ヒルナミン・レボトミンの致死量とは?

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック

「死にたい」

これほどまでのつらさを抱えている方は、精神科にはたくさんいらっしゃいます。普段は引き留める気持ちがちゃんと働いていても、何かのきっかけで外れてしまうこともあります。楽になりたい一心で過量服薬してしまうこともあります。

そんな時によく手にされるのが、精神科のお薬です。「精神科のお薬を大量に飲めば楽に死ねる」といった誤解から、過量服薬される方がとても多いです。過量服薬しても、つらいだけで少しもよいことはありません。死にたいとまで思い詰めているならば、必ず主治医に相談 してください。

ここでは、ヒルナミン・レボトミンの致死量について正しく理解していただければと思います。過量服薬(OD)の実情を知って、少しでも思いとどまる方がいてくだされば幸いです。

 

1.ヒルナミン・レボトミンの致死量とは?

ヒルナミン・レボトミンは、致死量まで服用できないことがほとんどです。

ヒルナミン・レボトミンには、致死量がないわけではありません。ヒルナミン・レボトミンを大量に服用すれば、呼吸が抑制されて死に至ることもあります。ですが、その量はとても多いです。

マウスを使った実験では、半数が死んでしまうヒルナミン・レボトミンの量(半数致死量)は、1kgあたり400mgと報告されています。これを体重50kgあたりの女性に当てはめてみると、ヒルナミン・レボトミン20000mgとなります。ヒルナミン・レボトミン50mg錠で考えると、400錠服用すると致死量になります。

 

もちろん動物と人ではお薬の代謝経路も異なるので致死量も違います。人の方が一般的には代謝能力が高いので、致死量はもう少し高いと思います。

ヒルナミン・レボトミンは眠気が強いお薬です。ヒルナミン・レボトミンを過量に服薬しても、この量までたどりつく前に薬で眠ってしまいます。ですから、現実的にはヒルナミン・レボトミンで死ぬことはありませんし、つらい思いだけが待っています。絶対にやめましょう。

 

2.ヒルナミン・レボトミンを過量服薬してしまったら?

横を向かせるようにして寝かせましょう。量が多い場合は、病院に相談してください。明らかに様子がおかしいときは救急車を呼びましょう。

もしもヒルナミン・レボトミンを過量服薬してしまったら、どうしたらよいでしょうか?本人は眠ってしまうことがほとんどでしょう。

ヒルナミン・レボトミンだけの過量服薬でしたら死に至ることはほとんどないので、過度に心配しなくても大丈夫です。お酒と一緒に服用している場合は、嘔吐物によって窒息してしまって死に至るケースがまれに報告されています。このため、身体を横に向けるようにして様子を見ましょう。

すぐに散らばっている薬の空シートを確認して下さい。ヒルナミン・レボトミン以外にも同時に過量服薬している時は、病院に相談しましょう。なかには量があまりに多いと死に至る薬もあります。明らかに様子がおかしくて心配な時は、救急車を呼びましょう。

 

3.過量服薬で救急搬送されるとどうなるか?

過量服薬で運ばれてくると、入院になることが多いです。本人も非常にしんどい思いをします。

ヒルナミン・レボトミンだけでは死に至ることもほとんどないので、特別な処置は必要ありません。ですが、薬の中には過量服薬すると危険なものもあります。救急搬送されたらどのようになるのか理解していただき、過量服薬がつらいだけということをわかっていただきたいのです。それでは、過量服薬をして救急搬送されたらどのように治療していくのか、実際の流れをみてみましょう。

 

病院に救急車で運ばれてくると、本人は眠ってしまっていることがほとんどで意識がありません。

まずは、どんどん点滴をします。血液の中をめぐっている薬を少しでも薄めて外に出します。水分が増えれば当然出ていくおしっこも増えるはずです。ですが、昏睡状態ですので自分でトイレにいけません。このため、おしっこを出すための管を入れます。どこから入れるかはご想像の通りです。目が覚めた時にビックリされる方も多いです。

