スペリア錠(フドステイン)の効果と副作用

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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スペリア錠(一般名:フドステイン)は、2001年に久光製薬会社より発売された去痰薬です。

スペリアは痰の成分を整えたり、痰を産生する杯細胞の形成を抑制することで、痰を出しやすくするお薬です。

副作用も少なく安全に使用されるお薬のため、痰が絡むときに数多く処方されるお薬です。注意しなければならないのは、スペリアはあくまでも痰を出しやすくするお薬であり、痰がでる原因の疾患を治すわけではありません。

そのためスペリアを飲み続けないと痰が出続ける人は、レントゲン等でしっかりと原因を特定する必要があります。ここでは、スペリアの効果と特徴についてみていきましょう。

 

1.スペリアのメリット・デメリットは?

<メリット>

  • 痰の成分を整えて出しやすくする
  • 痰を産生する杯細胞の形成を抑制する
  • 副作用が少なく安全性が高い

<デメリット>

  • 痰の原因疾患を治すわけではない

スペリアは痰切りとして最も処方されているお薬です。痰切りの効果としては、

  • 気道に分泌される粘液を正常化する。
  • 痰を生産する杯細胞の形成を抑制する

という2つの効果を示します。スペリア錠と同じフドステインを主成分にしたクリアナール錠があります。同時期に発売されたお薬のため、どちらが後発品ということはないです。スペリア錠もクリアナール錠も主成分も投与量も全く同じため効果に差はありません。

スペリアはさらに安全性も高いお薬です。実際に副作用もほとんどないですし、使用できない病気や飲み合わせが悪いお薬もありません。またスペリアは、内用液として液体の飲み薬が発売されたことで、ご高齢の方まで幅広く使われています。

一方で、デメリットもあります。一番の問題は、スペリアは痰を調整して外に出しやすくする効果しかないということです。つまりスペリアは、痰がでる原因自体を治療するお薬ではありません。

スペリアはあくまでも対処療法にすぎません。そのため原因疾患が特定されないまま使用し続けると、思わぬ病気が隠れていることもあります。

またスペリアは、さらさらした痰ですと外に出しやすいですが、泥のようになった膿はドロドロしてしまっては非常に出しづらいです。スペリア含めて膿に対しては、内服薬でコントロールするのは非常に難しいです。

場合によっては、手術などで膿自体を取り除く必要があります。様々な病気に効果があり、副作用も少ないのがスペリアのメリットです。しかしそれに甘えてスペリアに頼り続けていると、思わぬ落とし穴に落ちてしまう場合もあるため注意しましょう。

 

2.スペリアの適応と用量は?

スペリアは、痰がでる病気に適応があります。スペリアを1日3回内服することで効果を発揮します。

スペリアの剤型は、

  • スペリア錠200mg
  • スペリア内用液8% 

があります。錠剤だけでなく内用液もあるため、嚥下機能が弱い高齢者の方にも適応があります。ただし小児には安全性のデータが少ないため、適応が現時点ではありません。適応疾患としては、

  • 気管支喘息、慢性気管支炎、気管支拡張症、肺結核、塵肺症、肺気腫、非定型抗酸菌症、びまん性汎細気管支炎の去痰

です。ここで注意が必要なのは、これらの疾患の治療ではないことです。去痰と書かれているように、スペリアは痰を除去するのみの薬です。風邪なら自然に治るのでスペリアで様子をみていてよいのですが、

  • 気管支喘息
  • 気管支拡張症
  • 肺結核

は適切な治療をしたうえでスペリアを飲む必要があるので、注意しましょう。スペリアの投与量ですが、

  • スペリア錠:1日1回スペリア200mg1錠を3回経口投与
  • スペリア内用液8%:1回5mlを1日3回経口投与

となっています。適宜増減すると添付文章ではありますが、スペリアが効かないからといって倍量で内服することはほとんどありません。原因にもよりますが、効果が不十分な場合は他の内服薬を追加する場合が多いです。

スペリアは最高血中濃度は1.17時間です。また半減期は2.7時間と、体内に蓄積されることが少ないお薬です。

 

3.スペリアの薬価は?

