妊娠への薬の影響とは?よくある6つの疑問

アイコン 2015.5.29 妊娠・授乳について

妊娠を考える女性にとって、お薬は「何だか怖い」というイメージかと思います。診察室でも、

「お薬を飲んでも赤ちゃんに影響はないの?」
「夫が薬を飲んでいるけど大丈夫?」

などの質問をよく受けます。ですが、過度に心配することはありません。ここでは、妊娠に与える薬の影響についてお伝えしながら、よくあるご質問に答えていきたいと思います。

 

1.薬には妊娠への後遺症はあるの?

薬は分解されると身体からなくなるので、妊娠への後遺症はありません。

「いま薬を飲んでいると、将来子供に影響はしないですか?」という質問をよくうけます。結論から申し上げますと、妊娠への影響はありません。

お薬は身体に蓄積されると誤解されている方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。お薬を飲むと、胃腸から吸収されて血中に取り込まれます。血管の中をめぐっていくうちに身体の細胞に取り込まれ、薬の効果がでてきます。

服薬をやめてしばらくすると、肝臓や腎臓によって分解・排泄されて身体から薬が抜けていきます。薬がなくなってしまえば、もちろん作用もなくなります。薬の作用がなくなると、身体は元の働きに戻っていきます。ですから、今飲んでいるお薬が将来的に与える影響は心配しなくても大丈夫です。

ただし3つだけ、長期間の影響が完全には否定されていないお薬があります。エトレチナート(®チガソン)という角化症治療薬、リバビリン(®レベトール)というC型肝炎治療薬、レフルノミド(®アラバ)というリウマチ治療薬です。これらの薬は、ごく限られた方しか服用していないと思います。

 

2.男性がお薬を飲んでいることは影響するの?

男性の薬が妊娠に影響することはほとんどありません。

男性が使っている薬が妊娠に影響することはありません。男性に対する薬の影響としては、

  1. 直接的な精子への影響
  2. 精液を通して女性への薬の移行
  3. 薬による性機能障害

の3つが考えられます。

①としては、精子の奇形率が上がってしまったり、運動率が下がってしまうことはあります。精子の状態には、お薬以上に睡眠や食事などの生活習慣による影響が大きいです。精液のデータは、生活習慣を整えるだけでも大きく変化します。ですから、薬の影響を心配する必要はありません。

仮に問題ある精子が増えたとしても、卵子までたどり着ける可能性が減りますし、受精能力も低下します。もし受精してしまっても、途中でストップしてしまうことがほとんどです。妊娠率の低下にはつながるかもしれませんが、赤ちゃんへの影響はないと考えて問題ありません。

②としては、本当に一部の薬だけ注意すれば大丈夫です。お薬の中には、精液に溶け出してしまうものがあります。女性が服用すると本当にマズイ薬の場合は、精液に含まれる程度の量でも注意します。具体的には、サリドマイド(サレド)やレナリドミド(®レブラミド)などの癌治療薬、リバビリン(レベトール)というC型肝炎治療薬だけです。それ以外は、精液からの影響はほとんど無視しても大丈夫なレベルです。

③としては、赤ちゃんへ影響があるわけではありませんが、妊活に影響が大きいです。薬の性機能に及ぼす副作用としては、性欲低下・勃起障害・射性障害・生理不順などがあります。精神科の薬は、これらの副作用が大きいです。特に抗うつ薬のSSRIに分類されるジェイゾロフトやパキシルでは、7~8割ほどの方に見られる副作用で、必発と考えてもよい副作用です。

 

3.妊娠に悪影響な薬は?

精神薬のほとんどは、「絶対に安全とは言えないけど、必要なら仕方がない」と考えられています。

薬が妊娠に対してどれくらい悪影響があるのかは、どのお薬も正確にはわかっていません。というのは、倫理的に臨床研究ができないからです。リスクがあるお薬を妊婦さんに飲ませてみる・・・なんてことはできませんよね。ですから、動物実験や症例報告で検討をしていきます。薬が胎盤を通して赤ちゃんにいってしまうのか?実際に薬を飲みながら妊娠出産をした人でどうだったか?などの情報から推測しています。

精神科のお薬のほとんどは、「絶対に安全とは言えないけど、必要なら仕方がない」と考えられています。一部のお薬では、妊娠への影響が出てしまうことがわかっています。日本では、公的に妊娠での薬の危険性をまとめたものはありません。アメリカ食品医薬品局(FDA)の薬剤胎児危険度分類基準をもとにして、妊娠で注意した方がよい精神科のお薬をまとめてみました。

妊娠で注意した方がよい向精神薬に関してまとめました。

 

4.妊娠への影響は時期が重要

奇形が心配なのは妊娠初期、赤ちゃんの健康に心配なのは妊娠後期です。

妊娠すると、赤ちゃんはお腹の中で少しずつ大きくなっていきますね。だからといって赤ちゃんは、少しずつ身体に必要なものを作っているわけではありません。妊娠の初めの方に、一気に重要なものを作ってしまいます。この時期を「器官形成期」といって、最後に生理が終わった日から4週~7週が特に重要な時期といわれています。

この時期は、妊娠自体に気づいていないことも多いかと思います。この時期をすぎると、赤ちゃんがお腹の中でしていることは大きく2つになります。身体を大きくすることと、臓器の機能を成熟させることです。妊娠36週を超えると、いつでも妊娠できる状態になっていきます。

