自律神経が乱れ、自律神経失調症を引き起こす3つの原因
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
自律神経失調症とは、自律神経のバランスが崩れてしまったことによって心身に症状が認められる状態のことをいいます。
正式な病名というわけではなく、身体に明らかな原因が見当たらず、自律神経に関係がありそうな症状に対して使われる「状態」のことを指しています。
自律神経は全身の臓器や血管などに分布しているため、自律神経失調症は全身に様々な症状が認められます。身体の検査をしても異常がないときに、自律神経失調症と診断されることが多いです。
ですから自律神経失調症の治療していくためには、自律神経のバランスが乱れてしまう原因を知る必要があります。ここでは、自律神経が乱れ、自律神経失調症を引き起こす原因について、3つに分けてお伝えしていきます。
1.自律神経失調症とは?
自律神経失調症は、身体症状にハッキリした原因が見つからないときに診断されることが多いです。自律神経が乱れることで、身体の機能がくるってしまう病気です。
自律神経失調症の原因についてみていく前に、自律神経失調症とはどういう病気なのかについてみていきましょう。
自律神経とは、私たちの意思にかかわらず、様々な身体のバランスを整えてくれる神経です。例えば、
- 全力で走るときに、血液を身体にまわす
- 食事をするときに、胃腸を動かして消化する
- 身体の酸素がたりないときに、呼吸を多くする
といったことは、意識をしなくても勝手に自律神経が調整してくれます。自律神経は身体の外からの刺激や内部からの情報によって、自動的に身体の機能を調整してくれる神経なのです。
自律神経がないと、とても大変です。例えば敵に追われて逃げるときに、心臓の働きを強めて、呼吸を早くし、胃腸の働きを抑えて・・・などといったことを意識して行わなければいけません。
自律神経は、生きるために必要な循環・消化・代謝・体温調整といった機能を自動でコントロールしてくれる神経なのです。ですから自律神経は、全身の臓器や血管などに分布しているのです。
自律神経について詳しく知りたい方は、「自律神経とは?交感神経と副交感神経の働き」をお読みください。
自律神経失調症とは、この自律神経のバランスが乱れてしまった(失調)病気になります。自律神経は全身に影響している神経ですので、様々な症状が認められます。
詳しくは後述しますが、どんな症状でも取りうるといっても過言ではありません。ですから何か症状が認められた時に、身体にハッキリとした原因がなければ自律神経失調症と診断される傾向にあります。
自律神経の乱れによる症状がひとつだけですと、
- 過敏性腸症候群
- 機能性胃腸症(ディスペプシア)
- 線維筋痛症
- 慢性疲労症候群
といった診断されることもあります。身体に異常が認められないのにもかかわらず身体症状が認められる病気のことで、これらは機能性身体症候群(FSS)とも呼ばれています。自律神経が関係していることが多く、自律神経失調症として診断されることも多いです。
2.自律神経が乱れる3つの原因
自律神経が乱れる原因には大きく3つあり、①ストレス②生活習慣の乱れ③ホルモンになります。
それでは、自律神経失調症の原因について考えていきましょう。
自律神経は先ほど申し上げてきた通り、意思にかかわらず自動的に調整してくれている神経です。「心臓を止めて」といわれても止められないように、基本的には意思によって調整はできません。呼吸だけが、唯一自分の意識でも少しコントロールできます。
そのような自律神経が乱れてしまうのには、大きく3つの原因があります。
- ストレス
- 生活習慣の乱れ
- ホルモン
ストレスにも様々な種類のものがあります。その中でも精神的ストレスが最も自律神経に影響を及ぼします。また同じストレスでも、人によっても受け止め方が変わります。
生活習慣の乱れも、自律神経の乱れにつながります。人には体内時計があり、そのリズムに従って自律神経もコントロールされています。生活習慣の乱れは体内時計をくるわせ、自律神経の乱れを引き起こす原因となります。
ホルモン(内分泌系)は、自律神経系と密接に関係しています。甲状腺ホルモンと女性ホルモンの影響が特に大きいです。
それでは、それぞれについて詳しく見ていきたいと思います。
3.自律神経失調症の原因①-ストレス
自律神経失調症の原因として、ストレスそのものだけでなく、性格などの受け止める側の要因もあります。
自律神経失調症の原因として最も多いのは、ストレスになります。ストレスそのものが大きい場合もありますが、受け止める側の要因があることもあります。
ここでは、自律神経失調症の原因となるストレスについて、性格とストレスに分けてみていきたいと思います。
①性格
