スボレキサント(ベルソムラ)の効果と副作用
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
元住吉こころみクリニック
スボレキサントは、2014年に発売された新しい睡眠薬ベルソムラの成分名(一般名)です。従来の睡眠薬とは異なる作用機序で、オレキシン受容体拮抗薬と呼ばれています。
2014年に発売されたばかりの睡眠薬ですので、しばらくはジェネリックは発売されないでしょう。ジェネリックが発売されたら、「スボレキサント」という名前になるかと思います。
入眠障害にもある程度効果がありますが、中途覚醒に特に有効です。生理的なメカニズムを利用するので、自然に近い眠りを導く睡眠薬です。副作用や依存性も少ないと考えられています。
ここでは、スボレキサントの効果の特徴について、詳しくお伝えしていきたいと思います。
1.スボレキサントの作用する仕組み(作用機序)
覚醒を維持するために必要なオレキシンを阻害することで、睡眠状態へスイッチさせる睡眠薬です。
スボレキサントは、これまでにない新しい作用機序の睡眠薬として注目されています。スボレキサントの作用には「オレキシン」という神経伝達物質が関係しています。まずはこのオレキシンからご説明しましょう。
オレキシンは視床下部の神経細胞で作られています。オレキシンは、覚醒に関わる様々な神経細胞を活発にさせる働きがあります。オレキシンは情動の乱れや空腹を感じると活発になります。このため、感情が揺さぶられたりお腹がすくと目が覚めるのは、オレキシンのせいなのです。
覚醒状態と睡眠状態は、「日中は起きて、夜は寝る」といったようにメリハリをつけていく必要があります。中途半端に覚醒状態になってしまったら、危なっかしくて仕方がありませんね。2つの状態は一気に切り替わらなければいけません。この切り替えに重要な働きをしているのがオレキシンです。オレキシンはスイッチのような働きをしているのです。
スボレキサントは、このオレキシンが作用する受容体をブロックしてしまいます。これによりオレキシンが作用できなくなります。スイッチを切り替えてオフにして、睡眠状態に導いていきます。スボレキサントは、身体が生理的に行っているメカニズムを利用して睡眠効果をもたらすお薬といえます。
オレキシン受容体には2種類あると言われています。オレキシン1受容体(OX1)とオレキシン2受容体(OX2)です。どちらも覚醒に関係していますが、OX2の方が影響が大きいことがわかっています。
スボレキサントは、このOX1とOX2の両方を1:1で遮断する働きがあるので、DORA(Dual Orexin Receptor Antagonist:両方のオレキシン受容体拮抗薬)とも呼ばれています。
2.スボレキサントの特徴
まずはスボレキサントの特徴を、メリットとデメリットに分けてみていきましょう。
2-1.スボレキサントのメリット
- 入眠障害にそこそこ有効
- 中途覚醒に有効
- 睡眠が深くなる
- 副作用が少ない(健忘・ふらつき)
- 依存性が少ない
- 処方日数の制限がない
睡眠薬として最もよく使われているベンゾジアゼピン系睡眠薬では、脳の機能を落とすことで眠気をもたらしていました。このような睡眠薬では、スッと落とされるような眠りの入り方でした。スボレキサントは睡眠状態にスイッチを切り替える睡眠薬です。身体が生理的に行っているメカニズムを利用しているので、自然に近い眠りを導く睡眠薬です。
入眠作用はそこそこといったところで、服薬した直後から効果は期待できます。スボレキサントは、中途覚醒に真価を発揮する睡眠薬です。途中で目が覚めても、再入眠しやすくなります。また、レム睡眠と深い睡眠が増加して、浅い睡眠が減少します。睡眠が深くなり、質がよくなります。