ですから、奇形のリスクは妊娠のはじめにあります。妊娠4週~7週は絶対過敏期といわれていて、大きな奇形がおこるリスクがあります。妊娠8週~15週は相対過敏期といわれていて、少しずつリスクは少なくなっていきます。12週目までは小さな奇形がみられることもありますが、13週をすぎると機能異常などがみられることはあっても、奇形の可能性はほぼ大丈夫といわれています。

 

妊娠の後期には、赤ちゃんの発育や機能に影響が出てきます。鎮痛剤は、妊娠中で使いたくなるかもしれませんが、鎮痛剤の種類と使い方を考えなければいけません。鎮痛剤にはプロスタグランジン作用というものがあります。

この作用が赤ちゃんに働くと、動脈管という血管を収縮してしまいます。その結果として、血のめぐりが悪くなって肺高血圧症という病気になってしまうことがあります。また、腎臓に負担になっておっしこができなくなり、赤ちゃんのおっしこでできている羊水が少なくなってしまうことがあります。

精神科の薬としては、抗不安薬や睡眠導入剤で注意が必要です。胎盤を通して赤ちゃんに伝わるので、赤ちゃんが薬を飲んでいるのと同じことになります。このため、生まれた直後に筋肉の緊張がなくなってしまい、力なく生まれてきます。

また、長期でお薬を服用していると赤ちゃんの身体に薬があることが当たり前になっていきます。出産と同時に薬が身体から抜けてしまうと、離脱症状がでてきてしまいます。新生児の離脱症状は、SSRIなどの新しい抗うつ薬でみられることもあります。

 

5.薬を飲みながら妊娠はできるの?

計画的に妊娠出産をしましょう。後から妊娠が判明した場合でも、過度に心配しなくて大丈夫です。主治医に相談しましょう。

お薬を減らせるならば、それに越したことはありません。ですが、病状から難しい方もいらっしゃいます。そのような場合はどのようにすればよいのでしょうか?

精神科のお薬を飲まれている方は、「妊娠・出産は計画的に」するように心がけてください。上で申しあげましたが、妊娠でもっとも大切な器官形成期は初期です。それも生理が最後にこなくなってから4週後なので、妊娠がわかる頃には遅いのです。

ですから、妊活を始める前に、飲んでいるお薬を整理していきます。できるだけリスクの少ないお薬にかえて、量も少なくします。薬の整理がひと段落したら、葉酸(®フォリアミン)5mgを服用していただきながら妊活を始めていただきます。葉酸はビタミンBの一種ですが、神経系の発達に重要といわれています。この方法は、モーズレイというイギリスのガイドラインでも推奨されています。

 

もし後から妊娠が判明したとしても、過度に心配しないようにしましょう。まずは主治医に相談してください。多くの薬では、大きな問題がないことが多いです。「現時点で安全とは言えないけど、危険性もわかっていないお薬」に関しても、妊娠中はNGとなっていることが多いです。

また、普通に出産しても、奇形率は4.8%ほど認められるといわれています。催奇形性の高い抗てんかん薬でも、平均で11.1%と報告されています。仮に服用していたとしても、90%は問題がないということになります。

 

6.流産は薬や病気のせい?

流産は、あなたのせいではありません。

せっかく妊娠していたのに流産してしまうことがあります。その苦悩で調子を崩される方もいらっしゃいます。流産は自分のせいじゃないか・・・自分が病気にならなければ・・・と悔やまれる方も多いですが、自分を許してあげてください。

医学的に言えば、流産の原因はほとんどが赤ちゃん側にあります。受精した後に上手く成長できなかったり、遺伝的な問題があったりして赤ちゃん自らが生きていけなくなっていったのです。確かに、その影響に薬は皆無ではありません。ですが、薬の影響はそれほど多くはありません。

頭ではわかっても、心では整理がつかない方も多いかと思います。少しずつ自分を許してあげてください。

 

7.妊娠と薬のことで悩んだら

まずは主治医に相談をしましょう。妊娠と薬情報センターを利用すると正確なことがわかります。

妊娠のことに関して、お薬のことで心配になったら、まずは主治医に相談しましょう。精神科のお薬は、「やめた方がいい」という薬以外は、効果とのバランスも考えて判断していかなければいけません。病状をしっかりと把握されている主治医の先生に相談することが大事です。

本当に正確な情報を知りたいと思われた方は、「妊娠と薬情報センター」を利用することもできます。このセンターは、厚生労働省の事業として2005年からはじまったものです。現在わかっている正確な情報を教えてくれます。主治医の先生を通したり、電話での相談でしたら、費用もかかりません。

国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」

 

まとめ

薬は分解されると身体からなくなりますので、妊娠への後遺症はありません。

男性の薬が妊娠に影響することはほとんどありません。

精神薬のほとんどは、「絶対に安全とは言えないけど、必要なら仕方がない」と考えられています。

奇形で心配なのは妊娠初期、赤ちゃんの健康に心配なのは妊娠後期です。

計画的に妊娠出産をしましょう。後から妊娠が判明した場合でも、過度に心配しなくて大丈夫です。主治医に相談しましょう。

流産となってしまっても、あなたのせいではありません。少しずつ自分を許してあげてください。