インフルエンザの治療はどのように行っていくの?

アイコン 2016.2.25 インフルエンザ

毎年冬になると、インフルエンザが流行します。インフルエンザにかかったら早く治してしまいたいですよね。

病院に行ってインフルエンザと診断された時、基本的にはお薬を渡されて自宅で療養することになります。重症化するリスクがある方は、入院となることもあります。

医師はどのように考えて治療方針を決めているのでしょうか?病院や医師によって細かい違いはあるものの、大まかな枠組みはかわりません。ここでは、インフルエンザ治療について詳しくみていきたいと思います。

 

1.インフルエンザの治療はどんなのがあるの?

48時間以内ならばインフルエンザ治療薬が有効です。その他は、対処療法が中心です。

みなさんがインフルエンザと呼んでいる病気は、インフルエンザウイルスによる上気道(口・鼻・喉)の感染症です。そこでインフルエンザウイルスと身体の免疫細胞がバトルをしていて、その戦いの影響が熱や関節痛、咳や鼻水といった症状になるのです。

ウイルス自体をやっつける薬は、まだ開発の途中です。現在発売されているインフルエンザウイルスに対する治療薬は、インフルエンザウイルスの感染が広がっていくのを防ぐ治療薬です。

ですからインフルエンザ治療薬は、早く開始しないと意味がありません。感染が拡大してしまったら効果は期待しにくいのです。発熱から48時間(2日)以上たっているかいないかをラインにして、インフルエンザ治療薬を使っていくかどうかを判断していきます。

インフルエンザの治療では、すでに感染してしまったウイルスに対しては、身体の免疫によって自分でやっつけるしかありません。このため基本的に、つらい症状に対してサポートをするだけしかできません。咳には咳止め、鼻水には鼻炎止め、発熱や頭痛には解熱鎮痛剤という形になります。

インフルエンザの解熱鎮痛剤は、アセトアミノフェン(カロナール)を使うようにすることだけ注意が必要です。対症療法について詳しく知りたい方は、「風邪を早く治す方法とは?」をお読みください。

 

2.インフルエンザ治療薬の効果

インフルエンザの治療には、タミフル・リレンザ・イナビル・ラピアクタがあります。これらはすべて全てウイルスが感染細胞から放出されるのを阻害する薬剤(ノイラミニダーゼ阻害薬)です。

インフルエンザ治療薬の効果について理解していただきたいことは、インフルエンザウイルス自体を退治するお薬ではないということです。これらのお薬は、既に感染してしまった細胞からインフルエンザウイルスが拡散していくのを抑える働きがあります。

このため、できるだけ感染して間もない時期からインフルエンザ治療薬を開始することが重要です。つまり、早期発見・早期治療がインフルエンザ治療の大原則になります。発熱後48時間後に投与しても、インフルエンザウイルスが増殖してしまった後ですので効果が落ちてしまいます。

インフルエンザ治療薬でそれぞれどのような特徴があるのか、表にしてまとめてみました。

インフルエンザ治療薬の用法・薬価・使用割合を比較しました。

治療効果という面で比較すると、4剤とも同じになります。どのお薬がA型・B型インフルエンザウイルスに最も効果があるのかいうことは示されていません。

インフルエンザウイルスの中には、タミフルが効かないものもあります。このようなタミフル耐性のインフルエンザウイルスにはこのお薬がよいというのがありますが、インフルエンザの診断にタミフル耐性かどうかを調べることは基本的にありません。(今後、タミフル耐性のインフルエンザが調べられる検査キットが開発中です。)

基本はA型、B型のみの簡易インフルエンザキットでの診断になりますので、どのお薬だと外れだということはありません。この4剤では、タミフルは内服薬、イナビル・リレンザは吸入薬、ラピアクタは点滴となります。

 

3.インフルエンザ治療薬の副作用について

4剤とも消化器症状が多いです。また気になる異常行動ですが、タミフルだけ認めるわけではありません。インフルエンザ自体でも異常行動が認めることがあります。

副作用は4剤とも下痢や嘔気などの腹部症状が多いですが、これもどのお薬が多いといったことはありません。

さらにその副作用の頻度はそこまで多くはなく、どれも数%程度です。これに加えてインフルエンザ自体でも消化器症状を認めることがあり、とくにインフルエンザB型では消化器症状が多いです。

インフルエンザに限らず、熱が出たときに医師が症状を聞くのは、どこの部位に感染しているのかを予想するためです。インフルエンザは通常、飛沫感染、接触感染によってウイルスが上気道に付着して、そこで増殖されることによって咳や鼻水などの症状が出現します。胃や腸にインフルエンザが感染すると、お腹の症状が出現するのです。

これが薬の副作用なのか、それともインフルエンザの症状なのかを鑑別するのは、医師でも困難なのです。

 

さらに気になる副作用としては、異常行動があります。タミフルのみにはなりますが、10代の患者さんには飛び降り等の異常行動が問題視されて、基本的に使用しない旨が添付文書にも記載されています。

詳しく知りたい方は、「タミフルで恐れられる異常行動とは?」を読んでみてください。

しかしタミフルのみでこのような異常行動が認められるのかというと、決してそんなことはありません。何故タミフルでこのような副作用が出たかはわかっておらず、薬の副作用以外にもインフルエンザ脳症でもこういった異常行動は認めます。

実際に他の薬でも異常行動を認めていますし、明らかにタミフルだけが異常行動が多いという報告はありません。むしろ、どの薬も同じ程度の頻度で異常行動を認めるという報告が多いです。

タミフルがきっかけで異常行動によって世間を騒がせたため、10代に限っては制限されています。それがいまだに解除になっていないという流れですので、イナビルやリレンザだから異常行動はないと安心しないようにしましょう。

 

4.インフルエンザ治療薬の使い分けとは?

入院適応であればラピアクタが第一選択です。外来で加療する場合はイナビル・リレンザ・タミフルの適応をみて治療します。

それぞれのインフルエンザ治療薬について詳しく知りたい方は、以下をお読みください。

インフルエンザに限らず、どんな病気もまず医師が最初に判断することは、入院治療とするか外来治療とするかです。

インフルエンザで入院するような重症な状態では点滴治療することが多いので、ラピアクタが選択されることが多いです。一方で、外来治療するときにラピアクタを使うメリットは少ないです。点滴だから効果が特別あるというわけではありません。

インフルエンザで入院治療することは少なく、多くの場合は外来で治療されています。この時の治療薬をどれにするかは、以下の判断材料で使い分けられています。

もっとも重要視されるのが、お薬の剤形です。嘔吐が酷くて内服薬が飲めなそうであれば吸入薬の方がよいでしょう。あまりにも咳が酷くて吸入できなそうなら内服薬の方がよいでしょう。患者さんの状態によって選択します。

この時よく起こるのが相互の大丈夫だろうという誤解です。例えば、吸入薬のリレンザを毎回処方している医師は、

医師「話してるときそんなに咳もしていないし、話もしっかりとしている。この患者さんなら大丈夫だろう。」

患者さんの家族「咳も多いし吸入薬大丈夫かしら?そもそもうちのおじいちゃん、吸入薬なんてちゃんと吸えるのかしら?でもお医者さんが処方してくれたお薬なら大丈夫だろう。」

このようにして、「なんとなく大丈夫だろう」とリレンザが使われ、実はちゃんと吸えていないということはしばしばあります。これらを踏まえて、吸入薬が良いか、内服薬が良いかを考えていただいて、診察時に医師に相談してみた方が良いかもしれません。

 

吸入薬でしたら、イナビルは1回吸入するだけのお薬になります。これに対してリレンザやタミフルは、5日間にわたって1日2回の使い続ける必要があります。処方する医師の好みもあります。それぞれの医師が、自分が使い慣れているお薬を処方します。このため、病院によって処方が大きく異なることもあります。

 

5.インフルエンザ治療薬の実際の使用状況

乳幼児はタミフル(ドライシロップ)が中心、思春期はイナビルかリレンザ、成年以降はタミフルかイナビル、高齢者ではラピアクタも使われます。

これらを踏まえて、年齢別にどのようなお薬が使われているのかもう一度見てみましょう。

   タミフル   リレンザ  イナビル ラピアクタ
0~4歳児の使用割合 98.9% 1.1% 0% 0%
5~9歳児の使用割合 75.9% 7.5% 16.1% 0.6%
10~19歳の使用割合 5.4% 37.0% 56.1% 1.5%
20~59歳の使用割合 53.4% 3.7% 37.5% 5.4%
60歳以上の使用割合 41.8% 0% 29.4% 28.0%

 

まず0~4歳に圧倒的に処方されるのはタミフルです。これは4歳児までは吸入のお薬は難しいと考えられており、タミフルにはドライシロップという剤形があるためです。ただし0歳児に限って言えばタミフルでもデータが乏しいので、医師とよく相談しましょう。

5-9歳児もタミフルが多いです。やはり小さい時は、確実に投与できるタミフルを飲んでもらうのが一番と考えている医師が多いのでしょう。

一方で10歳-19歳ではタミフルの処方が減り、リレンザ・イナビルの処方が増えます。これは、タミフルによる10代での異常行動が懸念されて使用注意になっている経緯があるからです。

ただし0%でないのは、重症例に限っては投与を検討しても良いとあるからです。咳があまりにも多くて吸入薬では難しいという場合では、タミフルが処方されることもあります。

 

20歳以上になると、タミフルとイナビルの2択です。イナビルと同じ吸入薬のリレンザは、数%とかなり処方数が少ないです。これはリレンザが5日間吸いきらなければならないのに対して、イナビルが1回吸入したら治療が終了する簡便性にあります。

10代でリレンザが37%となっているのは、異常行動を懸念しての結果でしょう。新しく発売されたイナビルよりも、使用経験が長いリレンザを信頼して処方されている医師が多い結果だと思います。

また、20代以上でタミフルにするかイナビルにするのかは、医師の好みが大きいです。タミフルで長年治療していた医師は、あえて新しく発売されたイナビルに切り替える必要もないと考える方もいます。イナビルはしっかり吸えたか不透明なことがあるので、確実に服用できるタミフルの方が良いという考えの医師もいます。病院によってはタミフルしかないところも多いので、タミフルの処方がイナビルより多いと考えられます。

しかし、タミフルも5日間飲み続けなければならないという欠点があります。このため、1回でしっかりと済ませた方が良いと考える医師は、イナビルを優先的に処方するでしょう。

60歳以上の高齢者だと、色々な病気を持っている方も多いかと思います。さらに脱水なども容易になりやすく、重症例が増える=入院例が増えることから、点滴のラピアクタの処方が増えます。

 

6.インフルエンザで入院治療する場合とは?

端的に言うと、命にかかわりがあるような重篤な状態と医師が判断した場合です。

「ラピアクタを投与する状態」=「入院するほど重篤な状態」という認識で良いのですが、ではどんな時に入院が選択されるのでしょうか?

医師は治療の指標になるガイドラインをもとに治療を行っていますが、そのガイドラインでは以下のように書いてあります。

「医師が命にかかわるような重篤な合併症及び状態であると判断した場合、入院適応とする」

これだと当たり前すぎて、逆にイメージがわかないですよね。インフルエンザはありふれた病気というイメージですが、その症状は人によっては命の危険につながることもあります。インフルエンザが重症かどうかは、患者さんの年齢や持病、受診した時の状態などを総合的に判断していきます。

高齢者や乳幼児はインフルエンザは重症化しやすいです。インフルエンザの重症化を疑う状態は以下になります。

このような状態であると、医師は入院しなければ命にかかわると判断して入院治療になることが多いです。

 

7.インフルエンザの入院治療は必要な時だけ!

患者さんの訴えといった主観的なものよりも、客観的なデータを見て決めることが多いです。

インフルエンザの患者さんやご家族の中には、「調子が悪いから入院させてほしい」と希望されることもあります。

しかしながらインフルエンザが流行する冬場はベッドが空いていないことも多く、また病院内で感染を広げてしまうことも懸念されます。ですからインフルエンザでは、重症化のリスクが高くなければ入院できないこともあります。

まずは患者さんから見たら入院させて欲しいと思うのに、医師からみたら帰宅して様子を見るように言われる可能性があるものをいくつか挙げてみましょう。

このように言われてしまうと、冷たく感じる人もいるかもしれません。そんなこと言って「何かあったらどうするんだ!!」と怒る人もいるかもしれません。ですが主観的な訴えだけでは入院を決められません。大げさに言ったからといって、入院になるわけではありません。入院の判断は、患者さんの客観的な検査データを中心にして判断していきます。

このように、原則は検査データにより入院かどうかを判断していきます。そうはいっても患者さんの症状があまりにひどく、それがインフルエンザの重症化につながる場合は入院も検討します。

このような状態では生活ができないですし、脱水症状にもなりやすいです。年齢や持病なども含めて総合的に判断します。

 

8.どうしてインフルエンザの入院は重症だけなのか?

インフルエンザは他の人に移る可能性がある病気のため個室対応になります。そのため他の病気に比べて入院適応のハードルが高いです。

入院治療を希望すれば入院できる病気も多いです。しかしながらインフルエンザでは、入院治療は重症例か、重症化するリスクが高いケースに限られます。その理由は、インフルエンザの感染力の強さにあります。他の人に移る可能性があるため、個室でなければ対応できないのです。

他の患者さんもいる部屋に入院していただいて、皆に移ったら大変です。入院している患者さんは病状が悪い患者さんが多いので、中にはインフルエンザに感染すると命にかかわる方もいらっしゃいます。そのためインフルエンザ入院は、個室や感染部屋など特殊な部屋に入院が必要になります。

しかし多くの病院では、個室は重症な患者さんが入院するときに使われます。そのためインフルエンザでの入院は、他の肺炎などの患者さんよりハードルが上がるのです。

特に冬の時期は体調を崩す方が多く、病院自体も満床に近い状態です。そのため、本当にベッドが必要な患者さんのために空けておきたいというのが、病院側の本音なのです。なにも入院だからといって、手間がかかるというわけではありません。

患者さんから時々、「インフルエンザなのに帰宅ということは、絶対に大丈夫ということですよね?」と聞かれることがあります。医療の世界では、絶対や100%という言葉は存在しません。そのため、「悪くなったらまた来てください。」という回答になります。

「悪くなったら、また寒い中連れてこなきゃいけないなんて!!」と思うかもしれませんが、皆で譲り合いながら何とか治療している日本の医療の現状をご理解いただければと思います。

私も長年診ていた肺がんの患者さんが、状態が悪くなって入院させようとした時に、ベッドが空いていなくて泣く泣く他の病院に入院を頼むことがありました。その患者さんは残念ながらお亡くなりになってしまいましたが、患者さんの家族から「最後は先生に診ていただきたかった。」というお手紙をいただいて、胸が詰まる思いでした。

このような患者さんが一人でも少なくなるよう病院側は頑張っていますので、ぜひインフルエンザの患者さんも、「帰宅で大丈夫」と医師が判断した場合は、「本当に必要な患者さんのために譲ろう」と思っていただければ嬉しいです。

 

まとめ