スペリアはジェネリック医薬品は登場していません。クリアナールとほぼ同程度の薬価です。

次にスペリアの薬価です。スペリアは先発品のみで、現時点ではジェネリック医薬品は発売されていません。スペリアの薬価ですが、

  剤型 薬価 3割負担
スペリア錠 200mg 12.4円 3.7円
スペリア内用液 8% 12.1円 3.6円

※2017年1月5日の薬価です。

となっています。なお同成分であるクリアナール錠ですが、

  剤型 薬価 3割負担
クリアナール錠 200mg 12.4円 3.7円
クリアナール内用液 8% 10.2円 3.1円

※2017年1月5日の薬価です。

となっています。多くの場合処方される錠剤での薬価は、スペリアとクリアナールともに全く変わらないです。

 

4.スペリアの副作用は?

スペリアはほとんど副作用がないお薬です。

スペリアの総症例4,486例中68例(1.5%) に副作用を認めました。その主な症状は、

  • 発疹10件(0.2%)
  • 悪心7件(0.2%)
  • 消化不良・そう痒症がそれぞれ4件(0.1%)、
  • 感覚鈍麻、腹部不快感及び下痢がそれぞれ3件(0.1%)

となっています。スペリアは、非常に副作用の少ないお薬です。全体でも1%程度の出現率ですし、皮疹を抜かすと、多い副作用が吐き気や下痢、腹部不快、消化不良などの消化器症状です。

これらの副作用調査は患者さんの症状をみながら医師が報告して調査されるのですが、本当にスペリアの副作用かどうか調べることはしていません。していないというより、できないといったところが正直なところです。これらの消化器症状も、

  • スペリアの副作用か
  • 風邪などの症状か

どちらかはっきりと区別することは医学的に難しいところです。実際に風邪の人は喉にいたばい菌がお腹に移行すれば、下痢や軽度の腹痛なども風邪でも起こりえます。

スペリアの作用のせいで食思不振や腹痛になるような作用機序は、現在のところ明らかになっていません。そのため、スペリアの副作用は過度に心配する必要はありませんし、風邪などの症状が悪化しないか心配した方が現実的かと思います。

またクリアナール錠も1%前後の副作用の出現率であるため、スペリアとクリアナールどちらが副作用が多いということもないです。

 

5.スペリアが内服できない人は?

スペリアが内服できない人は、スペリアにアレルギーがある人のみです。

スペリアの添付文章では、禁忌にあたる人はスペリアにアレルギーがある方のみとなっています。これはスペリアに限らず、全ての薬に対していえることです。アレルギー反応として最も多いのが皮疹などの皮膚障害です。

先ほどの副作用の話に戻りますがスペリアの副作用として最も多いのがアレルギー症状といえます。しかしこのアレルギー症状もほとんど軽度の皮疹の場合がほとんどです。ただし一度アレルギーが出た人は、再び投与するともっとひどいアレルギーが出るため基本的に禁忌になります。

また、スペリアで慎重に投与が必要と記載されている方は、

  1. 肝障害のある患者[肝機能障害のある患者に投与した時、肝機能が悪化することがある。]
  2. 心障害のある患者[類薬で心不全のある患者に悪影響を及ぼしたとの報告がある。]

と記載されています。しかし実際の現場では、肝臓や心臓が悪いからといってスペリアの投与を中止することはほとんどありません。もしスペリアが使用できないくらい肝臓や心臓の状態が悪い方は、ほとんどのお薬が使用できないくらい重篤な状態です。

また、スペリアは一緒に飲んではいけないお薬もなければ、一緒に飲むことで効果が減弱したり強くなったりということもないお薬です。

風邪の時に一緒に処方されることが多いPL配合顆粒などには痰切り成分は含まれていないため、スペリアと一緒に内服することが多いです。その他の咳止めや解熱剤も、スペリアとの飲み合わせは問題ないです。

そのためスペリアは、どのような疾患の人にも、そしてどのようなお薬を内服してる人でも、基本的には使用して良いお薬となっています。

 

6.スペリアは高齢者・小児・妊婦・授乳中の方に処方して良いの?

