさん含んでいるソフトドリンクを飲んでしまうと、さらに高血糖がすすんでしまいます。それを下げるために、血糖を細胞に取り込むインスリンというホルモンが膵臓から分泌されて帳尻をあわせます。

しかしながら徐々に膵臓が疲れてきて、インスリンの分泌が悪くなります。すると今度は、細胞に糖がとりこまれなくなってエネルギー不足となってしまい、脂肪を分解して細胞の栄養源にします。その時に脂肪から作られるケトン体がたまっていくと、身体のバランスがくずれて昏睡状態になってしまうのです。

 

このペットボトル症候群は、若い男性に多いと言われています。ジプレキサで亡くなられた2人も、若い男性でした。ジプレキサは抗コリン作用が強く、口渇の副作用が認められやすいお薬です。これが、ソフトドリンク症候群の悪循環を強めてしまった可能性もあります。

 

3.ジプレキサによる高血糖をどのように注意するのか

定期的に採血をして、特に6か月までは慎重に見ていく必要があります。

糖尿病になるリスクとして、肥満は間違いなくあります。今回の死亡例でも糖尿病が確認されていない方でしたが、ジプレキサ開始時が100kgと83kgとどちらも肥満体型でした。

ただ、体重増加や肥満がなくても高血糖や糖尿病になるケースも多く、肥満がないからといって大丈夫というわけではありません。糖尿病は一般的に中年以降にリスクが高まりますが、若い人でもペットボトル症候群の可能性があります。多飲傾向には注意が必要です。

今回の2つのケースでは、どちらもジプレキサへの切り替えの直後に高血糖が生じました。抗精神病薬の副作用による糖尿病や高血糖は、3か月以内に半数、6か月以内に大部分と報告されています。しかしながら、ジプレキサにより重篤な糖尿病性昏睡をきたした症例は、31~395日の期間に生じています。

これらを踏まえると、ジプレキサでは以下のことに注意する必要があります。

  • 肥満では特に気をつけること
  • 肥満でなくても油断しない
  • 若い男性の多飲傾向には注意する
  • ジプレキサ開始して半年は特に慎重に
  • 1年すぎても定期的に血糖チェックが必要

 

まとめ

ジプレキサが糖尿病で禁忌となったのは、急激に高血糖がすすみ、糖尿病性昏睡となって2人が亡くなったためです。

2名とも若い男性で、ペットボトル症候群によって糖尿病性昏睡が生じて亡くなりました。

定期的に採血をして、特に6か月までは慎重に見ていく必要があります。

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