ベタメタゾン錠の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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ベタメタゾン錠は、リンデロン錠のジェネリック医薬品として発売された、内服薬のステロイド薬になります。ベタメタゾンは、長期作用型の高力価のステロイドのお薬です。

リンデロンと聞くと、リンドロンVGなどの軟膏の方を思い浮かべる人が多いかもしれません。その塗り薬の主成分であるリンデロンの飲み薬がリンデロン錠です。ジェネリック医薬品も同じようにベタメタゾンのクリームや軟膏が発売されていますが、このページでは内服薬であるベタメタゾン錠を中心にまとめていきます。

ベタメタゾンは特殊な病態を除くと、ほとんどが脳浸透圧亢進や抗癌剤の嘔気に対して処方されます。

ベタメタゾンは吐き気を止めるだけでなく、食欲増進作用など体を元気にする作用も強いことから、抗癌剤にはセットで処方されることが多いです。

一方でベタメタゾンは、様々な副作用があります。抗癌剤のふくさようは医師も説明するかと思いますが、制吐剤として使用するベタメタゾンのことまでは触れられないことも多いです。

ここでは、ベタメタゾン錠の効果と副作用といった特徴についてみていきましょう。

 

1.ベタメタゾン錠のメリット・デメリットは?

<メリット>

  • ステロイド内服薬の中で吐き気止めの効果が強い
  • 長期作用型で効力も強力なステロイド薬である

<デメリット>

  • 様々な全身の副作用が出現する
  • 錠剤のみしかジェネリック医薬品はない

ステロイドは、

  • 抗炎症作用
  • 免疫抑制作用

を期待され多くの疾患で使用されているお薬です。しかしこれら多くの疾患は、大部分がプレドニンで加療されています。プレドニンの方が効果発現時間が短い上に力価も弱いため小回りが利きやすく、病態に合わせて量を調整しやすいからです。

一方のベタメタゾンは、長期作用型の高力価の内服薬になります。強い効果が長時間続くため、病態が変化しやすい状態には使用しづらいお薬です。そのためベタメタゾンは、わが国では主に抗癌剤による嘔気に対して使用されています。

がん診療ガイドラインでは、同じステロイドのデカドロンが推奨されています。しかしデカドロンもベタメタゾンも、ステロイド成分は違いますが同じ長期作用型で高力価のステロイド薬です。

がん診療のガイドラインは臨床研究に基づいて行われるため、データが多いデカドロンが記載されていますが、ベタメタゾンがデカドロンに劣っているわけではないです。むしろデカドロンは錠剤だけなのに対して、ベタメタゾンは細粒やシロップなどの飲み薬も発売されています。

そのため嚥下機能が低下していて錠剤だとのみづらい人でも、ベタメタゾンは投与しやすいお薬です。

ベタメタゾンは制吐効果以外にも、食欲増進する効果が強いです。もともとステロイドは体内で作られているホルモンで、身体にストレスがかかった時に元気にするためのホルモンです。このため抗癌剤を投与した後、元気になったとおっしゃる患者さんも多いですが、実はこのベタメタゾンの効果によるものです。

一方でベタメタゾンは、副作用も多いお薬です。ただし、ベタメタゾンを数日内服しただけで副作用が出てくることは少ないです。また、ベタメタゾンを外来でいきなり高用量処方することはほとんどありません。入院中でベタメタゾン錠を処方されている場合は、副作用が出現した場合も対処しやすいと思います。

 

2.ベタメタゾン錠の剤形・薬価は?