そして薬の作用で心臓のリズムが狂ってしまうので、すぐに心電図を測ります。心電図ではQRS幅とQT時間をみます。QRS幅が0.10秒を超えると中枢神経系の異常が起き、0.16秒を超えると心室性不整脈となり命に関わります。また、QT時間も0.44秒を超えると心室性不整脈が怖いです。リスクがある時は、メイロン(炭酸水素ナトリウム)を点滴します。不整脈のリスクが多少軽減します。

 

過量服薬してあまり時間がたっていない時は、少しでも薬が身体に吸収しないようにします。薬が吸収される前ですので、およそ1時間が目安です。三環系抗うつ薬や抗精神病薬などは、腸の動きを遅らせるので吸収も遅いです。ですから、2時間以内であれば行うことがあります。

具体的には、胃洗浄を行います。鼻から管を胃まで通します。そして、生理食塩水を胃の中に注いでは吸い出して・・・繰り返します。意識がもうろうとしている中、非常にしんどいです。

また、活性炭を投与します。その名の通り、黒くてドロドロの炭で、腸で薬にくっついてくれます。腸の中での薬の濃度が下がれば、血中濃度も下がります。活性炭は繰り返し投与します。

 

精神科の薬は、脳に効果がでるように作られています。ですから、なかなか意識が戻らないことが多いです。これからの経過もみていかなければいけないませんので、入院となることが多いです。

過量服薬で入院された方の意識が覚めると、いろいろな管を繋がれていてビックリします。そして、とても苦しかった感覚を思い出します。「もう2度とあんな思いはしたくない」「過量服薬しても苦しいだけとわかった」とおっしゃる方も多いです。

 

4.過量服薬はどんな時に起きるのか?

病気が少し良くなってきた時・一度よくなってから悪化する時・ゲートキーパーがいない時・過去に自傷行為がある時には注意が必要です。

過量服薬をしてしまう方には、いろいろな思いがあります。

「死にたい」と思い詰めて本気の方もあります。
「楽になりたい」「辛さをわかってほしい」といった方もいます。
「覚えていない」という方もいます。

死にたいと思い詰めてしまって、行動に移してしまうのはどんな時でしょうか?
私は3つのタイミングに注意をしています。

①病気が少し良くなってきた時
②一度よくなってから、再び悪化する時
③ゲートキーパーがいない時

 

病気が本当にひどいときは、何もできません。つらい感情が強いものの、行動に移すエネルギーもありません。そんな中、少し良くなってくると自分の状況がわかってきます。そして、行動に移すエネルギーもでてきます。そんな時が非常に危ないです。

また、一時はよくなってから悪化する時にもみられます。二度と同じ状況を味わいたくないという思いから、行動に移してしまうことがあります。

本人にとって生きる方向に繋ぎ止めてくれる存在をゲートキーパといいます。この人がいるうちは死ねない・・・と思えるような方です。ゲートキーパーとの関係が悪くなった時や、ゲートキーパーがいない時は危ないです。

 

「楽になりたい・辛さをわかってほしい・覚えていない」という方は、過量服薬を繰り返してしまう方が多いです。過量服薬がストレスのはけ口になってしまっている可能性があります。

 

5.過量服薬の対処法

それでは過量服薬をしないために、過量服薬が致命的にならないようにするには、どうしたらよいでしょうか。

 

5-1.薬の管理を家族に任せる

できることなら家族に薬の管理を任せましょう。

死んでしまったら楽なのに・・・そんな思いがある時は、できるならば家族に薬の管理を任せてください。状態が悪化してしまうと、自制がきかなくなってしまうこともあります。

もう二度としないとおもっていても過量服薬を繰り返してしまう・・・そんな方もいらっしゃるかと思います。このような方は、できるならば家族に服薬管理を任せてしまった方がよいです。

 