性格は、遺伝的な気質がもともとあり、様々な経験の中で少しずつ形成されていきます。同じ出来事があったとしても、性格が異なれば考え方も変わり、ストレスに対する受け止め方も変わってきます。
自律神経失調症になりやすい性格傾向としては、
- 神経質性格
- アレキシサイミア
の2つがあげられます。
神経質性格とは、
- 内向的
- 内省的
- 心配性
- 完全主義
- 理想主義
- 負けず嫌い
といった特徴があります。神経質性格は、心配性で内向的という弱気な側面もある一方で、完全主義で理想主義、負けず嫌いという強気な側面もある性格です。
このように共存しているため、弱気な部分を強きな部分が受け入れられなくてストレスを抱えやすい傾向にあります。
アレキシサイミア傾向がある人は、自分自身の感情に上手く気づけず、そしてその感情を表現することが苦手です。感情を感じていないわけではないのですが、それを自分で認識できないのです。
周 りの人からみると、真面目で仕事熱心な頑張り屋さんで、頼まれるとノーと言えず、他人によく気をつかいます。ですが、「本当は嫌だ」「疲れている」と いった感情があるのに、それに気づけずに自分で抱えてしまいます。限界ポイントを超えてしまうと身体症状にあらわれ、自律神経失調症を発症してしまいます。
神経質性格の方の自律神経失調症は、何かに「とらわれ」てしまって不安などの精神症状が目立つ傾向にあります。それに対してアレキシサイミアは、身体症状が目立つ傾向にあります。
②ストレスそのもの
ストレスそのものについて考えていきましょう。
ストレスと言われて皆さんイメージするのは、精神的ストレスかと思います。精神的ストレスが自律神経失調症の原因としては一番多いですが、高温環境や騒音環境といった物理的ストレスなども原因となります。
ストレスがかかると、自律神経系では交感神経が活性化します。交感神経は、身体を「戦うモード」に切り替えます。
交感神経が活性化すると、心臓がバクバクして血圧があがり、呼吸も早くなります。瞳孔は見開いて身体はこわばります。その一方で消化は抑えられ、胃腸の働きや唾液分泌などが悪くなります。
ストレスが続くと、このような交感神経が優位な状態が続いてしまいます。一時的なストレスであれば問題ないのですが、長く続くことで自律神経のバランスが崩れていきます。
本来はリラックスするときの神経である副交感神経が活性化するはずであったのに、交感神経が活性化して休まらなくなってしまいます。
ストレスの身体での反応を詳しく知りたい方は、「ストレスをうけると身体はどうなるの?身体のストレス反応とは?」をお読みください。
4.自律神経失調症の原因②-生活習慣の乱れ
自律神経失調症の原因として、生活リズムの乱れやカフェインやタバコといった嗜好品も影響します。
生活リズムと自律神経のバランスは、密接に関係しています。人には体内時計があり、それに従って自律神経が調節されています。
昼は交感神経が優位に、夜は副交感神経が優位になっていきます。ここでは、自律神経失調症の原因として生活リズムの乱れに目を向けていきましょう。
①生活リズム
私たちの身体には体内時計があり、ほぼ1日24時間ごとの規則正しいリズム(サーカディアンリズム)があります。このリズムに従って自律神経の働きが調整されていて、オンとオフのメリハリをつけてくれています。
基本的には日中には交感神経が優位になり、活動的になります。それに対して夜間には副交感神経が優位になり、リラックスさせて心身を休めます。このように一日の時間帯によって自律神経のバランスが変わり、それぞれの役割を果たしています。
最近では生活の夜型が進んできています。平日22時以前に就寝している人は1960年代では66%であったのに対し、2010年では25%に減少しています。
夜型生活になると、本来は副交感神経が優位となりリラックスするはずであった時間帯に、交感神経の活性化が続いてしまいます。これによって自律神経が乱れ、自律神経失調症としての症状が認められてしまう原因となっているのです。
②カフェインやタバコ
自律神経のバランスが崩れやすくなる原因として、カフェインやタバコなどの嗜好品の影響も大きいです。
カフェインは眠気覚ましに使われるように、興奮物質の一種です。コーヒーを良く飲まれる方は、コーヒーのせいで動悸が生じた経験をされたこともあると思います。カフェインは交感神経を活性化させます。
タバコに関しても同じことが言えます。「タバコはリラックスする」と思われている方もいるかもしれませんが、タバコを吸うことで覚醒作用が強まって不眠傾向になることがわかっています。
カフェインを飲みすぎたりタバコを吸いすぎることは、自律神経のバランスが崩れる一因になります。
5.自律神経失調症の原因③-ホルモン