ベンゾジアゼピン系睡眠薬で多かった健忘・ふらつきといった副作用は少ないです。スボレキサントには筋弛緩作用がほとんどありませんが、眠気からふらついてしまうことはあるので注意が必要です。依存性もほとんどないと考えられていて、離脱症状や反跳性不眠(離脱症状でよけいに不眠がつよくなること)はなかったと報告されています。
スボレキサントはこのように依存性が低いお薬なので、スボレキサントは向精神薬となっていません。このため、一般的な睡眠薬のように30日の処方制限がありません。スボレキサントは60日や90日など長期で処方することもできるので、睡眠が安定したら通院回数を減らすこともできます。
2-2.スボレキサントのデメリット
- 症例数が少ない(世界に先駆け日本で発売)
- 悪夢が多い
- 翌日の眠気が多い
- グレープフルーツジュースは控えなければいけない
- 薬価が高い
スボレキサントは世界に先駆けて、日本で最初に発売された睡眠薬です。このような薬は珍しく、ほとんどの薬は世界で効果や安全性が確かめられてから日本にやってくることが多いです。まだ薬の実感がわからないという点はデメリットかもしれません。
スボレキサントは、レム睡眠を増やす作用があります。このため夢を見やすくなってしまいます。不眠になってしまう方はストレスを感じている方が多く、悪夢が増えてしまうことが多いです。
また、翌日の眠気が思ったよりも多い印象があります。明け方になると生理的なオレキシンが上昇してきて覚醒します。脳が活動し始めると、オレキシンはすぐに活発になるはずです。ですが、意外と眠気を日中に感じる方が多い印象です。
スボレキサントは、CYP3Aという肝臓の酵素で代謝されていきます。グレープフルーツジュースやクラリスなどの抗生物質は、このCYP3Aを強く阻害してしまいます。その結果、スボレキサントが代謝できなくなってしまい濃度が一気に上がってしまいます。ですから、グレープフルーツジュースなどは避けなければいけません。
新薬なので仕方がないのですが、スボレキサントは非常に高価です。15mg錠で89.1円、20mg錠で107.9円です。ジェネリックも当分発売されません。
2-3.スボレキサントで懸念されていること
- ナルコレプシー様症状が起こること
- 食欲が変化したり、摂食障害がみられること
スボレキサントでは2つのことが懸念されています。
1つ目は、ナルコレプシー様症状が起こるかもしれないということです。オレキシンが変性すると、ナルコレプシーという病気になることがわかっています。ナルコレプシーとは過眠症と呼ばれている病気です。覚醒に必要なオレキシンが足りないために、急に睡眠状態に入ってしまう病気です。
①睡眠発作(昼間の突然の眠気)
②入眠時幻覚(眠った瞬間に夢を見る)
③睡眠麻痺(金縛り)
④情動脱力発作(喜怒哀楽の後に、急に力が抜けてしまう)
この4つの症状がみられるような病気です。スボレキサントは、オレキシンをブロックする薬です。理論的にはナルコレプシー様の副作用が起こることが懸念されていました。現在のところ、市販後調査では報告されていませんので、問題ないかと思います。
2つ目は、食事への影響です。空腹を感じると、オレキシンが活発になることで覚醒して食事をとります。そして活動的になってエネルギーを消費します。このようにオレ キシンは食欲や代謝と大きく関係し、摂食行動に影響を与えることが懸念されていました。現在のところ、市販後調査では目立った報告がされていません。
3.スボレキサントの作用時間と強さ
スボレキサントは半減期が10時間で、作用時間は6時間程度です。中途覚醒を中心に効果のある睡眠薬です。
スボレキサントは、血中濃度がピークに達するまでには1.5時間ほどかかります。そこから少しずつ抜けていき、10時間で半分の量まで減少します。