ベタメタゾンは、内服薬は錠剤しかありません。ベタメタゾン錠の薬価は、先発品の半分以下になります。

ベタメタゾンは、

  • ベタメタゾン0.5mg錠

の錠剤のみ発売されています。先発品のリンデロンは、錠剤の他に粉薬やシロップが発売されています。そのため錠剤以外の内服方法を希望する場合は、先発品のリンデロンしかないため注意が必要です。ベタメゾンは、内服薬以外であれば注射剤・塗り薬などの剤形が発売されています。

それでは薬価をみていきましょう。ベタメタゾン錠は、リンデロン錠のジェネリック医薬品です。先発品であるリンデロン錠は、以下のようになります。

  剤形 薬価 3割薬価
リンデロン錠 0.5mg 14.7円 4.4円
リンデロン細粒 0.1% 31.4円/g 9.4円
リンデロンシロップ 0.01% 6.9円/ml 2.1円

※2017年2月17日の薬価です。

またベタメタゾンは、ジェネリック医薬品として後発品も発売されています。

  剤形 薬価 3割薬価
ベタメタゾン錠 0.5mg 6.3円 1.9円

※2017年2月17日の薬価です。

後発品のベタメタゾン錠は、先発品に比べると半分以下の薬価で処方できます。ただし、細粒やシロップは後発品がないので注意が必要です。

 

3.ベタメタゾン錠の適応疾患は?

ベタメタゾン錠は、制吐剤として使用されることが多いです。

ステロイドの以下の2つの作用を期待できるものです。

  • 抗炎症作用
  • 免疫抑制作用

ステロイドが効力を示す病態は無数にあります。ベタメタゾンの添付文章でも多くの病気が記載されていますが、これらはプレドニンで加療されることがほとんどです。そのため、「プレドニンのページ」で確認してください。

実際の現場では、制吐剤としてベタメタゾンを、1日4~20mgを1~2回に分割して使うことが多いです。特に抗癌剤や脳転移による浮腫での吐き気に対して、ベタメタゾンは効果期待できます。

抗癌剤で最も多く出現する嘔気は、一度出現するとなかなか改善されません。そのため、嘔気がそもそも出ないように対応することが求められています。ですから今では、ほとんどすべての抗癌剤にベタメタゾンなどのステロイドが併用されています。ベタメタゾンを抗癌剤の嘔気に対して使用する場合は、

  • 高リスクの場合は、アプレピタント(イメンド)125mgと5-HT3受容体拮抗薬(グラニセトロン・アロキシ)にベタメタゾン12mgの3剤で治療します。
  • 中リスクの場合は、5-HT3 受容体拮抗薬とベタメタゾン8~12 mgの2剤で治療します。
  • 低リスクの場合は、ベタメタゾン4~8mg単独で治療します。

一方で注射で抗癌剤を投与する場合は、ベタメタゾンも注射剤で投与することが多くなりました。さらに2日目以降も、5日目まで投与することもあります。また、途中から嘔気が出現した場合に、ベタメタゾンを追加することもあります。

ガイドラインに投与量は記載されていますが、

  • 抗癌剤と癌の状態
  • 体格や年齢
  • 持病の状態
  • 腎臓や肝臓の状態
  • 実際の嘔気の状態

など様々な状態を加味して、医師が患者さんごとに調整することが多いです。またこの制吐剤の作用は、脳からくる嘔気にも有効です。特に脳転移で脳浮腫がある場合は、この脳浮腫を抗炎症作用で抑えることで嘔気を抑えることができます。

このようにベタメタゾンは、大部分は癌での制吐剤で使われることが多いお薬です。

 

4.ベタメタゾン錠と他のステロイドの比較は?