基本的にどの方も禁忌ではありません。ただし小児や妊婦の方は注意が必要です。

スペリアは高齢者に関しては添付文章では、一般に高齢者では生理機能が低下しているので減量するなど注意することと記載されています。

しかしスペリアは安全性が高いお薬です。逆にスペリアを処方するような痰がでている方は、痰を出す力が高齢者の方の場合弱ってることが多いため、若い方より不快感が強くなると思います。そのため実際の医療現場では、高齢者でもほとんどが通常量処方されていると思います。

ただスペリアは、小児に適応がありません。これだけ副作用が少ないのになぜ小児に適応がないのか、不思議に思う人がいるかもしれません。これは小児に対して、スペリアが危険だからではありません。小児に対して安全性を確認したデータが存在しないからです。

実際に同じ痰の性状を良くして痰を出しやすくするお薬にムコダインがあります。ムコダインは鼻水などにも適応があるため、小児にも非常に使いやすいお薬です。

さらにムコダインとスペリアを併用するくらい痰が切れない症例は小児ではほとんどないため、小児でデータが集められない経緯があります。そのため小児に対してスペリアが使いたいなと思った方は、まずムコダインを試してみると良いかもしれません。

また、妊婦の方も適応になります。添付文章では、

妊婦又は妊娠している可能性のある婦人には、治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること.〔ウサギを用いた胎児の器官形成期経口投与試験の600mg/kg(臨床用量の約30倍)で流産,ラットを用いた周産期及び授乳期経口投与試験の2,000mg/kg(臨床用量の約100倍)で出生児の発育抑制がみられている.〕

と記載されています。流産や出生時の抑制と記載されていると、ぎょっとする人も多いでしょう。ただしウサギに投与した量が30倍や100倍と、通常ではありえない量です。そのため常用で使用して問題になかったことはないため、禁忌にはなっていません。

一方でスペリアは、痰を出しやすくするお薬であり、痰がでる原因を治す治療薬ではありません。そのため軽症な方は、あえてスペリアを内服する必要はないと思います。またスペリアを内服していて症状が軽くなった方も、飲み切る必要性が低いお薬です。

授乳している方も母乳への移行が認められているため積極的に勧められていません。そのため、妊婦や授乳している方に関しては主治医の先生とよく相談してみましょう。

 

7.スペリアが向いてる人は?

<向いてる人>

  • 風邪で一過性に痰がでている人
  • 原因疾患が分かっていてスペリアで痰がコントロールできている人

スペリアは、主に痰切りに使用するお薬です。

そもそも痰とは、正常な人にも作られています。気管支などにある杯細胞などから粘液物がでてきて、肺の中を綺麗にしています。杯細胞が出した粘液物をゴミとしてまとめたのが痰になります。

実は痰として肺や咽頭で作られたゴミは、少ない場合は食道の方に落ちていきます。食道は胃につながっているため全く問題になりません。ただしこの痰の量が増えて咽頭から口に溜まる場合が、喀痰として症状となって表れます。

喀痰の原因は、

  1. 異物が体に入ってきたのを粘液物で絡めとって外に出す防御反応
  2. 気管支や咽頭のどこかから粘液物が漏れ出ている

このように2つあります。風邪などでばい菌を外に出そうとするのが①になります。ただし①でも、

などが喀痰の原因の場合は、スペリアを飲み続けても一時的に症状は改善しますが一向に良くなりません。むしろ場合によっては、どんどん悪化してしまいます。また、②の粘液物が漏れ出ている場合は、どこから漏れ出ているのかすぐに確認する必要があります。場合によっては、

  • 肺癌
  • 気管支拡張症
  • グッドパスチャー症候群

などの病気が隠れていることがあります。喀痰について詳しく知りたい方は、「痰はどうして出るのか?喀痰の原因と病気の見分け方」を参照してみてください。

このような背景を踏まえたうえで、スペリアはどのような人に向いてるのか考えてみましょう。一番良いのは、風邪などで一時的に痰がでている人です。

風邪などは安静に加療していれば、基本的に風邪は良くなります。そのためスペリアを内服して、痰による不快な症状を取りながら風邪を治すことができます。

また、病気がしっかりと診断されたうえでスペリアを使うのも安心です。特にCOPDなどの病気では、痰を正常化することで病気の悪化が防げるといったデータもあることから、積極的に使用するように言われています。

ただし病名が分かってスペリアを内服している人も、痰が増えてきたら注意が必要です。

  • 病気自体が悪くなっている
  • 他の病気がでてきている

の2つが考えられます。どちらか知るために、必ずスペリアを処方してくれた医師に相談しましょう。

 

8.スペリアの作用機序は?ムコダインと併用して良い?