スボレキサントの効果は、服用した日から期待できます。30分ほどして自然な眠気で眠りに導きます。薬が半分になるまでには10時間ほどかかりますが、明け方になってくると生理的なオレキシンが急上昇します。オレキシン受容体をスボレキサントとオレキシンが奪い合いをします。その効果、スボレキサントの結合率が65%を下回ってくると覚醒が優位となります。このようにして目が覚めるので、作用時間としては6時間ほどです。
スボレキサントの半減期は10時間ですので、20時間たっても1/4は身体に残っています。服薬の開始から3日ほどは、少しずつ薬が身体にたまります。ですから、スボレキサントの効果をみていくには少なくとも3日かかります。さらにスボレキサントの服用を続けていくと、徐々に効果が強まっていく方が多いです。
スボレキサントの効果は、入眠障害には「やや弱い~普通」ですが、中途覚醒には「普通~やや強い」という印象です。成人は20mg、高齢者は15mgと用量が決まっています。スボレキサントを使える上限量は、有効用量の中で低めに設定されました。これは、眠気による運転への影響を心配されたためです。アメリカでは、もっと慎重に用法が決められています。スボレキサント10mgから開始して、上限20mgまでとなっています。
なお、食後に服用すると血中濃度のピークが3時間ほどとなります。効きが悪くなるので、少なくとも食後2時間あけて服用するようにしましょう。
4.スボレキサントの副作用
眠気と悪夢の副作用が多いですが、その他の副作用や依存性という面では非常に安全性が高い睡眠薬です。
2014年11月に発売されたスボレキサントですが、少しずつその効果や副作用などがわかってきました。新薬が発売されると、発売開始から6か月間は市販直後調査というものが行われます。スボレキサントが発売されると多くの患者さんに使われるので、実際に臨床の現場でどのような副作用がみられるのかを調べていきます。
スボレキサントでは、6か月間の市販後調査が2015年5月しました。およそ75000人の患者さんでの自発的な報告に基づいて副作用がまとめられています。私が実際に使ってみた印象も踏まえて、スボレキサントの副作用を考えていきたいと思います。
スボレキサントでは、「眠気」と「悪夢」の2つの副作用に注意が必要です。
睡眠薬ですから、どうしても眠気の副作用は出てきてしまいます。服用した翌朝の眠気もありますが、日中に眠気が強くなることがあります。市販後調査で報告が一番多かったのも眠気でした。添付文章でも、自動車の運転や危険作業をしてはいけないとされています。
スボレキサントの睡眠の特徴としては、夢が増えることがあげられます。不眠で悩んでいる方はストレスを感じている方が多いです。このため、悪夢となってしまうことも多いのです。従来の睡眠薬では夢をみなくなるので、薬を切り替えた方は眠りの質がガラッと変わって、ビックリすることもあります。
スボレキサントでは、従来の睡眠薬で見られていたふらつきや健忘などの副作用はほとんど認められません。市販後調査でも予想通りの結果となっています。スボレキサントで懸念されていた副作用としては、ナルコレプシー様症状と摂食行動の異常があります。
ナルコレプシーとは、過眠症と呼ばれる病気です。日中に突然強烈な眠気に襲われて眠ってしまう病気です。この病気の原因は、オレキシンが変性して機能しなくなってしまうことにあると考えられています。スボレキサントはオレキシン受容体拮抗薬ですので、ナルコレプシー様の症状が出てきてもおかしくないと懸念されていました。
オレキシンは睡眠だけでなく、様々な身体の働きに関係していることがわかってきています。オレキシンは、摂食行動にも密接に関係していることがわかっています。このため、何らかの摂食行動への影響を与えることが懸念されていました。
市販後調査をみると、ナルコレプシーは報告されていませんし、摂食行動や体重に関する報告はごくわずかです。2つの懸念は問題ないと考えてもよいかと思います。
このようにスボレキサントは、副作用も少ないですし、依存性も低いと考えられています。
5.スボレキサントが向いている人とは?
