アドエアはどんな肺気腫(COPD)の患者さんに使われるのか

元住吉 こころみクリニック
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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アドエアはβ2刺激薬とステロイドの合剤として、喘息に対して使用されるお薬でした。2009年になって、アドエアは肺気腫(COPD)に対しても承認されました。

COPDのガイドラインでは、肺気腫の増悪を繰り返す中等度から重症例に限り、アドエア250もしくはアドエア125エアゾールの使用を推奨しています。

ステロイドを吸入すると炎症を抑えるというメリットがある一方、防御力を下げてしまうため肺炎になりやすいというデメリットもあります。そのため軽症例にアドエアは推奨されません。

しかし中等症から重症の肺気腫の患者さんは、防御力に関係なく何度も肺炎などの悪化を繰り返してしまいます。このような方ではすぐに肺気腫が悪化することを想定し、炎症がひろがりにくくするように事前にステロイドを吸入しておいた方が良いのです。

ここでは、どのような肺気腫の患者さんにアドエアを投与した方が良いのか、お伝えしていきます。

 

1.肺気腫の治療はどんなお薬があるの?

β2刺激薬と抗コリン薬を中心に治療します。重症例に対しては、ステロイドを上乗せして治療します。

肺気腫とは、タバコなどで肺が穴ぼこだらけになってしまう病気です。COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease)という別名があり、訳すと慢性閉塞性肺疾患となります。つまり肺がタバコで傷ついて、閉塞性障害が常にある病気です。閉塞性障害とは気管支が狭くなって、思いっきり息を吸ったり吐けなくなる状態です。

このような病態がCOPDです。そのためCOPDでは、閉塞した気管支を少しでも広げるのが第一治療となります。具体的には、

  • 長時間作用型抗コリン吸入薬(商品名:スピリーバ・シーブリ・エンクラッセ・エクリラ)
  • 長時間作用型β2刺激吸入薬(商品名:セレベント・オンブレス・オーキシス)

の2つのタイプの吸入薬になります。昔は短時間作用型のお薬が軽症例に使われていましたが、COPDは常に閉塞している病態であることから、24時間常に広げておくような治療が主流となっています。

しかし、これでも病態が改善しない人はどうするのでしょうか?テオフィリンという飲み薬もガイドラインに記載されていますが、吸入薬に比べるとはるかに効果は少ないことが証明されています。

実はこれまで、抗コリン薬とβ2刺激薬2つの吸入薬でも症状が改善しない人は完全にお手上げでした。痰切りや咳止めでごまかしつつ、酸素状態がいよいよ悪くなったら自宅でも酸素吸入をして過ごすという流れになっていました。

そんな中、COPDの治療の切り札として注目されたのが吸入ステロイドです。吸入ステロイドを加えるとことで、重症例のCOPD患者さんに対して、

  • 呼吸機能の改善
  • 運動能力の改善
  • 増悪頻度の低下

など様々な良い結果が報告されました。そのため抗コリン薬とβ2刺激薬を投与しても症状が改善しない重症の患者さんにとって、吸入ステロイドは救世主となったのです。ですが、3剤の吸入薬を吸うのは大変ですよね?

そのためこのような場合、β2刺激薬とステロイドの配合剤であるアドエアがよく使われることになったのです。

 

2.なぜアドエア250ディスカス・アドエア125エアゾールしか適応がないのか?

吸入ステロイドに関しては、いまだ確立したデータが多くありません。しっかりと治療効果が保証されているアドエア250ディスカスとアドエア125エアゾールだけしか、現在は適応になっていません。

アドエアは、250ディスカス・125エアゾールしか適応が通っていません。アドエア100や500など、もっとステロイドの量を下げたり上げたりしてはいけないのでしょうか?

