遠隔診療は医療をどう変えるのか?遠隔診療にひそむ落とし穴

アイコン 2017.2.13 その他の制度

私たちの生活には様々な場面でITが取り入れられ、生活はますます便利になっています。いまやスマートフォンは当たり前の時代になっていますし、様々なことが遠隔でも行えるようになってきています。

医療サービスも、テレビ電話などを利用すればわざわざ行かなくてもできるのではないか…そんな思いを持たれた方もいらっしゃるかもしれません。

ですが医療の世界では、他の分野と比べるとITは遅れています。様々なしがらみの中で、遠隔診療の可能性は閉ざされていました。

しかしながら最近になって、その門戸がようやく開かれてきました。平成27年8月の一本の厚生労働省事務連絡によって、遠隔診療の事実上の解禁がされました。まだまだ診療報酬なども含めて成熟していない分野ですが、これから少しずつ広がっていくことが予想されています。

最近ではメディアでも取り上げられることが増えてきており、平成28年11月の未来投資会議では、安倍首相も後押しするご発言をされ、医療業界でも活気づいてきています。

遠隔診療…たしかに非常に有用な医療手段になるかと思います。しかしながら、負の側面も間違いなくあります。現場の医師として、遠隔診療にひそむ落とし穴について考えてみたいと思います。

 

1.遠隔診療の制度上の仕組み

初診を対面診察し、その後はテレビ電話での遠隔診療ができるようになってきています。

それではまず、遠隔診療とはどのようなものかをお伝えしていきましょう。

遠隔診療はもともと、「直接の対面診察が困難な場合」として、離島やへき地の医療のためを念頭においたものでした。それが厚労省の事務連絡によって、拡大解釈できるようになったのです。

誤解を恐れずにいえば、「忙しくて通院できない」「子どもの面倒をみなければいけない」というのも、「直接の対面診察が困難な場合」とみなせるようになったのです。

そしてその条件付けとして、「直接の対面診療が基本だが、患者さんが希望する場合に対面診察と組み合わせて遠隔診療してもOK」と通達されています。これも実態としては、「初診は対面じゃなければだめだけど、1回診察すれば再診はOK」といった解釈をされています。

まとめると、

ということになります。もちろん、病状が不安定な場合は対面診察でなければいけませんが、不安定というのはあいまいですから、事実上は再診はすべて遠隔診療という形になるかと思います。

制度上の流れについて詳しく知りたい方は、「いま話題の遠隔診療、遠隔診療にはどのようなサービスがあるのか?」をお読みください。

 

お金の面からも見てましょう。病院に受診すると、みなさんは実際にかかった医療費の1割~3割を支払っているかと思います。残りの7~9割は健康保険組合から支払われています。医療機関に入る診療報酬は、この合計になるのです。

医療機関が遠隔診療を行うときに、保険で請求できるのは「電話再診料」のみになります。診療報酬にして72点ですから、医療機関としては720円になります。対面診察で最新の場合、3,000円~5,000円になりますので、これだけでは採算が合わなくなってしまいます。

このため、「予約料」を患者さんから自己負担で請求します。予約料とは、患者さんを予約時間から30分以上待たせない体制をとっているときに設定でき、すべて患者さんの自己負担になります。遠隔診療では、決められた時間に電話再診をする予約時間をおさえるために、自己負担を患者さんにしてもらうのです。

遠隔診療の医療機関の報酬=予約料+電話再診料(720円)

となります。対面診察と報酬を合わせる場合には、予約料を2,000円~3,000円にする必要があるのです。

 

2.診療報酬から考えた遠隔診療の位置づけ

遠隔診療は、予約料という遠隔サービスによる自費診療と、電話再診による保険診療を組み合わせたものです。医療費は抑制されますので、匡としては推し進めていく方向になるでしょう。

診療報酬から見ることで、遠隔診療の位置づけが少しずつ見えてくるかと思います。

予約料はどのように決めるのかというと、社会的に見て妥当であればよいとされています。法外な金額でなければ大丈夫とのことで、安い分には全く問題となりません。予約料は事実上、医療機関が自由に設定することができるのです。

そしてその部分は患者さんが自費負担するので、医療費としては720円に抑えることができます。対面診察だったら3,000円~5,000円の医療費になるところが抑制できるので、国としては願ったりかなったりかと思います。

そして予約料は自由競争にさらされるでしょうから、ダンピングする医療機関なども将来でてくるかもしれません。患者さんには安くなることはメリットですが、医療機関としては戦国の世になっていくでしょう。

未来投資会議で推奨された背景には、こうした思惑も透けて見えてきます。遠隔診療での保険診療点数は高められていく可能性(おそらく診療報酬の加算できる項目が増えるという形)がありますが、おそらくギリギリのところを推し量ってくるかと思います。いずれにせよ、国としては推奨していく方向になるのは自明の理です。

このようにみてみると遠隔診療は、予約料による遠隔サービスという自費診療と、電話再診による保険診療を組み合わせた診療になります。

 

3.遠隔診療が本当に有用な医療現場とは?

離島やへき地の地域医療、在宅医療では、非常に有用な医療ツールかと思われます。

遠隔診療と聞くと近未来的(現代的?)で、輝かしい未来が待っているように感じる方が多いかとおみます。私はむしろ、負の側面の方が大きいと思いますが、遠隔診療が本当に有用な医療現場があることは間違いありません。

それはまさしく、離島やへき地での医療現場です。医師をはじめとした人的資源や設備といった医療資源は限られてしまいます。患者さんが受診するにも、医療機関にたどり着くまでに時間がかかるような場所では、遠隔診療は非常に有効です。

在宅医療にも有用かと思います。夜間帯などでちょっとしたことがあった時に、電話での相談よりも画像もあったほうが判断がつきやすいです。訪問して診察をしたほうが良いのか、それとも様子を見ていれば大丈夫なのか、入手できる情報は多いに越したことはありません。

こういった医療の幅が広がるような遠隔診療の活用の場があるかと思います。それに対して、どちらかというとクローズアップされるのが「忙しい人」に対しての遠隔診療かと思います。

忙しい人に対しての遠隔診療は、どこまで有用なのでしょうか。確かに、お金よりも時間が惜しいという方もいらっしゃるかと思います。「病院に通う負担が大きい」という理由で通院を自己中断してしまうことが減らせるかと思います。

しかしながら、遠隔診療という形で利便にとりくめることには、治療上の負の側面もあると思います。この点を含め、遠隔診療がもたらす負の側面を考えていきたいと思います。

 

4.遠隔診療がもたらす負の側面―診察の質への影響

①患者さんとの距離感がつかみづらく、しっかりとした精神療法が行いづらいこと②対面でしかできない医療行為を躊躇してしまう可能性があること、などの診察の質への影響が想定されます。

遠隔診療は、テレビ電話によって診察をすすめていきます。これまで医療サービスをうけるためには、病院にいって医師の診察を対面でうける必要がありました。まずは、遠隔診療での診療の質への影響を考えていきたいと思います。

テレビ電話での診察と対面での診察では、診察の質はかわるのかといわれると、正直なところそんなにかわりません。対面でのほうが情報量が多いのは間違いないですが、ほとんどの場合でテレビ電話でも十分な情報量になります。

私は産業医領域でテレビ電話を活用して面談をすることがありますが、ほとんどの場合は問題ありません。しかしながらその場では、2つのやりづらさを感じます。

私がテレビ電話に慣れていないせいなのかもしれませんが、テレビ電話では患者さんとの距離感がつかみにくい印象をもってしまいます。親友や家族などでは距離感もわかるのでしょうが、医師と患者の関係性では難しいです。

おそらく対面診察では視覚や聴覚の情報だけでなく、雰囲気やしぐさなどの様々な情報を肌で感じているのだと思います。患者さんとの距離感は、精神療法を行うにあたっては非常に重要です。

 

もう一つのやりづらさは、必要なことがあっても遠隔だと躊躇してしまうことです。基本的には慢性疾患などで安定している患者さんが遠隔診療の対象になります。ですから、大きな変化が認められることは少ないと思います。

とはいっても、ちょっとした変化が認められることもあります。そんな時に、念のため検査や身体所見をとりたいこともありますが、遠隔だと難しくなってしまいます。

遠隔診療は対面診察と組み合わせることとされていますが、初診以外は再診を前提にしてすすめられると思います。患者さんとしても利便性を感じての遠隔診療なので、医師としては「近いうちに病院に来てください」といいづらい状況になってしまいます。

近年では遠隔で血液検査ができるようになってきていたりしますが、医療の場において遠隔だけですべてが完結することはありません。そして医師側の倫理の問題ではあるのですが、「めんどくさいことはしなくない」という考えも働きかねません。

 

5.遠隔診療がもたらす負の側面―間違った医療サービスの台頭

遠隔診療によって、ただ薬を出すだけの医療や、セルフブランディングされた怪しげな医療の台頭が懸念されます。

遠隔診療を通常の診察の一環として同じように診察していれば、非常に有用性のあるサービスになると思われます。しかしながら現実的には、倫理観をもった医師ばかりではありません。

遠隔診療では診療の質といった問題だけでなく、間違った医療サービスの台頭が懸念されます。その方向性としては、以下の2つがあると思われます。

遠隔診療は「お金より時間」という方が多いかと思います。患者さんとしても、「お薬をもらえればそれでいい」という方も少なくないかと思います。

医療機関側にとって遠隔診療は、予約料を自由に決められる自由競争の世界になります。短時間で診察をすることを前提にして、予約料をダンピングして安くしていく医療機関が出てこないとも限りません。

患者さんには安くなることはメリットかもしれませんが、お薬屋さん化してしまう遠隔診療サービスになってしまう可能性があります。例えば生活習慣病にお薬をつかっていたとしても、その指導などを行わずに漫然とお薬を出しかねません。

対面診察を前提とした現在の医療機関でも、そのような営利に走る医療機関もあります。そういった医療機関が自分の都合が良い患者さんだけを診察し、ほかの親身にしっかりと診察してくれる医療機関が労力を割いているというのが日常的にあります。ましてや自由競争となれば、さらにこの傾向が増長されることが想定されます。

 

もうひとつの方向性は、怪しげな医療が台頭してくることです。私たち医療者からみれば明らかに怪しい医療機関も、患者さんは正しく見極めることはなかなか難しいです。

そういった医療機関はあの手この手を使って自身の医療機関をブランド化して、さも魅力的な医療サービスであるかのように宣伝します。

例えば、「断薬」「デトックス療法」「波動療法」「〇〇メソッド」「△△心理療法」「□□栄養療法」「ドクターが開発した▽▽サプリ」といった文言が並びます。そして学会や論文での実績などをもっともらしく書いてありますが、お金を払って実績づくりしているだけであったり、たいていは実体のない論文であったりします。

こういった怪しげな医療サービスについては、別の記事に譲るとしましょう。すでに遠隔診療を導入されているクリニックの中に、こういった怪しい医療を行っているところも出てきています。

こういった医療機関(ともいえるかと思いますが…)からすれば、お客さんの対象を全国に広げることができるのです。ニッチな領域でも全国となれば患者さんの対象も増えます。私は首都圏を中心に精神科系の医療機関のまとめを作ったりもしていますが、怪しげな医療機関の多さにビックリしました。市場が広がることで、こういった医療機関が増えていくことを危惧しています。

さらにはこういった医療機関が対象にするのは、信者になった患者さんです。予約料を高く設定して遠隔診療を行う、ないしは遠隔診療が認められたのをいいことに、遠隔で高額の自費診療を行うかもしれません。一見安く設定していても、バックエンドで高額なサービスを売りつけてくるかもしれません。

多くの医療機関は倫理観を持って医療を行っていますが、こうした間違った医療サービスが増えて来る可能性は否めないと思われます。それらを防ぐ手立てを十分に考えたうえで、遠隔診療が有益な方向に発展するサービスになればと願っています。

 

まとめ

これまで述べてきたように、遠隔診療はとても大きな可能性を秘めています。医療へのアクセスが簡便になることで、患者さんの利便性の向上だけでなく、医療経済的にも効率化できるかと思います。

このように遠隔診療は、医療構造も変えうる可能性のある魅力的なヘルステックには違いありません。現状では、患者さんの自費負担になる予約料+保険適応となる電話再診料によるサービスになりますが、今後少しずつ保険適応の幅が拡大していくことが予想されます。

そんな中で考えなければいけないのは、遠隔診療の質をいかに保つか、間違った方向にすすむ医療サービスを防げるかということかと思います。

希望が大きいヘルステックであるがゆえに、しっかりと障壁を取り除きつつ発展していただければと思っています。幸いなことに現在の遠隔診療サービスのトップを走っているのは、私の中高の同級生が中心になっているメドレー社です。彼らがより良いサービスに昇華してくれることを信じています。