- 他に睡眠薬を服用していない方
- 中途覚醒が中心である方
- 中途覚醒して再入眠できない方
- 高齢者
- 依存性の低い睡眠薬を希望される方
スボレキサントは、原則的に他の睡眠薬との併用をしないこととなっています。ですが、併用して切り替えていくこともあります。いろいろな睡眠薬を試しても効果がなかった方には、新しい作用機序の薬が効くかもしれないので試してみることもあります。すでに服用している睡眠薬を減量するときは、その睡眠薬の反跳性不眠に気をつけていく必要があります。
スボレキサントは、入眠障害にも効果は期待できますが、真価を発揮するのは中途覚醒です。ですから、中途覚醒で困っている方に向いている睡眠薬です。入眠障害で悩んでいる方には、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬のマイスリー・アモバン・ルネスタなどの方が向いているでしょう。
一度目が覚めてしまうとなかなか寝付けないという方に、スボレキサントは向いています。このような患者さんにスボレキサントを使うと、一度目は覚めてしまうけれども再入眠できるようになることがあります。
また、筋弛緩作用がほとんどないので高齢者にも向いています。ベンゾジアゼピン系睡眠薬では筋弛緩作用から、ふらついて転倒してしまうこともありました。スボレキサントではかなり軽減されています。眠気でふらつくことがあるので注意は必要ですが、高齢者に向いている睡眠薬と言えるかと思います。
依存性を気にされる方にもよい睡眠薬です。スボレキサントは依存性が非常に低い睡眠薬です。残念ながら完全に依存性がないわけではありませんが、離脱症状や反跳性不眠などの報告はありませんでした。睡眠薬をやめられなくなってしまうという怖さがある方には、スボレキサントは向いています。
スボレキサントはまだまだ発売されたばかりの睡眠薬です。実際にスボレキサントを使っていく中でどのような方に向いているのか、試行錯誤されている段階です。例えば、PTSDの過覚醒の方への不眠に有効ではないか?水中毒や摂食障害や依存症などの方の不眠に有効では?夜に覚醒が強い子供に有効ではないか?双極性障害の不眠の方によいのではないか?などといわれています。スボレキサントの評価が変わるにつれて、記事を更新していきたいと考えています。
6.一般名と商品名とは?
一般名:スボレキサント 商品名:ベルソムラ
まったく成分が同じものでも、発売する会社が異なればいろいろな商品があるかと思います。医薬品でも同じことがいえます。このためお薬には、一般名と商品名というものがあります。
一般名というのは、薬の成分の名前を意味しています。発売する会社によらずに、世界共通で伝わる薬物の名称です。「スボレキサント(suvorexant)」に統一されています。主に論文や学会など、学術的な領域でこれまで使われてきました。
一方で商品名とは、医薬品を発売している会社が販売目的でつけた名称になります。「ベルソムラ(belsomra)」は、製造元であるMSD株式会社がつけた名前です。名前の由来はフランス語からきていて、belle(=beautiful)+som(=sleep)を合わせたものです。つまり、「美しい眠り」という思いを込めてつけた名前です。
ベルソムラは、世界に先駆けて日本で発売された睡眠薬です。たいていのお薬は海外で先に発売されて、日本ではかなり遅れて入ってきます。このことからも、安全性が高いと予想されていることがうかがえます。オレキシンを発見したのが日本人ということもあるのでしょうか。
ジェネリック医薬品は、特許がきれてから作られます。ベルソムラも発売から10年ほどは特許があるので、しばらくジェネリックは発売されないでしょう。最近のジェネリックは、紛らわしさをなくすため、「一般名+会社名」とすることが多くなりました。ベルソムラも「スボレキサント」として発売されることになるかと思います。
スボレキサントの効果や副作用について詳しく知りたい方は、
ベルソムラ錠の効果と強さ
ベルソムラの副作用(対策と比較)
をお読みください。
まとめ
覚醒を維持するために必要なオレキシンを阻害することで、睡眠状態へスイッチさせる睡眠薬です。
スボレキサントのメリットとしては、
- 入眠障害にそこそこ有効
- 中途覚醒に有効
- 睡眠が深くなる
- 副作用が少ない(健忘・ふらつき)
- 依存性が少ない
- 処方日数の制限がない
スボレキサントのデメリットとしては、
- 症例数が少ない(世界に先駆け日本で発売)
- 悪夢が多い
- 翌日の眠気が多い
- グレープフルーツジュースは控えなければいけない
- 薬価が高い
スボレキサントが向いている方は、
- 他に睡眠薬を服用していない方
- 中途覚醒が中心である方
- 高齢者
- 依存性の低い睡眠薬を希望される方
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2017年4月より、川崎市の元住吉にてクリニックを開院しました。内科医と精神科医が協力して診療を行っています。
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