実はこの答えが、現時点ではしっかりと出ていないのです。

COPDのガイドラインでも吸入ステロイドを使用する条件として、増悪を繰り返す症例に対して吸入ステロイドを検討するように指示されています。

これは、吸入ステロイドが良い面もあれば悪い面もあるからです。ステロイドの効果として抗炎症作用があげられます。つまり白血球などの自分の肺を守る細胞の働きを押さえつけて、炎症を防ごうというのがステロイドです。

肺気腫の重度の人は息を吐く力が弱いため、ばい菌を外に出す力もないのです。そのため頻回にばい菌が肺にとどまってしまいます。ばい菌がとどまる度に白血球などが炎症を起こすと、穴ぼこだらけでただでさえ弱ってる肺がもっと弱ってしまいます。

ステロイドは、細かいことには目をつむることで炎症を抑えようとする治療です。しかし一方で、目をつむる代わりに防御力が下がってしまいます。

実際にアドエアの添付文章でも、慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者さんにアドエア500ディスカスを吸入した場合、3.3%の肺炎を確認したと記載されています。

また動物実験でも、アドエアのステロイド成分であるフルチカゾンをマウスに投与することで肺炎になりやすいという報告があります。

このため軽症の患者さんにはむしろ、アドエアを投与することは勧められていません。重症の患者さんに対しても、どれくらいのステロイドをどの期間投与すればいいのかは現在議論されているところです。

吸入ステロイドが少なくても炎症が抑えきれない、多すぎると防御力が下がってしまう…そういった中で現在しっかりとデータがあるのが、中間量のアドエア250ディスカスとアドエア125エアゾールになります。

実際に多くの研究でも、アドエア250ディスカスとアドエア125エアゾールの量で、

  • 呼吸機能の改善
  • 運動能力の改善
  • 増悪頻度の低下

がみられ、吸入ステロイドのデメリットよりもメリットが大きいことが確認されています。現在は様々な研究がされていて、

もっと軽症の患者さんに対してアドエア100ディスカスを投与したらメリットがあるのか?
すごい重症例に対してアドエア500ディスカスを投与したら効果があるのか?

などを確認しているところです。次回のガイドラインではもしかしたら、アドエア250以外の量も適応になるかもしれません。

 

3.肺気腫でアドエアを処方された方へのアドバイス

タバコを吸っている人は、すぐに禁煙にとりくみましょう。また一方で、アドエアを処方されたからといって落ち込む必要もありません。

肺気腫は、一度肺が穴ぼこだらけになってしまったら二度ともとには治らない病気です。肺気腫の治療も一時的には呼吸機能を改善しますが、長期的な意味合いとしてはこれ以上肺の機能が悪くなるのを防ぐ治療です。

そのためCOPDは、薬を吸ってれば治るという病気ではないのです。ですので本来であれば、肺気腫・COPDなど診断されたら禁煙が第一の治療になります。しかし中にはタバコをやめられずに、吸い続けた人もいるでしょう。

アドエアを処方されたということは、実は薬物療法の最終手段をとったということになります。ここまで重症でも、タバコを吸い続けている人が稀にいます。アドエアが処方されてもタバコを吸い続けてしまう…その結果としてこれ以上病態が悪くなると、医師も完全にお手上げになります。

肺気腫の症状としては、以下のようなものがあります。

  • 咳が止まらない
  • 痰が上手く出せない
  • 少しでも動くと苦しい

アドエアで一時的に症状が改善したのに、タバコで肺をさらに壊してしまってこれらの症状が出てしまうと、医師としても治療法がなくなってしまいます。このようにならないように、絶対に禁煙するようにしましょう。

一方で、タバコをやめても病態が進行していくのが肺気腫の嫌なところです。人によっては、「自分の肺はそこまで悪いのかぁ。もう治らないのかぁ。」というように気持ちが落ち込んでしまうかもしれません。

実際に肺気腫の人は少しでも動くと息苦しくなり、結果として家に閉じこもり気持ちが落ち込んでしまうことが多いというデータもあります。

しかしアドエアを処方されて、長年元気に暮らしている方も大勢います。外に散歩に出かけたり、趣味のスポーツをしている方も経験しています。医師のサポートの中でしっかりとコントロールすれば、元気に生活できる病気でもあるのです。

ここの説明を読んで、アドエアが嫌になってしまった方もいるかもしれません。しかしデメリットよりメリットが多いことが、個人の医師の考えだけではなくデータとして示されており、世界中の肺気腫の人がアドエアを吸っています。

楽観視されても困る病気ですが、過度に悲観的になる必要もありません。肺気腫の方で病状に不安を感じたら、一人で解決しようとせず医師に相談して適切な治療を受けるようにしましょう。

 

まとめ

  • 肺気腫に対してアドエア250ディスカスと125エアゾールが適応になっています。
  • アドエアは増悪を繰り返す重症例に対してのみ適応があります。

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