自律神経失調症の原因として、内分泌系(ホルモン)も大きな影響があります。とくに甲状腺ホルモンと女性ホルモンの影響が大きいです。
自律神経系と内分泌系は密接に関係しています。身体の恒常性を保つために、この2つは相互に影響しあってバランスをとっています。
自律神経系は、体中に張り巡らされた神経ネットワークで全身に働きます。内分泌系では、ホルモンが血液に分泌され、血管をめぐって全身の臓器に働きます。
ホルモンの中でも、
- 甲状腺ホルモン
- 女性ホルモン(エストロゲン)
は自律神経のバランスにも影響が大きいです。
①甲状腺ホルモン
甲状腺ホルモンは、喉のあたりにある器官になります。ここから分泌される甲状腺ホルモンは、身体の代謝を高める働きがあります。このため交感神経を活性化され、過剰に作用すると動悸やふるえ、下痢などの症状が認められます。
甲状腺ホルモンは、通常は適切な量で調整されるようなネガティブフィードバック機構があります。甲状腺ホルモンの効果が発揮されると、それがモニターされて分泌が抑制されるようになっています。
甲状腺ホルモンのバランスが乱れてしまうのは、甲状腺疾患にかかってしまった時です。バセドウ病や橋本病などによって甲状腺機能が乱れると、自律神経失調症の症状がみられることがあります。男性よりも女性のほうが、甲状腺疾患は多いです。
ホルモンは通常の採血では測定しないため、自律神経失調症の原因の一つとして意識していないと誤診してしまいます。
②女性ホルモン
女性ホルモンも、自律神経に影響の大きなホルモンの一つです。
女性ホルモンは月経(生理)によって、毎月上がったりさがったりと周期的な変化をしています。さらには妊娠や出産で大きく変動し、更年期になると閉経し、女性ホルモンのバランスが乱れます。
女性ホルモンが変動すると、自律神経失調症になりやすくなります。それではどうして女性ホルモンと自律神経が関係するのでしょうか。
女性ホルモンの分泌は、脳の視床下部とよばれる部分が中枢となっているからです。
視床下部→下垂体→卵巣→女性ホルモン
といった形で指令が伝えられ、女性ホルモンが分泌されています。実は自律神経系も、視床下部が中枢になっています。同じ視床下部でコントロールをしているので、女性ホルモンの乱れが自律神経系にも影響を及ぼします。
このように内分泌系(ホルモン)の影響が大きいため、男性よりも女性のほうが自律神経失調症は多いです。
6.自律神経失調症は遺伝するのか
自律神経失調症は、純粋な遺伝的な要因だけでなく、遺伝環境相互作用の影響が大きいです。このため、自律神経失調症になりやすい環境を是正して、自分自身もしっかりと治療することが大切です。
最後に、自律神経失調症は遺伝するのかということについて考えていきましょう。
自律神経失調症は、自律神経が乱れている(失調)している状態に過ぎません。様々な病気で認められる状態像にすぎないので、遺伝の影響などを調べた研究などはありません。
これまで自律神経失調症の原因についてみてきましたが、その中には遺伝が関係する部分があります。遺伝の影響を考えるときに、以下の2つの要素に分けられます。
- 遺伝的な生まれもっての気質
- 親の養育による遺伝環境相互作用
生まれ持っての性格傾向である気質は、遺伝子などによってきめられた純粋な遺伝になります。
それだけでなく、自律神経失調症という親が育てていく環境での影響もあります。これらが重なった結果として、自律神経失調症に子供が発症しやすくなります。
多くの方がイメージする遺伝とは、この結果としての自律神経失調症になります。「親が自律神経失調症なら、子供はどれくらい自律神経失調症になるのか?」ということなのです。
自律神経失調症になりやすい気質には、純粋に遺伝する部分があります。ホルモンの病気も、なかには遺伝的な要素が認められるものもあります。
それよりも自律神経失調症は、遺伝環境相互作用による部分が大きいかと思います。
親にストレスがかかれば、子供にストレスがかかることも増えます。親のストレスの対処法をみて、子供はストレス対処法を学びます。親の生活習慣が乱れていれば、子供も乱れてしまうのです。
自律神経失調症の遺伝を心配されるのでしたら、自律神経失調症になりやすい環境を是正することのほうが大切です。ご自身がよくなることが、結果として子供への影響も少なくすることにつながります。
まとめ
自律神経失調症は、身体症状にハッキリした原因が見つからないときに診断されることが多いです。自律神経が乱れることで、身体の機能がくるってしまう病気です。
自律神経が乱れる原因には大きく3つあり、①ストレス②生活習慣の乱れ③ホルモンになります。
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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