スペリアは、痰の性質を改善、杯細胞の抑制をして痰を出しやすくするお薬です。

痰切りの去痰剤などは色々なお薬が処方されています。その中でも色々なタイプがあります。大まかなタイプを下にまとめました。

種類 作用機序 代表薬
気道分泌
促進薬
気道の中のさらさらの痰を増やすことで、
気道を綺麗にする。
ビソルボン
気道粘液
溶解薬
ネバネバの痰をさらさらに変える。 ムコフィリン
気道粘液
修復薬
淡の粘液を整える。 スペリア
/ムコダイン
気道潤滑薬 気道内のサーファクタントを活発にして、気道を掃除する。 ムコソルバン

この中で、スペリアは気道粘液修復薬になります。同じ気道粘液修復薬としては、ムコダインがあります。痰の状態を整えて、出しやすくする作用がメインです。さらにスペリアは、痰だけでなく痰を産生する杯細胞にも作用して痰自体を出しづらくします。それぞれの作用についてみていきましょう。

 

8-1.痰の正常化

まず一つ目のスペリアの作用ですが、気道に分泌される痰を正常化することで痰を排出しやすくする作用があります。痰の性状は、大部分は水です。その中で1割程度、ムチンという物質が含まれています。このムチンが、痰の粘っこさを出す原因になります。

痰が固くなって粘っこいと、出しづらくなってしまいます。ムチンの構成成分は、

  • シアル酸
  • フコース

の2つが挙げられます。シアル酸が増えてフコースが減って構成比が崩れると、痰がよりネバネバします。スペリアはこれらの構成比を正常化させ、ムチンの生成を抑制することで痰の粘度を下げます。

こうすることで痰のネバネバが弱くなり、痰を出しやすくできます。

 

8-2.杯細胞の形成を抑制する

杯細胞は粘液を産生する細胞です。実は気道だけではなく腸などにも存在する細胞です。この杯細胞が先ほど記載したムチンを産生する工場となるのです。スペリアは工場で作られた痰だけではなく、工場自体にも出荷停止を促す作用があります。

また杯細胞が頑張ってムチンを作るのを抑制したり、細胞数自体が抑制されることで、

  • 炎症が抑えられる(抗炎症作用)
  • ムチンが抑えられ漿液性さらさらした痰が産生される

などの効果もあります。

ただし重要なのは、杯細胞もムチンも悪者なわけではありません。むしろ、ばい菌などの異物を掃除してくれる良い役割があります。そのため完全に杯細胞を抑制するわけではないですし、杯細胞が頑張らなければいけなくなっている状況を改善するのが大切になります。

 

8-3.スペリアとムコダインは併用して良いの?

ムコダインは、スペリアと同じ気道粘液溶解液と同じ種類に属します。ムコダインやスペリア単体では効かないため、両方が処方されることがあります。添付文章では、ムコダインとスペリアを併用することで血中濃度が上下したり、副作用が強くなることはないため、併用してダメなお薬ではありません。

一方でムコダインも、スペリアも主となる効果は痰のムチンの構造を正常化することです。機序的にもムコダインとスペリアは同じですし、物質的な構造もかなり似ています。そのため二つを併用したからといって、効果も倍増するとは考えづらいです。

一部の効果として、

  • ムコダインは繊毛運動を促進する働きがあります
  • スペリアは杯細胞の産生を抑制します

と重ならない効果もありますが、これらが著明に効果があるとは考えづらいです。そのため、まずはムコダインやスペリア単体で効果がない場合は上の表であげた

  • ムコソルバン
  • ムコフィリン
  • ビソルボン

などの違う作用機序の薬を併用してみましょう。しかしこれらのお薬を併用しても痰が切れない場合は、医師側としても中々打つ手がないです。そういった時に少しでも効いてくれたらとの思いで、ムコダインにスペリアを追加することがあるのも事実です。

ここまで重症な場合は、原疾患のコントロールをしっかりとすることが大切です。特にCOPD(肺気腫)などの病気は、進行したら治らない病気です。痰が出せなくて困る症例の多くは、COPDになってもタバコを吸い続けたりして重度になっている場合が多いです。

ムコダインとスペリアを併用するような重症例になる前に、禁煙を心がけましょう。

まとめ

<メリット>

  • 痰の成分を整えて出しやすくする。
  • 気管支をきれいにする作用もある。
  • 副作用が少なく安全性が高い

<デメリット>

  • 痰の原因疾患を治すわけではない
  • 膿になった場合効果が弱い

<向いてる人>

  • 風邪で一過性に痰がでている人
  • 原因疾患が分かっていてスペリアで痰がコントロールできている人

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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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