5-2.通院間隔をこまめにする

こまめに相談して、出来事を整理しましょう。

通院間隔をこまめにしていくのもひとつの方法です。調子が悪いときは、いろいろな出来事を整理していくことができなくなります。通院のたびに出来事をひとつずつ整理していくことも大事です。

また、受診の予約があると踏みとどまれることもあります。もう少し待ったら先生に話せる・・・と思えるかもしれません。そして、受診という約束を守らなければという気持ちにもなることもあります。つらい時こそ病院に受診しましょう。過量服薬をしてしまったことは、絶対に責められたりはしません。

 

5-3.薬を余分に持たない

薬は必要最小限にしましょう。

薬をたくさんもっていてよいことはありません。ですから薬は最小限にしましょう。余計な薬がなければ、過量服薬をしてしまっても、量が少なくて済みます。もしも薬が余っているのでしたら、もったいないとは思わずに病院にもっていって処分してもらいましょう。

最近は災害などに備えて薬をストックしておきたいとおっしゃる患者さんも増えてきています。ストックをするにしても1週間分を限度にしておきましょう。

 

5-4.安全性の高い薬にする

ヒルナミン・レボトミンの安全性は低くはなく、変更するほどではありません。他にリスクの高い薬を飲まれている時は、変更も検討しましょう。

もしも過量服薬を繰り返すならば、薬の変更を考えます。命に関わるような薬を飲まれている方は、安全性の高い薬にしたほうがよいです。今はいろいろな新しい薬がでているので、安全性の高い薬もたくさんあります。

ヒルナミン・レボトミンは安全性が低いわけではなく、変更しなければいけないほどではありません。ですから特別に変更する必要はありません。他にリスクの高い薬を飲まれている時は、その変更を検討しましょう。

 

5-5.家族が本人のつらさを理解する

なんといっても家族です。

家族が理解を示してくれると、多くの人は何とかなります。なんといっても一番大事なのは家族なのです。一番大事な方がしっかりと自分の支えになってくれる、そんな思いがあれば踏みとどまれることが多いのです。

過量服薬をくりかえしてしまうと、家族としても「またか・・・」という気持ちになってしまうかもしれません。ですが、決して安易にしているわけではありません。過量服薬してしまう、その背景には深い苦しみがあります。過量服薬すると、非常につらい思いをすることを本人も理解しています。

ですから、過量服薬という行為を理解できなくても、そのつらさに理解を示してあげてください。

 

5-6.少しずつ自分の理解を深めていく

繰り返す方は、過量服薬をしてしまうワケを少しずつ考えていきましょう。

過量服薬を繰り返してしまう方の背景には、その人それぞれの過去の葛藤や要因があります。繰り返しながらも、少しずつ自分自身に関する理解を深めていきましょう。

少しずつ芯が見えてきます。そして少しずつ、過量服薬が落ち着いてきます。ですから、信頼できる先生をみつけてしっかりと診察を通して自分自身への理解を一緒に深めていきましょう。

 

まとめ

ヒルナミン・レボトミンの致死量は、現実的に服用できません。

もしも過量服薬してしまったら、横を向かせるようにして寝かせましょう。量が多い場合や他の薬も一緒に過量服薬している場合は、病院に相談してください。明らかに様子がおかしいときは救急車を呼びましょう。

過量服薬で運ばれてくると、入院になることが多いです。本人も非常にしんどい思いをします。

過量服薬をしてしまうのは、
①病気が少し良くなってきた時
②一度はよくなってから悪化する時
③ゲートキーパーがいない時
が多いです。

繰り返してしまう方には、過去に自傷行為を繰り返している方が多いです。

過量服薬をしない対処法としては以下があります。

  • 薬の管理を家族に任せる
  • 通院間隔を短くする
  • 薬を余分な分はもたない
  • 安全性の高い薬に変える
  • 家族が本人のつらさを理解する
  • 少しずつ自分の理解をふかめていく

投稿者プロフィール

元住吉 こころみクリニック
元住吉 こころみクリニック
2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック