ハイペンの副作用と安全性について

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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ハイペン(一般名:エトドラク)は、NSAIDsによる解熱鎮痛薬です。

一般的にNSAIDsは胃腸障害や腎機能障害が出現しやすいお薬です。ただしハイペンはNSAIDsの副作用となるCOX-1ではなく、痛みの原因となるCOX-2を選択的に阻害するため、副作用が出現しにくいと言われています。

ただし、あくまでもCOX-1よりCOX-2を選択して阻害するだけであり、COX-1を全く阻害しないわけではありません。そのためハイペンでも胃腸障害や腎機能障害は起こり得ます。さらにハイペンは、妊娠後期の方には使用できないなどの制限もあります。

ハイペンを正しく使用するために、ここではハイペンにどのような副作用があり、どのような方が使えないのかみていきましょう。

 

1.ハイペンの副作用の特徴

ハイペンの副作用として気を付けるべきものとして、胃腸障害と腎障害があります。

ハイペンの添付文章では、総症例7,473例中335例(4.48%)に副作用が認められました。その主なものは、

  • 腹痛(1.58%)
  • 悪心・嘔吐(0.48%)
  • 食欲不振(0.25%)
  • 下痢(0.24%)
  • 口内炎(0.17%)
  • 消化不良(0.17%)
  • 胃炎(0.16%)
  • 発疹(0.45%)
  • そう痒感(0.16%)

となっています。一番多いのは、消化器症状などの胃腸障害です。これは、ハイペンがアラキドン酸カスケードのCOXという物質を阻害するためです。COXは、1と2に分けられます。

  • COX-1は、胃粘膜や血小板などを含め多くの細胞に常に発現しており、痛みの症状とは無関係です。逆にCOX-1を邪魔することで胃が荒らされて胃潰瘍や十二指腸潰瘍になる副作用が出現します。
  • COX-2は、体が炎症など種々の刺激を受けると、関連細胞で発現が増します。これが阻害されると、痛みや炎症を引き起こすサイトカインの産生が抑えられます。つまりNSAIDsは、COX-2に結合することで鎮痛作用を発揮するのです。

ハイペンは選択的にCOX-2を阻害するお薬です。ただし一部は、COX-1も阻害してしまうため、胃があれてしまうこともあります。このことが、結果として腹痛や嘔気につながります。他のNSAIDsに比べると副作用が出現しづらいと言われていますが、添付文章では1%前後出現します。

少なくともハイペンは、200mgを2錠、朝・夕という用法通りに使っても副作用が起こることがあるお薬です。選択的にCOX-2を阻害するから副作用が少ないとはいえ、乱用すると非常に危ないお薬なので注意しましょう。

また、ハイペンは主に腎臓で排泄されるため、漫然と服用していると、気が付かないうちに腎臓を傷めてしまうことがあります。腎臓も傷つけるのもCOX-1を阻害することで起きます。

そのため、どのような副作用があるのかよく理解して使用することが大切です。これらの副作用の対策について詳しく知りたい方は、「ロキソニンの副作用と安全性」を一読してみてください。

 

2.ハイペンが使用できない疾患は?

ハイペンは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍がある人には使用できません。また、アスピリン喘息の方は使用できません。

ハイペンの添付文章では、

  1. 消化性潰瘍のある患者[消化性潰瘍が悪化することがある。]
  2. 重篤な血液の異常のある患者[血小板機能障害を起こし、悪化するおそれがある。]
  3. 重篤な肝障害のある患者[副作用として肝障害が報告 されており、悪化するおそれがある。]
  4. 重篤な腎障害のある患者[急性腎不全、ネフローゼ症候群等の副作用を発現することがある。]
  5. 重篤な心機能不全のある患者[心臓の仕事量が増加するため症状を悪化させるおそれがある。]
  6. 重篤な高血圧症のある患者[血圧を更に上昇させるおそれがある。]
  7. 本剤の成分に過敏症の既往歴のある患者
  8. アスピリン喘息[喘息発作を誘発することがある。]

となっています。この中で注意が必要なのは、

  • 胃腸障害
  • アスピリン喘息

の2つです。

②~⑥は、「重篤な」という一言がついています。基本的にどの疾患にしろ重篤な状態であれば、入院で加療することがほとんどです。特に上記にあげられる病態は、命に関わることが多いです。そのためこれらの②~⑥でハイペンの使用に注意するのは、患者さん側ではなく処方する医師側になります。

そのため患者さんにとって気を付けるとするならば、消化性潰瘍とアスピリン喘息の2つになります。

ハイペンは副作用で説明したように、痛みの原因となるCOX-2を選択的に抑えると同時に、一部は胃の粘膜を保護するCOX-1も阻害してしまうため胃があれてしまうのです。ここで大切なことは、胃潰瘍や十二指腸潰瘍と知らずにハイペンを連用してしまうことです。

ハイペン=万能薬と考えている人は、お腹の痛みに対してもハイペンを飲んでしまう人が多いです。しかしそのお腹の痛みの原因が胃潰瘍や十二指腸潰瘍であれば、逆にハイペンを飲んだせいで病状が悪化してしてしまいます。そのため腹痛の人は、絶対にハイペンを安易に飲まないようにしましょう。

またアスピリン喘息は、喘息の中でもかなり特殊な病態です。喘息は、もともとは気道の慢性炎症によって気管支が狭くなる病気です。一般的には、Ⅰ型アレルギーに属します。Ⅰ型アレルギーは、好酸球やIgEが関与するアレルギー疾患で、他には花粉症や蕁麻疹などが挙げられます。

しかし最近、アレルギー以外が原因となる喘息があることが分かってきました。実はこの非アレルギー性の喘息の方が、対策もしづらく難治性といわれています。アレルギーではないということは分かっているのですが、細かい機序までは解明できていないためです。アスピリン喘息は、この非アレルギー性の喘息のひとつになります。

アスピリン喘息について詳しく知りたい方は、「痛み止めで喘息に?アスピリン喘息の症状と特徴」を一読してみてください。

以前はNSAIDsすべて危険とされていたためハイペンも禁忌とされていました。しかし最近は、COXの中でも、アスピリン喘息はCOX-1を阻害することで発作が起きることが分かってきました。痛み止めとして効力を発揮するのはCOX-2です。そのため選択的にCOX-2を阻害するNSAIDsであれば、処方しやすいことが分かっています。

そのためハイペンは、アスピリン喘息でもNSAIDsの中ではリスクが少ないと考えられています。ただし最も選択的にCOX-2を阻害するお薬は、現時点ではセレコックスです。そのため、セレコックスよりハイペンを優先してアスピリン喘息に使用する理由は、今は少ないかもしれません。

 

3.ハイペンで注意するべき疾患は?

消化管潰瘍が過去にあった人は、やはり注意が必要です。

上記の状態の方は、添付文章上では使用してはいけないとされている方です。ただし上記以外の方でも、添付文章には以下の疾患の方は気を付けるように記載されています。

  1. 消化性潰瘍の既往歴のある患者[潰瘍を再発させることが ある。]
  2. 血液の異常又はその既往歴のある患者[溶血性貧血等の‌副作用が起こりやすくなる。]
  3. 肝障害又はその既往歴のある患者[肝障害を悪化又は再発させることがある。]
  4. 腎障害又はその既往歴のある患者[浮腫、蛋白尿、血清‌ クレアチニン上昇、高カリウム血症等の副作用が起こることがある。]
  5. 心機能異常のある患者[心臓の仕事量が増加するため症状を悪化させるおそれがある。]
  6. 過敏症の既往歴のある患者
  7. 気管支喘息の患者[病態を悪化させることがある。]
  8. 潰瘍性大腸炎の患者[病態を悪化させることがある。]
  9. クローン病の患者[病態を悪化させることがある。]
  10. SLE(全身性エリテマトーデスの患者[病態を悪化させることがある。]

上記であげた疾患のうち、血液・肝臓・腎臓・心臓は重篤ではなくとも悪化することがあるため、注意が必要となっています。しかし、これらの疾患はハイペンの副作用でも悪くなるし、風邪などの病気でも悪くなることは多々あります。

また、一度でもハイペンで腎臓や肝臓などが悪化したことがあれば、その旨を医師に伝えることが重要になるので覚えておきましょう。

ここでも最も問題になるのは、過去に胃潰瘍や十二指腸潰瘍があった人です。医師の中でも、過去に胃潰瘍が十二指腸があったというだけで禁忌の扱いにして、ハイペンを処方しない方もいます。

しかしながら胃潰瘍の状態が安定していれば、慎重に投与することができるお薬です。もし胃潰瘍や十二指腸潰瘍が今の状態でハイペンが内服できるか知りたい方は、一度胃カメラで精査することをお勧めします。また安定していたとしても、ムコスタなどの胃薬と一緒に飲むことで胃の粘膜を守ることが必要です。

アスピリン喘息だけでなく、ハイペンによって気管支喘息も起こりやすくなると記載されています。ハイペンの副作用というよりも、病気によるストレスで喘息発作を起こすことのほうが多いです。

 

4.ハイペンと併用してはいけない薬はないの?

ハイペンは、併用するのに注意が必要なお薬もあります。ただし絶対に併用してはいけないお薬はありません。

ハイペンの添付文章では、いっしょに併用したらいけないお薬は記載されていません。ただし他にも併用するのに注意が必要なお薬はあります。

  1. ワルファリン(抗凝血作用を増強するおそれがあるため)スルホニル尿素系血糖降下剤 (トルブタミド)(血糖が下がりやすくなるため)
  2. 炭酸リチウム(リチウムの濃度が上昇しやすくなるため)
  3. チアジド系利尿薬 (利尿・降圧作用を減弱するため)
  4. メトトレキサート(メトトレキサートの血中濃度をあげるため)

の4つが挙げられています。もしこれらのお薬を使用して気になる人は、一度医師に相談してみましょう。ただしこれらのお薬は、他のNSAIDsでもほぼ慎重投与になるため注意が必要です。

 

5.ハイペンとアルコールは一緒に摂取して良いの?

ハイペンは胃腸を悪くするお薬です。胃を荒らす可能性があるアルコールと一緒に内服するのは、勧められません。

ハイペン含めてNSAIDsは、胃腸障害が最も多い副作用のお薬です。そのため、空腹に飲むことは勧められていません。一方で食事の時に、お酒を飲みながらハイペンを飲んでも良いかという質問をよく受けます。

結論としてはアルコールで一緒にハイペンを内服しない方が安全です。ハイペンと一緒にアルコールを摂取することで、胃腸を荒らす可能性があるからです。特にハイペンを内服するということは、体にどこか異常があるということです。そしてハイペンはその異常を治すお薬ではなく、痛みや熱を感じなくしづらくするお薬です。

ハイペンは選択的にCOX-2を阻害すると書いてあると言って副作用が起こらないと思ってる方もいるかもしれないのですが、それは大間違いです。一部はCOX-1も阻害してしまうため他のNSAIDsと同様に胃腸障害は起こりえます。

どんな病気も、基本は安静にして休むことが一番になります。即効性のあるハイペンを飲むくらい体調が悪いのであれば、アルコール自体絶対にやめましょう。

 

6.ハイペンは高齢者、小児、妊婦には使用できるの?

ハイペンは、高齢者には慎重に投与するように記載されています。小児は推奨されていません。妊娠末期の妊婦の方も使用できないので、注意が必要です。

まずご高齢の方ですが、ハイペンは高齢者に対しては慎重に投与するように記載されています。理由としては、副作用が出やすいためとあります。特に上の文章をもう一度見て欲しいのですが、

  • 腎臓
  • 血液
  • 肝臓
  • 心臓

などに病気がある方は慎重投与になっているお薬です。しかし、これらの疾患は高齢者ですと指摘されてなくても悪いことが多々あります。またハイペンは、即効性のある解熱鎮痛薬です。どうしても若年者よりも免疫機能・体力が落ちているため、ハイペンで様子を見ていたらあっという間に状態が悪くなったということが多々あります。

また小児に関しては、ハイペンは安全性が確立されていません。添付文章には、小児等に対する安全性は確立していないと記載されています。

NSAIDsも数多く処方されています。NSAIDsの中でもポンタールソランタールは、小児用の量も記載されており使いやすいので、そちらを使用した方が良いでしょう。

妊婦の方は、ハイペンはかなり注意が必要です。ハイペンはお腹の赤ちゃんへ血液を介して移行するため、「動脈管閉塞」が生じることが報告されています。

お腹の中にいる赤ちゃんは羊水の中にいるために、自分自身で息を吸ったり吐いたりすることができません。そのため赤ちゃんは、お母さんが吸った酸素をもらって体に酸素行き渡らせます。その酸素を運ぶ血液の経路ですが、心臓から出た血液の大半は動脈管を介して大動脈に流入して全身に行きます。

つまり心臓と体を結ぶ大切な血管が動脈管なのです。そこが閉塞すると、心臓から流出する血液が体に行き渡らなくなってしまい、非常に重篤な状態になります。ハイペンはこの動脈管を塞いでしまいます。動脈管の働きが重要になるのが妊娠後期です。そのため妊娠後半には、絶対にハイペンを飲まないでください。

また添付文章には、産後にお母さんがハイペンを飲んだ際は、授乳は避けるようにと書かれています。赤ちゃんにハイペンの成分が移行するからです。しかしこれも医師の考え方によってまちまちで、一定の見解は得られていません。

もしハイペンが心配な人は、カロナールなどNSAIDs以外の痛み止めを処方してもらうと良いかもしれません。

 

まとめ 

  • ハイペンは、胃腸障害と腎機能障害が副作用であります。
  • ハイペンは、選択的にCOX-2を阻害するため副作用は起こりづらいと言われていますが、一部は副作用の原因となるCOX-1も阻害するため注意が必要です。
  • 胃潰瘍・十二指腸潰瘍がある人は注意が必要です。
  • ハイペンは、どのようなお薬とも一緒に飲んで絶対ダメな薬はありません。
  • ハイペンとアルコールは、一緒に摂取しないようにしましょう。
  • ハイペンは、妊婦の方には注意が必要です。特に妊娠後期には使用しないようにしましょう。

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