ベタメタゾンは、中間作用型のベタメタゾンです。力価もステロイド内服の中ではちょうど中間に位置します

ステロイド内服薬は多くのお薬が発売されています。それらのお薬の中で、ベタメタゾンはどういった位置のお薬になるか見てみましょう。

ステロイドの内用薬の比較について

まずステロイドは、

  • 短時間作用型(血中半減期1時間程度・生物学的半減期8~12時間)
  • 中間作用型(血中半減期2.5時間程度・生物学的半減期12~36時間)
  • 長時間作用型(血中半減期3.3時間程度・生物学半減期36~54時間)

の3種類に分けられます。生物学的半減期の期間が、お薬の効き目が無くなってくる時間だと思ってください。時間に幅があるのは、

  • 年齢
  • 体の大きさ
  • 肝臓や腎臓の機能状態
  • ステロイドを使用する病態

などによって非常に個人差が大きいお薬だからです。

この中でベタメタゾンは、長期作用型のお薬にあたります。つまり1日から2日程度効果が持続するお薬になります。そのため一般的には、ベタメタゾンの内服は1日1回のことが多いです。ただし、大量に投与する場合は薬の量が増えてしまうため、2回に分けることもあります。

次にステロイド自体の強さですが、ステロイドはさらに2種類のホルモンに分けられます。

  • 糖質コルチコイド(抗炎症・免疫抑制作用、たんぱく質異化作用、糖代謝作用、骨代謝作用)
  • 硬質コルチコイド(水・電解質代謝作用)

ステロイドの治療を期待するのは、大部分が糖質コルチコイドの抗炎症、免疫抑制作用です。一方の硬質コルチコイドは、水・電解質代謝作用によってNa(塩分)が体内貯留する作用を引き起こします。Naが体内に貯留することで、高血圧やむくみなどの副作用を起こします。

このステロイドの強さを表すのに、力価という言葉を使用します。一般的には、ヒドロコルチゾンの糖質コルチコイドと硬質コルチコイドの力価を1として、それを基準とすることが多いです。

この場合、ベタメタゾンの糖質コルチコイドは25で、硬質コルチコイドは0となります。そのため強力な糖質コルチコイドの力価が得られる上に、硬質コルチコイド作用がほぼ出ない特徴があります。

ただし、糖質コルチコイドが高いから優れているというわけではありません。一般的にステロイド薬は、この力価をもとに投与量を計算します。つまりプレドニンが効かないなら、プレドニン自体の量を増やすことはしますが、力価が強いベタメタゾンに変えようとは普通はしないので注意しましょう。

またベタメタゾンと同じデカドロンの違いは、

  • ベタメタゾンの主成分はベタメタゾン
  • デカドロンの主成分はデキサメタゾン

主成分の違いのみで効果や持続時間はほとんど変わりません。そのため病院によっては、どちらのみしか採用されてないことも多いです。

 

.ベタメタゾン錠の副作用の特徴

ベタメタゾンの投与量及び投与期間によって、出現する副作用および頻度が大幅に変わります。しかし硬質コルチコイドの作用が弱いため、浮腫や満月用顔貌、高血圧の頻度は、他のステロイドに比べて低いです。

ベタメタゾンの添付文章ではジェネリック医薬品のため記載がありません。ベタメタゾンを投与した4899例中、副作用は1252例(25.56%)に認められました。主な副作用としては、

  • 満月様顔貌280件(5.7%)

となっています。しかしベタメタゾンなどのステロイド薬は、

  • 投与量
  • 投与期間

で全く副作用の出現頻度が違います。さらにいえば、

  • 年齢
  • 体の大きさ
  • 肝臓や腎臓の機能状態
  • ステロイドを使用する病態
  • 他にある病気の有無

によっても副作用は大幅に変わります。そのため、一概にどの副作用がどれくらい起きるかとは個々人によって大きく異なります。代表的な副作用としては、

  1. 満月様顔貌・肥満(ステロイドによる脂肪細胞の増殖および水分を体内に取り込む作用で起きます。)
  2. 細菌やカビなどの感染症に弱くなる(免疫を抑えるため防御が下がります。普段なら感染しないような特殊な菌にも感染しやすくなります。)
  3. 糖尿病(ステロイドが筋肉や脂肪を燃やし血糖値を上昇させます)
  4. 胃潰瘍・十二指腸潰瘍(ステロイドが胃腸に働くことでストレスがかかります)
  5. 高血圧・浮腫(ステロイドで血管が収縮します。さらに水分やNaを貯留するため血管内の水分が増えます。)
  6. 肝機能障害(ステロイドが肝臓を通して炎症を抑えるため負担がかかります)
  7. 緑内障・白内障(ステロイドで眼圧が上がったり、目のレンズが濁ったります)
  8. 精神障害(ステロイドでイライラしたり眠れなくなります)
  9. 骨粗鬆症(ステロイドは骨にも作用し、骨密度が低下します)
  10. 筋力低下(ステロイドによる筋肉を分解する作用で筋力が低下します)
  11. 月経異常(ステロイドホルモンは性ホルモンと似ている部分があるため、生理不順が起きます)
  12. ニキビ・皮下出血(皮膚の代謝異常でおきます。ステロイドで皮膚や筋力が衰え出血しているように見えます)

ここにあげたのは代表的なものです。この中でベタメタゾンの特徴として、水・電解質作用を引き起こす硬質コルチコイドの力価がステロイドの内服薬の中で低いことが挙げられます。

硬質コルチコイドの作用で、

  • 高血圧
  • 満月用顔貌
  • むくみ
  • 心不全
  • 電解質異常

は他のステロイドよりも少ないです。一般的にベタメタゾンの硬質コルチコイドの力価は0と記載されています。しかし0とはいえ、上記の副作用は全く起きないわけではないので注意しましょう。

それぞれの副作用の対策はプレドニンと同じため、「プレドニンの副作用と対処法は?」を一読してみてください。

 

6.ベタメタゾン錠はどんな病気でも使えるの?

ベタメタゾン錠を使用するにあたり気を付けるべき点は多いですが、絶対に使用してはいけない病気はありません。

ベタメタゾン錠の原則禁忌ですが、

  1. 感染症・全身の真菌症の患者[免疫が抑制されるため]
  2. 結核性疾患の患者[免疫が抑制されるため]
  3. 消化性潰瘍の患者[胃潰瘍が悪化するため]
  4. 精神病の患者[中枢神経に作用して精神症状が悪化するリスクがあるため]
  5. 単純疱疹性角膜炎の患者[免疫が抑制されるため]
  6. 白内障や緑内障の患者[水晶体線維や眼圧に影響するため]
  7. 高血圧症の患者[電解質代謝作用により、 高血圧症が悪化するため]
  8. 電解質異常のある患者[電解質代謝作用により、 電解質異常が悪化するため]
  9. 血栓症の患者[血液凝固促進作用により、血栓症が悪化するため]
  10. 直近に手術を行った患者[創傷治癒が障害されることがあるため]
  11. 急性心筋梗塞を起こした患者[心破裂を起こしたという報告があるため]

これら11項目が示されています。ただし「原則」禁忌と、原則の二文字が記載されています。これは、上記の疾患の患者さんには投与しないことを原則としますが、特に必要とする場合には慎重に投与するということです。

ベタメタゾンは、ほとんどが抗癌剤に対しての制吐剤として使用されると思います。抗癌剤の種類にもよりますが、嘔気はどの抗癌剤もよく認める副作用です。そのため大部分は、上記の疾患でもベタメタゾンを投与することがほとんどだと思います。

その他、禁忌までは行かなくても気を付けた方が良いとされている疾患は、

  1. 骨粗鬆症の患者(骨がもろくなる可能性がある)
  2. 糖尿病の患者(糖尿病が悪化する恐れがある)
  3. 腎不全の患者(腎機能を悪化させる可能性がある)
  4. 肝機能低下・脂肪肝の患者(脂質代謝に働き、肝機能が悪くなる)
  5. 脂肪塞栓症の患者(脂質代謝に関与し、塞栓がさらにできる可能性がある)
  6. 重症筋無力症の患者(初期に症状が一時的に悪化することがある)
  7. 甲状腺機能低下の患者(甲状腺機能が悪化することがある)

の7項目が挙げられます。いずれもある程度、他のお薬でコントロールができる病気です。大切なのは、これらの病気がある人は医師にしっかりと報告しておくことです。

特に緑内障や白内障など目の病気は、関係ないと思い込んでしまう方が多いので注意しましょう。ベタメタゾンは、全身に影響を与えるお薬です。

 

7.ベタメタゾン錠はどんなお薬とでも併用できるの?

ベタメタゾン錠は、どんなお薬とも併用できます。ただしどんな薬を使用しているか事前に医師に相談してください。

ベタメタゾンの添付文章でも、併用禁忌と記載されたお薬はありません。

内服中のお薬で気を付けた方が良いのは、添付文章では以下のものが記載されています。

  1. フェノバルビタール・フェニトイン・リファンピシン(ベタメタゾン自体の作用が弱まります)
  2. アスピリン・アスピリンダイアルミネート・サザピリン(サリチル酸中毒を引き起こす可能性があります)
  3. ワルファリンカリウム(抗凝固作用を弱めます)
  4. 経口糖尿病薬、インスリン製剤(経口糖尿病用剤の効果を減弱させます。)
  5. 利尿剤(低カリウム血症を引き起こします)
  6. エリスロマイシン(ベタメタゾンの効果が増強します)
  7. 筋弛緩剤(パンクロニウム臭化物・ベクロニウム臭化物)(筋弛緩作用が減弱もしくは増強します。)
  8. リトドリン塩酸塩(肺水腫が起こることがあります。)

以上のお薬をよく使う場合は、ベタメタゾンの効果が増強・減弱するため、それを予測して投与量を調整します。また電解質異常や血糖上昇などの副作用が出現するため、結果としてお薬の効果を弱めたり、他の薬の副作用と合わさって効果が大きくなったりします。

そのため上記の内服を他の医療機関で処方されている方は、ベタメタゾンを内服している旨を必ず伝えるようにしましょう。

 

8.ベタメタゾン錠とリンデロン錠の効果と副作用の比較

先発品・ジェネリックの効果と副作用は、大きな違いはないと考えられます。

多くの方が気にされることは、先発品のリンデロン錠とジェネリックのベタメタゾン錠で効果と副作用が同じかどうかだと思います。特にベタメタゾン錠で薬価が半分程度になるため心配される方もいるかと思います。

ジェネリック医薬品では、有効成分は先発品とまったく同じものを使っています。ですから、効果や副作用の大まかな特徴は同じになります。先発品とジェネリック医薬品の違いは、薬を作るときの製造技術です。ジェネリック医薬品を作る時に求められるのは、薬の吸収・排泄と安定性の2つが先発品と同等であることです。

製薬会社によって多少の差はありますが、ほどんど同等と考えてよいかと思います。そのためリンデロン錠をベタメタゾン錠に変更したからといって、効果が減ったり副作用が増えたりといったことはほとんどありません。

ジェネリック医薬品について詳しく知りたい方は、「ジェネリック医薬品の問題点とは?ジェネリックの効果と副作用」をお読みください。

 

9.ベタメタゾン錠が向いてる人は?

<向いてる人>

  • 抗癌剤や脳転移で吐き気がある人、もしくは吐き気が起こることが予想される病気の人

ベタメタゾンは、長期作用型の高力価の作用があるステロイド内服薬です。そのため、病気の状態に対して細かく投与する場合はプレドニンを使用することがほとんどです。

抗炎症作用や免疫抑制作用を期待してベタメタゾンを投与する場合は、かなり特殊な状況です。(プレドニンでアレルギーが出現したなど)

そのためベタメタゾンを投与する場合の大部分は、抗癌剤や脳転移で吐き気がある人、もしくは吐き気が起こることが予想される病気の人かと思います。

特に抗癌剤を投与する場合は、医師は抗癌剤の話に重きを置いて、制吐剤のベタメタゾンについてはあえて話をしないことも多いです。制吐剤まで話を広げてしまうと、ごちゃごちゃになって肝心な情報が抜けて落ちてしまう可能性があるためです。

そのため抗癌剤加療を受けている人は、知らずにベタメタゾンが投与されている可能性があります。

 

10.ステロイドとはどんな物質で、どのような作用があるか?

ステロイドは、体の副腎皮質ホルモンとして作られている物質です。

ステロイドホルモンは、実は体の中で作られているホルモンです。副腎でコルチゾール(ヒドロコルチゾン)に換算して、1日当たり5~30mgのステロイドが分泌されています。一日の中でも分泌量は変化していて、朝に多く分泌されて夜に低下していくホルモンです。

ステロイドホルモンは一言でいうと「ストレスなどの負荷に対して、体が負けずに元気になれ!」と命令するホルモンです。ですから抗ストレスホルモンともいわれます。そのため一部の臓器に作用せず様々な臓器に作用します。

どのように元気にするかというと、攻撃のスイッチを入れる代わりに防御のスイッチを切る作用のあるホルモンなのです。朝にステロイドホルモン量が多いのは、活動性が上がるために攻撃のスイッチを入れる必要があるからです。つまりステロイドは良い面ばかりではなく悪い面もたくさんあります。

ステロイドは副腎から作られたホルモンの総称です。実はステロイドは、

  • 糖質コルチコイド
  • 硬質コルチコイド
  • 性ホルモン(男性ホルモン・女性ホルモン)

など実に多彩なホルモンが含まれています。ステロイド薬は、糖質コルチコイドと硬質コルチコイドの2種類の作用が主に含まれています。

糖質コルチコイド(コルチゾール・コルチゾン)の作用としては、

  作用機序 副作用
抗炎症
作用
炎症性の物質抑制(サイトカイン抑制)
炎症の経路抑制(アラキドン酸カスケード抑制)
 
免疫抑制
作用
好中球・マクロファージなど免疫細胞の抑制
抗体産生の抑制(免疫反応の抑制)
感染しやすくなる
骨代謝
作用
腸管のカルシウム吸収抑制骨の細胞の分化抑制、破壊促進 骨粗しょう症
タンパク質異化作用 筋肉のたんぱく質を分解 筋力低下
糖代謝
作用
血糖値を上げる 糖尿病
脂肪代謝
作用
体脂肪増加
コレステロール上昇
脂質異常症
満月様顔貌

など多岐にわたります。この中で、抗炎症作用・免疫抑制作用が主にステロイドに期待される作用です。

一方でもう一つの硬質コルチコイド(アルドステロン・デオキシコルチコステロン)は、

  作用機序 副作用
水・電解質
作用
Na(塩分)の再吸収、貯留水の再吸収、貯留 高血圧
むくみ

硬質コルチコイド自体が少なくなる病気(アジソン病など)以外は、ほとんどこの硬質コルチコイドの作用を期待して投与させることはありません。水や塩分が足りない病態ならば、基本的には点滴などで直接補ってしまいます。

むしろアンジオテンシン阻害薬などの高血圧の治療薬は、この硬質コルチコイドの作用が働かないようにすることで降圧作用をもたらします。

このようにステロイドは、抗炎症作用・免疫抑制作用以外にも様々な作用があるお薬です。なおベタメタゾンの制吐剤の作用機序は、糖代謝作用で食欲増進する影響ではと考えられていますが、細かいことに関しては実はよくわかってないません。

 

まとめ

  • ベタメタゾンは、ステロイドの内服薬の長時間作用型の高力価のステロイド薬です。
  • ベタメタゾンは、抗癌剤や脳転移の吐き気止めに使用されることが多いです。
  • ベタメタゾンは、他に様々な作用が出現するため副作用が多いお薬です。
  • ベタメタゾンは、絶対に使用できない病気や内服薬はありません。

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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